結婚
結婚(けっこん)とは、夫婦になること[1][2]。婚姻(こんいん)とは、「結婚すること[3]」「夫婦となること[3]」「社会的に承認された夫と妻の結合[4]」である。「婚姻」は配偶関係の締結のほか配偶関係の状態をも含めて指している[5]。本記事では「婚姻」あるいは「結婚」(英: marriage)について解説する。
概説
- 「婚姻」と「結婚」
「婚姻」と「結婚」では、「婚姻」のほうが、学術的にも、法的にも、正式の用語として扱われている。
先述のように学術的には「婚姻」は配偶関係の締結のほか配偶関係の状態をも含めた概念として、「結婚」は配偶関係の締結を指し、用いられている[5]。平凡社世界大百科事典[4]やブリタニカ国際大百科事典[6]などの百科事典では「婚姻」を項目として立てている。
法概念としても「結婚」ではなく「婚姻」のほうが用いられている[7][8]。日本の民法上でも「婚姻」と表現されており(民法731条)、講学上においても法概念としては「婚姻」が用いられる[8]。
一方、日常用語としては「結婚」という表現が用いられる頻度が増えている。広辞苑では「婚姻」の定義として、「結婚すること」とした上で、「夫婦間の継続的な性的結合を基礎とした社会的経済的結合で、その間に生まれた子が嫡出子として認められる関係」としている。
「結婚」の文字は「婚姻」の文字とともに漢籍を由来とし、日本では平安時代より用いられてきた。しかし、当時はどちらかといえば「婚姻」の文字の方が使用例が多かった。
明治時代になり、この関係が逆転して「結婚」の二文字が多く使用されるようになった(出典:日本国語大辞典第二版)。中国では「婚姻」である。
- 「婚姻」の範囲、多様な意味
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婚姻について説明するにあたって、まずその位置づけを広い視野で見てみると、男女の成人の性的関係というのは人類の発生以来人間関係の基礎的形態であり、それが成立するのに必ずしも規範や制度を必要としない[6]。
だが、社会がその男女の結合関係の成立を許容し承認するのは、これが婚姻という形態をとることによるのである[6]。婚姻というのは社会的に承認された夫と妻の結合なのであるが、ところがこの《夫》や《妻》の資格や役割については、各社会・各時代において独自に意味づけがなされており、比較する社会によっては、互いに非常に異なった意味づけを行っているものがある[4]。
よって上記の「社会的に承認された夫と妻の結合」という定義以上に細かい定義を盛り込むと、すぐにそうした定義文に当てはまらないような社会が見つかってしまう[4]。
例えば仮に婚姻を「一対の男女の継続的な性的結合を基礎とした社会的経済的結合で、その間に生まれた子供が嫡出子として認められる関係」などと定義してしまうと、日本などではこれは当てはまるものの、他の地域・文化ではこれに当てはまらない事例が多数見つかってしまう。
例えば南インドのナヤール・カーストにおける妻訪形式の男女関係は、性的関係に留まるもので、男は「生みの親」(en:genitor)にはなるものの、居住・生産・消費・子の養育・しつけなどには一切関与せず、社会的・経済的なつながりを持たないのである[4]。
ナヤール・カーストでは子は父親のカーストの身分を得はするが、それ以上の社会的・経済的なつながりは一切なく、父親の葬儀にも参加しない[4]。
また、たとえば北アメリカのクワキウトル族では、首長の特権は(息子ではなく)娘の夫(義理の息子)を通じて孫に伝えられる。そして娘がない場合は、息子(男)が(娘の代わりに)他の男を「婿(むこ)」として迎え入れ、その結婚式は通常と全く同じ方式で行われ、その式を行ってはじめて婿は特権を譲り受けることができるのであり、つまりこの同性間の婚姻では、男女の性的な要素は全く含まれておらず、婚姻はあくまで地位や財産の継承の道筋をつけるために行われている[4]。
このように、「婚姻」(や「結婚」)という用語・概念は、社会によって全く異なった意味を持ちうる[4]。
- 個々人の婚姻状態の行政上の分類用語。「未婚」「有配偶」「死別」「離別」。「非婚」。分類の困難。
日本の行政機関の統計においては、「有配偶」という用語を使い、「未婚」「有配偶」「死別」「離別」で、結婚に関連する状態を分類していることが多い。以前は日本で、結婚していないことを「未婚」(みこん)、すでに結婚していることを「既婚」(きこん)と単純に分類しようとする者もいたが、実際には死別する人も多く、また特に離婚する人々の割合が増えているので、アンケートで「未婚」「既婚」から二者択一させるのは非常に無理があり、実態を把握できなくなる。(なお「死別」とは、配偶者が死亡してしまった状態で、通俗的には「やもめ」と言う)。
さらに最近、日本では、本人の積極的な意思で結婚しないことを選択することを「非婚」と呼ぶ。
「未婚」と言うと、まるで本人は結婚を望んでいてその状態にたどりついていないかのような印象、誤解を生むが、結婚しないことを意識的に、意思を伴って選択していることを、はっき明示する表現である[9]。
なおフランスでは、男女の結びつきが可能な年齢になった人に関しては、古くは celibataire 独身 / marié(e) 既婚 という対比が基本で、それに加えてveuve(やもめ)という分類があったわけだが、20世紀半ばには結婚に加えて、あえて結婚しないcohabitation(コアビタシオン、同棲)という選択が一般化。
その後、PACS(パックス)という結婚と同棲の中間的な関係を保障する制度が実施。
近年では統計的には結婚制度を避けて、むしろPACS制度を選ぶ人々の割合が大きくなり、結婚制度を選択する人のほうがむしろ少数派(マイノリティ)になる。昔の単純な分類には当てはまらない男女の方の割合が増え、分類はかなり複雑化している。
婚姻・結婚にまつわる日本語の表現
- ちぎり
婚姻を古くから「(夫婦の)契り(ちぎり)」ともいう。
- 「入籍」
結婚すること、特に婚姻届を提出することを指して、俗に「籍を入れる」と言ったり、マスコミなどでは「入籍」と表現したりする場合があるが、戸籍法上の「入籍」とは意味が異なる。
戸籍法上の「入籍」とは、すでにある戸籍の一員になることである。すでにある戸籍とは筆頭者が存在する戸籍であり、これに入るには筆頭者の配偶者になるか、子(養子含む)として戸籍に加えられるしかない。
結婚は、戸籍法上では初婚の場合(分籍をしていなければ)、婚姻届が受理されることにより、元々お互いが入っていた親の戸籍から離れて新しく戸籍が作られ、そこに2人が構成される。そのためこのケースでは戸籍法上の「入籍」とは言わない。
ただし、離婚や分籍の前歴があれば当人が筆頭者であるため、その戸籍に配偶者を迎え入れればこれは戸籍法上の「入籍」と呼ぶこともできるが、一般的ではない。
なお、まれに「婚姻届」ということを、「入籍届」と表現されることがある。入籍届は父母の離婚や養子縁組に際し子が別の(基本的には非筆頭者側の)戸籍に入るための届出書であり、婚姻届とは全くの別物である。
なお、近年では、女性の社会進出にともない、仕事上などの理由で改性できないなどの理由で、法的に「婚姻」の届は出さず事実婚を選択するカップルも増えている。
ただしたとえ法律上の届は出していなくても、(何かが起きて)裁判に持ち込まれることになると、裁判官によって、二人の同居の有無やその期間の長さ、関係 の状態 等々を判断基準にして「二人は事実上婚姻状態に ある / あった」などと判断されることになる[注 1]。
このほか、結婚の類義語として、一方の側に立った表現として「嫁入り」「輿入れ」「婿入り」などがある。
婚姻の形態
婚姻の分類
単婚と複婚
- 単婚制(一夫一婦制、Monogamy)
- 一人の男性に対して、一人の女性という結婚形態。近代国家の多くはこの婚姻制度のみを採用している。近代以前はしばしば妻のみに貞操義務を要求されたが、これは男性による女性の支配だとして多くの国で撤廃され、一部の国では男女に貞操義務が課された。
