ジフェンヒドラミン

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ジフェンヒドラミン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 レスタミン, Benadryl, Unisom, Sominex, ZzzQuil
Drugs.com monograph
MedlinePlus a682539
胎児危険度分類
  • AU: A
  • US: B
法的規制
依存性 低い
投与経路 経口, 筋肉内注射, 静脈注射, 局部または座剤
薬物動態データ
生物学的利用能40–60%[1]
血漿タンパク結合98–99%
代謝Various cytochrome P450 liver enzymes: CYP2D6 (80%), 3A4 (10%)[2]
半減期7 時間 (子供)[3]
12 時間(大人)[3]
17 時間 (高齢者)[3]
排泄94% 尿, 6% 便[4]
識別
CAS番号
58-73-1 チェック
ATCコード D04AA32 (WHO) D04AA33 (WHO), R06AA02 (WHO)
PubChem CID: 3100
IUPHAR/BPS 1224
DrugBank DB01075 チェック
ChemSpider 2989 チェック
UNII 8GTS82S83M チェック
KEGG D00300  ×
ChEBI CHEBI:4636 チェック
ChEMBL CHEMBL657 チェック
化学的データ
化学式C17H21NO
分子量255.355 g/mol
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ジフェンヒドラミン (Diphenhydramine) は、H1受容体拮抗薬のうち、古い第一世代抗ヒスタミン薬に属する化合物のひとつである。製品名はレスタミンコーワ錠(興和創薬販売)。

末梢および中枢のヒスタミンと競合的に拮抗することにより炎症気道分泌の抑制、鎮静作用がある。また、イヌやネコでは乗り物酔いの予防薬として使用される[5]。主に風邪薬鼻炎薬など、抗ヒスタミン薬として用いられるが、顕著な眠気の副作用が問題視されており、1980年代には第二世代抗ヒスタミン薬が登場している。そして、あまり知られていない副作用として脱毛がある。

一方、その副作用を逆に利用したのがドリエルなどの睡眠改善薬[6]である。不眠症への使用や長期連用は推奨されない[7]。ジフェンヒドラミンの鎮静作用にする耐性は、非常に早く形成される[8]。不適切に用いられた場合、弱い精神依存に繋がることがある[9]。睡眠のステージ3や4あるいはREM睡眠を変化させることはない[10]

効能・効果[編集]

  • じん麻疹、皮膚疾患に伴うそう痒(湿疹・皮膚炎)、春季カタルに伴うそう痒、枯草熱、急性鼻炎、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎

歴史[編集]

ジフェンヒドラミンは抗ヒスタミン薬のうち最初期の薬剤であり、持続が短く、鎮静などの副作用が短かったため、後に第二世代抗ヒスタミン薬と呼ばれるこれらの点を改良した薬剤が開発されてきた[11]

1960年代に、ジフェンヒドラミンが神経伝達物質セロトニン再取り込みを阻害することが発見され、この発見をきっかけに、類似の構造を持ちながら副作用が少ない抗うつ薬の探索が行われた結果、アメリカ合衆国で広く用いられている選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)である、フルオキセチン(プロザック)の発見につながった。

ガイドライン[編集]

日本睡眠学会のガイドラインでは、不眠症、特に慢性の場合にジフェンヒドラミンなどの第一世代抗ヒスタミン薬は推奨されず、短期間に用いられても、眠気や精神運動機能の低下の説明が必要であるとしている[12]。痒みによる二次性の不眠症に対して、催眠鎮静作用のため、第一世代ではなく第二世代抗ヒスタミン薬を副作用も考慮して用いるべきである[12]

強い抗コリン作用のため、高齢者に避けたほうがいい医薬品リストのビアーズ基準に掲載されている[13]

禁忌[編集]

内服薬は、緑内障の患者や前立腺肥大等下部尿路に閉塞性疾患のある患者には禁忌である。

副作用[編集]

ジフェンヒドラミンは、強い抗コリン薬である。この作用は副作用につながり、口渇、心拍の増加、瞳孔拡大、尿閉、便秘、高用量では幻覚、せん妄を起こすことがある。他の副作用として、運動失調、肌の紅潮、かすみ目、鎮静、集中困難、短期的な記憶喪失、視覚障害、呼吸不正、眩暈めまい、易刺激性、瘙痒そうよう、混乱、体温の上昇(通常、手や足)、一時的な勃起障害、興奮性、また高用量では嘔吐である[14]

急性毒性は致命的となることがあり、心血管虚脱や2~18時間で死亡につながり、一般的に対症療法で治療される[15]

薬物動態[編集]

医薬品の添付文書においては、中枢神経抑制作用のため他の抑制剤との併用注意などがある[16]

睡眠改善薬[編集]

ジフェンヒドラミンが引き起こす眠気を逆手に取り、眠気を効能とする一般用医薬品が2003年以降数社から販売されている。抗ヒスタミン薬であるため、ベンゾジアゼピン系薬物などのような睡眠薬とは異なる抗ヒスタミン作用により効果がもたらされる。

副作用を利用したもので、不眠症の場合は市販の睡眠薬を長期に使用してはいけない[17]。1日1回の就寝前の服用で、連用は避け、2、3回の使用に留めるべきである[18]。ジフェンヒドラミンの鎮静作用に対する耐性は、非常に早く形成され、ジフェンヒドラミンを1日2回服用したとき、眠気の水準は、4日目ではもはや偽薬と同等の作用であったと報告されている[8]。不適切に用いられた場合、弱い精神依存につながることがある[19]

