ヴェストラン

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ヴェストラン
西部地域

Vestlandet, Vest-Norge, Vest-Noreg
地域
スタヴァンゲル、ベルゲン、オーレスン、セルジェ(英語版)、ブリクスダル氷河(英語版)、クヴィストイ(英語版)、ハー(英語版)、ステインスダルス滝(英語版)、フォルゲフォンナ(英語版)、オルスタ(英語版)、アウルランド(英語版)
Location of ヴェストラン 西部地域
ノルウェー
主要都市 ベルゲン
スタヴァンゲル
モルデ
ライカンゲル
ムーレ・オ・ロムスダール県
ソグン・オ・フィヨーラネ県
ホルダラン県
ローガラン県
面積
 • 合計 58,582 km2
 • 陸地 55,411 km2
人口
(2014年)
 • 合計 1,385,000人
 • 密度 24人/km2
ウェブサイト Vestlandsrådet

ヴェストランノルウェー語: Vestlandet)は、ノルウェー南部の大西洋に面する地域であり、ムーレ・オ・ロムスダール県ソグン・オ・フィヨーラネ県ホルダラン県ローガラン県から成る。アグデル英語版西テレマルク英語版ハリングダル英語版ヴァルドレス英語版グドブランド谷英語版北部を含むこともある[1][2]

2014年の人口は約138.5万人。最大都市はベルゲン(27.8万人)で、2番目はスタヴァンゲル(13万人)である。

この地域はデンマークフェロー諸島アイスランドと歴史的に深い繋がりを持ち、オランダイギリスの影響も受けている。例えば、アイスランド馬英語版フョルド馬英語版は近い種類である。また、アイスランド語ノルウェー方言英語版も近い。

この地位から多くの移民がアメリカカナダアイスランドフェロー諸島イギリスに渡った。特にアメリカミネソタ州北ダコタ州ウィスコンシン州モンタナ州南ダコタ州に多い。

アイスランド人フェロー人ブリテン諸島の多くの人は、ヴァイキング時代に西部地域から移住したノース人ヴァイキングの子孫である。一方で、16世紀17世紀に貿易の為に移住したオランダ人ドイツ人も、西部地域、特にベルゲンに何千人と住んでいる。

西部地域は失業率・公共セクター・生活保護受給者の割合が最低である。

ノルウェーの最も機能的な地域と捉えられている[3]

歴史[編集]

先史時代[編集]

ノルウェーの歴史は西部地域のローガラン県で始まった。

約1万年前、最終氷期が終わった頃の洞窟壁画が残っている。

また、石器時代の道具も発掘された。

最古の集落はランダベルグ英語版やモルタヴィカの近くで発見された。

人類はデンマークイングランドの間の北海に有ったドッガーランドから来たと考えられている。

ドッガーランドはその後の海水面上昇に伴って消滅し、そこに住んでいた人類の一部が、今より小さかったノルウェー海溝英語版を越え、鹿を追って新天地に到達した。

ヴァイキング時代[編集]

セルジェ・アッベイ英語版は、ソグン・オ・フィヨーラネ県セルジェ英語版に有るベネディクト会が建てた修道院である。

793年ヴァイキングイングランドノーサンバーランドリンディスファーン島を襲撃したのが、最古のヴァイキングの記録である。

900年頃、多くのグラティング英語版が設置された。

グラティング法によってノルウェー西欧と認められた[4]

1000年以前、が導入され農業に用いられた結果、農地が足りなくなった。

同時代、王の権力が増し、多くの住民が重い税から逃れ新天地を目指した。

効率的な船と兵器によって、ヴァイキングヨーロッパを恐れさせた。

ヴァイキングヨーロッパだけでなく、東ローマ帝国バグダッドイスラム帝国とも貿易を行った。

1066年イングランドで起きたスタンフォード・ブリッジの戦いでヴァイキング時代は終わった。

ヴァイキングの耐航性と放浪癖の結果、新しい地域が開発された。

ノルウェー人アイスランドフェロー諸島グリーンランドシェトランド諸島オークニー諸島マン島ヘブリディーズ諸島に入植した。

アイルランド南東部でダブリンウォーターフォードウェックスフォードが設置された。

イングランド北西部のカンブリアにも入植した。

ヴィンランド(現在のアメリカ)をコロンブスより何百年も前に、ノルウェー人ヴァイキングは発見していた。

キリスト教化[編集]