- なお一夫一婦制の社会で、すでに配偶者がいるのに他の者とも結婚することを重婚と呼ぶ。
- 複婚制 (Polygamy)
- 一夫多妻制 (Polygyny)
- 一人の男性が複数の女性と婚姻関係を持つ形態。前近代においてはほぼすべての社会で実践されていた。現在でも中東のイスラム社会などに認められる。また、アメリカ合衆国のモルモン教徒も近年までは、一夫多妻制を採用していた。ただしこの制度を採用している地域の男性住民のすべてが複数の妻を持っているわけではない。イスラム教の一夫多妻制は、イスラーム教の公式見解に従えば聖戦によって男性が戦死する可能性が高かったため、未亡人や遺児の生活を保障するために始められたとされる。複数の妻が持てるのは経済的な余裕のある男性に限られる。一夫多妻制は男性による女性支配の原因となっているとされているが、西ヨーロッパ・アメリカの知識人の中には自国の女性差別を隠蔽するためにこのことを取り上げるものもいるという批判もある。
- 一妻多夫制 (Polyandry)
- 一人の女性が複数の男性と婚姻関係を持つ形態。現在この結婚制度を正式に法的に採用している国はないが、チベットなどで妻が複数の兄弟を夫とする慣習がある。
- 集団婚
内婚と外婚
同一の地域・氏族・民族の者の間でなされる結婚を内婚 (Endogamy)、異なる地域・氏族・民族等の者の間でなされる結婚を外婚 (Exogamy) という[10]。
ただし、近い血縁関係にある者同士が婚姻関係を結ぶ近親婚(親子婚、兄弟姉妹婚、叔姪婚、いとこ婚)については多くの社会で制限が存在する。また、同じ姓の者同士が結婚する同姓婚については慣習的に嫌われる地域がある。なお、夫の死後において夫の兄弟と婚姻関係を結ぶ制度はレビラト婚(順縁婚)、妻の死後において妻の姉妹と婚姻関係を結ぶ制度はソロレート婚(逆縁婚)と呼ばれる。
同類婚と異類婚
職業・階層・教育・趣味などの点で同一ないし類似の社会文化的属性を有する者同士の結婚を同類婚 (Homogamy)、異なる社会文化的属性を有する者同士の結婚を異類婚 (Heterogamy) という[10]。
夫居制・妻居制・選択制・新居制
社会学では結婚後の夫婦の居所により夫居制・妻居制・選択制・新居制という分類が用いられることがある[11]。
男が女の元にあるいは女が男の元に通う形態は通い婚という。特に夫が妻の元に通う場合は妻問婚(つまどいこん)とも言う。源氏物語に見られるように、かつての日本でも見られた形態である[12]。現在では別居婚とも言われる。
(異性婚と)同性婚
2006年7月29日、LGBTの権利の擁護と国際人権法確立を目的とした「モントリオール宣言」が採択され、性的指向を根拠にした差別の禁止などの観点から、同性結婚制度や登録パートナシップ制度が必要との記述が盛り込まれた。
フランスでは、2013年2月には下院で、4月12日には同国の上院で、同性婚解禁法案が賛成多数で可決された。
イギリスでは、2013年2月 庶民院(下院)で、7月15日 には貴族院(上院)で同性婚法案を賛成多数で可決し、2014年3月29日 イングランドとウェールズで同法律、が施行され、同年12月16日にはスコットランドで同性婚法案が施行された。
アメリカ合衆国では、2015年6月26日、最高裁判所が「法の下の平等」を定めた「アメリカ合衆国憲法修正第14条」を根拠に、アメリカ合衆国のすべての州での同性結婚を認める判決をだした。
日本では2020年3月4日、東京高裁は同性カップルについて、「他人が生活を共にする単なる同居ではなく、同性どうしであるため法律上の婚姻の届出はできないものの、できる限り社会観念上、夫婦と同様であると認められる関係を形成しようとしていたものであり、男女が協力して夫婦としての生活を営む結合としての婚姻に準ずる関係にあったということができる」と述べて、婚姻に準じる関係であったと認めた[13]。
婚姻の解消
婚姻は生前に解消されることがあり、これを一般に離婚という。その扱いについては文化・制度ごとに異なっており、離婚が容易に認められる文化、原則的に認められない文化、一切認められていない文化などの違い、またどのような理由が認められるか、についても文化・制度ごとに異なる。
結婚と宗教
結婚はあらゆる地域で宗教と密接に関わっている。
キリスト教
- カトリック教会では「結婚の秘跡」として扱われる[14][15]。結婚の秘跡として認められるのは信徒同士の場合である[16]。非信徒と信徒(混宗結婚と異宗結婚[17])、教会によっては非信徒同士の結婚式も執り行う。カトリック教会では、民法上の離婚者の再婚を結婚と認めていない[18]。カトリック教会の聖職者は生涯独身である。ただし、他教の既婚の司祭的役割の者が改宗した場合は、離婚を求められることはない。結婚禁止になったのは、11世紀のグレゴリウス改革以降のことである[19]。東方典礼カトリック教会は結婚できる。
- 聖公会では主教も含めた聖職者も結婚および妻帯が可能であり、妻帯した主教も数多く存在する。また正教会と違い、執事・司祭となった後でも結婚が可能である。
- 正教会では機密として扱われる[20]。正教会では婚配機密といい、機密である為、信徒同士でのみ行われる。夫婦となる者のうち片方もしくは両方が未信徒である場合、洗礼を受けてから婚配機密を行う。修道士は独身を保つ。神品 (正教会の聖職)の内、輔祭・司祭は妻帯が可能であるが、輔祭になる前に結婚しなければならない。また神品の再婚は認められない。主教は修道司祭から選ばれるため、主教は独身者である。離婚は神品職を解かれるほどの重い罪であり、一般信徒も一定期間、領聖停止などの措置が取られることになる[注 2]。しかし一般信徒の場合、配偶者の生存の如何には関係なく3回まで再婚が認められる場合もある(但し極めて稀)。詳細は「婚配機密」を参照
- プロテスタントの中でもバプテスト教会や会衆派では、会衆(教会員・信者)の同意により、神の導きと見なし結婚が成立する。プロテスタントの代表的な信仰告白の一つであるウェストミンスター信仰告白は、配偶者に不倫があった場合にのみ、潔白な方に離婚を認めており、そのとき相手を死んだ者として扱う。リベラルな教会では比較的離婚には、柔軟である(というより、人によって考え方がバラバラである)。
イスラム教
イスラームでは婚姻は戒律により(商取引などと同様に)人間同士の契約として扱われており、キリスト教の結婚のように神に誓った物ではない。 イスラム教における結婚では夫婦ともにイスラム教徒であることを必須条件としている。このため、夫婦のどちらかがイスラム教徒でない場合は結婚前に改宗することが求められる。
- 手続
結婚の手続き(儀式)は「ニカーフ」と呼ばれ、イスラーム法を知る者であれば誰でも執り行うことができ、また、当事者たちに都合の良い場所で行うことができる[21]。結婚には二人のムスリムの証人が必要であり、イスラーム法を知る人(ムスリム)が二人居ればよいとされている。ただし、実際にはウラマーによる承認や公証人による証書の発行が必要となる。また、「当事者たちの都合のよい場所で行うことができる」とされているが、通常は、モスクにおいて、そのモスクのイマームが執り行う[21]。
イスラーム教における結婚は、「1人の男と1人の女との間に結ばれる契約」であり、その結婚に対しては何らの法的制約もないので、花婿の同意および花嫁と彼女の保護者との同意とが一番重要であると考えられている[21]。
通常、花嫁の自由意志による同意は、結婚の儀式の前に、直接あるいは間接的に得られている[21]。花婿側の自由意思による同意の表明は儀式中に行う。 結婚の儀式が始まると、まずイマームによるアッラーを讃える定型的な説教がアラビア語で行われ[21]、イスラーム教の結婚制度の尊厳、および妻や夫としての義務や責任について説明される[21]。イマームは、花嫁の保護者に対し、自分の娘(あるいは自分が後見人となっている娘)と花婿との結婚に同意するかどうか、公の場(=2人の正式な証人が同席し儀式が行われている、まさにこの場)で表明するように求める。保護者が同意を表明すると、イマームは、次に、花婿に対し、名を呼びあげた花嫁との結婚に合意するかどうか表明するように求める[21]。