こうした副作用には個人差があり、過去に抗ヒスタミン薬やこれを含む医薬品を飲んで、眠気を感じたことのある者に対しては、ドリエルが睡眠改善薬として有効であることが期待できる。なお、服薬後は乗り物の運転は禁忌である。常用を抑止する意味合いから一度に購入できるのは3箱までと決められている。

発売当時から話題を呼び、瞬く間に品薄状態となり2003年のヒット商品となり、効能を模倣した他社製品が発売されることになった。なお、睡眠改善薬としての発売以前からも蕁麻疹鼻炎などに効能を持つ抗ヒスタミン薬として同成分を含有した製品がOTC薬として市販されていた他、入眠効果のある古典的な鎮静剤でブロムワレリル尿素を主成分とした製品や、漢方薬を主成分とした鎮静薬(メンテックなど)も存在する。

依存性や、特に高用量の服用で、副作用として幻覚や不安焦燥、せん妄などに陥り、異常行動に至る可能性があることは、使用者に十分に認識されていないのではないかと危惧されている。また、まれではあるが、意識障害による異常行動の結果、自傷行為に至る例もあり、注意すべきである[20]

出典[編集]

  1. ^ Paton DM, Webster DR (1985). “Clinical pharmacokinetics of H1-receptor antagonists (the antihistamines)”. Clin. Pharmacokinet. 10 (6): 477–97. doi:10.2165/00003088-198510060-00002. PMID 2866055. 
  2. ^ Showing Diphenhydramine (DB01075)”. DrugBank. 2009年9月5日閲覧。
  3. ^ a b c Simons KJ, Watson WT, Martin TJ, Chen XY, Simons FE (July 1990). “Diphenhydramine: pharmacokinetics and pharmacodynamics in elderly adults, young adults, and children”. J. Clin. Pharmacol. 30 (7): 665–71. doi:10.1002/j.1552-4604.1990.tb01871.x. PMID 2391399. 
  4. ^ Garnett WR (February 1986). “Diphenhydramine”. Am. Pharm. NS26 (2): 35–40. PMID 3962845. 
  5. ^ 伊藤勝昭ほか編集『新獣医薬理学 第二版』 近代出版 2004年 ISBN 4874021018
  6. ^ 睡眠薬ではない
  7. ^ ガイドラインを参照のこと
  8. ^ a b Richardson GS, Roehrs TA, Rosenthal L, Koshorek G, Roth T (October 2002). “Tolerance to daytime sedative effects of H1 antihistamines”. J. Clin. Psychopharmacol. 22 (5): 511–5. doi:10.1097/00004714-200210000-00012. PMID 12352276. 
  9. ^ Benadryl Addiction”. eMedTV (2013年9月8日). 2014年3月19日閲覧。
  10. ^ Morin CM, Koetter U, Bastien C, Ware JC, Wooten V (November 2005). “Valerian-hops combination and diphenhydramine for treating insomnia: a randomized placebo-controlled clinical trial”. Sleep 28 (11): 1465-71. PMID 16335333. 
  11. ^ 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会『鼻アレルギー診療ガイドライン2013年版―通年性鼻炎と花粉症』(改訂第7版)ライフサイエンス、2013年1月、41-42頁。ISBN 978-4898014363 
  12. ^ a b 厚生労働科学研究班および日本睡眠学会ワーキンググループ編 (2013年6月25日初版). 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドラインー出口を見据えた不眠医療マニュアル (pdf) (Report) (2013年10月22日改訂版(医療従事者向けの記述が削除された版) ed.). 日本うつ病学会、気分障害のガイドライン作成委員会. 2014-03-20閲覧 {{cite report}}: |date=の日付が不正です。 (説明); 不明な引数|coauthor=は無視されます。(もしかして:|author=) (説明); 不明な引数|loc=は無視されます。 (説明)
  13. ^ High risk medications as specified by NCQA’s HEDIS Measure: Use of High Risk Medications in the Elderly” (pdf). National Committee for Quality Assurance (NCQA). 2010年2月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月19日閲覧。
  14. ^ Diphenhydramine Side Effects”. Drugs.com. 2009年4月6日閲覧。
  15. ^ Brunton L, Chabner B, Knollmann B (2011). “Chapter 32. Histamine, Bradykinin, and Their Antagonists”. In Brunton L. Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics (12e ed.). McGraw Hill. pp. 242–245. ISBN 978-0-07-162442-8 
  16. ^ レスタミンコーワ錠10mg 添付文書” (2014年4月). 2016年7月19日閲覧。
  17. ^ 不眠症 (厚生労働省)
  18. ^ ドリエル 添付文書”. 2016年7月19日閲覧。
  19. ^ Benadryl Addiction”. eMedTV (2013年9月8日). 2014年3月19日閲覧。
  20. ^ 倉田明子、藤川徳美「薬物と自殺関連事象、そしてその予防 抗不安薬・睡眠薬による異常行動-自殺、自傷との関連を中心に」『臨床精神薬理』第14巻第12号、2011年12月、1951-1959頁、NAID 40007259318 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]