アリピプラゾール

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アリピプラゾール
Aripiprazole.svg
Aripiprazole-3d-ball-model-V.png
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
ライセンス EMA:リンクUS FDA:リンク
胎児危険度分類
法的規制
投与方法 経口(錠剤、散剤、液剤、口腔内崩壊錠)、筋注
薬物動態データ
生物学的利用能 87%
血漿タンパク結合 >99%
代謝 肝臓 - CYP3A4, CYP2D6
半減期 未変化体:75時間
OPC-14857[注 1]:94時間
排泄 糞、尿
識別
CAS番号
129722-12-9
ATCコード N05AX12 (WHO)
PubChem CID: 60795
DrugBank APRD00638
ChemSpider 54790
KEGG D01164
化学的データ
化学式 C23H27Cl2N3O2
分子量 448.385

アリピプラゾール英語: Aripiprazole略語: ARP, APZ)は、大塚製薬が開発した非定型抗精神病薬の一つである。

副作用は72.7%に認められ、特に多かったのは傾眠が48.9%であった[1]。なお、6歳未満と18歳以上では有効性・安全性が確立されていない[1]投与日数制限は定められていない[1]

一般名の語尾は"-azole"となっているが、IUPAC命名法の通り構造式は「窒素を1つ以上含む複素5員環化合物」が存在せず、アゾールではない。存在するのは複素環式アミンピペラジンであり、フェニルピペラジン誘導体である[1]

フェニルシクロヘキシルピペリジン(PCP)同様のドーパミンD2受容体パーシャルアゴニスト作用を有している[1]。ARPのD2受容体結合親和性Ki値は0.34nM濃度であり[1]、PCPのKi値2.7nMよりも高い親和性を有している[2][3]。ARPはNMDA受容体の発現増加が示されており[4]NMDA受容体アンタゴニストの影響を相殺することから[4]、NMDA受容体機能的拮抗作用を有する。高用量[注 2]では鎮痛作用と筋弛緩作用がある[1]

年表[編集]

2002年7月、メキシコで製造承認され、その後60以上の国と地域で承認された。

2006年1月、日本において商品名エビリファイで承認され、同年6月に薬価基準に収載された[1]

2006年、大塚製薬のフランス現地子会社とブリストル・マイヤーズ スクイブ社フランスは、アリピプラゾールの開発の功績が認められて、フランス・ガリアン賞を受賞している[5]

2012年1月、日本において「双極性障害における躁症状の改善」が追加された[1]

2013年6月、「うつ病うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」が追加された[1]

2016年9月、「小児期自閉スペクトラム症に伴う易刺激性[注 3]」の効能・効果が追加された[1]

2017年6月、ジェネリック医薬品が発売された[6]

剤形および規格[編集]

錠剤(素錠)
3mg, 6mg, 12mg (12mgは2007年に発売)
口腔内崩壊錠
3mg, 6mg, 12mg, 24mg - 2012年5月発売
内用液0.1%(分包)
3mL, 6mL, 12mL - 2009年4月発売。飲みやすいようにオレンジ味である[7]
散剤
1%
持続性水懸筋注用
300mg, 400mg

用量・用法[編集]

発売当初は以下の用法が推奨された。しかし現在は外来においては1日12mg〜18mgを開始用量として適宜増減する方法が推奨されてきている。

統合失調症
  • 成人は1日6mg〜12mgを開始用量として、1日6mg〜24mgを維持量とする。
  • 1回または2回に分けて経口投与し、1日30mgを超えないようにする。年齢や症状に応じて適宜減量する。
効果を発揮するまでに約2週間必要なため、2週間以内に増量しないことが望まれる。
また急性期や不安・不眠・焦燥を伴う統合失調症においてはGABA系神経を活性化させるベンゾジアゼピン系薬剤やバルプロ酸ナトリウムの併用が単剤投与より有効である。
うつ病うつ状態
  • SSRISNRIに追加して併用する。
小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性
  • 通常、開始用量は1日1mg、維持用量は1日1〜15mg、1日1回経口投与する[1]
  • 症状により適宜増減するが、増量幅は1日量で最大3mgとし、1日量は15mgを超えないこと[1]

警告[編集]

強迫的な食事/買い物/性的行動/賭博(賭博障害)

禁忌・注意[編集]

糖尿病への影響
糖尿病またはその危険因子のある者は糖尿病性ケトアシドーシスや糖尿病性昏睡などが起こる可能性があるため、高血糖の症状に十分注意する。特に喉の渇き多尿多食脱力感などがあった場合は直ちに医師に相談すること。
バルビツール酸誘導体との相互作用
バルビツール酸誘導体等の強い影響下にある者は投与できない。
アドレナリン反転作用
アドレナリンを服用中の者は血圧降下作用が増強する可能性があるため注意すること。
肝障害への影響
肝障害のある者は悪化させる場合があるため慎重に服用すること。
傾眠や集中力低下
眠気、集中力の低下などが起こる場合があるが(添付文書によると傾眠の副作用は1〜5%未満)、その他の統合失調治療薬と比較すると軽度である(むしろ、アリピプラゾールは前頭葉におけるドーパミン系の活性化により、認知機能を改善する効果が知られている)。

