アメリカ合衆国の教育

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アメリカ合衆国の教育
US-DeptOfEducation-Seal.svg
アメリカ合衆国教育省
教育長官 アーン・ダンカン
国の教育予算 (2007年)
予算額: 9720億ドル (公立、私立全て含む)[1]
詳細
主要言語: 英語
管轄: 連邦政府、州、私立
識字率
男性: 99%[2]
女性: 99%[2]
入学者数
総計: 7660万人
プライマリー: 3790万人1
セカンダリー: 2610万人 (2006–2007年)
ポストセカンダリー: 1750万人2
卒業率
中等教育 85%
第3次教育 27%
1 幼稚園含む
2 大学院含む

アメリカ合衆国の教育(アメリカがっしゅうこくのきょういく)として、この項目ではアメリカ合衆国教育を解説する。

概要[編集]

アメリカでは学区と呼ばれる地域ごとに教育制度学校制度が異なっている。とはいえ、10年間以上の初等教育中等教育、また高等教育における準学士学士修士博士という4段階(博士課程は、修士課程と並列して存在することがある)の学位制度などは、どの地域にも共通である。特別支援教育をはじめとするオルタナティブ教育が盛んであり、公立校・私立校に加えてホームスクーリングも合法である。平均すればおおむね日本の高校1年生くらいまでの内容を大学入学までにやるというカリキュラムになっている(しかも日本でいう英語のような「外国語」に相当する科目普通は無い)が、成績優秀な学生の中には、積極的に高度なことを自分で学ぼうとする学生も多く、そういう学生の後押しをする体制が整えられており、一部の有名校の授業レベルは一般に非常に高い。同時に、教育の質が高ければ高いほど学費も高額である傾向があり、俗に一流と呼ばれる大学では、年間の学費が日本円にして300万円を越えるところも多い。しかし、大学院の自然科学系や工学系においては、ほとんどの学生が後述するTAやRAをすることにより、学費が全額免除になり、十分な生活費も支給されるのが一般的である。

アメリカの教育は、独自のプラグマティズム実学)の伝統を有するとともに、ヨーロッパに由来する教養主義的なエリート教育の伝統も保持し続けてきた。また、個人主義の社会文化を反映して、基本的に個人自主性を尊重する傾向があると言われる。決まりごとなどもすべての点において交渉の余地があり、入学選考時にも成績だけでなく様々な角度から吟味がなされる。研究において世界的に有名な総合大学も数多く、日本を含め世界中から多くの留学生を惹きつけている。特に大学院においては留学生が多く、過半数を留学生が占めることも珍しくはない。

関連:留学#アメリカ合衆国

アメリカにおける教育の歴史[編集]

アメリカ最古の高等教育機関とされるハーバード・カレッジ(現在のハーバード大学)は、1636年に設立された。以後、東海岸には幾つかのリベラルアーツ・カレッジが誕生した。その後は、開拓とともに西部にも数多くの学校が作られるようになっていく。初期の学校はほぼ全て私立大学であったが、イギリスからの独立後は州立大学が作られるようになっていった。

アメリカの初等・中等教育[編集]

戦後の日本がアメリカの教育制度を模倣したため、アメリカの学校制度と日本の学校制度には比較的似た部分が多く、日本人にも分かりやすい。ただし日本との大きな違いは、就学年齢・高校卒業資格などが州によって異なり、また各学区の権限が非常に大きく、学区によって始業日・終業日・休校日・年間授業時間、中学校や高等学校の進級学年の区切り、カリキュラムの内容、飛び級などの方針が異なる点である。

アメリカでの学年の数え方は、小学校1年から12年まで、中学・高校になっても1年から数えなおさず順に数える。教育課程に日本の幼稚園 kindergarten)の年長組に当たる1年間を含めるのが一般的であるため、通常は初等・中等教育を称してK-12(幼稚園から12年生まで)と呼ぶ。

義務教育が始まる年齢は、州によって5歳から7歳と開きがある上に、学年の区切り日 (cut off date)が日本のような全国一律(4月1日)ではなく、ミズーリ州8月1日からコネチカット州1月1日[3]まで5ヶ月もの開きがある。

義務教育の年限は地域によって異なるが50州のうち、16歳までが30州、17歳までが9州、18歳までが11州となっている[4]

就学前教育[編集]

初等教育が始まる以前の就学前教育には、プリスクール・ナーサリースクール(preschool, nursery school)などと呼ばれる教育機関がある。-日本で言う幼稚園保育所に相当する。日本の年中組にあたる学年は、幼稚園(キンダー)に入る手前の学年ということでプリ・キンダー (Pre-Kinder)とも呼ばれる。これらの就学前教育は3~5歳で始まり、1~2年間であることが多い。現在、プリ・キンダーには毎年約100万人が、幼稚園には約340万人の幼児が入園している[4]

