JR東海373系電車

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JR東海373系電車
373系「ふじかわ」
(2023年4月 新蒲原駅 - 富士川駅間)
基本情報
運用者 東海旅客鉄道
製造所 日本車輌製造
日立製作所笠戸事業所
製造年 1995年(平成7年) - 1996年(平成8年)
製造数 14編成42両
運用開始 1995年(平成7年)10月1日
主要諸元
編成 3両編成(1M2T)
軌間 1,067 mm
電気方式 直流1,500 V(架空電車線方式
最高運転速度 110 km/h
設計最高速度 120 km/h
起動加速度 2.1 km/h/s
減速度(常用) 4.1 km/h/s
編成定員 179人
編成重量 97 t(新製時)
全長 21,300 mm
全幅 2,946 mm
全高 3,630 mm
車体 ステンレス
(前頭部のみ普通鋼
主電動機 C-MT66
駆動方式 TD平行カルダン駆動方式
歯車比 15:98=1:6.53
編成出力 185 kW × 4 = 740 kW
制御方式 VVVFインバータ制御定速運転制御機能付)
制御装置 C-SC35形
制動装置 電気指令式ブレーキ
抑速ブレーキ
回生ブレーキ
発電ブレーキ
保安装置 ATS-STATS-P(登場時)
ATS-STATS-PT(現行)
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373系電車(373けいでんしゃ)は、1995年平成7年)に登場した東海旅客鉄道(JR東海)の直流特急形電車である。

概要

身延線で運行されていた急行「富士川」には国鉄時代に製造された165系が充当されていたが、ほとんどの車輌が製造から30年以上経過しており、老朽化や内装の陳腐化が進んでいた[1]。そこで、165系の老朽化のための取替えを主目的として、中長距離普通列車から特急列車まで、幅広い運用に応える汎用性の高い車両として開発された[1]

同様のコンセプトを持つ特急形車両としては、国鉄時代に開発され東日本旅客鉄道(JR東日本)に承継された185系電車があるが、同車が東海道本線普通列車への充当を念頭にグリーン車を併結した10両編成を基本編成としたのに対し、373系は当初より身延線飯田線などローカル線での短編成運用への投入(急行列車特急格上げ)を念頭に置いたため、普通車のみ1M2Tの3両編成を基本ユニットとし、必要に応じて編成単位で増結する方式をとった。また、他のJR東海特急形車両383系キハ85系)と同様に眺望を意識して窓ガラスを大きくしたことから、これらと同じく『ワイドビュー』の愛称をもつ車両となった。

1995年平成7年)8月から1996年平成8年)1月にかけて3両編成14本(42両)が製造され、1995年(平成7年)10月ダイヤ改正から運用を開始している。F1-F12編成の36両(1 - 12)は日本車輌製造、F13・F14編成の6両(13, 14)は日立製作所笠戸事業所で製造された。

構造

車体

耐腐食性、無塗装化、軽量化の観点から最大長21.3 mステンレス鋼製軽量構体を主構造とし、先頭部分のみ製として白塗装を施している[2]コーポレートカラーでもあるオレンジ色の細帯はテープを貼り付けている[2]。前頭部は他形式との併結を行うなど汎用性を考慮して貫通構造としている[1][2]。連結用幌は先頭部に埋め込んだフラットな構造とし、特急形車両のグレードを維持しつつ新鮮さを醸し出す工夫を施した[2]。前部標識灯は上下合わせて4灯、後部標識灯は2灯を配する[2]

客用扉は両開き式で、車両端の2か所に設ける。この扉配置はJRグループ特急形車両では唯一のもので、出入台と客室を仕切るデッキ扉は省略され、車内保温対策として客用扉の開閉方式は半自動方式とされた。客用扉の隣接部にドア開閉用の押ボタン[注 1]を設ける。なお、ドアカット機能は搭載していないので、増結した(6両・9両)編成だとホームをはみ出す駅には停車できない。これにより、飯田線特急伊那路」と身延線特急ふじかわ」は2編成以上の増結を行っていない。また、「ムーンライトながら」の定期運用時、下りが豊橋駅から各駅停車する際に三河塩津駅尾頭橋駅を通過していた[注 2]

車内

座席は各車とも回転式リクライニングシートで、横2+2列で配置され、座席間隔は970 mmである。各座席にはインアームテーブル(肘掛け内蔵テーブル)・灰皿を装備したが、全車禁煙化に伴い灰皿は撤去された。