そして(通常、<<結婚の契約書>>が花嫁とその父親(あるいは後見人)と花婿によって作成されており)、2人の証人が(も)それに署名する。(式の前にあらかじめ花婿側と花嫁側の間で時間をかけて話し合い、相互の同意を得た上で決定された)「マフル」と呼ばれる婚資(夫から妻に贈られる贈与財産)の内容(およびその支払い方)がここで発表され[21]、この贈与財産の内容は<<結婚の契約書>>にはっきりと明記される[21](なお、もしも離婚することになった場合の慰謝料についてもこの契約書に明記しておく[22])。
そしてイマームの導く無言の祈りで式が完結し、挨拶が交わされる。乾燥したナツメヤシの実(=デーツ)などのお菓子が参列者に振舞われる[21]。
- イスラーム内の宗派ごとの相違点
イスラム法における結婚は制度が複雑で部外者には理解しにくい一面もある。ミシャー婚やスンナ派では認められていないシーア派独自のムトア婚(一時婚)などの制度があり、宗派によって結婚の制度が異なる上にアラブ社会ではこれに部族習慣法が加わって極めて複雑な婚姻関係が形成されている。
- 年齢
古典イスラーム法では、ムハンマドの妻アーイシャが9歳でムハンマドと結婚し初夜の性行為を行ったというハディースに基づき、女性の結婚最低年齢は9歳である。男性の結婚最低年齢は13歳程度である。しかし中東のイスラム教国を除く多くのイスラーム諸国では現在では[いつ?]15 - 18歳が結婚最低年齢である。 サウジアラビア、イエメン、オマーンなど、人間は生まれたときから結婚する権利があると認める国もあり、法制度上の下限がない国もある。ただし結婚しても性行為は9歳になるまで不可としている。
- 結婚の不成立(無効)
非婚での性行為が戒律上、認められていないため、初婚のさいには、男性は童貞、女性は処女であることを求められる。そのため、初婚の際に女性が処女でなかった場合、そもそも契約条件を満たしておらず「結婚は無効」という解釈が成り立つ。
- 離婚
イスラム教では離婚を制限していない。夫が「離婚」を意味する「タラーク」という言葉を、妻に対してはっきりと聞こえるように、ゆっくり大きな声で3回唱えることでその意志を表明すれば、それだけで離婚できる。
- 再婚
イスラム教では離婚を制限していないため、離婚・死別のどちらでも男女とも再婚可能。
- 一夫多妻制
イスラム法における結婚では一夫多妻制が認められていることが特徴のひとつとして挙げられるが、経済的な事情もあり実際に複数の妻を持っている人物は少ない。 サウジアラビアの初代国王であるアブドゥルアズィーズ・イブン・サウードは国を平定するために100以上ある国内の主要部族の全てから妻をもらっているため百数十人の妻がいたといわれている。このため初代国王の王妃が何人いたのか国王本人やサウジ王室自身も含めて把握できていないがイスラム社会における結婚の最多事例と言われている。サウード王家は一夫多妻結婚を繰り返しているため、初代国王の子孫は鼠算式に増えて5世代で2万人以上にまで増えた。
- 他
イスラム教国では売春は重罪であるが、短期間での結婚と離婚を繰り返すことで、実態としては売春でありながらそれをあたかも売春ではないかのように装う「脱法行為(ヒヤル)としての結婚」「結婚を装った売春」が行われていることもある。
ユダヤ教
ユダヤ教では結婚は神聖な行為と考えられ、未婚の男性は一人前とみなされない。「結婚は神が人間を誕生させて最初に行った行為であるから、必ず結婚すべきである」とされている。今でも伝統を守る地域では男子は18歳になると結婚する。恋愛は行うべきだが恋愛はあくまで一時的なもので、結婚とは結び付かないものだと教えられている[23]。
結婚と法制度
法学上、婚姻制度については人類の保族本能に基づき、これが習俗・宗教・法律といった社会規範によって規律されるものと説かれることが多い[24][25]。
近代法における構成要素
近代法における婚姻の構成要素として、社会的要素、自然的要素、意思的要素の3つが挙げられる[26]。
- 社会的要素
- 自然的要素
- 婚姻は伝統的には男女間での成立するものと考えられてきたが[27]、一部の国または地域では男性同士や女性同士の同性結婚も法的に認められている。日本では同性間の婚姻届は受理されない。1998年に川崎の若宮八幡宮で神前結婚式が行われ反響を呼んだ。
- 意思的要素
- 婚姻は当事者間の合意すなわち契約により成立する。
婚姻の成立
婚姻の成立の形態に関する法制度としては次のように分類される[28]。
- 事実婚主義(事実婚・無式婚)
- 社会慣習上において婚姻と認められるような事実関係があれば法律上の婚姻と認める制度
- 法制上、一般に婚姻には公示機能として一定の手続(儀式等)を伴うのが通例とされ、1926年のソビエト・ロシア法など事実婚主義の採用は歴史的にみても極めて稀にしか存在しないとされる[28]。
- 形式婚主義(形式婚・要式婚)
- 婚姻の成立には何らかの手続を要するとする制度
- 法律婚主義(法律婚・民事婚)
- 婚姻の成立には法律上の所定の手続を要するとする制度(法律上の所定の手続が届出である場合を特に届出婚主義という)
- 儀式婚主義(儀式婚)
- 宗教的儀式婚(宗教婚)
- 婚姻の成立には一定の宗教上の儀式を要するとする制度
- 習俗的儀式婚
- 婚姻の成立には一定の習俗上の手続を要するとする制度
なお、各国間では婚姻の成立方式が異なることから、国際結婚の場合には当事者との関係でいずれの国の私法を適用すべきかという国際私法上の問題となる。
法定財産制
婚姻後の財産の帰属・管理の形態に関する法制度は次のように分類される[29]。
- 吸収制
- 配偶者の一方の財産が他方の財産に(この法制の多くは妻側の財産が夫側の財産に)吸収されるとする制度。
- 共有制(共通制・合有制)
- 夫婦が財産を共有する制度。共有の具体的範囲は各法制ごとに異なる。
- 別産制
- 原則として各自が財産を所有し自己の名で得た財産はその者の固有財産となる制度。この制度は歴史的には妻の財産を夫から解放する点に意義があったとされる[30]。
- 複合財産制
- 上の財産制の要素を併用する制度。
日本では別産制を採用している。米国では州によって異なり、たとえばカリフォルニア州では共有制を採用している。
結婚の歴史
西欧における結婚史
西方教会の教会法はローマ法を承継して婚姻は契約によって成立するとしていたが(合意主義)、サクラメント(秘蹟)の教義の下、西欧では結婚には男女が教会においてサクラメントを受けることを要するとする宗教婚主義が支配的となったとされる[31]。
しかし、宗教改革による婚姻還俗運動の下で法律婚主義が登場すると、絶対王政の台頭とカトリック教会の凋落の中で、秘蹟と契約の分離する民事婚思想が広まることとなり法律婚主義が次第に拡大していったとされる[32]。
日本における結婚史
この節の加筆が望まれています。 |
日本法における結婚
この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
婚姻は終生にわたる共同での生活を目的とする典型的な身分行為であり、財産法上の契約関係のような特定の目的を達成する限度でのみ認められる結合とは異なる全人格的結合であるとされる[33]。そのため婚姻は代理に親しまない行為であり、また、条件や期限の親しまない行為とされる[34]。
民法についてこの節では、条数のみ記載する。
婚姻の成立
婚姻の成立要件
日本法(民法)は、婚姻の成立に法律上の手続を要求する法律婚主義を採用している(739条)。実質的要件として当事者の婚姻意思の合致及び婚姻障害事由の不存在が必要とされる。また、形式的要件として戸籍法に基づく届出が必要とされる。
婚姻意思の合致
婚姻には、まず実質的要件として婚姻意思の合致が必要である[35]。日本国憲法第24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と規定する。
