コンテンツにスキップ

抱水クロラール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
抱水クロラール
  炭素, C
  塩素, Cl
  酸素, O
  水素, H
物質名
識別情報
3D model (JSmol)
バイルシュタイン 1698497
ChEBI
ChEMBL
ChemSpider
DrugBank
ECHA InfoCard 100.005.562 ウィキデータを編集
EC番号
  • 206-117-5
Gmelin参照 101369
KEGG
RTECS number
  • FM875000
UNII
国連/北米番号 2811
性質[3]
CCl
3
CH(OH)
2
モル質量 165.39 g·mol−1
外観 無色の固体
匂い 芳香性、わずかに刺激性
密度 1.9081 g/cm3
融点 57 °C (135 °F; 330 K)
沸点 98 °C (208 °F; 371 K) 分解
660 g/(100 ml)
溶解度 ベンゼン、エチルエーテル、エタノールによく溶ける
log POW 0.99
酸解離定数 pKa 9.66, 11.0[2]
構造
単斜晶系
薬理学
N05CC01 (WHO)
投与経路 経口シロップ、座薬
薬物動態学:
よく吸収される
肝臓腎臓2,2,2-トリクロロエタノールに変換される)
8–10 時間
胆汁、糞便、尿(さまざまな代謝物)
法的状態
危険性
GHS表示:
急性毒性(高毒性)急性毒性(低毒性)
Danger
H301, H315, H319
P264, P270, P280, P301+P310, P302+P352, P305+P351+P338, P321, P330, P332+P313, P337+P313, P362, P405, P501
致死量または濃度 (LD, LC)
1100 mg/kg (経口)
安全データシート (SDS) External MSDS[リンク切れ]
関連する物質
関連物質 クロラール
クロロブタノール
トリクロホス
特記無き場合、データは標準状態 (25 °C [77 °F], 100 kPa) におけるものである。

抱水クロラール(ほうすいクロラール、Chloral hydrate)は、合成されたものとしては最初の鎮静剤である。商品名、エスクレ坐剤[4]。鼻を突く刺激臭があり、に非常によく溶け、エタノール、ジエチルエーテルに溶けやすい。強い吸湿性がある。強酸化剤と激しく反応する。塩基と反応してクロロホルムおよびギ酸塩を生成する。連用により薬物依存症、急激な量の減少により離脱症状を生じることがある[5]。日本では医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律における習慣性医薬品に指定され[6]、また医薬品添付文書では劇薬である。

オスカー・リーブライヒ

抱水クロラールは1832年に、ギーセン大学ユストゥス・フォン・リービッヒにより合成され、1869年にベルリン大学オスカー・リーブライヒ不眠症を改善する薬としての有効性を認めた[7]ブロムワレリル尿素と共にバルビツール酸系薬以前の薬である[8]。しかし味と匂いが酷いこと、治療域と有毒域の間が狭いことなどもあって、1900年ごろにバルビツール酸系薬が登場してとって代わられていった[9]

化学

[編集]

一般的な脂肪鎖を有するアルデヒドの場合、ハイドレート(-CH(OH)2)よりアルデヒド(-CHO)のほうが安定でありアルデヒドとして存在するが、抱水クロラールはα位にある塩素原子電子求引性効果によってアルデヒドよりもハイドレート体のほうが安定に存在している。

合成

[編集]

エタノール塩素化することで得られる。

4 Cl2 + C2H5OH + H2O → Cl3CCH(OH)2 + 5 HCl

薬効

[編集]

抱水クロラールには鎮静、催眠、抗痙攣作用があるため19世紀には用いられたが、20世紀にバルビツール酸系が登場すると使用が控えられていき、現在ではさらに安全性の高いベンゾジアゼピン系の薬剤も登場している[9]。依存や過量服薬での危険性のほか、胸やけや発疹の副作用も多い[9]。また、麻酔作用も有しており、1853年に最初の静脈麻酔薬として用いられたが、その後はその安全域の狭さと作用の遅さのためにあまり使用されなかった。現在[いつ?]、動物用を除き麻酔に用いられることはない。