クモハ373形・サハ373形では、連結部寄りに4人掛け・固定テーブル付きのセミコンパートメント席を併設する。クハ372形には車椅子対応洋式トイレ男性専用トイレ、洗面所が設けられている。テレホンカード式の公衆電話2007年平成19年)3月18日以降供用を中止し、順次撤去された。

客用扉へのドアチャイム追設を後年に実施している。

機器類

制御電動車であるクモハ373形にVVVFインバータや集電装置、補助電源装置など主要機器を集中搭載し、制御車であるクハ372形には空気圧縮機を搭載する。

電源・制御機器

主回路制御はVVVFインバータ方式を採用し、整流素子GTOサイリスタを用いた C-SC35 を搭載する。383系で採用されたVVVFインバータ装置に対してソフト変更を行ったものであり、インバータ1基で1基の電動機を制御する、いわゆる1C1M構成のインバータを4基備える[3]JR東海在来線電車では383系電車(量産先行車・1994年)に次ぐ採用例であるがJR東海でのGTO素子の採用は本系列で終了し、本系列の次に製造された313系700系以降の新幹線電車ではIGBT素子のVVVFインバータが採用された。補助電源装置は、135 kVAの容量を持つC-SC36形静止形インバータ(SIV・東洋電機製造製)を搭載する[4]。主電動機は自己通風式かご形三相誘導電動機C-MT66形(1時間定格出力185 kW)を搭載する。

集電装置はシングルアーム式のC-PS27A形で、関節部を車体端側に向けた配置でクモハ373形に1基搭載する。トンネル断面が極度に小さい身延線への入線ができるよう、最低作用高さを極力下げた仕様である。従来の狭小トンネル対応車両にみられた「低屋根構造」は、本系列では採用されない[注 3][注 4]

なおデビュー後しばらくの間はパンタグラフのホーン部分が1本のタイプであったが、313系登場後に部品共用のためホーンが2本のものへ全車両交換された。

運転台機器は383系を基本としており、前面計器盤に速度計・圧力計とモニタ装置を配している[3]マスコンワンハンドル式である[3]

運転台
各部の照明は、メーター類がEL、時計置きがLEDスタフ差しが冷陰極管となっている。

台車・ブレーキ装置

台車311系の仕様を基本に牽引装置を一本リンク式に変更した C-DT63(動力台車)・C-TR248(付随台車)である[2]。円錐積層ゴムを用いた軸箱支持装置、ダイアフラム形空気ばねを直接装荷した枕ばねはDT50系と共通の仕様であり、本系列特有の装備として、蛇行動抑制のためのヨーダンパ、空転防止のための砂箱(動力台車のみ)を装備する。

ブレーキ装置は電気指令式で、回生ブレーキ抑速ブレーキを装備するほか、列車本数の少ない区間で回生失効の発生を防ぐため発電ブレーキも併設する。基礎ブレーキ装置は踏面片押し式のほか、付随台車ではディスクブレーキを併設する。

運転・保安装置

保安装置はATS-STを全編成に装備する。

1996年平成8年)3月ダイヤ改正用に製造したF6編成以降は、東日本旅客鉄道JR東日本)管内乗入れ運用のため当初からATS-Pを併設する。「ふじかわ」用として製造した初期のF1-F5編成では準備工事のみなされていたが、同改正でF4・F5編成に追設された。F1-F3編成は「ふじかわ」限定運用となったが、後年に追設工事を施工した結果、共通運用が可能となった。

2011年平成23年)以降、JR東海管内でのATS-PTの使用開始および、2012年平成24年)3月ダイヤ改正でのJR東日本区間への乗り入れ終了に伴いATS-PからATS-PTへの換装が完了した。

なお、2008年平成20年)からJR東日本管内で在来線デジタル列車無線システムが東海道本線でも使用開始となり、本形式も機器設置が行なわれたが一部編成には搭載されなかったため、東京乗り入れの最晩年においては再び編成によって運用が分離していた[5]