「婚姻意思」とは何かという点については、婚姻という身分行為に必要な届出をなす意思であるとする形式的意思説もあるが、通説は婚姻届出を出す意思を有するとともに社会通念に従って夫婦と認められる生活共同体を創設しようとする意思をいうとしている(実質的意思説、実体的意思説)[35]。婚姻意思が存在しない場合(婚姻意思の欠缺)の婚姻は無効である(742条1号)。
なお、成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない(738条)。
婚姻障害事由の不存在
婚姻には民法に規定される婚姻障害事由(731条から737条)が存在しないことが必要である。婚姻障害事由のうち、民法731条から736条までの規定に違反した婚姻は「不適法な婚姻」として、法定の手続に従って取り消しうる(744条)が、737条違反については誤って受理されると、もはや取り消し得ない(後述)。
- 婚姻適齢
- 日本における婚姻適齢は、男性は18歳以上、女性は16歳以上である(731条)。
- 婚姻適齢に達しない場合は婚姻障害事由となり、744条により取り消しうる(不適齢者の取消しについては745条に定めがある)。ただし、実際には当事者が婚姻適齢に達しているか否かは、戸籍の記載から明らかであるので、誤って届出が受理された場合や戸籍上の生年月日が誤って記載されていた場合などに成立するにすぎない[36]。
- 日本では婚姻適齢につき男女間で2歳の差があり、これは女性のほうが成熟が早く、統計的に平均初婚年齢が女性のほうが若い点などを考慮したものとされるが、これが現代においても合理的と評価できるかは疑問とされる[37]。婚姻適齢につき「民法の一部を改正する法律案要綱」(平成8年2月26日法務省法制審議会総会決定)では、男女ともに満18歳とすべきとしており、2009年7月の法制審議会の部会は、男女ともに18歳に統一すべきとの最終答申が報告された。
- 婚姻適齢に達した未成年者は婚姻できるが、未成年者の婚姻には父母の同意が必要である(737条)。未成年者は婚姻により私法上において成年者として扱われる(753条)。通説によれば、この成年擬制の効果は年齢20歳に達する前に婚姻を解消した場合であっても失われないとされているので、初婚の解消後に再婚する場合には親の同意は必要とされない[38][39]。
- なお、未成年者の婚約については、未成年者(婚姻適正年齢外)であるからといって結婚をする約束(婚約)は無効にはならないという判例(大判大8・4・23民録25輯693頁)もあるため、高校生同士が結婚の約束をしていたことが証明されるに至った場合には、法的効力をもつ婚約となることがありうる[40]。
- 2018年(平成30年)6月13日、成人年齢を現行の20歳から18歳に引き下げる改正民法が第196回国会で成立した。この中には、女性が結婚できる年齢を現行の16歳から18歳に引き上げる内容も盛り込まれ、男性と統一された。これにより、2022年(令和4年)4月1日から、日本では結婚できるのは「成人」のみとなり、親の同意は不要となる[41][42][43]。
- 重婚の禁止
- 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない(732条)。一夫一婦制をとり多婚制を否認する趣旨である[40]。本条は実質上の一夫一婦制をも志向するものではあるが、732条の「配偶者」は法律上の配偶者を意味し内縁など事実上の婚姻を含まない[44][45]。
- 重婚が生じる場合としては、
- 誤って二重に届出が受理された場合
- 後婚の成立後に前婚の離婚が無効あるいは取り消された場合
- 失踪宣告を受けた者の配偶者が再婚した後に失踪宣告が取り消された場合
- 認定死亡あるいは戦死公報による婚姻解消ののち残存配偶者が再婚した後に前の配偶者が生還した場合
- 失踪宣告を受けた者が実は生存していて他所で婚姻した後に失踪宣告が取り消された場合
- 内地と外地とでそれぞれ婚姻した場合
- があるとされる[46]。失踪宣告の取消しなどにおける善意再婚者(重婚の事実を知らなかった者)の保護については問題となる[40](失踪宣告の取消しの場合について多数説は民法32条1項準用により後婚の当事者が善意であれば前婚は復活せず重婚は生じないとする[47]。失踪宣告も参照)。
- 重婚を生じた場合、後婚については本条により取消原因となるほか、前婚については離婚原因(770条1項1号・5号など)となる[48]。なお、悪意(故意)による重婚は重婚罪(刑法184条)を構成し処罰される(相婚者も同様に処罰される)[49]。
- 女性は前婚の解消または取消しの日から100日を経過した後でなければ、再婚をすることができない(733条1項)。この期間は再婚期限、待婚期間、寡居期間とも呼ばれる[50][51]。女性が再婚する場合において生まれた子の父性の推定が重複して前婚の子か後婚の子か不明になることを防ぐ趣旨である(最判平7・12・5判時1563号83頁)[52][51]。
- かつて、再婚期間は6か月とされていたが、「民法の一部を改正する法律案要綱」(平成8年2月26日法制審議会総会決定)では6か月から100日に短縮すべきとしていた。2015年(平成27年)12月16日最高裁判所大法廷判決は、同項が100日を超えて再婚禁止期間を定めていることについて憲法14条1項、24条2項に違反すると判示。違憲判決を受けて離婚後100日を経過した女性については婚姻届を受理する法務省通知が出され、2016年6月1日に民法の一部を改正する法律案が国会で可決成立し条文上も100日となった[53]。
- 本条の趣旨から、父性の推定の重複という問題を生じない場合には733条1項の適用は排除される[54][51]。女性が前婚の解消または取消しの後に出産した場合には1項の適用はなく、さらに2016年の改正により女性が前婚の解消または取消しの時に懐胎していなかった場合にも医師の証明書があれば再婚禁止期間中でも婚姻届は受理されることとなった(733条2項)[53]。
- 再婚禁止期間についてはDNA鑑定等による父子関係の証明方法もあることから、本条の合理性そのものを疑問視する733条廃止論もある[52]。ただし、772条をそのままにして本条を廃止すると父性推定が重複する場合には判決や審判によって父が確定されるまで法律上の父が未定という扱いになるとして、再婚禁止期間を廃止する場合には一定の立法上の措置が必要との論もある[55]。なお、2016年の民法改正においても改正法の施行から3年後をめどに制度の見直しを検討することが付則に盛り込まれている[53]。
- 近親者間の婚姻の禁止
- 直系血族又は三親等内の傍系血族の間の婚姻の禁止
- 直系血族の間では婚姻をすることができない(734条本文)。非嫡出子は父からの認知がない限り法律上の父子関係を生じないが、その関係上、父と未認知の娘との間の婚姻については、認知がない以上は法律上の親子関係にないため本条の適用余地はないとする説(法律的血縁説)[56]と実質的な直系血族である以上は婚姻は認められないとする説(自然血縁説)[52]が対立する。なお、養子縁組前に養子が出生した子と養親とは親族関係にないため(判例として大判昭7・5・11民集11巻1062頁)、本条の適用はない[59]。
- 三親等内の傍系血族の間についても婚姻をすることはできない(734条本文)。
- ただし、養子と養方の傍系血族との間の婚姻は許される(734条但書)。養子の実子と養親の実子の間の婚姻については学説に対立がある[60]。
- 直系姻族間の婚姻の禁止
- 養親子等の間の婚姻の禁止
- 未成年者の婚姻についての父母の同意
- 未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない(737条1項)。父母の一方が同意しないとき、父母の一方が知れないとき、死亡したとき、又はその意思を表示することができないときは他の一方の同意だけで足りる(737条2項)。