一方チャイルド・デイケアは、新生児・乳児から子どもだけでの留守番が許されない小学校6年生までの年齢を対象した用語である。就学前年齢に限っていえば、デイケアは託児所であり、学校環境に準じる形で教育を施すプリスクールやナーサリースクールとは異なる。

初等教育[編集]

アメリカの初等教育は、原則として6歳から小学校elementary school)において始まる。しかし、大部分の地域に小学校付属の幼稚園(半日または全日)があり、私立幼稚園も多い。とくに小学校併設の幼稚園の教育内容は「小学0年生」というべきものである。

毎年約370万人の児童が小学1年に入学している[4]。アメリカの小学校教育の初めの1~2年ぐらいまでを児童期教育(early childhood education)と呼ぶことがある。

初等教育は、幼稚園が義務教育で小学校が6年まで設置されている学区は7年間、幼稚園が義務でなく6年生から中学に進む学区では5年間、飛び級が許される場合は更に短くなる。9年生から高等学校に進む学区では、中学2年(8年生)までを初等教育とする場合もある。

中等教育[編集]

前期中等教育機関は下級高等学校(junior high school)、あるいは中学校(middle school)と呼ばれる。

後期中等教育機関は、高等学校(high school)と呼ばれ、原則として単位制である点は日本と同様だが、日本の高校よりもさらに選択できる科目の幅が広いことが多い。ただし、そのカリキュラムは平均して日本の中学校から高校1年生程度までの内容となっており、特に数学には重点を置いていない場合が多い。一部の有名進学校は非常に高度な内容も扱うが、学費も一般には非常に高額である。

高等学校は大まかに次の4種類に分かれる[5]

高校を卒業すると高校卒業資格(the High School Diploma)が授与される。州が指定する義務教育完了年齢を過ぎれば中退してもかまわない。16歳以上の学生の中退率は11%に達している。中等教育に在籍中の全生徒の7%程度は中等教育課程を修了できないため、高校を卒業しないまま退学した者が後になってから勉強をし直すことで得られるGED資格(General Educational Development Certificate)も用意されている。これは、日本における高等学校卒業程度認定試験(高認、かつての大検)にあたるものに近い。毎年280万人が卒業資格を、50万人がGEDを得ている[4]

特別支援教育[編集]

アメリカでは約600万人の子どもが生活・学習上の障害を持つことから特別支援教育 (special education)を受けている[4]。特別支援教育においては、通常より長い20~21歳までが義務教育年限となっている。これに加えて、何らかの分野で秀でた才能を持つギフテッドと呼ばれる児童・生徒のうち約240万人がギフテッド教育の特殊プログラムに参加している。特別支援教育を受ける子どもすべてに、個別教育計画Individualized Education Program 通称IEP)という個々人の障害に対応した自立のための長期教育計画書が作成される[4]。この計画書をもとに教職員、専門家、医師達がチームとなって取り組み、計画書どおりの教育を完了した児童・生徒・学生にも卒業資格が与えられる。

アメリカの高等教育[編集]

大学[編集]

毎年、高校を卒業した者の約60%にあたる約180万人あまりの生徒が何らかの形で高等教育に進む。そのうち43%は準学士など短期の教育課程に入る[4]。短期大学から四年制大学に単位を移動することも可能で、学費を節約するために短期大学で2年間学んでから四年制大学に転校する例や、途中休学をして再び大学に戻る例も多い。また、米軍に在籍する学生は多額の学費援助を受けられる。

大学進学には、一般的な場合、日本のような入学試験ではなく、それまでの学校における各科目の成績の評定平均Grade Point Average 略称 GPA)と学部入試の場合にはSATScholastic Assessment Test 略称 SAT)の成績が参照されることが多い。大学では自分の専攻学位以外に副学位(minor)を取得する学生もいる。大学の専門科目で用いられるテキストは、一般に大学院でも通して使えるように(分冊ではなく)一冊の本として書かれており、またその科目の必要な項目を全般的に網羅しており、理解しやすいように配慮されつつ版を重ねたものが用いられることが多い。大学の単位制度は良く整備されているものの融通をきかせにくい部分もある。例えば多くの大学では所定の単位数を超えて同学期に履修しようとすると、学費がとんでもなく高額になったり、聴講生として履修しようとしても要求される学費は変わらなかったりする。一方で、レベル別のクラス分け試験があって、その結果によって取るべきクラスが決まったり、またさまざまな例外が学科の判断で認められることもある。さらに、大学から大学院を通じて、各講義クラスは決められた固有識別番号で管理されており(例:数学の基礎計算クラス=MATH1010、など。最初の数字の桁はおおむね学年に対応しており、科目名よりこの識別番号のほうを会話でも用いることが多い)、各講義間の関係や位置付けが明快になっていて、上級講義や副学位をとるのに必要な必須クラスがすぐわかり、転校や転科の際の単位互換も容易となっている。一定以上良い成績を保っておかないと退学になり、また大学院入学時にも大きく影響するため、GPAの値は重要であり、そのため一定の条件下で、取った講義を途中で取り消す制度(drop)などがある。このGPA評価制度は学生が勉強に集中しやすい反面、良い成績を取りにくい科目は学生が取りたがらないという傾向や、一度悪い成績をとってしまうとやり直しが効きにくく、また教養のある学生とない学生とのギャップを生じさせる要因にもなっている。

