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2019年12月23日 (月) 23:35時点における版
アメリカ沿岸警備隊 | |
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United States Coast Guard | |
沿岸警備隊紋章 | |
組織の概要 | |
設立年月日 | 1790年8月4日 (税関監視艇部) 1915年1月28日 (沿岸警備隊) |
継承前組織 |
|
種類 | 沿岸警備隊 |
本部所在地 | ダグラス・A・マンロー沿岸警備隊本部ビル ( アメリカ合衆国ワシントンD.C.) |
標語 | 常に備えあり (Semper Paratus) |
上位組織 | 国土安全保障省 |
ウェブサイト | uscg.mil |
アメリカ沿岸警備隊(アメリカえんがんけいびたい、英語: United States Coast Guard, USCG)は、アメリカ合衆国の沿岸警備隊。連邦政府の警察機関であると同時に、正式なアメリカ軍の一部門でもある[1]。
軍隊であるが、国防総省ではなく国土安全保障省に属し、軍人42,190名、予備役7,899名、一般公務員8,722名、補助隊員(ボランティア)32,156名を擁する。航空機197機、カッター(巡視船)84隻、その他巡視艇など多数の船艇を運用する[2]。
沿革
税関監視艇部の創設
独立直後のアメリカは、初代財務長官となったアレクサンダー・ハミルトンの構想に基づき、関税と酒税を連邦政府の二大収入源としていた。またその関税についてアメリカ国籍船を優遇することで、独立戦争で極端に弱体化した商船隊の復興を図っていたことから、関税の徴収・密輸取締りは国家の重要課題であった。このことから、まず第1議会の第一会期中の1789年7月31日、財務省傘下に税関監視艇部 (United States Revenue Cutter Service) が設置され、続く第二会期中の1790年8月4日には、武装したカッター10隻の建造と財務省による優先使用、特別捜査官100名の配備が可決された。これらの要員・船艇は1791年より任務を開始し、後のUSCGに至る系譜の端緒となった[3]。
税関監視艇部は、当初はその名の通りに税関監視など連邦歳入法の執行を主任務としていたが、1831年、新任のルイス・マクレーン財務長官の命令に基づいて任務が拡大されて、合衆国沿岸での捜索救難が追加され、1837年12月22日の法改正によって公式の規定となった。また19世紀末の航海法の施行によって船舶の所有権関係や海上での船舶立入検査などの業務が増大したほか、1870年頃からはプリビロフ諸島でのアザラシ保護、1908年にはアラスカ州での狩猟法執行権限が付与されるなど、総合的な海上保安機関へと発展していった[3]。また独立戦争時の大陸海軍は1785年までに解体されていたことから、1798年の擬似戦争を期に海軍が再編成されるまで、税関監視艇部がアメリカ唯一の洋上実力組織であり[4]、1799年には、有事の際には大統領の命令によって海軍長官の指揮下に入ることが定められた[5]。擬似戦争や1812年の米英戦争にも従軍している[3]。
また1843年には、財政緊縮のため、税関監視艇部を廃止して監視艇を海軍に編入することも検討されたが、これは商務委員会の反対によって実現せず、逆に、従来は各地の税関長の指揮下にあった監視艇隊の指揮系統を一括化する税関監視艇局(Revenue Marine Bureau)が設置されるなど、中央集権化が図られた[5]。
その他の海上保安組織の創設
アメリカの発展に伴い、税関監視艇部のほかにも、海上保安を担当する連邦政府機関が設置されるようになっていった。税関監視艇部の設置が可決されたのと同じ第1議会第一会期中の1789年8月7日には、従来は各植民地が担当してきた灯台等の航路標識の維持管理を連邦管轄に移すことが決議され、やはり財務省に灯台局 (United States Lighthouse Service) が設置された。議会や当局の決断不足もあり、同局はRevenue Marine、Bureau of Lighthouseと改称を繰り返し、また上部組織も財務省から商務・労働省、商務省と変遷が続いたものの、1939年7月1日、フランクリン・ルーズベルト大統領の大統領令によってUSCGに編入された[3]。
