マンドレイク
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マンドレイク | ||||||||||||||||||
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![]() マンドラゴラ・オフィシナルム M. officinarum の花
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分類 | ||||||||||||||||||
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英名 | ||||||||||||||||||
European Mandrake | ||||||||||||||||||
種 | ||||||||||||||||||
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マンドレイク(Mandrake)、別名マンドラゴラ(Mandragora)[1]は、ナス科マンドラゴラ属の植物。
古くから薬草として用いられたが、魔術や錬金術の原料として登場する。根茎が幾枝にも分かれ、個体によっては人型に似る。幻覚、幻聴を伴い時には死に至る神経毒が根に含まれる。
人のように動き、引き抜くと悲鳴を上げて、まともに聞いた人間は発狂して死んでしまうという伝説がある。根茎の奇怪な形状と劇的な効能から、中世ヨーロッパを中心に、上記の伝説がつけ加えられ、魔術や錬金術を元にした作品中に、悲鳴を上げる植物としてしばしば登場する。絞首刑になった受刑者の男性が激痛から射精した精液から生まれたという伝承もあり[2]、形状が男性器を彷彿とさせることから多産の象徴と見られた。
目次
薬効植物としてのマンドレイク[編集]
マンドレイクは地中海地域から中国西部にかけてに自生する。コイナス属又はナス科マンドラゴラ属に属し、薬用としてはMandragora officinarum L.、M. autumnalis Spreng.、M. caulescens Clarkeの3種が知られている。ともに根に数種のアルカロイドを含む。麻薬効果を持ち、古くは鎮痛薬、鎮静剤、瀉下薬(下剤・便秘薬)として使用されたが、毒性が強く、幻覚、幻聴、嘔吐、瞳孔拡大を伴い、場合によっては死に至るため現在薬用にされることはほとんどない。複雑な根からは人型のようになるのもあり、非常に多く細かい根を張る事から強引に抜く際には大変に力が必要で、根をちぎりながら抜くとかなりの音がする。この音が伝説のマンドラゴラの叫びの部分を、その毒性が叫びを聞いた者は死ぬといった逸話の由来と思われる[独自研究?]。
春咲きの種(M. officinarum)と秋咲きの種(M. autumnalis)があり、伝説では春咲きが雄、秋咲きが雌とみなされたらしい。恋なすびとも呼ばれる。
仏法典に出てくる「曼荼羅華」やチョウセンアサガオの別名「マンダラゲ」とは全く関係がない。また、アメリカやカナダで Mandrake といえばポドフィルムのことであり、これもまた全く別属別種の薬用植物である。
歴史上のマンドレイク[編集]
伝承では、カルタゴの軍勢が放棄して撤退した街にマンドレイク入りのワインを残してゆき、街に入ってきた敵軍が戦勝祝いにこのワインを飲み、毒の効能によって眠っている敵軍を皆殺しにして勝利を収めたと伝わっている[3]。その他にも、ツタンカーメンの墓に栽培する様子が描かれている。またヘブライ語聖書に、受胎効果がある植物として出て来る(『創世記』第30章)。
伝承、伝説におけるマンドレイク[編集]
魔法薬や錬金術、呪術にも使われる貴重な材料であり、一説には精力剤、媚薬、または不老不死の薬の原料とも言われる。外見は人参に似た形状をしているが、地中に埋まっている先端部分が二股に分かれて足のようになっており、人間のようにも見えるという[4]。マンドレイクは完全に成熟すると自ら地面から這い出し、先端が二又に分かれた根を足のようにして辺りを徘徊し始める。その容貌はゴブリンやコボルトに似て醜いものとされる。
