宇宙食

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ISSでの食事。ハンバーガとトマトが写っている(2008年撮影)

宇宙食(うちゅうしょく)とは、宇宙において食事ができるように作られている食品のこと。

概要[編集]

ISSの宇宙食(2003年撮影)

宇宙食は、主に宇宙船の中で宇宙飛行士が食べる食物のことである。概ね無重量自由落下)状態にある宇宙船の居住スペースが狭く、設備的にも限られることから、これを有効活用する上で様々な工夫が凝らされている。

宇宙食が満たすべき要素は大きく分けて次の通りである。

  • 長期保存が可能であること。
    宇宙空間での物資補給は不可能であるか、限られた回数しか行えないためである。
  • できるだけ軽量であること。
    宇宙船の積載貨物の重量は限られているため。
  • 強い臭気を伴わないこと。
    船内は密閉されており、換気ができない。また脱臭装置の能力にも限界があるため。
  • 飛散しない。
    周りがミッション達成や生命維持に必須の精密機器だらけであるため、砕けたり、汁が飛ぶようなものは、これら機器にトラブルが生じたり、後片付けが大変になるため、これの防止が必須である。
  • 栄養価が優れていること。
    宇宙食のみを飲食することになるため、栄養のバランスに注意が払われる。また狭い船内でストレスを被らないよう、デザート等の娯楽要素も求められる。
  • 温度変化や衝撃に耐えること。
  • 特別な調理器具を必要としないこと。

このうち軽量性については、スペースシャトルでは燃料電池を用いており発電の際に副生成物としてが発生することから、この水を加温して調理に用いるのが最も効率的である。そのため加水調理に適しており保存性・栄養・食感の面でも優れたフリーズドライ食品は、多くの宇宙食に採用されている。フリーズドライなどの技術は民生技術としてインスタント食品に広く用いられるようになった。宇宙への輸送コストが、現状ではスペースシャトルでも1キログラムあたり約8,800ドル程度掛かることも、軽量性が重視される一因である。

臭気については、などは今も嫌忌される傾向にある。また安全性に関しては、宇宙船内で供給される湯はやけどの危険が生じないようにするため、スペースシャトルでは摂氏70度、国際宇宙ステーション(ISS)では摂氏80度止まりという事情があるため、インスタント食品でもこの温度の湯で美味しく調理できるものが求められる。

水分の多い料理は粘り気を持たせて飛び散らないようになっており、またスープジュースはパックからストローで直接飲むようになっている。現在では宇宙船内で電気オーブンレンジが利用できるため、レトルト食品等はこれを使って温めることができる。しかし電子レンジは缶詰やアルミ包装のレトルト食品に使用できないほか、電磁波の各種機器への影響も懸念されるため、採用されていない[1]

地上では宇宙関連の博物館土産物になる程度の、市場規模が現時点であまり期待できない宇宙食にこれだけの研究開発が行われている背景には、宇宙ステーションでの長期滞在や火星への有人宇宙探査が現実味を帯びている中で、骨粗鬆症など宇宙空間で起こる深刻な健康上の問題に対応する必要性、またある意味単調な生活の中で食事が非常に重要な気分転換となることがある。このため味の面での改良や、デザート等の充実も図られている。

この他にも国際宇宙ステーション計画では様々な国の様々なクルーが生活することから、各国の料理に関連した宇宙食が開発されている。

自給自足へ[編集]

今日の宇宙食は、地球上で作られた食材を地球上で加工し、それを宇宙船に積んで打ち上げているが、さらに人類が長期間宇宙に滞在するようになれば、宇宙食は地球から運搬するのではなく、宇宙で自給自足する必要が出てくる。そのため、宇宙空間で生物植物を育てる試みは宇宙開発の初期から行われてきている。

この考えをさらに延長して、完全に隔離された空間に植物や生物を閉じこめ、孤立した生態系で自給自足の生活を行うことができるかという実験(→ バイオスフィア2)が、地上で行われたこともあった。また宇宙船内の限られたスペース内で効率よく作物を栽培できる水耕栽培施設の研究も進んでいる。規模の小さいものでは、古くより微生物酵母など)を用いた食糧生産システムも想定されている。

宇宙食の歴史[編集]

スカイラブ計画地上訓練中の宇宙食を使った食事風景(1973年
ロシアの宇宙食

初期の宇宙食は喉に食べ物がつまるのではないかとの不安から、チューブに入ったものやトレイに充填されたペースト状のものが多く、離乳食に近いものでもあったため、宇宙飛行士からの評判も悪かった。その後、人間は無重量状態でも問題なく食べ物を飲み込め、消化できることがわかり、現在の宇宙食は種類も豊富になり、その種類は千種ほどもある。

