骨粗鬆症

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骨粗鬆症
L1 2 vertebral fracture.jpg
分類および外部参照情報
ICD-10 M80-M82
ICD-9 733.0
OMIM 166710
DiseasesDB 9385
MedlinePlus 000360
eMedicine med/1693 ped/1683 pmr/94 pmr/95
Patient UK 骨粗鬆症
MeSH D010024

骨粗鬆症(こつそしょうしょう、もしくは「骨粗しょう症」osteoporosis)とは、骨密度の低下または骨質の劣化により骨強度が低下し、骨折しやすくなる疾患あるいはその状態を指す。

病態[編集]

骨は多孔質構造で、網目状の骨架橋によって強度が保たれている。骨架橋は骨芽細胞による骨形成と、破骨細胞により骨吸収によって常にリモデリングが行われており、古い骨を壊す一方で新しい骨を作ることで一定の状態を保っている。骨粗鬆症の病態は、骨吸収の相対的亢進による骨架橋の脆弱化である。大腿骨椎体骨の骨折はいわゆる高齢者寝たきりの原因となり生活の質 (QOL) を著しく低くする。骨吸収の相対的亢進は性ホルモンの低下によって加速されるので、閉経後の女性に多い。さらに女性は男性に比べてもともと骨量が少ないため、形成・吸収のバランスが崩れたときに、症状が表面化しやすい。

統計[編集]

厚生労働省などによると、日本国内の患者は高齢女性を中心に年々増加しており、自覚症状のない未受診者を含めると、推計で1100万人超に上る。患者の8割は女性である。高齢の女性に多く、60代女性の3人に1人、70代女性の2人に1人が、患者になっている可能性があるとされる。初期段階に自覚症状はなく、骨折して初めて気付くケースも少なくない。アメリカ合衆国では3000万人に症状が現れていると考えられている。

分類[編集]

骨粗鬆症は大きく原発性骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症に分けられる。

原発性骨粗鬆症[編集]

閉経や老化に伴い骨密度が低下するタイプのものであり、骨粗鬆症のほとんどは原発性である。エストロゲン低下が主な原因であるが、加齢に伴う腎機能の低下によって生じるビタミンDの産生低下も原因となる。

  • 女性では閉経後骨粗鬆症が多く、更年期におけるエストロゲン分泌量の低下が原因となり殆どの女性に骨密度低下が認められる。また閉経後女性にエストロゲンを補充すると骨量の減少が抑制される。妊娠に伴う骨粗鬆症も原発性骨粗鬆症の一つとして数えられ、母体のカルシウムが胎児に移行してしまうことが原因である。
  • 男性では女性のように更年期で急速にエストロゲン産生量が低下して骨粗鬆症に陥るということはないが、加齢は骨量の減少要因の一つとなる。男性でも骨密度の低下と血中エストロゲン量には相関があることも示されている[1]。女性ではエストロゲンは卵巣で産生されるが、男性では卵巣がないため、類似の構造を持つテストステロン(男性ホルモン)から変換して産生する。高齢の男性ではテストステロン量が減少するためエストロゲン量も減少し、骨密度の低下につながると考えられている。

続発性(二次性)骨粗鬆症[編集]

続発性骨粗鬆症とは何らかの疾患のバックグラウンドの上に成り立つタイプのものである。続発性骨粗鬆症の中にはさらに内分泌性、栄養性、薬物性(主にステロイドによる)、不動性、先天性という細分類がある。

薬剤性骨粗鬆症[編集]

反対に一酸化窒素供与剤(亜硝酸薬)、チアジド系利尿薬スピロノラクトン、およびアスピリンは骨粗鬆症を予防する可能性がある。

検査[編集]

骨塩定量法X線超音波などを用いた方法が用いられている。一般病院ではかかとの骨量を測定する検査が普及している。しかし、高齢女性においては、二重エネルギーX線吸収法(DXA法)は骨折予測にあまり有用でないと、Archives of Internal Medicine誌 (2007; 167: 155-160) に掲載された。