- 親権を辞任・喪失している父母の同意権については学説に対立があるが、父母の同意は親権と無関係であるとして実務は同意権を有するものとしている(昭33・7・7民事甲1361号回答、昭24・11・11民事甲2631号回答)[61][64]。また、実父母と養父母とがいる場合に実父母の同意が必要か不要かをめぐっても学説に対立があるが、実務は養父母のみを同意権者とする(昭24・11・11民事甲2641号回答)[65][66][35]。
- 父母の同意がない場合には婚姻障害事由に該当することとなり婚姻届は受理されないが、婚姻障害事由のうち本条違反は取消原因として挙げられていないため(744条)、誤って受理されるともはや取り消し得ず有効な婚姻となる(通説・判例)[67][68]。したがって、この父母の同意は厳密には婚姻成立要件ではなく届出受理要件ということになる(最判昭30・4・5裁判集民18巻61頁)[40][67]。
- 本条については解釈上の問題点も多く、立法論としては法定代理人の同意とすべきとの案、同意に代わる家庭裁判所の審判も認めるべきとの案、本条そのものについて削除すべきとする案などがある[35]。
戸籍法に基づく届出
婚姻には形式的要件として戸籍法に基づく届出(婚姻届)が必要である(739条2項)。これは婚姻の効力を第三者にも及ぼすためである。この届出については当事者間の合意で婚姻は成立しておりその効力発生要件にすぎないとする説と届出がない以上は婚姻は成立しないのであるから婚姻の成立要件であるとする説(通説)などがある[69][70]。婚姻届は当事者の本籍地又は届出人の所在地でこれをしなければならない(戸籍法25条1項)。
婚姻の届出は731条から737条まで及び739条2項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ受理することができない(740条)。なお、外国に在る日本人間で婚姻をしようとするときは、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事にその届出をすることができる(740条前段)。
婚姻は戸籍事務の担当者が届出を受理した時点で成立する(大判昭16・7・29民集20巻1019頁)。婚姻の届出をしない場合には婚姻届出の欠缺(けんけつ)として婚姻は無効である(742条2号本文)。ただし、その届出が739条2項に定める方式を欠くだけであるときは、婚姻はそのためにその効力を妨げられない(742条2号但書)。
2004年7月16日に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行、これにともない戸籍法も一部改正した。特例法の定める要件を満たす性同一性障害者は家庭裁判所で性別の変更の審判を請求することができ、戸籍上の性別の変更が可能となった。戸籍上の性別にしたがい、その男女の婚姻届は受理される。
婚姻の無効と取消し
婚姻の無効
婚姻意思の欠缺や婚姻届出の欠缺は婚姻の無効原因であり、また、婚姻の無効原因はこの二つに限られる(742条)。
婚姻の取消し
民法731条から736条までの規定に違反した婚姻(744条)、また、詐欺または強迫による婚姻(747条)は法定の手続に従って取り消しうる。これらは取消しであるから取り消されるまでは当該婚姻は一応は有効とされる。また、婚姻の取消しの効力には遡及効はなく、将来に向かってのみ効力を生ずる(748条1項)。
婚姻の効力
夫婦同氏の規定
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する(750条)。婚姻後に夫婦が称する氏については、届書に記載して届け出なければならない(戸籍法74条1号)。偶然にも同一の氏である場合にも同様である(769条の場合に法的な意味を有することになる)[57]。当事者の婚姻前の氏とは関係のない第三者の氏とすることは許されない[71][72]。なお、明治民法が制定されるまでの初期の明治時代では1876年(明治9年)3月の太政官指令により、妻は生家の姓「所生ノ氏」(実家の氏)を用いること(夫婦別氏)とされていた(明治9年3月17日太政官指令15号[73][74]。しかしながら、上記の指令にもかかわらず、妻が夫の姓(氏)を称することが慣習化していったといわれている[74]。
夫婦の氏につき「民法の一部を改正する法律案要綱」(平成8年2月26日法制審議会総会決定)では、夫婦は婚姻の際に定めるところに従い夫もしくは妻の氏を称しまたは各自の婚姻前の氏を称するものとし、夫婦が各自婚姻前の氏を称する旨の定めをするときは、夫婦は婚姻の際に夫または妻の氏を子が称する氏として定めなければならないものとしており、選択的夫婦別姓制度の導入、導入する場合の子の氏等についての議論がなされている。2015年(平成27年)12月16日最高裁大法廷判決は、婚姻に際し夫婦同氏のみを認める民法750条の規定について憲法13条、14条1項、24条に違反しないと判示している。
なお、日本の戸籍実務においては日本人が外国人と結婚する場合については夫婦同氏の規定の適用はないとしている(昭和20年4月30日民事甲899号回答、昭和42年3月27日民事甲365号回答)[73][75]。この点に関して戸籍法は外国人と婚姻をした者がその氏を配偶者の称している氏に変更しようとするときは、その者は、その婚姻の日から6か月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができるとしている(戸籍法第107条第2項)。
同居・協力・扶助義務
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない(752条)。これは婚姻の本質的義務で身分的効果の中核をなすとされる[76][77]。正当な理由なく同居しない配偶者に対して他方の配偶者は同居するよう請求しうる[78]。ただし、同居の審判があっても本人の意思に反する強制履行はできないとされている(通説・判例。判例として大決昭5・9・30民集9巻926頁)[40][79][77]。また、婚姻関係が完全に破綻している場合には同居の請求は認められない(大阪高判昭35・1・14家月12巻4号95頁)[80]。
正当な理由のない同居・協力・扶助義務の不履行は「悪意の遺棄」として離婚原因となる(770条1項2号)[78]。
病気による入院、出稼ぎや単身赴任、家庭内暴力など同居が困難な事情があると認められる場合には同居義務違反とはならず、やむをえず別居している配偶者に対して同居請求権を行使することは権利の濫用にほかならない(通説)[81][77]。
貞操義務
夫婦は貞操義務(守操義務)を負う(通説・判例。大決大15・7・20刑集5巻318頁)[72][82]。民法上には直接的な明文の規定はないが、婚姻の本質からみて当然の義務であると解されており、不貞行為は離婚原因となる(770条1項1号)[78][83][84]。
- 夫婦間の不法行為責任
- 第三者の不法行為責任
- 相手方たる第三者は共同不法行為者となり(大刑判昭2・5・17新聞2692号6頁)、その第三者に故意・過失がある限り、他方配偶者はその第三者に対しても慰謝料請求しうる(通説・判例。大刑判明36・10・1刑録9輯1425頁、最判昭54・3・30民集33巻2号303頁)[7][83][85]。ただし、判例は夫婦関係がすでに破綻していた場合の第三者の不法行為責任を否定する(最判平8・3・26民集50巻4号993頁)。なお、夫婦間の未成年の子からの第三者への損害賠償請求は否定される(最判昭54・3・30民集33巻2号303頁)。
婚姻による成年擬制
未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなされる(753条)。スイス民法やフランス民法にも同旨の規定があり、これらの規定は婚姻した未成年者が親権や後見に服するとすることは夫婦生活を阻害し法的関係に混乱を来すなど弊害を生じるためとされる[86][87]。