副作用[編集]

安全性
神経遮断作用がない、ドーパミンD2受容体の部分的作動薬であるため、従来の抗精神薬に比べ副作用が少なく安全性は非常に高い[9]
不眠や不安
不眠神経過敏アカシジア(じっとしていることができない)、振戦(手足の震え)、不安体重減少筋強剛食欲不振などが報告されている(これらの副作用は添付文書によると5%以上)。
うつ状態や躁状態の誘発
患者の1〜5%未満ではあるが、うつ状態の誘発、1%未満は躁状態を誘発する可能性がある。
アルコール相互作用
本剤は肝臓で代謝されるため、アルコール類の摂取は悪影響を与えることがある。そのため、飲酒は控える方が望ましい。
目眩や吐き気
アカシジアはそれほど多くないが、目眩と特に吐き気が頻発する。高プロラクチン血症はほとんど起こらない。洞性頻脈の若干のリスクがある。長期継続性に課題がある[10]
暴力
アリピプラゾールは抗精神病薬の中で最も暴力の報告が多かった(p<0.001)[11]
多動や常同行動
自閉症児はアリピプラゾールにより、興奮抑制と多動常動行動(繰り返し目的のない行動)を示した。副作用は体重増加眠気震えなどがあった。長期的転機が明確ではない[12]
異常性欲
アリピプラゾールの治療を受けて6ヶ月、異常性欲を発症した男性患者の症例報告。臨床症状は、性欲の増加、異常に頻繁なマスターベーション性的本能であった。全ての症状は服薬中止時に解決し、再服薬で再発した[13]
低プロラクチン血症
投与された患者の44%が低プロラクチン血症と診断された報告がある。投与量とプロラクチン濃度に有意な相関はなかったとのこと[14]。性欲維持による異常性欲や性的倒錯などとの関係が疑われる。

作用機序[編集]

ドーパミン受容体[編集]

ドーパミン受容体パーシャルアゴニスト[編集]

脳内のドーパミン作動性ニューロンが形成する中脳辺縁系および中脳皮質系に作用し、ドーパミン刺激を調節する。アリピプラゾールはドーパミンのパーシャルアゴニスト部分作動薬)としての作用を有し、最大で内因性ドーパミン活性の約25%の作用を示す[15]:37

ドーパミン・システム・スタビライザー(DSS)[編集]

前シナプスのドーパミン自己調節受容体にも結合し、前シナプスにおいてドーパミン放出量を調節する作用を有する。このためドーパミンシステムスタビライザー(DSS)ともいわれる。

セロトニン受容体[編集]

5-HT1Aパーシャルアゴニスト[編集]

同じ抗精神病薬でSDAに分類されるペロスピロンや抗不安薬であるタンドスピロンと同じ5-HT1A受容体のパーシャルアゴニストでもあり[16]

5-HT1Aパーシャルアゴニストは前頭前皮質の血流を改善し、認知機能の向上も期待される[17]

ドーパミン・セロトニン・システムスタビライザー(DSS)[編集]

この5-HT1A受容体を介した薬理作用から、「ドーパミンセロトニンシステムスタビライザー(DSS)」と呼ばれることがある[16]

5-HT2Aアンタゴニスト[編集]

5-HT2A受容体のアンタゴニストとしても高い親和性を有することから、錐体外路症状(EPS)の発現を抑えることが報告されている。これらのドーパミンおよびセロトニンを介した機序から、陽性・陰性症状の改善と安定化や、従来の定型および非定型抗精神病薬の副作用であった錐体外路症状をアリピプラゾールは発現しにくいという特徴をもつ。

このように、脳内ドーパミンシステムにおいては他の抗精神病薬と比較して、有意な特異的作用を有している。アリピプラゾールの秀でた点は、代謝系や鎮静系に関する受容体への親和性が極めて低いことである。しかし、これまでの抗精神病薬ではあまり見られなかった投与初期の不眠激越不穏などの副作用が目立つようになった[18]。また、抑うつ状態に対し、抗うつ薬があまり有効でない場合、少量のアリピプラゾールを加えることによって抗うつ効果を増強させることができる症例も報告され、実際の医療現場でも応用されている。

グリア細胞[編集]

ミクログリア[編集]

活性化を阻止
アリピプラゾールはミクログリアの活性化を阻止し、抗炎症作用を有することが実証された[19]
抗炎症作用
アリピプラゾールを含む非定型抗精神病薬がin vitroにおいて、インターフェロンγで刺激したミクログリアからの一酸化窒素炎症性サイトカインの放出を大幅に阻害することが実証された。ミクログリアの活性化によって誘導されるニューロン損傷は、共培養実験により調べた[20]

オリゴデンドロサイト[編集]

  • アリピプラゾールはミクログリアの活性化によって引き起こされるオリゴデンドロサイトの損傷低減による抗精神病作用が示唆されている[21]

注釈[編集]