日本人宇宙飛行士がスペースシャトルに搭乗する際には、日本食も搭載される。搭載される料理が、実際に公募で選ばれたこともあった。

  • ロシア・ヴォストーク2号(1961年):チトフ飛行士が宇宙空間で初めて食べ物を口にした。
  • アメリカ・マーキュリー時代(1962年頃): 一口サイズの固形食、チューブに入ったペースト状のもの。
  • アメリカ・ジェミニ時代:乾燥食品、中程度の水分を含んだ食品、一口サイズの固形食の三種類。
    なお宇宙競争にしたがって滞在時間が長時間にわたると、連続で宇宙食を摂らざるを得ない状況になり、この不満からかターキー・サンドイッチを勝手に持ち込んだ宇宙飛行士がいた(ジョン・ヤング)。多額の国税をつぎ込んだ宇宙計画を、機器の汚損や食中毒などにより危機に陥れる可能性があるこの行為は当然、問題となったが、食事が士気に影響するという主張は認められ、以後の宇宙食の改善につながった(詳細はジェミニ3号を参照)。
  • ロシア・サリュート: 新鮮な果物・野菜を貨物として供給した。
  • アメリカ・アポロ時代: お湯が使用されるようになり、食品を水で戻して暖かい食事が可能となった。
    • 10日間に及ぶ月飛行のための船内食は……七面鳥とグレービーのパック、スパゲッティ・ミート・ソース、チキン・スープ、チキン・サラダ、豆のスープ、ツナ・サラダ、スクランブルド・エッグ、コーン・フレーク、サンドイッチ・スプレッド、チョコレート・バー、モモ、ナシ、アプリコット、ベーコン角切り、ソーセージ・パテ、オレンジ・ドリンク、シナモン・トースト、ブラウニー、その他、その他。それぞれのパックはマジック・テープで止めてあり、そのテープは各搭乗員の分を示す色別のコードになっていた (ジム・ラベル、ジェフリー・クルーガー (河合裕訳)『アポロ13』)。
  • スカイラブ時代:半数は加水食品で、他に温度安定化食品、自然形態食品、フリーズドライ(凍結乾燥)食品、放射線照射食品が提供された。ナイフフォークスプーンを使うようになった。ただし食器などが浮遊してしまうと具合が悪いことから、各食品のパックやトレイ・食器などはトレイやテーブルにベルクロテープで貼り付けておくことができるようになっている。
  • ロシア・ミール時代: 400日以上に渡る長期宇宙滞在に耐えるための食品開発が進んだ。宇宙でも飲めるようにパッケージングされたウォッカまで用意されていた。
  • スペースシャトル国際宇宙ステーション以降:一部の市販食品、自然形態食、新鮮食品(新鮮な果物や野菜)も提供されるようになり、食事の形態はだいぶ地上の生活に近いものとなっている[2]
    • 国際協力により宇宙ステーションが運営されることから、各国の宇宙機関で開発した宇宙食が持ち込まれるようになった (日本については後述)。アメリカ・ロシア以外では、ESAが開発したフランス料理 (アヒル・チキン・マグロ・メカジキ・ニンジン・セロリ・アンズ・リンゴなど、缶詰の形態)などがある。

宇宙食のアメニティ性がどんなに進歩しても、やはり宇宙飛行士にはテーブルについて温かい食事を摂ることはしばらくはままならない。このためアメリカ航空宇宙局では打ち上げ直前に隔離された部屋で最後の食事をテーブルで楽しんでもらうという儀式(伝統)もカウントダウンの作業に含まれている。アポロ計画のころからの習慣のようだが、現在のスペースシャトル計画でもこれは引き継がれている[要出典]

一般食と特別食[編集]

現在宇宙食には大きく分けて一般食と特別食がある。一般食は現在宇宙船の打ち上げを行っているアメリカ航空宇宙局およびロシア連邦宇宙局が開発しており、常設メニューとして基本的にどのミッションでも採用されているものであり、開発国の関係上アメリカおよびロシアで一般に食されているものがほとんどである。一方の特別食はミッションに参加する宇宙飛行士の希望から主に各国の宇宙局が開発し、搭乗予定の機関(ISSの場合はNASAかロシアの審査が必要)の審査を受けた上で持ち込みが許可されるものである。特別食は、前述の食事によるリフレッシュという側面から搭載され、特に米露と食文化の違う国の宇宙飛行士が十分なリフレッシュを行えるようになっている。一般食は主にフリーズドライ(米)や缶詰(ロシア)で前述の宇宙食としての条件を満たす必要があるが、特別食の場合は短期間の消費を前提とし、レトルトパウチ食品や単なる密封包装程度で搭載が可能となる場合が多い。2007年以前の日本の宇宙食や、韓国が開発したキムチスジョングァ茶・韓国ラーメンなどの韓国料理は特別食である。

国際宇宙ステーション(ISS)計画においては、アメリカやロシア以外国の宇宙飛行士も長期滞在するため、宇宙食のバリエーションを増やす必要があることから、計画参加国が独自に開発・認証する枠組みが定められた。

日本でもJAXAが認証基準の制定と認証作業を行っており、2007年6月には第一回目の認証が行われた[3]。これにより日本製宇宙食「宇宙日本食」はどのミッションでも供給出来ることとなり、今後は各国のバラエティ豊かな食事を宇宙でも楽しむことができるようになる。