成年擬制の効果は原則として私法領域に限られ、それ以外の法分野における成年擬制の効果は各法の趣旨によって定められるが、少年法・公職選挙法・未成年者飲酒禁止法・未成年者喫煙禁止法など公法領域については原則として成年擬制の効果は及ばないとされる[88][39][89][90]。
通説によれば未成年者が離婚した場合にも成年擬制の効果は失われず制限行為能力者に復帰するわけではない(成年擬制存続説)[38][39]。婚姻の取消しの場合にも不適齢婚による場合を除いて制限行為能力者には復帰しない(通説・実務)[91][90]。
夫婦契約取消権
夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない(754条)。
夫婦関係が実質的に破綻している場合には、形式的には婚姻関係にあっても本条にいう「婚姻中」とはいえず夫婦契約取消権を行使することはできない(最判昭33・3・6民集12巻3号414頁、最判昭42・2・2民集21巻1号88頁)。
本条の妥当性については疑問視する見解が多い[92][93]。そもそも本条は沿革的にはローマ法に由来するもので夫から妻への家産の流失を防ぐといった趣旨があったとされるが、このような立法理由は今日では妥当でない[91][92]。また、契約取消権の濫用が問題化したこともあって判例はその行使を厳しく制限しており契約取消権は実質的な意義を失っているとされる[94]。このようなことから「民法の一部を改正する法律案要綱」(平成8年2月26日法制審議会総会決定)では民法754条の規定は削除すべきとしており現在議論がなされている。
夫婦財産制
婚姻によって夫婦間に生じる財産関係すなわち夫婦間の費用の負担、財産の帰属、管理収益権などを規律する制度[95]。
日本の民法は756条以下により、まず、婚姻の届出前に契約によって定めることを認め(契約財産制)、契約がない場合に法定財産制に従うものとしている(755条)[96]。
契約財産制
契約財産制とは夫婦財産契約に基づく財産関係である。夫婦財産契約は単なる夫婦間の契約ではなく登記によって第三者への対抗力を有する法律関係を生じる[96]。夫婦財産契約とは夫婦が婚姻の届出前にその財産関係についてなす契約であり、夫婦財産契約を定めた場合には法定財産制の適用はない(755条の反対解釈)。ただし、日本ではこのような慣習がなく民法の定める制度も厳格なこともあって夫婦財産契約が締結される例は極めて少ないとされ、ほとんどの夫婦財産制は法定財産制によっている[97][96][98]。
夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない(756条)。夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更することができない(758条1項)。
夫婦の一方が、他の一方の財産を管理する場合において、管理が失当であったことによってその財産を危うくしたときは、他の一方は、自らその管理をすることを家庭裁判所に請求することができる(758条2項)。共有財産については、前項の請求とともに、その分割を請求することができる(758条3項)。
家庭裁判所の審判又は契約中に予め定められた規定により、財産の管理者を変更し、又は共有財産の分割をしたときは、その登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない(759条)[99]。
法定財産制
- 婚姻費用の分担
- 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する(760条)。
- 日常の家事に関する債務の連帯責任
- 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う(761条本文)。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は責任を免れる(761条但書)。
- 日常家事とは、夫婦の共同生活体を維持するために必要な費用を言い、たとえば、公共料金や家賃、納税資金調達行為等が該当するが、具体的には、夫婦の収入、資産、職業等によって判断される。不動産など、夫婦の一方の固有財産を売却する行為は日常家事に該当しない(最高裁判決昭和43年7月19日)。日常家事につき表見代理の規定(110条)は直接適用されないが、相手方が、その夫婦にとって日常家事の範囲内の行為であると信じるにつき正当な理由があった場合には、110条の類推により、相手方は保護される(最高裁判決昭和44年12月18日)。
- 夫婦間における財産の帰属
- 夫婦の財産については共有とする共有制、各自の所有とする別産制などがある。日本の民法は夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産)とするとして別産制を採用する(762条1項)。夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定される(762条2項)。別産制は憲法24条に違反しない(最大判昭36・9・6民集15巻8号2047頁)。
- ただし、別産制をとるときには、夫婦の一方が他方の事業に協力している場合、夫婦の一方が内にあって家事にあたる場合、夫婦間の収入に格差がある場合などに不平等な結果を生じることとなるが、民法は婚姻継続中は家庭内の自律に任せ、婚姻解消時、具体的には相続においては配偶者相続権や寄与分、離婚においては財産分与などの制度によって清算することとしている[100][101]。
婚姻の解消
法律上、婚姻関係は夫婦の一方が死亡した場合(夫婦の一方が失踪宣告を受けた場合を含む)及び離婚が成立した場合に解消される[102]。
日本の明治民法下での結婚
婚姻の成立要件は、
- 男は満17年、女は満15年に達したこと、
- 現に配偶者をもっていないこと、
- 女は前婚の解消または取消の日から6か月を経過したこと、
- 姦通によって離婚または刑の宣告を受けたものは相姦者と婚姻ができないこと、
- 直系血族間、三親等内の傍系血族相互間の婚姻でないこと、
- 男が満30年、女が満25年に達しない間は家に在る父母の同意を得ること、
- 家族は戸主の同意を得ること、
- 市町村長に届出をおこなうこと、
などである。
市町村長に届出をおこなうことという要件を欠くときは婚姻は無効であるが、その他の要件を欠くときは取り消し得べきものとなって、法律所定の者が裁判所に取消の訴を提起することができる(改正前民法780条)。
婚姻の取消はただ将来にむかって婚姻を消滅させるのみで、その効力は過去に遡らないから、婚姻が取り消されてもすでに夫婦の間に生まれた子があれば、依然として嫡出子である。
婚姻の効力は、
- 夫婦間に配偶者としての親族関係を生じること、
- 夫婦は互いに同居の義務および扶養の義務をもつこと、
- 夫(入夫婚姻であれば女戸主)は婚姻中の費用および子女の養育費を負担する義務をもつこと、
- 配偶者の財産を使用収益する権利をもつこと、
- 夫は妻の財産を管理すること、
- 妻が重要な法律行為をするには夫の許可を得なければならないこと、
- 日常の家事については妻は夫の代理人とみなされること、
などである。
一夫一婦の共諾婚が定められ、かつ婚姻は市町村長に届出ることによって効力を生じるとして、厳格な法律婚主義が採用された。
なお、夫婦同氏の原則が定められたのは1898年(明治31年)の明治民法制定以降である。それ以前は、「婦女は結婚してもなお所生の氏(婚姻前の氏)を用いること」、すなわち夫婦別姓が原則であった[103]。
国際私法における結婚(国際結婚)
国際私法上、本国人と外国人との間の結婚等の国際結婚については、どこの国の法を適用すべきかという準拠法の問題を生じる。日本では法の適用に関する通則法に定めがある。
婚姻の成立及び方式
