コンテンツにスキップ

軍荼利明王

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。111.90.71.45 (会話) による 2023年6月30日 (金) 02:28個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (関連項目)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

軍荼利明王 図像抄(平安時代

軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)は、密教明王のひとつであり、宝生如来教令輪身とされる尊格である。様々な障碍を除くとされ、五大明王の一尊としては南方に配される。

曼荼羅における軍荼利

胎蔵界曼荼羅においては、軍荼利明王として、金剛界曼荼羅においては、甘露軍荼利菩薩、金剛軍荼利菩薩、蓮華軍荼利菩薩がいる。これを三部軍荼利と呼ぶが、軍荼利明王に該当するのは甘露軍荼利菩薩サンスクリットではアムリタ・クンダリンamṛta-kuṇḍalin)である。アムリタとは、不死の霊薬のこと、クンダリンは水瓶、あるいは、とぐろを巻いた蛇のこと。

軍荼利明王は、疫病をもたらす毘那夜迦天(インドガネーシャ)を調伏すると密教では解釈されている。

チベットでは十忿怒尊ヴィグナーンタカとなり、象頭神(ガネーシャ)を踏む。

軍荼利明王の起源と成立

軍荼利明王の成立は明王の中では古いようで、早くも『陀羅尼集経』(阿地瞿多訳、7世紀)に不動使者とともに金剛甘露軍荼利菩薩が登場している。日本に伝播した明王は中期密教の忿怒尊である。チベットでは、後期密教の影響を受けているため姿形や性格、人気のほどは異なる。

一説には、ヒンドゥー教のシャクティ崇拝を取り入れてこれを仏教の尊格としたものとも言われる[1]。「軍荼利」はサンスクリット Kuṇḍalī の音写語である[1]。クンダリーはヒンドゥー教の女神で、一種の夜叉とも解され、シャクティを表しているとされる[2]

ヒンドゥー教のハタ・ヨーガでは、人間には3回半巻きついた蛇として表象される「クンダリー」ないし「クンダリニー」 (kuṇḍalinī) という潜在エネルギーが宿っているとされる[3]。クンダリニーはシヴァ神の力能(=シャクティ)としての女神でもある[4]。これを目覚めさせて中央脈管を上昇させ、シヴァ神のいる頭頂部に至らしめた時に解脱が得られるとされ[3]、これを目指すヨーガを特にクンダリニー・ヨーガという[5]。クンダリニーは、耳環、腕環、螺旋、巻き毛などを意味するサンスクリット語クンダラ(kuṇḍala)の派生語クンダリン(kuṇḍalin、「螺旋を有するもの」の意)の女性形主格である。在野のインド研究家の伊藤武は、ヨーガのクンダリニー女神は元は非アーリア系の不可触民に起源をもつ女神であったという説にふれ、ヨーガのクンダリニーの起源であるこの女神が仏教に取り入れられて、日本に伝わる途上の中国で性転換させられて女神から男尊の軍荼利明王になったと説明している[6]

姿形

軍荼利明王は一面八臂の姿で、手は2本の腕で三鈷印を結び、他の腕には武器や斧を持ち、顔は三ツ目でとぐろを巻く蛇を身に纏った姿で像形されることが多い。

梵字

種子はहूंअहूं(hūṃ、ウン)[7]

真言

三昧耶真言(『甘露軍茶利菩薩儀軌』陀羅尼集経/第八 所収 軍茶利明王三昧耶真言)
ナウボウアラタンナウ・タラヤヤ・ノウマクシセンダ・マカバサラクロダヤ・トロトロ・チヒッタチヒッタ・マンダマンダ・カナカナ・アミリテイ・ウン・ハッタ・ソワカ(Namo ratna-trayāya namaś caṇḍa-mahāvajrakrodhāya oṃ hulu hulu tiṣṭha tiṣṭha bandha bandha hana hana amṛte hūṃ phaṭ svāhā
甘露軍荼利真言
オン アミリテイ ウン ハッタ(Om amṛte hūṃ phaṭ
「帰命したてまつる、甘露尊よ、祓いたまえ、浄めたまえ」[8]
金剛軍荼利真言
オン キリキリ バザラ ウン ハッタ(Oṃ khili khili vajra hūṃ phaṭ
「オーン 笑声金剛よ。祓いたまえ、浄めたまえ」[9]

脚注

  1. ^ a b 『岩波 仏教辞典 第2版』262頁。
  2. ^ 佐藤任 『密教の神々: その文化史的考察』 平凡社〈平凡社ライブラリー〉、2009年、309頁。
  3. ^ a b 山下博司 『ヨーガの思想』 講談社〈講談社メチエ〉、2009年、144頁。
  4. ^ 立川武蔵 『ヨーガと浄土: ブッディスト・セオロジーV』 講談社〈講談社選書メチエ〉、2008年、117-118頁。
  5. ^ 成瀬貴良 『ヨーガ事典』 BABジャパン、2010年、129頁。
  6. ^ 伊藤武 『図説 ヨーガ大全』 佼成出版社、2011年、321-322頁。ISBN 978-4-333-02471-1
  7. ^ 「印と真言の本」、学研、2004年2月、p116。
  8. ^ 坂内龍雄『真言陀羅尼』平河出版社1981、p.279-280
  9. ^ 坂内龍雄『真言陀羅尼』平河出版社1981、p.278-279

関連項目