995年に建てられたモステル英語版のガムレ教会。ノルウェー最古の教会の1つ。オーラヴ1世が建てたと世界の環に記録されている。

11世紀キリスト教(カトリック)はノルウェーで支配的な位置を得た。

東部地域にはドイツフリースラント州(オランダ)からキリスト教が伝わったが、西部地域にはイングランドスコットランドアイルランド人、改宗したヴァイキングから伝わった。

13世紀キリスト教が西部地域を制覇した事で、ノース教英語版は滅びた。

沿岸部から内陸部に向けて布教は進んだ。

アイスランドへの移住[編集]

代表的なノルウェー系アメリカ人には、マリリン・モンローウォルター・モンデールミシェル・バックマンがいる。

12世紀に書かれたLandnámabá(入植の書)に、最初の入植者が詳しく書かれている。

西部地域の船乗りが偶然この島を発見し、その後インゴールヴル・アルナルソンが最初に入植したと言われている。

彼は874年に家族と共にアイスランドに到着し、独立した。

彼は現在の首都のレイキャビクに農場を建てた。

続く60年間で、スカンジナビアヴァイキングや、ブリテン諸島ノース人が入植した。

その為初期の住民はケルト文化を持っていた。

彼らは考古学的証拠をあまり残さなかったが、アイスランド語の中に多くの故郷の言葉を残していった。

現在のアイスランド人の60%は、西部地域出身者の子孫であると推定されている[5]

アメリカへの移住[編集]

ノルウェーからの移民百周年を記念した、ヴァイキング船を描いたアメリカの切手

80万人以上のノルウェー人アメリカに移住した。

1825年7月4日、最初の移民団がスタヴァンゲルを出港した。

1837年ホルダラン県の移民を乗せたÆgir号が、ベルゲンから初めて出港した。

1924年までにホルダラン県ソグン・オ・フィヨーラネ県から出港した9.6万人の名簿が残っている。

Jahn Sjursenが記録作成に大きく貢献した。

1997年、彼は収集物を公式に開館したばかりの移民センターに寄付した。

ベルゲン大学とベルゲン公文書館のHPでその記録が見られる。

センターの移民教会は、19世紀ノルウェーからの移民が建てたサージェント郡 (ノースダコタ州)のブランプトン・ルーテル教会である。

1908年7月1日、ブランプトン会が結成された。

1996年6月22日、ブランプトン会はブランプトン・ルーテル教会を移民センターに寄付した。

教会は解体され、スレッタ英語版ラドイ英語版からの有志が組み立てた。

1997年7月6日、ビョルグヴィン大司教区英語版のOle Danholt Hagesæther司教が責任者となった[6]

地理[編集]

 西部地域の地理
大陸 アフロ・ユーラシア大陸
地域 北欧
面積
 • 総面積 58.582 km2 (22.619 sq mi)
海岸線 26,592 km (16,524 mi)
最高点 Store Skagastølstind
2405m
最低点 北海
0m
最大湖沼 Blåsjø
84,48km2

面積は5万8512km2で、ノルウェーの地域で3番目に大きい。北海をはさんでイギリスフェロー諸島が西側、デンマークが南側に位置する。フェロー諸島から675km、シェトランド諸島ウンスト英語版から300km離れている。2万6592kmの海岸線を持つ。

南部はイェーレン英語版と呼ばれ、ノルウェーの主要農業地域である。イェーレン以外のヴェストランの農地は小さい。ヴェストラン全体の農地は2650km2で、面積の5.3%を占める。