日本の法の適用に関する通則法によれば、婚姻の成立は各当事者の本国法による(法の適用に関する通則法24条1項)。また、婚姻の方式は婚姻挙行地の法によるが(法の適用に関する通則法24条2項)、当事者の一方の本国法に適合する方式でも有効とされる(法の適用に関する通則法24条3項本文)。ただし、日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、日本法によることを要する(法の適用に関する通則法24条3項但書)。
婚姻の効力
日本の法の適用に関する通則法によれば、婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法によるとされる(法の適用に関する通則法25条)。
夫婦財産制
日本の法の適用に関する通則法によれば、夫婦財産制についても原則として婚姻の効力の場合と同様の扱いとされる(法の適用に関する通則法26条1項・25条)。
ただし、夫婦が署名した書面で日付を記載したものにより、次に掲げる法のうちいずれの法によるべきかを定めたときは、夫婦財産制はその法による(法の適用に関する通則法26条2項前段)。
- 夫婦の一方が国籍を有する国の法
- 夫婦の一方の常居所地法
- 不動産に関する夫婦財産制については、その不動産の所在地法
この場合において、その定めは将来効のみ認められる(法の適用に関する通則法26条2項後段)。
外国法を適用すべき夫婦財産制にあっては、日本においてされた法律行為及び日本に在る財産については、善意の第三者に対抗することができない(法の適用に関する通則法26条3項前段)。この場合において、その第三者との間の関係については、夫婦財産制は日本法の規定による(法の適用に関する通則法26条3項後段)。ただし、外国法に基づいてされた夫婦財産契約であっても、日本においてこれを登記したときは、第三者に対抗することができる(法の適用に関する通則法26条4項)。
日本における結婚の状況
未婚化・晩婚化についての結婚アドバイザー等の見解
この節は中立的な観点に基づく疑問が提出されているか、議論中です。(2010年9月) |
平均結婚年齢は年々上昇し、未婚率も上昇しており、非婚化・晩婚化が進んでいる。
その要因については、一般的には女性の高学歴化や社会進出(賃金労働者化)が言われてきた。女性が自身で相当程度の収入を得られる社会になったことで、「結婚しないと生きていけない」というような状況ではなくなったこと。
不況などの経済事由に伴う、育児の(男性が行う育児)困難。「大人だから結婚しなくてはいけない」という社会通念(結婚の強制)の希薄化。女性の社会的身分が男性と肩を並べるようになったことも、結婚・出産といった女性の側の一時的なリタイヤへの不安、等多岐にわたる。並びに結婚より子供だけを作るシングルファーザーなどの自治体での子育て支援などもある。結婚より代理出産
以下は、婚活アドバイザーとして、いくつも晩婚の男女を観察してきた白河桃子の見解を、一例として挙げる。
あくまでも婚期を遅くしてしまった男女の例であり、成人男女全体を科学的に統計をとった上に、社会学者等が研究・考察したものではない。
- 女性の視点から見て、男性と同居することの魅力の減少(男性の収入の不安定化)
- 男性の場合、収入が低くて将来の見通しが不安定だと、結婚率が低くなる[104]。結婚を安定させるだけの収入がないのに、結婚どころではない、ということである[105]。それはまた、自分が生きてゆくだけでも大変なのに、他の人を抱え込んで面倒を見ている余裕などない、まして子育てができるような見込みなど立たないということでもある。なお、女性の場合は、年収と結婚率に相関関係はみられない、とされた[106]。この現象は、1980年代から零細農家や小規模商店の男性が結婚できないという形で徐々に現れていたが、政府・自治体やマスコミでは「低収入の男性を差別することになる」としてタブー視され、触れられなかったという[107]。
- 1990年頃までは、大多数の男性は年功序列制度により、若い間は収入が低くても将来収入が増える見通しがあり、収入及び将来が不安視されることはなかった。だが、1990年代に入り、ニューエコノミーへの転換やグローバル化の進展に伴い社会構造が変化した結果、少数の中心的労働者(大企業の正社員や一部の専門職)と、多数の非中心的労働者(非正規社員、周辺的正社員など)が必要な状況へと変わっていった。この結果多数の男性が、収入が低くて将来の見通しが不安定な状態になり(フリーター、派遣社員、契約社員、名ばかり正社員など)、またそこから抜け出すことができず、結婚しづらい状況となった[107]。
- 特に30歳代は男性の正規就業者の未婚割合が30.7%であるのに対して、非正規就業者は75.6%となっている[108]。
- 男性の視点から見て、女性と同居することの魅力が減少
- 男性が低収入で結婚できない事例が挙げられはするが、それは物事の一面でしかない、とも白河はいう[109]。
- 実際には、男性で正社員の職についていて収入が良くても、男性自身が結婚しない、結婚したがらないことも増えているというのである[105]。結婚に特にメリットを感じない、女性と暮らすことにあまりメリットが感じられない、としている男性が増えているのである[105]。
- 現代では、家庭で自炊をしなくとも外食産業や中食(なかしょく)、コンビニなどが発達しており、家事においても洗濯機、炊飯器、食器洗い機、掃除機などの便利な家電製品があり、また発達もしているので、女性に頼らなくとも、男性だけで十分に快適な生活が成り立つので、独身男性の視点から見て、女性と同居することのメリットが減少しているとの指摘がある[109]。
- 下手に女性と接することでセクハラや痴漢などに疑われて社会的制裁を受けることもあるため、女性とのコミュニケーションを避ける男性も増えている。
- 経済的な余裕のある男性も結婚するメリットがなく社会的な縛りがあるため結婚自体避ける男性も発生している。
- 社会的圧力の減少
- かつての日本には、「結婚して一人前」とする周囲からの社会的な圧力があった。たとえば、「結婚しないと 出世が遅くなる」ということが知られている企業も多く[109]、独身をつらぬこうとするだけで勇気が要ったほどであると白河はいう[109]。これには扶養義務を持たない「身軽な人間」を要職に就けることに企業経営者が抵抗を感じたという事情があり、社会的な「常識」のような圧力が、男性全般を、結婚適齢年齢までに結婚するように駆り立てていたというのである[110]。だが、現代では、男性はそのような社会的な圧力は受けていないと白河は指摘している[109]。また、圧力のある時代では、若手女性社員は男性社員のお見合い要員と見なされる風潮があり、企業が結婚相手をしばしば世話しており、結婚は企業が従業員を統制する手段でもあった。しかし現在、結婚話はセクシャルハラスメントとなる可能性がある[111]。こうして、男性の場合、いくらでも結婚の回避や先延ばしが安易になってきているのだという[109]。
- 社内恋愛、社内結婚、お見合いの減少
- 岩澤美帆、三田房美の『日本労働研究雑誌』2005年1月号「職縁結婚の盛衰と未婚化の進展」などで指摘されていることだが、従来、社内恋愛は大切な出会いの場であった。ところが、就職氷河期が原因で女性社員も採用が減り、インフォーマルな付き合いも減ることにより、社内恋愛の機会が減少、機会の減少に伴い、社内結婚も減少したとした[112]。同じく、岩澤美帆、三田房美は、上記の社内結婚およびお見合い結婚の減少で、初婚率の低下のほとんどは説明がつくという[112]。
- 女性の専業主婦志望と男性の共稼ぎ希望との齟齬。