19世紀の造船・航海技術の発達に伴い、これらの監督官庁も整備されていった。特に蒸気船の発達は海運に一大変革をもたらしていたが、黎明期には特にボイラーに問題があり、蒸気船の普及とともに爆発・火災事故が多発するようになっていった。1832年には、当時運航していた蒸気船の14%が爆発事故で損壊し、1000名以上の死者を出す事態となっており、また1837年にはルイジアナ州で「ベン・シェロッド」、ノースカロライナ州で「プラスキ」と大規模な蒸気船爆発事故が立て続けに発生した。これらの事態を受けて、1838年7月7日、連邦議会は蒸気船の定期検査制度の立ち上げを決議し、財務省にそのための蒸気船検査部 (Steamboat Inspection Service) を設置した。また1884年7月5日には、航海法の適用について監督する航海局 (Bureau of Navigation) も設置された。1932年、航海局と蒸気船検査部は合併したが、1942年3月1日には再度分割されて、航海局は古巣にあたる財務省関税局へ戻る一方、蒸気船検査部はUSCGに編入された。また航海局も、1946年にはUSCGに移管された[3]。
西部開拓時代のアメリカは多くの移民を受け入れたが、彼らを運ぶ移民船には構造薄弱・技術未熟な船も多く、また多くの移民を詰め込んでいたこともあって、ニューヨーク港を目前にしてニュージャージーやロングアイランドの岩礁で難破し、悲惨な海難事故となることが少なくなかった。例えば、1830年代には毎年約90隻のアメリカ籍船が遭難したとされている。マサチューセッツ湾 (Massachusetts Humane Society) やニューヨーク港では市民ボランティアによる水難救済会が相次いで立ち上げられたものの、その他の地域では税関監視艇部が副次的に捜索救難の任にあたるのみであり、本来任務ではなかったことから、海難事故の増加に伴って加速度的に対応が困難になっていった。この状況に対し、1847年、連邦議会は税関監視艇部に捜索救難を任務とする人命救助部 (United States Life-Saving Service) を設置した。南北戦争前後はボランティア頼みの貧弱な体制であったが、1870年から1871年にかけて海難事故が多発したことから改革の機運が高まり、1878年には税関監視艇部から分離されて独立部局となった[3]。
USCGへの整理統合
このように多彩な海上保安機関が並行して活動していたことから、ウィリアム・タフト大統領が掲げた組織と結合の原則に従って、組織の整理統合が図られることとなった。これにより、1915年1月28日に創設されたのがUSCGであり、まず税関監視艇部と人命救助部が編入された。その後は上記の通り、1939年に灯台局、1942年に蒸気船検査部、そして1946年に航海局と、順次に各部局が編入されて、現在に至る体制が整備された[3]。
上記の経緯より、創設当初のUSCGは財務省の隷下にあったが、1967年に運輸省が設置されるとこちらに移管された。そして2003年、新設された国土安全保障省に移管された[3]。
所掌
合衆国法典第14編では、USCGの主な任務を下記のとおりに定めている[1]。
- 公海及び合衆国の管轄が及ぶ水域上、水面下及び上空におけるあらゆる連邦法の執行又はその支援
- 法の執行又はその支援のための海上対空監視又は阻止行動
- 海洋における生命及び財産の保全を推進するための法の適用並びに規則の公布及び執行
- 海上航路標識等の設置
- 国際合意に基づく砕氷活動
- 海洋調査
- 戦時に海軍の特別部局として機能するための準備態勢の維持
軍との関係
USCGは国防総省の機関ではないが、常設の軍の組織として、防衛準備態勢を維持している。合衆国法典第10編第101条では、陸海空軍・海兵隊と並び、USCGもアメリカ合衆国軍であることが示されている[1]。
アメリカでは、軍の国内活動には民警団法(PCA)による法的規制が課せられているが、USCGの場合、国土安全保障省での通常の勤務に服している場合は、その規制を免除される。ただし宣戦布告に際し、議会又は大統領の命令がある場合には海軍の一部門となり、その場合は海軍の他の部隊と同様にPCAの規制が課せられる[6]。
編制
本部機構
上記の経緯より、2003年以降、USCGは国土安全保障省に属する。その指揮官となるのが沿岸警備隊長官 (Commandant of the Coast Guard) である。長官は一期の任期が4年であり、沿岸警備隊士官の中から、上院の助言と承認を得て、大統領が任命する[7]。
- 沿岸警備隊副長官
実施部隊