クモハ373-3
クモハ373-3
サハ373-3
サハ373-3
クハ372-11
クハ372-11

形式

クモハ373形

編成の東京方に連結される制御電動車で、室内の連結面側車端部にセミコンパートメント席をもつ。

屋根上にパンタグラフを搭載し、主変換装置・補助電源用静止形インバータ(SIV)を床下に装備する。

サハ373形

中間に連結される付随車で、室内の両車端部にセミコンパートメント席をもつ。

床下には発電ブレーキ用抵抗器などを搭載する。

クハ372形

編成の甲府飯田大垣米原方に連結される制御車で、室内の連結面側車端部にトイレと洗面所を備え、セミコンパートメント席はない。

床下にはスクロール式の電動空気圧縮機(CP)と真空式汚物処理装置を搭載する。

編成表

 
形式 クハ372-0 サハ373-0 クモハ373-0 備考
機器 CP R < SIV VVVF
編成 F1 クハ372-1 サハ373-1 クモハ373-1
F2 クハ372-2 サハ373-2 クモハ373-2
F3 クハ372-3 サハ373-3 クモハ373-3
F4 クハ372-4 サハ373-4 クモハ373-4
F5 クハ372-5 サハ373-5 クモハ373-5
F6 クハ372-6 サハ373-6 クモハ373-6
F7 クハ372-7 サハ373-7 クモハ373-7
F8 クハ372-8 サハ373-8 クモハ373-8
F9 クハ372-9 サハ373-9 クモハ373-9
F10 クハ372-10 サハ373-10 クモハ373-10
F11 クハ372-11 サハ373-11 クモハ373-11
F12 クハ372-12 サハ373-12 クモハ373-12
F13 クハ372-13 サハ373-13 クモハ373-13
F14 クハ372-14 サハ373-14 クモハ373-14

運用

2023年令和5年)3月1日現在、3両編成14本42両全車両が静岡車両区に配置されている[6]

1995年(平成7年)10月1日に静岡運転所(現在の静岡車両区)に配置され、身延線の特急「ふじかわ」で運用を開始した。次いで1996年平成8年)3月16日には東海道本線特急「東海」・飯田線特急「伊那路」と夜行快速ムーンライトながら」での運用を開始し、静岡所属の165系を淘汰した。

なお、本系列の運用に先立ち、211系5000番台との併結試運転が1995年9月に実施されている[7]

2009年平成21年)3月14日のダイヤ改正から静岡駅 - 熱海駅間および浜松駅 - 豊橋駅間で一部の普通列車運用されている。2012年平成24年)3月16日までは静岡駅 - 東京駅間で1往復(9両編成)運転されていた。

特急列車の間合い運用として東海道本線の「ホームライナー」にも使用される。

過去には身延線でも普通列車として運用されていた時期があったが、こちらは313系の投入に伴い消滅している。2000年平成12年)には中央西線セントラルライナー」にも313系増備車落成までの間、一時的に運用されたことがある。

ムーンライトながら」は2009年平成21年3月14日のダイヤ改正によって、年間運転予定日数120日前後の臨時列車とされ、同時に使用車両はJR東日本田町車両センターに配置されている183・189系に変更された。以前より送り込みと返却を兼ねて運用されていた東京駅- 静岡駅間の普通列車はその後も373系のままで運行されていたが、2012年平成24年)3月17日ダイヤ改正で国府津車両センターE231系に置き換えられ、運転区間も東京駅 - 沼津駅間になった[注 5][8]

この改正前に「ムーンライトながら」の間合い運用として設定されていた大垣駅 - 米原駅間の3両編成による2往復の普通列車に関しては改正後は運用が1往復へと減少したが、2013年平成25年)3月16日のダイヤ改正で運用を終了した。前述のホームライナー運用廃止とあわせて豊橋駅-米原駅間の定期列車での運行を終了した。

2007年平成19年)3月改正で特急「東海」廃止、2009年平成21年)3月改正で「ムーンライトながら」臨時列車化に伴う車両変更、2012年平成24年)3月改正での東京駅への乗り入れ廃止、さらに2013年平成25年)3月改正での豊橋駅 - 米原駅間での運用廃止に伴い車両の運用に余裕が生じている。そのため、この車両が配置されている静岡地区ではJR東海が主催するウォーキングイベント「さわやかウォーキング」の開催時に同車を活用した定員制列車「さわやかウォーキングライナー」の運用にも使われており、371系定期運用終了に伴い、「ホームライナー」での運用が拡大した。

2017年平成29年)3月4日のダイヤ改正前後に、これまで文字のみだった「ホームライナー」の前面幕がイラストに変更されたほか、前年から運転回数が増えていた快速「さわやかウォーキング」号をはじめとする臨時列車用ヘッドマークも内蔵幕で追加され、「東海」や「ムーンライトながら」などの廃止され、使用しない列車のものは削除された。