骨塩定量
日本骨代謝学会によるフローチャートによると、腰椎側面のX線撮影で病的骨折が認めなければ、骨塩定量を行なうこととなっている。若年成人平均値(YAM)を基準値として、70%未満であれば、どの部位であっても骨粗鬆症と診断する。測定部位は腰椎、大腿骨、橈骨、第二中手骨、踵骨いずれでもよいとされているが、もっとも望ましいのは腰椎とされている。70%-80%の範囲では骨量減少である。橈骨ではビスホスホネート(ビスフォスフォネート)の治療効果判定ができない。超音波を使用した骨密度定量は結果のばらつきが大きく、骨粗鬆症の診断に使用するのは適切ではないとして、適正な測定方法に含まれていない。
骨代謝マーカー
骨吸収マーカーであるDPDやNTX,TRACP-5bおよび、骨形成マーカーBAP,P1NPが知られている。

予防[編集]

人種体型運動喫煙食事アルコール摂取などが要因として知られる。人種ではアフリカ系が骨粗鬆症を発症しにくい。運動の習慣がなくやせた体型、低い身長は危険因子の一つである。骨形成に欠かせないカルシウムを不足させる動物性たんぱく過多の食事、ビタミンDビタミンKの不足した食事、カフェインの摂り過ぎ、過剰なアルコール摂取は、食事面における危険因子となる。喫煙は下記#喫煙が骨密度を減らすしくみによって危険因子となる。

骨粗鬆症を予防するには、これらの要因を除去する事、具体的には発症前の運動と食物の内容が重要である。この他に、宇宙飛行士が当該症状が起こりやすい。無重力が関係しているといわれており、宇宙空間に6ヶ月滞在する事により、骨密度は10%失われる。宇宙食や運動や投薬で防ぐ研究が行われている。 骨粗鬆症の治療と予防のガイドライン[3]によれば、骨粗鬆症の予防には以下の項目が推奨されている。

適正体重の維持とやせの防止
適切な運動
栄養指導、栄養素の摂取
〇カルシウムを食品から700〜800mg
〇ビタミンD 400〜800IU(10〜20μg)
〇ビタミンK 250〜300μg
喫煙と過度の飲酒は避ける
転倒予防

治療[編集]

主な治療薬[編集]

骨粗鬆症は下記の4種類の薬剤(ビスフォスフォネート系薬剤・SERMおよび女性ホルモン・抗RANKL抗体・テリパラチド)の中から1つを選択して行われる。日本での保険診療では、4種類の中の複数を重複投与することは出来ない。また女性ホルモン・ラロキシフェン・バゼドキシフェンは閉経後の女性のみに有効である。

ビスフォスフォネート系薬剤[編集]

ビスフォスフォネート系薬剤は、毎朝起床時(朝食前)にコップ1杯以上の水(180cc以上)で内服し、服用後30分は食事を摂らず、横にもならないという内服時の制約があり、服用法が煩雑なのが欠点である。このような短所を改善すべく、週1回または月1回のビスフォスフォネート系治療薬が開発された。月1回の点滴薬も販売されている。FDAは大腿骨頸部骨折後の骨折予防にゾレドロン酸(ゾレンドロネート)の年1回静注を承認しているが日本では未発売である[4]。骨密度は投与開始から5%程度の改善があり、その後はプラトーとなる。長期間の使用により、病的骨折が出現しやすくなり問題となっている。また抜歯時の顎骨壊死のリスクが増すことも知られている。多くの薬剤が開発されており、各薬剤の詳細についてはビスホスホネートを参照のこと。

SERMおよび女性ホルモン[編集]

ラロキシフェンバゼドキシフェン
SERM(selective estrogen receptor modulator)である。エストロゲン受容体に対するパーシャルアゴニストであり、骨代謝ではエストロゲンアゴニスト、骨外ではアンタゴニストとして作用するため、高脂血症乳癌のリスクも低下させる。商品名はそれぞれエビスタ®とビビアント®である。エストロゲンのように乳癌や子宮癌のリスクを増やさない。骨密度は投与開始から3%程度の改善があり、その後はプラトーとなる。ビスフォスフォネート系薬剤にはない骨質改善効果があるとされる。浮腫をきたしやすいという欠点がある。また下肢静脈血栓症のリスクを上げるために寝たきり患者などの臥床者には使用できない。
女性ホルモン製剤
エストリール®などが知られている。骨粗鬆症よりも更年期障害や美容の目的で使用される。乳癌や子宮癌の発生頻度上げるという問題がある。