アメリカの高等教育機関は次の四つに分類することが出来る

そのほかに特殊な目的の国立の高等教育機関がある。これらの例外をのぞいては国立の、すなわち連邦政府が直接運営する高等教育機関は存在しない。

大学院[編集]

関連事項:留学#米国大学院留学

この節では、研究学位を授与する大学院について記述する。職業学位を授与する医科大学院(メディカル・スクール)、薬科大学院(ファーマシー・スクール)、歯科大学院(デンタル・スクール)、獣医科大学院(ヴェテリナリー・スクール)および法科大学院(ロー・スクール)、経営学修士(MBA)などは性質が大きく異なるため、以下の記述は必ずしも該当しない。米国の医科大学院についてはアメリカの医学教育を、法科大学院についてはロー・スクールを参照されたい。

四年制大学を卒業した学生で大学院進学を希望あるいは考慮していても、すぐに大学院に進まない学生も多く、大学院において専攻を変える者も多い。特に実学系の分野を中心に、就職してキャリアを積みながら、パート・タイムで大学院に通う者と、退職してフルタイムの学生として大学院に通う者も多い。また、留学生が非常に多いことも米国大学院の特徴であり、過半数を超えることもある。

大学院は学部以上に奨学金が豊富であり、とくに研究費という名目で優秀者に与えられる多額のものはフェローシップやグラントと呼ばれる。なお、奨学金は英語では「Scholarship」であるが、この場合返済義務のないものを指し、返済義務のあるものは「貸付金(Loan)」と呼んで区別される。奨学金のほかにももティーチング・アシスタントTA)として授業を受け持ったり、リサーチ・アシスタントRA)として研究助手になれば、給料を得ることができ、大学によってはこれに健康保険や育児援助制度が含まれる場合もある。主に自然科学系や工学系の分野を中心として、学生の大半がTAやRAによる学費の全額免除と生活費の支給を受けることのできる専攻分野もある。昔はこれらの分野では、TAやRAをせずとも学費の免除と生活費の支給を得ることができるという状況があった。現在においても、TAやRAは主に仕事や職位というよりも大学院生を経済的に支援するための枠組みとして成立しているとはいえ、TAやRAをやることが院生として在学する・あるいは卒業する必須条件となっていることも多い。また、中には平和部隊(Peace Corps)に入って米国のイメージアップのために海外青年協力隊に似た活動をする大卒者もいる。平和部隊は政府の機関で、帰国後に進学する者には奨学金、学費の値下げ、部隊での活動を大学院の単位に交換できるよう諸大学と提携を結んでいる。受験生は志望校の研究内容とともに、TA職、奨学金、単位交換といった特典を吟味したうえで進学校を決定する。

学位は日本と同じように、修士と、研究者を目指す人が取得を目指す博士とがある。実学系の専攻の場合は一般に博士課程がないことが多く、逆にその他の学術系専攻の場合は博士まで進むことが多い。修士と博士が一貫した課程もあり、その場合は修士課程と博士課程が並列して存在するか、修士課程がなくて博士課程のみが存在し、研究者を目指す人は学部卒後すぐに博士課程に入る(自然科学系や工学系に多い。この場合でも、まず修士課程を履修することを奨められる場合もある)。修士の後に博士課程に入るか、学部卒後に博士課程に入るかのいずれが一般的かは分野による。一貫性博士課程で、途中退学する学生に修士号を授与する制度を設けているところもある。この場合、大学や分野によるがその修士号取得方法には、必要な単位数などを確保した上で主として2通りの方法がある。一つは、後述する適正試験に合格して取得する方法。もう一つは、適正試験を受験しないか不合格だった場合に修士論文を提出して審査を経て取得する方法、である。特に、博士課程の必要単位数も取得して適性試験に合格してから退学する場合は、日本でいう「博士課程単位取得退学」に相当するAll But DissertationあるいはAll But Thesisと呼ばれることが多く、多くの大学で公式に認められている呼称である。また、この呼称は、在学中でも「あとは学位論文だけ」という立場の意味で用いられることがある。