非合法な使用法としては、体の自由を奪うため飲み物へ混入する事例が多い[要出典]

生物学分野では抱水クロラールとアラビアガムグリセリンなどを混合して作るガム・クロラール系封入剤が、ダニや微小昆虫の形態観察のための半永久プレパラート作成に、盛んに用いられている。

農薬のDDTは抱水クロラールを出発物質として合成され、その反応の中間体として無水のクロラールが生成している。

依存性

[編集]

日本では2017年3月に「重大な副作用」の項に、連用により薬物依存症を生じることがあるので用量と使用期間に注意し慎重に投与し、急激な量の減少によって離脱症状が生じるため徐々に減量する旨が追加され、厚生労働省よりこのことの周知徹底のため関係機関に通達がなされた[5]。調査結果には、日本の診療ガイドライン5つ、日本の学術雑誌8誌による要旨が記載されている[10]

出典

[編集]
  1. ^ Vardanyan, R.S.; Hruby, V.J. (2006). “Soporific Agents (Hypnotics and Sedative Drugs)”. Synthesis of Essential Drugs. pp. 57–68. doi:10.1016/B978-044452166-8/50004-2. ISBN 978-0-444-52166-8 
  2. ^ Gawron, O.; Draus, F. (1958). “Kinetic Evidence for Reaction of Chloralate Ion with p-Nitrophenyl Acetate in Aqueous Solution”. Journal of the American Chemical Society 80 (20): 5392–5394. Bibcode1958JAChS..80.5392G. doi:10.1021/ja01553a018. 
  3. ^ Lide, D. R., ed (2005). CRC Handbook of Chemistry and Physics (85th ed.). CRC Press. pp. 3–98. ISBN 978-0-8493-0484-2 
  4. ^ エスクレ坐剤「250」/エスクレ坐剤「500」”. www.info.pmda.go.jp. 2022年12月25日閲覧。
  5. ^ a b 厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課長『催眠鎮静薬、抗不安薬及び抗てんかん薬の「使用上の注意」改訂の周知について (薬生安発0321第2号)』(pdf)(プレスリリース)https://www.pmda.go.jp/files/000217230.pdf2017年3月25日閲覧 、および、使用上の注意改訂情報(平成29年3月21日指示分)”. 医薬品医療機器総合機構 (2017年3月21日). 2017年3月25日閲覧。
  6. ^ 厚生省『薬事法第50条第9号の規定に基づき習慣性があるものとして厚生労働大臣の指定する医薬品 通知本文』(プレスリリース)厚生労働省http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_document.cgi?MODE=hourei&DMODE=CONTENTS&SMODE=NORMAL&EFSNO=627&PAGE=12014年2月16日閲覧 
  7. ^ エドワード・ショーター『精神医学の歴史』木村定(翻訳)、青土社、1999年10月、243頁。ISBN 978-4791757640 、A History of Psychiatry: From the Era of the Asylum to the Age of Prozac, 1997
  8. ^ 村崎光邦「睡眠薬学の歴史と現在」『睡眠学』朝倉書店、2009年2月、649-651頁。ISBN 978-4254300901 
  9. ^ a b c デイヴィッド・ヒーリー 著、田島治、江口重幸監訳、冬樹純子 訳『ヒーリー精神科治療薬ガイド』(第5版)みすず書房、2009年7月、264-265頁。ISBN 978-4-622-07474-8 、Psychiatric drugs explained: 5th Edition
  10. ^ 医薬品医療機器総合機構『調査結果報告書』(pdf)(プレスリリース)医薬品医療機器総合機構、2017年2月28日https://www.pmda.go.jp/files/000217061.pdf2017年3月25日閲覧 

参考文献

[編集]
医薬品添付文書
  • (販売中止前のもの)メルク・ホエイ『抱水クロラール』(レポート)、旭川医科大学。2016年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年6月29日閲覧

外部リンク

[編集]