- 「女性も収入をもたらして欲しい」との男性の望みに女性が気付いていないことや応えようとしていないと白河は述べる。女性が専業主婦を希望していることを嫌がる男性が統計的に見て増えてきており[113]、結婚後も、女性が労働し、収入を家庭にもたらして欲しいと考える男性が増えているのである。2005年の調査では、「妻には再就職して欲しい」の38%と「妻には主婦業および仕事で収入を得ることを両立して欲しい」の28%を合計すると、66%ほどの男性が、女性にも収入をもたらして欲しい、と思っている。それに対して、女性に専業主婦になって欲しいと望んでいる男性はわずか12%にすぎない。これは何も、女性に年収800万だの1000万円という高収入ではなく、手堅く仕事をして数百万円程度を稼いでくれることを男性は期待しているのだろう、と白河は分析している[114]。近年の日本の景気では、ひとりの人間が収入を100万円増やすことも至難であるので、女性の稼ぎの有無で、一家の収入や可処分所得の額が1.5倍や2倍ほども異なってきてしまう[114]。
男性が女性に期待するコース
(出典:『結婚と出産に関する全国調査』国立社会保障・人口問題研究所、[113][115])年 専業主婦 再就職 両立 1987年 37%程度 37%程度 10%程度 1992年 30%程度 44%程度 11%程度 1997年 20%程度 43%程度 18%程度 2002年 18%程度 47%程度 19%程度 2005年 12%程度 38%程度 28%程度 2015年 10%程度 37%程度 33%程度
- 専業主婦を志望する女性にとっては男性の収入が低く、将来の見通しが不安定だと結婚相手として認識しづらくなる、と山田昌弘は表現した[116]。但し、応えようとしない、つまりは専業主婦願望の女性統計や希望理由統計はないので、齟齬の大きさの実態は不明。
- 女性の結婚観の変化
- 白河桃子が指摘。『負け犬の遠吠え』(酒井順子著)、『だめんず・うぉ〜か〜』(倉田真由美著)により、結婚への意識と男性への意識(DVをはたらくなどのダメな男性を避けたい)が変化しているという[112]。
各国における結婚の状況
ヨーロッパ
中世において、結婚の記録は教会の教区簿冊に頼っていた。そのため、キリスト教の影響力が弱くなる等によりキリスト教によらない結婚や事実婚が増えると、結婚の記録に不備が生じる。
結婚記録の不備は特に相続の場面において社会問題となった。そのため、例えばイギリスは法律により国教会によらない結婚は結婚として認めず、違反者には重い罰金を科すなどの政策をとったことがある[117]。
現代のスウェーデンでは56%の人が未婚のまま出産し多くはそのまま生涯未婚を通す。フランスでも6割近くが未婚のまま出産を行っており、こうした婚外子は年々増加しつつある[118]。こうした中で結婚しなくても夫婦と同等の権利になれる制度や子育てに関する社会保障が法的に定められ、あくまでこの範囲の中で夫婦として子育てを行い、本当に愛し合い一生連れ添いたいとお互い思った場合のみ結婚を行うという考えが一般的になりつつある。
アメリカ
アメリカ合衆国では結婚は一般的なものの、46%とほぼ2組に1組の高い離婚率を示しており、先進国ではトップに位置している。
中国
概要
法律の最低結婚可能年齢は、男性22歳、女性20歳(2008年時点)となっている[119]。
また、一人っ子政策により「男性が余っている」というイメージが強いが、結婚当事者の意識としては「女性が余っている」状況にあるという。大きな要因としては「女性の方が婚期が短い」ことが挙げられる[121]。都市部の結婚適齢期の未婚の世代でも、女性の方が多い状況にある[122]。この問題については、三高#中国も参照されたい。では男性はどこで余っているかというと、農村部となる。地方の低収入の男性が「数千万単位で溢れている」[123]状況にある。
一方で、金持ちになった男性は二号、三号の妾を囲うことが、ある種のステータスとなっている。
中国における意識
中国における結婚への意識として、以下のものがある。
- 夫婦の年齢は、夫の方が高い方がよい(男大女小と言う)[122]
- 結婚するには、まず家[124]と車が必要[120]
- こうして住宅を買い、ローンで首が回らなくなる者は房奴と呼ばれ、その増加が社会問題となっている。房奴については中華人民共和国の経済#借金苦の増加を参照されたい。
- 結婚は女性にとっては働く上で不利
- 企業の求職時に「未婚に限る」という条件がある場合もある。そのため、結婚していることを隠し未婚と偽って働く女性をさして「隠婚族」という言葉が生まれた(もちろん、ばれた場合は虚偽申告の罪に問われる)[125]。
中国における歴史
中華人民共和国成立以前は、親が縁談をまとめており、デートや自由恋愛といったものはなかった[126]。中華人民共和国成立(1949年)後は、中国共産党が党への忠誠心などを勘案しながら結婚の許可を行うこととなった[122]。改革開放(1978年)後は、自由恋愛により結婚することができるようになった[122]。なお、1966年からの文化大革命の際には、多くの知識人が地方へと下放され、そこで地元の女性と結婚することとなった。そのため、改革開放後に離婚が自由にできるようになると、こうした夫婦が離婚するケースが各地でみられた[126]。
1990年代後半からの経済成長とそれに伴う経済格差の拡大により、結婚に際し愛情よりも経済力を優先する風潮が強まり、若い女性が生活向上のための手段として玉の輿を狙う姿がみられるようになった[127]。こうした世論を反映するように、成金が80後(後段参照)の女性を狙い、女子大に花嫁募集をかける動きが2006年頃から現れた(こうした女子大への求婚活動は「社会征婚進高校」といわれる)[127]。
中国の世代における傾向
以上のような背景を踏まえた上で、世代の傾向として以下のようなものがあるという。
- 70後(1970年代に生まれた世代)
- 上述したように、親が文化大革命により下放した知識人の場合、離婚するケースがある。こうした家庭で育ち親の離婚を経験した70後の女性は、結婚に対するネガティブなイメージを抱くこととなる[126]。また、いわゆる三高問題の対象でもあり、「結婚できない」ことが問題となっている。詳細は「三高#中国」を参照
- 80後(1980年代に生まれた一人っ子政策後の世代で、親や祖父母からの愛情を一心に受けている。何不自由なく育ったため、大学卒業後に就活失敗による失業や低賃金な職場への就職により、生活水準が下がることを恐れる[126]。小皇帝も参照)
- 小皇帝でも述べられているが、世代として「贅沢に慣れており金遣いが荒い」「我が強い」「わがままで自己中心的」「家事ができない」「競争時代に生きており、より良い条件を求める」といった問題点が指摘されている。また、結婚への価値観もそれまでの世代と異なっており、結婚に伴う責任などもあまり重く考えない。そのため、「すぐに結婚する」「すぐに妊娠する(させる)」「すぐに離婚する」(それぞれ、「閃婚族」「閃孕族」「閃離族」と呼ぶ。また、まとめて「閃光族」と総称する場合もある[128])現象が起こっており、社会問題となっている[128]。
脚注
注釈
出典
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関連項目
- 婚姻届
- 生活型
- 冠婚葬祭
- 引出物
- 結婚式 - 結婚披露宴
- 結婚指輪
- 結婚記念日
- 結婚適齢期
- 結婚氷河期
- 結婚活動 - 見合い - 恋愛結婚
- マリッジブルー
- 永久就職
- 新婚旅行 - 成田離婚
- 早婚 - 晩婚
- 離婚 - 再婚 - ソロレート婚
- 卒婚
- 成年 - 世界における成人年齢一覧
- 後妻打ち - 中世日本で再婚時に行われていた風習
- 共働き - 結婚を機に仕事を辞めて専業主婦などにならず、夫婦が結婚後も働き続けること
- 三高、三低 - 結婚相手に求める条件の一形態。内容は、高収入や低リスクなど
- 獄中結婚 - 政略結婚
- 偽装結婚 - 結婚詐欺
- 国際結婚
- 非婚
- 連帯市民協約 - PACS(パックス)とも呼ばれる、フランス発祥の結婚と同棲の間ともいえる新しい家族形態
- 求婚
- 婚約
- 許婚
- 同性婚
- 事実婚 - 夫婦別姓
- できちゃった結婚
- 嫁不足
- 住友セメント事件