セントラルライナー (2000年頃)
セントラルライナー
(2000年頃)
ホームライナー静岡 (2010年8月 静岡駅)
ホームライナー静岡
(2010年8月 静岡駅)
快速さわやかウォーキング号 (2016年10月 身延駅)
快速さわやかウォーキング号
(2016年10月 身延駅)
東海道線の普通運用 (2021年1月 熱海駅)
東海道線の普通運用
(2021年1月 熱海駅)

特急列車

快速・ホームライナー

普通列車

過去の定期列車

臨時列車

御殿場線
身延線
飯田線
飯田線ではホーム有効長の都合上、いずれの列車も3両編成での運転。
中央西線
  • 急行「中山道トレイン」:名古屋駅 - 奈良井駅間(3両編成、1日1往復)2015年(平成27年)10月25日、26日、31日、11月1日 - 3日、2020年(令和2年)10月31日、11月7日(3両編成、いずれも片道のみ)[10]
東海道本線静岡地区
東海道本線名古屋地区
  • 快速:大垣米原行き(3両編成、途中駅通過・旧垂井駅経由)2008年平成20年)春季・夏季の多客期。大垣駅を8時08分発。
  • 急行「東海道トレイン家康」:静岡駅 - 岡崎駅間(6両編成、1日1本片道のみ運転 )2015年平成27年)12月26日 F1・F8編成に家康公四百年祭の側面ラッピングを実施(富士山トレインみのぶから継続)

JR東海「さわやかウォーキング」関連

脚注

注釈

  1. ^ 通常は快速「ムーンライトながら」下りの静岡駅浜松駅豊橋駅、上りの沼津駅での長時間停車時のみ使用していた。ドア開閉ボタンを採用する特急形車両は他に西日本旅客鉄道(JR西日本)の285系電車キハ187系気動車キハ189系気動車が存在する。
  2. ^ 9両編成の運転に対して、有効長が8両編成分しかないため。
  3. ^ ただし実際には、パンタグラフの台座部分が屋根高さよりも僅かに凹んでいるため、モハ114 2600番台やクモハ211 5600・6000番台などと同様に微低屋根構造となっている。
  4. ^ 先述の理由から、狭小トンネル対応パンタグラフ搭載車を示す車番標記の◆マークは製造当初から存在しなかった。その後、2018年(平成30年)8月頃からJR東海所有車両の標記の書式統一が行なわれ、それまで◆マークが付いていなかった在来線用電車は285系も含め、順次全てのパンタグラフ搭載車に◆マークが追加された。
  5. ^ 後に東京経由東北本線直通列車になった。
  6. ^ ただし下り列車には1996年(平成8年)3月17日より投入。1996年(平成8年)3月16日の下り列車に関しては上り372M「大垣夜行」最終列車を担当した165系11両編成が使用された。
  7. ^ ただし3月13日発に限っては運用の関係で終点大垣まで途中切り離しもなく9両で運行した。

出典

  1. ^ a b c 『鉄道ジャーナル』通巻349号、p.82
  2. ^ a b c d e f 『鉄道ジャーナル』通巻349号、p.83
  3. ^ a b c 『鉄道ジャーナル』通巻349号、p.84
  4. ^ 東洋電機製造『東洋電機技報』第96号(1996年6月)「'96総集編」p.6。
  5. ^ 「在来線デジタル列車無線システム」の導入について”. 東日本旅客鉄道株式会社. 2020.6/21閲覧。
  6. ^ 交友社鉄道ファン』2018年7月号 「JR車両ファイル2018 JR旅客会社の車両配置表」 p.18 - p.21
  7. ^ 交友社鉄道ファン』1995年12月号 通巻416号 p.115
  8. ^ a b 「JRグループ 2012(平成24)年3月17日ダイヤ改正概要」『鉄道ダイヤ情報』2012年2月号P.128、交通新聞社
  9. ^ ~小田原梅まつり、冬の御殿場散策におすすめ~ 臨時急行「富士山トレインごてんば号」の運転について” (PDF). JR東海 (2016年1月22日). 2022年10月23日閲覧。
  10. ^ a b 列車で行く! 秋のお出かけ情報について” (PDF). JR東海 (2020年8月31日). 2022年10月23日閲覧。

参考文献

  • 大井孝弘(JR東海東海鉄道事業本部車両部車両課)「373系特急形直流電車」『鉄道ジャーナル』第349号、鉄道ジャーナル社、1995年11月、82 - 84頁。 
  • 交友社『鉄道ファン
    • 1995年(平成7年)11月号 新車ガイド:JR東海373系

外部リンク

  1. ^ 地球環境保全への貢献”. 東海旅客鉄道. 2023年11月29日閲覧。