地面から引き抜く際にすさまじい悲鳴を上げるとされており、この声を聞くと精神に著しいショックを受け、正気を失ってしまう[4]。この性質からマンドレイクの収穫にはかなりの危険を伴うため、犬を茎に繋いでマンドレイクを抜かせるという方法がイタリアの著述家ヨセフスによって提案された[2]。まず自分になついている犬を紐でマンドレイクに繋いで、自分は遠くへ行きそこから犬を呼び寄せる。すると犬は自分のもとに駆け寄ろうとするので、その勢いでマンドレイクが抜ける。犬は悲鳴で死んでしまうが、犬一匹の犠牲で無事にマンドレイクを手に入れることができるという方法である。
アルラウネ[編集]
マンドレイクの亜種としてドイツにアルラウネ(Alraune)がある。古高ドイツ語の語彙集においてすでに、マンドレイクに対してアルルーナ(Alrûna)、アルルーン(Alrûn)という単語が当てられており、伝承の古さがうかがわれる。もとは(Alruna)で、「ささやき」または「ざわめき」を意味した(Rune)からで、「謎を書かれたもの」を意味するという[5]。
グリム兄弟『ドイツ伝説集』第84話によれば、盗賊の家系に生まれた者、妊婦なのに盗みをしたりしようとした女性から生まれた者、実際には無実なのに拷問にかけられて泥棒の「自白」をした者が縛り首にされたとき、彼らが童貞であって、死に際に尿や精液を地にたらすと、その場所からアルラウネ、またはガルゲンメンライン(Galgenmännlein「絞首台の小人」)が生じるとされる。
アルラウネを引き抜く方法はマンドレイクと同じで、犬に引き抜かせる。そうして手に入れたアルラウネを赤ブドウ酒できれいに洗い、紅白模様の絹布で包み、箱に収める。アルラウネは毎週金曜日に取り出して風呂で洗い、新月の日には新しい布を着せなければならない。そうしてアルラウネにいろんな質問をすると、この植物は未来のことや秘密のことを教えてくれる。だからこれを手に入れたものは裕福になるのである。しかしアルラウネにあまり大きな要求をすると力が弱って死んでしまうこともある。
持ち主が死ぬと、末の息子がこれを相続する。そのとき父の棺にはパンの切れ端と一枚の貨幣を入れなければならない。しかし息子が父より先に死んだら所有権は長男のものとなる。このときも末の息子の棺にパンの切れ端と貨幣をいれなければならない。
アルラウネは必ずしも植物の根であるというわけではなく、家の精霊コボルトと混同されて「小さな人形」であったり「小動物」であったりすることもある。いずれにしても入手困難で世話も大変である。
ヤーコプ・グリムは、『ドイツ神話学』第37章「薬草と鉱石」において、アルラウネの語源はドイツ古代の女神アルラウン(Alraun)ではないか、と主張した。
創作におけるマンドレイクとアルラウネ[編集]
想像上のマンドレイクやアルラウネは、古くから様々な創作物に登場してきた。シェイクスピアの『オセロー』や『ロミオとジュリエット』にもその記述が見られる。
また、小説のみならず音楽の世界でも採用されている。フランスの現代音楽の作曲家トリスタン・ミュライユのピアノ曲『ラ・マンドラゴール』は、この植物を題材としている。
ドイツのハンス・ハインツ・エーヴェルスは、絞首刑になった男の精液から生じるという伝承を発展させて、人工授精で生を受けた美少女が、周囲を破滅させてゆくというゴシックホラー小説『アルラウネ』(1913年)を書いた[6]。同様のモチーフは、水木しげるの『妖花アラウネ』などの他作品でも展開されている。
ギャラリー[編集]
脚注[編集]
参考文献[編集]
- アラン, トニー 『世界幻想動物百科 ヴィジュアル版』 上原ゆうこ訳、原書房、2009年11月(原著2008年)。ISBN 978-4-562-04530-3。
- ボルヘス, ホルヘ・ルイス、ゲレロ, マルガリータ 『幻獣辞典』 柳瀬尚紀訳、晶文社、1974年12月。ISBN 978-4-7949-2286-1。
- 『世界幻想文学大系 第27巻』 紀田順一郎、荒俣宏責任編集、国書刊行会〈世界幻想文学大系 第27巻〉、1979年。NCID BN00264799。
- 麻井倫具、平田達治訳 「アルラウネ 上」(第27巻 A)、1979年8月。ISBN 978-4-336-02529-6。
- 麻井倫具、平田達治訳 「アルラウネ 下」(第27巻 B)、1979年9月。ISBN 978-4-336-02535-7。
- 草野巧著、シブヤユウジ画 『幻想動物事典』 新紀元社、1997年5月、294頁。ISBN 4-88317-283-X。
関連項目[編集]
- オタネニンジン(高麗人参 / 朝鮮人参) - 個体次第で根が人型をした薬用植物であることが類似する。こちらは神経毒は持たない。