ヴェストランには高い山が多く、標高2000mを超えるソグネ・フィヨルドから10kmも離れていない。最高地点は標高2405mのストレンであり、ルステル市とアルダル市の間に有る。1876年7月21日にウィリアム・セシル・スリングスバイが初登頂した。

ヴェストランにはフィヨルドが多く、ハルダンゲル・フィヨルド、ボクナ・フィヨルド、ソグネ・フィヨルドが有る。ソグネ・フィヨルドは全長205kmでノルウェー最長である。世界でもグリーンランドのスコレスビー・サウンドに次いで長い。最奥にはソグン・オ・フィヨーラネ県のスキョルデン村が有る。ハルダンゲル・フィヨルドは内陸に70km切り込んでいる。

フィヨルドと壮大な山脈によって、ヴェストランは人気の観光地になった。
最南部のイェーレン平野を除いて、山岳地域で、ヨトゥンヘイメン山脈とハルダンゲル平野が最高地点である。

ヨーロッパ最大のヨステダール氷河は中北部に位置する。南部には小規模だがハルダンゲル氷帽やフォルゲフォンナ氷河が有る。多くの滝がフィヨルドに流れ込む。7姉妹滝やトカ峡谷、ヴォリングス滝が特に美しいと知られている。ギザギザの海岸線と何千もの島々が広がっている。

ムーレ・オ・ロムスダール県北部はトロンデラグに含まれる事が有る。

言語[編集]

ニーノシュク(書き言葉)の父、イーヴァル・オーセンは南モレのオルスタ出身。

ノルウェーニーノシュク使用者の87%が西部地域に住んでいる。

しかし、住民の56%は都市で優勢なブークモールを用いる。

大都市の無いソグン・オ・フィヨーラネ県では97%がニーノシュクを用いる。

ムーレ・オ・ロムスダール県では54%、ホルダラン県では42%、ローガラン県では26%がニーノシュクを用いる。

多くの点で、ニーノシュクブークモールよりアイスランド語に近い。

宗教[編集]

ウンドレダル・スタヴェ教会

他の地域よりも信仰が深い。

交通[編集]

沿岸部ではカーフェリーが活躍する。

航空[編集]

西部地域には26の空港が有る [7]。 15が国営[8]、11が公団のアビノールが運営している[9]

その内2つの空港は年間利用者数が100万人を超える[8]

2007年には4108万9675人がノルウェーの空港を利用したが、その内1339万7458人が国際便である[8]

1960年代に地方路線が始まった[8]

主に大都市まで遠いソグン・オ・フィヨーラネ県で用いられる [10] [11] [12] [13]

鉄道[編集]

主要路線は

ベルゲンではケーブルカーLRTが運行している。

LRTを北イェーレンまで伸ばす計画も有る。

道路[編集]

欧州自動車道路E39号線が西部地域を南北に貫く。(トロンハイムオールボー)

E16号線ベルゲンオスロを結び、途中のラルダールトンネルは世界最長(24.5km)である [14]

国道・県道はノルウェー公営道路局英語版が管理する [15]

水運[編集]

MS Midnatsol号、フルティグルテン英語版社の水上特急

フィヨルドや島では、自動車よりも高速船水上バスが置く用いられる。

2007年には、ノルウェー全体で800万人の乗客が合計2.73億kmを船で移動した [16]

フルティグルテンはベルゲンキルケネスを大型船で結び、途中35ヶ所の港に寄る [17]

国際線はベルゲンスタヴァンゲルからイギリスデンマークに向かう [18] [19]

エネルギー[編集]

ノルウェー大陸棚で生産される石油天然ガスは、パイプラインを通して本土やヨーロッパ諸国に送られる。

総延長は9,481kmである[7]

国営のガスコ英語版社が全てのパイプラインを制御している。

2006年には、ヨーロッパの消費量の15%に当たる880億m3が輸送された[20]

自治体[編集]