  1. ^ 未変化体と同様の活性を有する代謝物
  2. ^ マウス10mg/kg用量を体重60kgのヒト等価用量(HED)へ換算すると約50mgとなる。
  3. ^ 易刺激性とは、「かんしゃく、攻撃性、自傷行為、およびこれらの複合行為」である

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m 医薬品インタビューフォーム(2016年9月改訂 第18版)エビリファイ (pdf)”. www.info.pmda.go.jp. 医薬品医療機器総合機構 (PMDA) (2016年9月). 2016年10月3日閲覧。
  2. ^ Seeman P, Ko F, Tallerico T. (2005-9). “Dopamine receptor contribution to the action of PCP, LSD and ketamine psychotomimetics.”. en:Molecular Psychiatry. 10 (9): 877-83. doi:10.1038/sj.mp.4001682. PMID 15852061. http://www.nature.com/mp/journal/v10/n9/full/4001682a.html. 
  3. ^ Seeman P, Guan HC, Hirbec H. (2009-8). “Dopamine D2High receptors stimulated by phencyclidines, lysergic acid diethylamide, salvinorin A, and modafinil.”. en:Synapse. 63 (8): 698-704. doi:10.1002/syn.20647. PMID 19391150. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/syn.20647/abstract. 
  4. ^ a b Segnitz N, Ferbert T, Schmitt A, Gass P, Gebicke-Haerter PJ, Zink M. (2011-9). “Effects of chronic oral treatment with aripiprazole on the expression of NMDA receptor subunits and binding sites in rat brain.”. en:Psychopharmacology. 217 (1): 127-42. doi:10.1007/s00213-011-2262-z. PMID 21484241. https://link.springer.com/article/10.1007/s00213-011-2262-z. 
  5. ^ 抗精神病薬 「エビリファイ」仏プリ・ガリアン(Prix Galien)賞を受賞(大塚製薬ホームページ)2011年7月14日閲覧
  6. ^ Meiji Seika ファルマ株式会社
  7. ^ 「統合失調症患者が示した aripiprazole 内用液の「飲み心地」に関する検討」、『臨床精神薬理』第2号、2011年2月、 283-288 頁。
  8. ^ a b c FDA Drug Safety Communication: FDA warns about new impulse-control problems associated with mental health drug aripiprazole (Abilify, Abilify Maintena, Aristada) (05-03-2016 FDA)
  9. ^ 高橋一志. 向精神薬の今(1)抗精神病薬. 日本医事新報. 2014; 4709:14-21.
  10. ^ Bhattacharjee J, El-Sayeh HG. (2008-07-16). “Aripiprazole versus typicals for schizophrenia.”. The Cochrane Library. 1: CD006617. doi:10.1002/14651858.CD006617.pub3. PMID 18254107. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD006617.pub3/abstract. 
  11. ^ Moore TJ, Glenmullen J, Furberg CD. (2010-12-15). “Prescription drugs associated with reports of violence towards others.”. PLoS One. 5 (12): e15337. doi:10.1371/journal.pone.0015337. PMC 3002271. PMID 21179515. http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0015337. 
  12. ^ Ching H, Pringsheim T (2012-05-16). “Aripiprazole for autism spectrum disorders (ASD).”. The Cochrane Library. (5): CD009043.. doi:10.1002/14651858.CD009043.pub2. PMID 22592735. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD009043.pub2/abstract. 
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  18. ^ 『今日の治療薬 2011』、2011年、837頁。ISBN 978-4524263622
  19. ^ Kato T, Mizoguchi Y, Monji A, Horikawa H, Suzuki SO, Seki Y, Iwaki T, Hashioka S, Kanba S. (2008-7). “Inhibitory effects of aripiprazole on interferon-gamma-induced microglial activation via intracellular Ca2+ regulation in vitro.”. Journal of Neurochemistry. 106 (2): 815-825. doi:10.1111/j.1471-4159.2008.05435.x. PMID 18429930. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1471-4159.2008.05435.x/abstract. 
  20. ^ Kato TA, Monji A, Yasukawa K, Mizoguchi Y, Horikawa H, Seki Y, Hashioka S, Han YH, Kasai M, Sonoda N, Hirata E, Maeda Y, Inoguchi T, Utsumi H, Kanba S. (2011-7). “Aripiprazole inhibits superoxide generation from phorbol-myristate-acetate (PMA)-stimulated microglia in vitro: implication for antioxidative psychotropic actions via microglia.”. Schizophrenia Research. 129 (2-3): 172-182. doi:10.1016/j.schres.2011.03.019. PMID 21497059. http://www.schres-journal.com/article/S0920-9964(11)00167-8/abstract. 
  21. ^ Seki Y, Kato TA, Monji A, Mizoguchi Y, Horikawa H, Sato-Kasai M, Yoshiga D, Kanba S. (2013-12). “Pretreatment of aripiprazole and minocycline, but not haloperidol, suppresses oligodendrocyte damage from interferon-γ-stimulated microglia in co-culture model.”. Schizophrenia Research. 151 (1-3): 20-28. doi:10.1016/j.schres.2013.09.011. PMID 24100191. http://www.schres-journal.com/article/S0920-9964(13)00510-0/abstract. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]