抗RANKL抗体[編集]

プラリア
デノスマブ; 抗RANKL抗体
破骨細胞分化・成熟・活性化シグナルであるreceptor activator of nuclear factor κβ ligand(RANKL)に結合することにより、破骨細胞の活動を抑制し、骨吸収を抑制する。半年に1回、筋肉注射する。血中のカルシウムが低下しやすいので原則ビタミンDの併用が必要。非常に高い骨密度の改善効果を持つ。日本では第一三共製薬より「プラリア」として販売されている。

副甲状腺ホルモン[編集]

テリパラチド; 遺伝子組換えヒトPTH(1-34)
ヒト副甲状腺ホルモンのN末端1番から34番までのみを遺伝子組換えにより製剤化したもの。唯一の骨新生促進効果を持つ薬剤。皮下注射であるためコンプライアンスでは短所があるが、骨量増加作用は上記の薬剤と比較して最も高い。商品名フォルテオ®・テリボン&regの2剤が製品化されている。フォルテオは毎日1回の在宅自己注射(皮下注射)で、テリボンは週1回の通勤での皮下注射となる。骨折や骨壊死の治癒促進効果があるが、嘔気などの消化器症状が出やすい。

補助的な治療薬[編集]

下記は上記の主な4種類の治療薬とともに補助的に使用される薬剤である。単独では骨密度改善効果は期待できない。

活性型ビタミンD3製剤
カルシウム摂取量が少ない日本では、重要な位置を占める薬物である。骨折抑制効果があるエルデカルシトール(エディロール®)、アルファカルシドールであるワンアルファ®、アルファロール®といった商品が有名である。カルシトリオール(商品名ロカルトロール®)は肝臓や腎臓における活性化の必要がなく、臓器障害があるときは好まれる。近年はフォレカルシトール(ホーネル®、フルスタン®など)といった強力な薬物も用いられる。マキサカルシトール(オキサロール®など)は維持透析における二次性副甲状腺機能亢進症で用いられる注射薬である。カルシウム製剤と併用は高カルシウム血症リスクがあるので注意が必要である。SERMやビスフォスフォネート系薬剤の治療効果を示した臨床研究では、基本的にビタミンD3製剤が併用されているデータが多いので、SERMやビスフォスフォネート系薬剤を使用する際には、ビタミンD3製剤を併用することが多い。また抗RANKL抗体製剤を使用するときは、ビタミンD3製剤の併用が必須となる。
カルシトニン製剤
エルシトニン
カルシトニン製剤としてエルシトニン®などが知られている。日本では骨粗鬆症単独の治療としては認可されておらず、「骨粗鬆症に伴う疼痛緩和」の病名で認可されている。
ビタミンK2製剤
ビタミンK製剤として、グラケー®やケイツー®が知られているが、治療薬としての選択優先度は低い。
カルシウム製剤
カルチコール®やアスパラCA®が知られている。炭酸カルシウム乳酸カルシウム。サプリメントとしての市販されている。

治療ガイドラインでの優先度[編集]

薬物 骨密度増加 椎体骨折防止 非椎体骨折予防 総合評価
アレンドロネート A A A A
リセドロネート A A A A
ラロキシフェン塩酸塩 A A B A
エチドロネート A B B B
活性型ビタミンD3製剤 B B B B
カルシトニン製剤 B B C B
ビタミンK2製剤 B B B B
女性ホルモン製剤 A A A C
カルシウム製剤 C C C C

上記は骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会における推奨度である。Aは強く勧められる、Bは勧められる、Cは勧められる根拠がないとされているものである。2016年現在では、さらに新しいガイドラインが発表されており、上記は古いガイドラインである。

喫煙と骨粗鬆症[編集]

喫煙は、骨に直接的・間接的に様々な機序で作用し骨粗鬆症を促進する。直接作用としては、ニコチン[5][6]やたばこ煙中のカドミウム [7]が骨細胞に毒として働くことが指摘されている。間接的作用としては、小腸からのカルシウム吸収の減少[8]、ビタミンD不足[9]、副腎皮質ホルモンや性ホルモン代謝の変化[10][11][12]、非喫煙者よりも低い体重[13][14]、非喫煙者よりも早い閉経[15]、非喫煙者に比べて低い活動度[16]などである。これらの直接的・間接的影響によって、喫煙者は非喫煙者に比べて、オステオカルシンなどの骨形成マーカーが低く、骨粗鬆症をきたしやすいとされている[17][18]