博士課程では、必須クラスを履修したあと研究論文を執筆する前に適正試験(Qualifying Examination。専攻分野の知識や技能を十分に有しているかを試す試験で、ほとんどの場合筆記試験である。この試験は日本では「大学院入学試験」にほぼ相当する)を受ける。合格した者だけが、博士号候補生(Ph.D candidate)として博士課程に残ることを許される。適正試験に落ちると博士課程に籍をおけなくなるが、再受験を許されることも多い。なお、この試験はいつまでに合格しなければならないという規定があることが多く、その場合は期限までに合格できなくても退学になってしまう。また、例えば学部卒から博士課程に入学した学生は入学後2年以内に、修士卒から入学した学生は1年以内に合格しなければならない、というように細かい規定を定めている場合もある。適正試験の試験内容は、専門科目の試験(一般に複数の科目に別れており、2つ以上を要求される場合もある)と、大学や分野によってはさらに外国語やプログラミング言語の試験が課されるところもある。以前は日本語も外国語として多くの大学で採用されていたが、今ではほとんどの大学で廃止され、フランス語ドイツ語ロシア語などが主流である。外国語の試験方法は、その言語で書かれた自分の専門分野の専門書の文章を英訳する、などの方法で行われることが多いが、中には口頭による会話試験を課す大学もある。現在では、これらの外国語試験は廃止する大学が増えてきている。英語がすでに学術界においての共用語としての地位を確立しており(これには冷戦の終結なども関係している)、さらに、一般的には専門科目についての学術的な成功にこれら外国語の能力はあまり影響が無い上に、専門分野において類まれな才能や業績のある人でも、外国語の試験をパスできずに博士号を取得できなかったという例もあったからである。

適正試験に合格すれば学位取得のための研究を開始することを認められ、研究成果がうまく実ればそれを学会で発表し、査読付き学術雑誌に論文を投稿・掲載し、十分に研究の経験を積んだと判断されれば、学位論文としてそれらをまとめ、いよいよ博士号取得のための最後の口頭試験である「最終防衛試験(Final Defence Examination、Final Oral、Thesis Defence、など。専門の教授陣からの鋭い質問や指摘から“防御”することからこのように呼ばれる。日本での「学位論文口頭発表会」にほぼ相当する)」を受けることができる。再受験が許されることも多いものの、この試験に落ちても退学になってしまう(重ねて強調しておくが、いかなることでも例外が認められることがあり、最終防衛試験を受けずに博士号の授与が認められる場合もある。ただし、その場合はふつう、受験すれば確実に合格であると見込まれている実力・業績のある場合に限られる)。しかし、この口頭試験は大学や分野によっては、大学院での研究業績や苦労を称える儀式の場という位置付けのところもある(この場合、査読に耐え得る一定のレベル以上の研究成果を出せるかどうかが鍵となる)。また、家族や友人を招待して自分の研究成果を説明するセクションが設けられている場合もあり、その場合はそのセクションの後に、大学の教授陣を含む専門家向けの発表・口答試験を行うことになる。試験が終われば受験者は部屋からの退室を命じられ、試験官達がすぐその場で合格か不合格かを合議する。結果が決まれば受験者は再び入室するように言われ、そこで試験の結果を伝えられる。合格すれば晴れて博士を名乗ることを許され卒業となり、合格した場合に備えて祝賀パーティーが準備されていることもある。なお、この口頭試験は大学や分野によって独特の雰囲気や伝統があることもある。冗長ながら一例をSteven G. Krantz著『A Mathematician's Survival Guide(数学者サバイバルガイド)』から引用しておく。「(プリンストン大学の最終防衛試験での)彼の発表の最中、彼が聴衆の側に振り向いたとき、彼は窓の外に(上の階からひもでぶら下げられた)プラカードを見つけた。そこにはこう書かれてあった。『君の学位論文の72ページには間違いがある。君は落第だ』。彼は笑い出し、試験官達はそれがジョークであることがすぐにわかった。彼らがそのプラカードを見たとき、ちょうど学位論文のコピーをすばやく配布していたのである。その学位論文は69ページまでしかなかったのだ。この出来事はスウェーデン(式の口頭試験)の伝統に基づくものであると私は思うのだが、それに心から賞賛の拍手を送りたい」。

2007-2008年の学年度には、1年間で63万1,000人が修士、8万9,300人が専門職学位、5万5,300人が博士を授与されており、授与数はわずかながら年々増加傾向にある。専門分野による差はあるが、平均すると四年制大学で学士を得てから研究系の博士号学位取得までにかかる(学生として過ごす)時間は7.3年とされている[4]。アメリカ合衆国への留学生の総数は55万人以上で、そのうちおよそ半数が大学院留学生である。

脚注[編集]

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関連項目[編集]