追い出し部屋
追い出し部屋(おいだしべや)とは、日本の企業や団体の職場において、社員・職員を「自己都合退職」(または懲戒解雇)に追い込み、「会社都合」で退職させないため配属させる部署。
「正社員を容易に解雇できない規制」又は「退職金の支給(割増支給を含む)」を免れるため、一部の企業で脱法的に設けられている部署のことを指す。
概要
雇用側が(犯罪その他の過失を理由に)合法的に社員を解雇するためには、労働契約法に定められた「合理的理由のない解雇は無効である」という文言を満たす必要がある。整理解雇を実施するために満たさなければならないと判例で出された「人員削減の必要性」「解雇を回避する努力の有無」「対象者選定の合理性」「手続きの妥当性」の4要件が必要とされる(また、職務遂行能力欠如を理由とする普通解雇は、判例では「改善意欲が完全に欠如している社員であり、会社が様々な対策を取っても全く改善されず、雇用維持が困難と社会通念上相当と認められる場合」に限っており、ほとんどの通常の社員にとって「職務を遂行する能力が欠如している」といった、客観性の乏しい理由で普通解雇とすることは無縁である)。
経営側にとって普通解雇が困難と考えられ、解雇が裁判所で無効となった場合には未払い賃金のコストが増大するリスクもあるため、社員を「自己都合で退職」させるように仕向けることがリスクの少ない方法と考えられている。
辞めさせたい社員に積極的に自己都合による退職に追いやるひとつの手法が「追い出し部屋」であり、日本では1990年代以降業績の悪化した大手企業には多く存在するようになった[1]。
2015年4月には、大和証券とそのグループ会社の日の出証券が、共同で社員を退職させようと追い出し部屋に移動させたことが「嫌がらせであり違法」であるとして、大阪地方裁判所が被害者に約150万円の支払いを命じている[2]。
手法
事前に「労働時間の延長」、「一時帰休」、「賃下げを伴う時短」、「年俸制導入による実質賃下げ」といった下地作りで社内に危機感をあおり社員に「早く別の仕事を見つけた方がいい」という意識を芽生えさせる。経営側は、あらかじめ「退職されると不都合になる有能な社員」には事前に声をかけて根回しを行い、「退職に追い込みたい社員をグループ化」し、差別化を図る[3]。
会社が募集する希望退職に応じない社員や、戦力外となった社員を、仕事がなかったり単純労働を強いる部署に異動させ、自主退職を選ばざるを得なくなるようにするもの[4][5]。また、他の部署からの応援要請に応えるなどの名目的な部署目的を掲げながら、実際には、自分自身が社外での自分の出向先、転籍先などを見つけることを業務内容とするケースもある。
企業によって
- パソナルーム(ゲーム会社セガ・エンタープライゼス[6]が用いている名称)
- キャリア開発センター
- キャリア支援機構
- 事業・人材強化センター
- キャリアステーション室
- プロジェクト支援センター
- 企業開拓チーム
- 人財部付
など、一見するとあたかも「企業の一部署」らしい名称を用いている[7]。
脚注
- ^ 小学館NEWSポストセブン2013.03.08 企業が「追い出し部屋」作っても社員辞めない理由を識者解説
- ^ 訴訟:「追い出し部屋」は違法 大和証券など、150万円支払い命令 大阪地裁判決 毎日新聞 2015年4月25日
- ^ 新世紀ユニオン「リストラ対処法」
- ^ 出向という名の「追い出し部屋」 退職拒めば過酷な業務 - 朝日新聞デジタル 朝日新聞 2013年7月14日
- ^ “リコー退職勧奨:出向命令撤回で和解 80人再配置協議”. 毎日新聞. (2014年10月17日)
- ^ 労働判例 セガ・エンタープライゼス事件 - 若林・新井総合法律事務所
- ^ 大手企業「追い出し部屋」の正しい閉鎖方法 J-CAST 2013年1月13日