沿岸警備隊は海上の管轄地域を大きく太平洋と大西洋(五大湖含む)方面に分け、太平洋方面4個管区、大西洋方面5個管区にて担当している。
保安方面 | 管区名 | 指揮本部 | 担当地域 |
---|---|---|---|
大西洋方面 | 第1管区 | マサチューセッツ州ボストン | ニューイングランド各州、ニューヨーク州、北部ニュージャージー州 |
第5管区 | バージニア州ポーツマス | ペンシルベニア州、南部ニュージャージー州、 デラウェア州、メリーランド州、バージニア州、ノースカロライナ州 | |
第7管区 | フロリダ州マイアミ | サウスカロライナ州、ジョージア州、東部フロリダ州 | |
第8管区 | ルイジアナ州ニューオーリンズ | 大規模河川など | |
第9管区 | オハイオ州クリーブランド | 五大湖周辺 | |
太平洋方面 | 第11管区 | カリフォルニア州アラメダ | カリフォルニア州、アリゾナ州、ネバダ州、ユタ州 |
第13管区 | ワシントン州シアトル | オレゴン州、ワシントン州、アイダホ州、ワイオミング州 | |
第14管区 | ハワイ州ホノルル | ハワイ州 | |
第17管区 | アラスカ州ジュノー | アラスカ州 |
保安方面 | 管区名 | 基地所在地 |
---|---|---|
大西洋方面 | 第1管区 | マサチューセッツ州ケープコッド |
第5管区 | ノースカロライナ州エリザベスシティ、ニュージャージー州アトランティックシティ | |
第7管区 | フロリダ州クリアウォーター、フロリダ州マイアミ、ジョージア州サバンナ、プエルトリコ | |
第8管区 | テキサス州ヒューストン、コーパスクリスティ、ルイジアナ州ニューオリンズ。アラバマ州モービル | |
第9管区 | ミシガン州デトロイト、ミシガン州トラバースシティ | |
太平洋方面 | 第11管区 | カリフォルニア州フンボルトベイ、サクラメント、 サンフランシスコ、ロサンジェルス、サンディエゴ |
第13管区 | オレゴン州アストリア、ノースバンド、ワシントン州ポートエンジェルス | |
第14管区 | ハワイ州バーバーズポイント | |
第17管区 | アラスカ州コディアック、シトカ |
人材
階級
沿岸警備隊の階級は、合衆国法典第14編第41条 14 U.S.C. § 41等により規定されている。最高位の沿岸警備隊長官(Chief of the Coast Guard)として大将(Admiral)が補されている[7]。
- 士官
士官 Officers | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
大将
Admiral (ADM) |
中将
Vice Admiral (VADM) |
少将(上) | 少将(下)
Rear Admiral, Lower Half (RDML) |
大佐
Captain (CAPT) |
中佐
Commander (CDR) |
少佐
Lieutenant Commander (LCDR) |
大尉
Lieutenant (LT) |
中尉 | 少尉
Ensign (ENS) | |
O-10 | O-9 | O-8 | O-7 | O-6 | O-5 | O-4 | O-3 | O-2 | O-1 | |
- 准士官
- 准士官の階級の最上位は4等、最下位は2等である。2等以上は大統領名によって任命される。沿岸警備隊では5等及び1等の階級は設定されていない。
准士官 Warrant Officers | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
4等准尉
Chief Warrant Officer Four |
3等准尉
Chief Warrant Officer Three |
2等准尉
Chief Warrant Officer Two | ||||||||
W-4 | W-3 | W-2 | ||||||||
- 下士官
下士官 Non Commissioned Officer | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
沿岸警備隊最上級兵曹長
Master Chief Petty Officer of the Coast Guard (MCPOCG) |
地域等最上級兵曹長
Master Chief Petty Officer of the Coast Guard Reserve Force or Area/DCO/DCMS Command Master Chief Petty Officer |