カルシウム・パラドックス[編集]

カルシウムについては、摂取量とその結果とでは逆説的な結果が観察されることがある。それらの減少はカルシウム・パラドックスと呼ばれる。骨粗鬆症についげ言及すると、カルシウム摂取が多くても少なくても骨密度が低下する可能性がある。

脚注[編集]

  1. ^ Greendale GA, Edelstein S and Barrett-Connor E.(1997)"Endogenous sex steroids and bone mineral density in older women and men: the Rancho Bernardo Study."J.Bone Miner.Res. 12,1833-43. PMID 9383688
  2. ^ Aluoch AO, et al. Curr Osteoporos Rep. 2012;10(4):258-269.
  3. ^ 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版
  4. ^ NEJM.(2007; 357: 1799-1809)
  5. ^ Fang MA, Frost PJ, Iida-Klein A, Hahn TJ. Effects of nicotine on cellular function in UMR 106-01 osteoblast-like cells. Bone 1991;12(4):283–6.
  6. ^ Riebel GD, Boden SD, Whitesides TE, Hutton WC. The effect of nicotine on incorporation of cancellous bone graft in an animal model. Spine 1995;20(20): 2198–202.
  7. ^ Bhattacharyya MH, Whelton BD, Stern PH, Peterson DP. Cadmium accelerates bone loss in ovariectomized mice and fetal rat limb bones in culture. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 1988;85(22):8761–5.
  8. ^ Krall EA, Dawson-Hughes B. Smoking increases bone loss and decreases intestinal calcium absorption. Journal of Bone and Mineral Research 1999;14(2): 215–20.
  9. ^ Brot C, Jørgensen NR, Sørensen OH. The influence of smoking on vitamin D status and calcium metabolism. European Journal of Clinical Nutrition 1999;53(12):920–6.
  10. ^ Michnovicz JJ, Hershcopf RJ, Naganuma H, Bradlow, HL, Fishman J. Increased 2-hydroxylation of estradiol as a possible mechanism for the anti-estrogenic effect of cigarette smoking. NEJM. 1986;315(21):1305–9.
  11. ^ Khaw K-T, Tazuke S, Barrett-Connor E. Cigarette smoking and levels of adrenal androgens in postmenopausal women. NEJM. 1988; 318(26):1705–9.
  12. ^ Baron JA, Comi RJ, Cryns V, Brinck-Johnsen T, Mercer NG. The effect of cigarette smoking on adrenal cortical hormones. Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics 1995;272(1):151–5.
  13. ^ Kiel DP, Felson DT, Anderson JJ, Wilson PWF, Moskowitz MA. Hip fracture and the use of estrogens in postmenopausal women: the Framingham Study. NEJM. 1987;317(19): 1169–74.
  14. ^ Cummings SR, Nevitt MC, Browner WS, Stone K, Fox KM, Ensrud KE, Cauley J, Black D, Vogt TM. Risk factors for hip fracture in white women: the Study of Osteoporotic Fractures Research Group. NEJM. 1995;332(12):767–73.
  15. ^ U.S. Department of Health and Human Services. Women and Smoking. A Report of the Surgeon General. Rockville (MD): U.S. Department of Health and Human Services, Public Health Service, Office of the Surgeon General, 2001.
  16. ^ Gregg EW, Cauley JA, Seeley DG, Ensrud KE, Bauer DC. Physical activity and osteoporotic fracture risk in older women: Study of Osteoporotic Fractures Research Group. Ann Intern Med 1998; 129(2):81–8.
  17. ^ Brot C, Jørgensen NR, Sørensen OH. The influence of smoking on vitamin D status and calcium metabolism. European Journal of Clinical Nutrition 1999; 53(12): 920–6.
  18. ^ Bjarnason NH, Christiansen C. The influence of thinness and smoking on bone loss and response to hormone replacement therapy in early postmenopausal women. Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism 2000;85(2):590–6.

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]