偽装結婚

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偽装結婚(ぎそうけっこん、: mariage blanc マリアージュ・ブラン[1])は、一般的に結婚の実態を伴わない結婚とされる。

ただし実は、「真正な結婚」と「偽装結婚」の境目がはっきりせず、判定が困難なことも多い[2][3]

目的[編集]

偽装結婚が行われるケースは、目的により何種類かに類型される。

犯罪目的のもの[編集]

消費者金融では、債務者の情報が相互にやり取りされているため、偽装結婚により姓を変え、新規の債務者と思わせて信用情報をすり抜け、借金を繰り返すなどの詐欺目的のものがある。

外国人では、人身売買等で外国人を日本で働かせるため、ブローカー等が介在して偽装結婚させるケースがある。就労を目的として偽装結婚するケースでは、婚姻の合意があり実質的な結婚生活が伴っている場合には、結婚自体の違法性を認めることは難しい。さらに、制限なく就労できる在留資格(永住者の配偶者等、日本人の配偶者等など)を持っている場合は、就労していること自体は合法である。

また犯罪ではないが、短期間の結婚をしてブラックリストを回避し(携帯電話等を)契約をするケースもあるという。

架空の扶養を用いて、脱税する目的、あるいは贈与税脱税のために、偽装結婚の後、更に偽装離婚をするケースがある。

在留資格の取得を目的としたもの[編集]

外国人が、配偶者の身分として取得できる在留資格(「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」等)は、形式的及び実質的な結婚の実態があると入国管理局が認めれば許可される。そのため、現在は在留資格や在留カードを持たない人、または他の在留資格では引き続き在留できない人などが、在留資格取得のために相手に金銭を払うなどして偽装結婚の意思を示して結婚することがある。両者に婚姻の合意があり( 日本国憲法第24条)、結婚後も相互扶助しながら暮らしている場合(民法752条)は、結婚が偽装であるという刑法上の認定は困難となる。

外国人の偽装結婚の中には、在留資格を得て合法的に就労することを主目的として行うものがある。特に身分系の在留資格のうち、日本人、在留資格「永住者」、在留資格「定住者」のいずれかの配偶者としての在留資格が得られれば、時間や職種の制限なく就労できるという出入国管理及び難民認定法の規定があるためである。

なお、日本で、1995年(平成7年)における日本人との婚姻同居案件に係る入国在留審査においては1294件を不許可とし、そのうち偽装結婚であることが判明したものは325件にのぼった[4]。不許可とした残りの案件も偽装結婚の可能性が高いと考えられる[4]

同性愛者であることを隠蔽するため[編集]

同性愛が厳しく禁じられている時代や社会では、同性愛者は自身が同性愛者であることを隠すために偽装結婚を行うことがある。つまり法律上の手続きや結婚式はするものの、はなから相手を異性として愛していなかったり、性行為をする気がなかったり、ほとんど一緒に時間を過ごす気は無く、ただ知人の前や行事で人々の前に出る時などに、さも夫婦であるかのようなフリをするための相手として使う、自分が同性愛者ではない、と周囲の人々に思わせるための道具として使う、という場合である。

キリスト教が大きな影響力を持っていたヨーロッパでは、ほんの数十年前まで、同性愛は宗教的に絶対的なタブーとされ強く禁じられ、また法的にも禁止する法律があり、同性愛者はそれが発覚すると社会から露骨に排除され、逮捕され監獄に入れられたり、社会的地位を失ったり、自殺に追い込まれることもあった。そのため、ヨーロッパでは、同性愛者は嫌疑をかけられるのを回避し身を護るために、しばしば偽装婚を行った。有名な事例としては、たとえばジェレミー・ソープソープ事件)がある。(なお近年のヨーロッパではキリスト教の影響力もやや減り、同性愛者の権利が尊重されるようになり、おまけに社会全体で結婚しない人々の割合も増え、結婚しないというだけで同性愛と疑われることも減ったので、同性愛者が偽装結婚にまで追い込まれる率は減る傾向にある。)

偽装結婚と刑法[編集]

日本では「偽装結婚」という犯罪名が刑法上に存在するわけではない。(何らかの出来事をきっかけにして「明らかに結婚の実態が全く無い」などということが判明すれば、時をさかのぼって、婚姻届役所に届出した時点の行為が、「文書偽造の罪の一種である「公正証書原本不実記載等罪(刑法157条)」にあたった」等としてあつかわれ、その後の裁判で結婚が無効となる場合が無いわけではない。当事者双方が実際に結婚する意思がないのに、外形上結婚したように装うため婚姻届を提出した、後から判明した場合に、「公務員に対し虚偽の書類によって申立てをし、公務員に不実の記載をさせた点が有罪である」などとして同罪が適用される場合もありうる。

偽装結婚を題材にした作品[編集]

脚注[編集]

  1. ^ フランス語の表現であり「白い(=空白の)結婚」という意味。英語でもフランス語表現をそのまま用いてmariage blancと呼ぶ。
  2. ^ 有斐閣『ジュリスト』875-881合冊。pp.10-12
  3. ^ 端的には、最初は「真正な結婚」をするつもりで婚姻届を出したのだが直後(あるいは早期)から二人の関係が壊れてしまった場合と、最初から「真正な結婚」をするつもりがなかった場合の見分けが、(当人同士が口裏合わせや、嘘の証言の調整を行っていると)外形的・客観的には見分けることが非常に困難なためである。また「真正な婚姻」が一定期間続いた後に、喧嘩など何らかの事情がきっかけで、別居状態になり、「婚姻の実態が無い」状態になる夫婦(事実上の離婚状態。「真正な結婚」の要件であるはずの「同居」や「ある頻度での面会」や「一体化した経済生活」など、そのいずれもが消滅してしまう事例。それにもかかわらず二人の(少なくとも)どちらかが離婚を拒否しつづける事例)は、世の中にはかなりの割合存在存在するため でもある。
  4. ^ a b 坂中英徳『日本の外国人政策の構想』日本加除出版、2001年。 p.253