部隊等最上級兵曹長
Command Master Chief Petty Officer (CMC) |
最上級兵曹長
Master Chief Petty Officer (MCPO) |
上級兵曹長
Senior Chief Petty Officer (SCPO) |
兵曹長
Chief Petty Officer (CPO) |
一等兵曹
Petty Officer First Class (PO1) |
二等兵曹
Petty Officer Second Class (PO2) |
三等兵曹
Petty Officer Third Class (PO3) | |||
E-9 | E-8 | E-7 | E-6 | E-5 | E-4 | ||||||
- 兵
兵 Seamen | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
上等水兵
Seaman (SN) |
一等水兵
Seaman Apprentice (SA) |
二等水兵
Seaman Recruit (SR) | ||||||||
E-3 | E-2 | E-1 | ||||||||
養成
士官の養成は、コネチカット州ニューロンドンにあるアメリカ沿岸警備隊士官学校によって行われる。4年間の教育を受けた後に、理学士の資格を得て、少尉に任官される。艦艇(カッター)乗員や陸上勤務のほか、一部は航空機搭乗員の訓練に回される。卒業生には最低5年の任官義務がある。他の軍と異なり、予備役将校訓練課程は設置されていない。
新兵については、ニュージャージー州ケープメイにあるケープメイ沿岸警備隊訓練センターにて8週間の基礎訓練・教育が行われる。
また、法律家や技術者など7千名以上の文民を採用している[10]。
装備
艦船や航空機の塗装はアメリカ沿岸警備隊のシンボルカラーである白青赤の三色が使われており、基本的には白地に赤の帯と青のラインが入る。
艦船
- ボート(巡視艇)
航空機
銃器
特殊部隊
旗および記章
-
隊旗
-
船艇旗(軍艦旗に相当)
-
船体用標識
-
部隊旗
-
長官旗
-
副長官旗
-
大将旗(階級旗)
-
中将旗(階級旗)
-
少将旗(階級旗)
-
准将旗(階級旗)
アメリカ沿岸警備隊に関する映画
出典
- ^ a b c ローラー, ミカ「アメリカ沿岸警備隊の任務と根拠法 (特集 海の安全と法)」『外国の立法』第259号、国立国会図書館、2014年3月、6-14頁、NAID 40020014141。
- ^ Eric Wertheim (2013). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 16th Edition. Naval Institute Press. pp. 909-925. ISBN 978-1591149545
- ^ a b c d e f g h 重田晴生「米国沿岸警備隊の創設前史 : 建国から1915年まで」『青山法学論集』第52巻第4号、青山学院大学、2011年3月、1-23頁、NAID 110008895258。
- ^ 渡辺一正「世界のコースト・ガード」『世界の艦船』第595号、海人社、2002年5月、158-163頁、NAID 40002156318。
- ^ a b 青木栄一『シーパワーの世界史〈1〉海軍の誕生と帆走海軍の発達』出版協同社、1982年、301-302頁。 NCID BN06116852。
- ^ 清水, 隆雄「米軍の国内出動―民警団法とその例外―」『レファレンス』第679号、国立国会図書館、2007年8月、NAID 40015610860。
- ^ a b 合衆国法典第14編第44条 14 U.S.C. § 44
- ^ a b [1] 14 USC 41. Grades and ratings
- ^ a b [2] 37 USC 201. Pay grades: assignment to; general rules
- ^ USCG Civlian Careers
関連項目
- イギリス沿岸警備隊 - 世界初の沿岸警備隊。USCGと同様に税関監視艇隊を起源とするが、1923年以降は海上警察権を持たず、捜索救難を主としている。
- 常に備えあり
- わんぱくフリッパー(アメリカの子供向けTV番組)
外部リンク
- United States Coast Guard - 公式サイト(英語)