日本の食文化と宇宙食[編集]

醤油ラーメン(スペースラム)

日本の食品は特別食・一般食として、多数が宇宙で食されている。例としてはたこ焼き赤飯みそ汁などが挙げられる。変わったものとして、STS-65ミッション時に向井千秋が公募して持ち込んだ、菜の花のピリ辛あえなどがある。

前述の通り、特別食の場合は一般食と比較して多少緩い制限で持ち込みが許可されるが、食品の性質によっては却下される場合もある。毛利衛納豆を機内に持ち込めるかアメリカ航空宇宙局に承認を求めたが、臭いの点では合格だったものの、糸を引く点が減点材料となり認められなかったという。

せんべいなどは粉が飛び散ってしまいそうだが、実際に若田光一が特別食として持ち込み、スペースシャトル内で食べている。

宇宙食に不適な食品の代表格としてラーメンがあったが、これも日清食品中央研究所が「スペース・ラム」という名称で実際に開発したインスタントラーメン野口聡一が持ち込んでいる。この「宇宙ラーメン」とも呼ばれるスペース・ラムはカップヌードルをベースとしているが、一般に食べられているカップ麺とは少々異なり、袋の中に摂氏約70度と低温の湯で柔らかくなる円筒状にまとめられた麺3塊が入っており、これに湯を注入、所定時間置いてから袋を破って円筒状になった麺をフォークや箸で食べる。スープは飛び散らないように粘度が高く、少量で麺にまぶす程度しかないが、満足感を増すために、やや香辛料を効かせた味となっているという。なお、しょうゆ・みそ・カレー・とんこつと4種類の味が用意されている。

また、かけそばどん兵衛)や焼き鳥土井隆雄が持ち込んだ。そばもスペース・ラムと同様に低温のお湯で戻すことが出来、麺は3個の塊になっている。これらの食品の開発も日清食品が担当した。

なお、前述の通り、宇宙航空研究開発機構が食品会社と共同で認証審査および選定を行った宇宙日本食は、ISSの一般食に採用されており、2008年からは通常メニューとして宇宙日本食を食べることが可能になった。主なメニューとしては前述のスペース・ラムをはじめ、おかゆや日本式のカレー、サンマの蒲焼や緑茶などがある。この宇宙日本食は他国の飛行士にも人気があり、余禄としては野口の食料としてISSに持ち込まれた宇宙日本食を、他国クルーが前任日本人クルーの若田光一の置きみやげと勘違いして、一部を喜んで食べてしまう珍事も起こっている[4]。ただし宇宙食はもともと多めにあり、輸送も頻繁なためミッションに影響はなかった。

スペースシャトルのボーナス食[編集]

スペースシャトルへの日本人クルー搭乗ミッションでは、これらクルーの栄養維持やリフレッシュ用などに、その宇宙飛行士個人の好物が「宇宙日本食」以外にも特別メニューとして積み込まれる[5]。これらは日本人クルーの分だけではなく、他のクルーが消費する分も用意され、いわゆるコミュニケーションツールとしての側面を併せ持つ。日本食とされているものの、和食に限定されず、日本の家庭料理で一般的に取り入れられている料理なども含まれる。(注:以下のメニューの中(2008年以降の分)には一部ボーナス食ではなく、「宇宙日本食」も混じっている模様)

  • 毛利衛宇宙飛行士
    白飯、赤飯、レトルトカレー、梅干、浮かし餅、羊かん、ほうじ茶、オニオンスープ
  • 向井千秋宇宙飛行士
    たこ焼き、肉じゃが、さけの南部焼き、菜の花ピリ辛あえ、五目炊き込みご飯
  • 土井隆雄宇宙飛行士
    日の丸弁当、天ぷらそば、焼き鳥、京風あんかけ五目うどん、お稲荷さん、白飯、白かゆ、たまごスープ、レトルト ポークカレー、シーフードラーメン、イワシのトマト煮、お好み焼き、カレーラーメン、しょうゆラーメン、スペースねぎま
  • 若田光一宇宙飛行士
    白飯、カレー、草加せんべい、ワカメみそ汁
  • 野口聡一宇宙飛行士
    ラーメン、カレー
  • 星出彰彦宇宙飛行士
    お好み焼き、スペースねぎま

脚注[編集]

  1. ^ ISSに電子レンジはありますか”. JAXA. 2013年11月9日閲覧。
  2. ^ 宇宙食”. JAXA SPACE PHOTO MUSIUM. 2010年8月8日閲覧。
  3. ^ 「宇宙日本食」の認証について”. JAXA. 2010年8月6日閲覧。
  4. ^ 野口さんの宇宙食、食べられた 同僚、若田さんと勘違い”. Asahi.com. 2010年8月7日閲覧。
  5. ^ 宇宙日本食の開発 (PDF)”. JAXA. 2010年8月7日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]