西部地域には22の市・町が有る。

人口が1万人以上であるのは次の11市。

  1. ベルゲン:27.8万人
  2. スタヴァンゲル:13万人
  3. サンドネス:7.5万人
  4. オーレスン:4.5万人
  5. ハウゲスン:3.7万人
  6. モルデ:2.6万人
  7. クリスチャンスン:2.4万人
  8. ストルド:1.8万人
  9. エーゲルスン:1.3万人
  10. フェールデ:1.3万人
  11. ブリン:1.2万人

歴史的地域区分[編集]

アウルランズヴァンゲンとフロムの風景

歴史的地域区分は現在の行政区画とはあまり重ならない。

北から南に並べると次のようになる。

[編集]

紋章 県都 最大都市 人口(2010年) 面積(km2) 人口密度 市長 政党 県知事 公用語
ホルダラン県 ベルゲン ベルゲン 592,200 15,440 31,13 Torill Selsvold Nyborg キリスト民主党 Lars Sponheim ニーノシュク
ローガラン県 スタヴァンゲル スタヴァンゲル 563,900 9,377 46,07 Tom Tvedt ノルウェー労働党 Harald Thune ブークモール
ムーレ・オ・ロムスダール県 モルデ オーレスン 298,300 15,121 16,71 Olav Bratland ノルウェー保守党 Ottar Befring ニーノシュク
ソグン・オ・フィヨーラネ県 ライカンゲル フォルデ英語版 122,700 18,622 5,77 Nils R. Sandal 中央党 Oddvar Flæte ニーノシュク
Total 1,577,000 58,560 km2 21,73/km2

著名人[編集]

ギャラリー[編集]

脚注[編集]

  1. ^ ''Vestlandet'' (Store norske leksikon)”. Snl.no (2011年7月28日). 2011年10月17日閲覧。
  2. ^ Helle, Knut (2006). Vestlandets historie. Bergen, Norway: Vigmostad & Bjørke. ISBN 978-82-419-0400-4 
  3. ^ Statistisk sentralbyrĺ: Arbeid – temaside” (ノルウェー語). Ssb.no. 2011年10月17日閲覧。
  4. ^ Gulatinget.no”. Gulatinget.no. 2011年10月17日閲覧。
  5. ^ History of Iceland”. Iceland.is. 2011年9月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年10月17日閲覧。
  6. ^ Scandion. “Western Norwegian Emigration Center”. Vestafjells.no. 2011年10月17日閲覧。
  7. ^ a b Central Intelligence Agency (2008年). “Norway”. 2008年7月15日閲覧。
  8. ^ a b c d Avinor (2008年). “2007 Passasjerer” (Norwegian). 2008年7月15日閲覧。
  9. ^ Avinor. “About Avinor”. 2008年3月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年7月15日閲覧。
  10. ^ Ministry of Transport. “Regionale flyruter” (Norwegian). 2008年7月15日閲覧。
  11. ^ Norwegian Ministry of Transport and Communication, 2003: 5
  12. ^ Widerøe. “Aircraft”. 2007年12月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年7月15日閲覧。
  13. ^ Boarding (2005年11月2日). “Tildeling av einerett for drift av 16 ruteområde” (Norwegian). 2011年7月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年7月15日閲覧。
  14. ^ Lærdalstunnelen” (Norwegian) (2007年). 2008年1月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年8月16日閲覧。
  15. ^ Norwegian Ministry of Transport and Communications, 2003: 15
  16. ^ Statistics Norway (2008年1月3日). “Båt” (Norwegian). 2009年1月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年7月16日閲覧。
  17. ^ Hurtigruten Group. “Hurtigruten – The World's Most Beautiful Voyage”. 2008年7月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年7月16日閲覧。
  18. ^ Color Line. “Color Line”. 2008年7月16日閲覧。
  19. ^ DFDS Seaways. “Bergen–Haugesund–Stavanger–Newcastle”. 2008年6月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年7月16日閲覧。
  20. ^ Gassco. “About Gassco”. 2008年2月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年7月16日閲覧。

参考資料[編集]

外部リンク[編集]

座標: 北緯60度53分16秒 東経6度43分25秒 / 北緯60.88778度 東経6.72361度 / 60.88778; 6.72361