アゴニスト

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アゴニスト(Agonist)又は作動薬とは生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質ホルモンなどと同様の機能を示す作動薬のこと。[1]

現実に生体内で働いている物質はリガンドと呼ばれる。それは、持っている作用が生体物質とまったく同一であれば利用する意味がない(その物質そのものを用いればよい)ためである。そのためアゴニストとされる物質は、生体物質とは少し違った性質を持っている。多くの場合、それは分子間選択性であったり、標的分子への結合力であったりする。

たとえば、中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質としてグルタミン酸があるが、その受容体は4種類存在する。NMDAと言う物質はその4種のグルタミン酸受容体のうち、NMDA型グルタミン酸受容体と呼ばれる受容体だけに作用し、残りの3種には作用しない。このような場合、NMDAをNMDA型グルタミン酸受容体に対する選択的アゴニストと呼ぶ。

対義語としてアンタゴニストがある。これは、同様に受容体に作用するが、作用する事で受容体の活動を抑制する薬剤のことである。

パーシャルアゴニスト[編集]

受容体を活性化するアゴニストの中にも、活性化度が生体分子に比べて非常に低く、作用するものの作用があまりにも弱い、と言うような薬剤も存在する。このようなアゴニストをパーシャルアゴニスト(Partial agonist)、または部分作動薬と言う[2]。パーシャルアゴニストは受容体にプラスに働きながらも、本来のリガンドの結合を阻害してしまう(すでにこのパーシャルアゴニストが作用している)ため、結果として抑制の方向に働いてしまう事がある。このように、アゴニストとアンタゴニストの区別は、必ずしも容易ではない。

医療の分野で実際に応用されているパーシャルアゴニストの例を示す。

βブロッカー
βブロッカーの中には内因性交感神経刺激作用(ISA)という作用をもつものが知られている。内因性カテコールアミンやβ刺激薬といったアゴニスト存在下ではβ遮断薬として働くが、非存在下においてはむしろ受容体を刺激する。高齢者などにはISA活性を持つ薬物の方が負担が少なく好ましいとされているが近年は否定的な意見も目立つ。
オピオイド
オピオイドのパーシャルアゴニストは弱オピオイドといわれ、依存性がアゴニストに比べて少ないことから、急性期疾患の鎮痛薬としてよく用いられる。アゴニスト使用時はパーシャルアゴニストとしての作用抑制効果が出現するため、併用禁忌とされている。あくまで、アゴニスト使用時にパーシャルアゴニストを使用すると薬効がアゴニスト使用時とパーシャルアゴニスト使用時の中間程度になるというだけの話である。レミフェンタニルの術後疼痛対策で弱オピオイドを用いたり、人工呼吸器下の患者で鎮痛に弱オピオイドを用いて、その鎮痛効果がきれるまえに術中鎮痛としてオピオイドを使用するといったことはよくある。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬
ベンゾジアゼピン系睡眠薬にはパーシャルアゴニストが知られている。ゾピクロン(アモバン)やゾルピデム(マイスリー)といった非ベンゾジアゼピン系睡眠薬がこれらに該当する。これらはω1には作用するものの、ω2には作用しないため鎮静作用が殆どで、抗不安作用、抗けいれん作用、筋弛緩作用は弱くなっている。これらはパーシャルアゴニストと記載する書物も認められるが、どちらかというと選択的アゴニストと考えられる。
抗精神病薬
アリピプラゾール(エビリファイ)やフェンサイクリジン(PCP麻酔)などがドーパミンD2受容体のパーシャルアゴニストである。
エストロゲン
ラロキシフェン(エビスタ)はエストロゲン受容体に対するパーシャルアゴニストである。骨代謝ではエストロゲンアゴニスト、骨外ではアンタゴニストとして作用するため、副作用の少ない骨粗鬆症の治療薬として用いられている。

脚注[編集]

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  1. ^ アゴニスト- 薬学用語解説”. 日本薬学会 (2009年1月16日). 2016年2月1日閲覧。
  2. ^ パーシャルアゴニスト- 薬学用語解説”. 日本薬学会 (2009年1月16日). 2016年2月1日閲覧。

参考文献[編集]

  • デービッド・E. ゴーラン (編), Jr.,アーメン・H. タシジアン (編), 他 『病態生理に基づく臨床薬理学』 メディカルサイエンスインターナショナル、2006年ISBN 4895924610
  • 藤村昭夫(編) 『類似薬の使い分け 症状に合った薬の選び方とその根拠がわかる』 羊土社、2009年ISBN 9784758106658

関連項目[編集]