岸本聡子

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岸本 聡子
きしもと さとこ
生年月日 (1974-07-15) 1974年7月15日(49歳)
出生地 日本の旗 日本 東京都大田区
出身校 日本大学文理学部社会学科卒業
前職 NGO職員
所属政党 無所属
公式サイト 岸本さとこ公式サイト

当選回数 1回
在任期間 2022年7月11日 - 現職
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岸本 聡子(きしもと さとこ、1974年7月15日 - )は、日本政治家東京都杉並区長(1期)。

来歴[編集]

東京都大田区生まれ。中学・高校時代は神奈川県横浜市で暮らした。

1992年6月、リオ・デ・ジャネイロで開かれた地球サミットに関心を持ち、以来環境運動に参加する[注 1]

1993年3月、神奈川県立川和高等学校卒業。同年4月、日本大学文理学部社会学科に入学。

1996年4月、大学4年生のときに国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」の代表に就任[3]。同年8月10日、野外テクノコンサート「RAINBOW 2000」が富士山2合目の日本ランドHOWゆうえんち(現・ぐりんぱ)で開催。「A SEED JAPAN」は徹夜で行われたコンサートのごみ回収を計画し、多数のボランティアとともに実施した。ごみ回収の模様は毎日新聞に写真付きの記事で報じられ、岸本の名前も掲載された[4]

1997年3月、日本大学を卒業。同年4月、「A SEED JAPAN」の代表を退くが[3]、手取り6万円の給料で専従スタッフとなる[5][6]。同年12月1日から11日にかけて国立京都国際会館で「地球温暖化防止京都会議」が開催。会議に参加した「A SEED JAPAN」は「未来世代地球憲章」を発表した。モーリス・ストロングミハイル・ゴルバチョフ国連での採択を目指していた「地球憲章」にも反映させたいと岸本はメディアの取材に答えた[7]

1998年、ヨーロッパで開かれた地球温暖化防止関連のイベントで、のちに夫になる男性と知り合う[5]2001年、男児を出産。3か月後に夫の拠点であったオランダのアムステルダムに移住[6]

2003年、国際政策シンクタンクNGO「トランスナショナル研究所」に就職。2008年ベルギーに移住[6]

外国の水道事業の再公営化を紹介する日本語の書籍を、2018年から2020年にかけて2冊刊行した(共著含む)。

2022年杉並区長選挙[編集]

2022年1月30日、児童館統廃合やJR駅周辺の道路拡幅事業などの田中良杉並区長の区政運営に批判的な区民らが、市民団体「住民思いの杉並区長をつくる会」を結成した[8]。同年2月9日、田中は、任期満了に伴う区長選挙への4選出馬を表明[9]

「住民思いの杉並区長をつくる会」では毎週ボランティア会議が行われたが、候補者はなかなか決まらなかった[10]。3月末、団体メンバーで、NPO法人アジア太平洋資料センター共同代表の内田聖子が、旧知の間柄であった岸本に白羽の矢を立て、4月10日に岸本の擁立が決定した[11][12][10][注 2]。同月、岸本はベルギーのルーヴェンから西荻窪に移り住んだ[13][14][15]。同月、区議会の最大会派「杉並区議会自由民主党」(15人)から、田中区政に批判的な大泉泰政、浅井邦夫、渡辺友貴、井原太一、大和田伸、今井洋、脇坂達也、吉田愛、井口かづ子の9人が脱会し、新会派「自由民主党杉並区議団」を結成した[16][17][18]。岸本陣営の選対本部長を務めた内田は、この分裂が選挙の結果に大きな影響を与えたとのちに語っている[10]。5月28日、区議の田中裕太郎[注 3]が出馬を表明[20]

同年6月19日投票・20日開票の杉並区長選挙に、立憲民主党日本共産党れいわ新選組社民党杉並・生活者ネットワーク緑の党グリーンズジャパン新社会党などの推薦を受けて立候補[8][21]。現職の田中良は自民党公明党の支援と連合東京の推薦を受けた[12][22][23]。選挙は田中良、岸本、田中裕太郎の計3人の争いとなり、投開票の結果、岸本が田中良を187票差の接戦の末破り、初当選を果たした[24]。投票率は前回より5.5ポイント増の37.52%。東京新聞は「投票率のアップに伴い組織票の割合が下がり、無党派層の票が選挙結果を動かしたとみられる」と報じた[25][12]。杉並区では初めての女性区長となった。7月11日に区長へ就任[26]

※当日有権者数:472,619人 最終投票率:37.52%(前回比:+5.5pts)

候補者名年齢所属党派新旧別得票数得票率推薦・支持
岸本聡子47無所属76,743票44.41%(推薦)立憲民主党日本共産党れいわ新選組社民党
杉並・生活者ネットワーク緑の党グリーンズジャパン新社会党
田中良61無所属76,556.72444.31%(推薦)連合東京[23]
田中裕太郎46無所属19,487.27511.28%

人物・区政[編集]

  • 2022年9月12日、岸本は区議会における所信表明演説で「杉並区版パートナーシップ制度の年度内の条例化を目指して準備を進める」と述べた[27]。2023年3月、性的少数者LGBTなど)の関係を公的に認めるパートナーシップ制度を盛り込んだ性の多様性推進条例案を区議会に提出した。同議案は可決後、4月1日に施行された[28]。同日付の『広報すぎなみ』の裏表紙に岸本は長文のコメントを寄せ、「これまで生きづらさを感じてきた性的マイノリティーのカップルを地域社会が祝福し、支えるための制度として運用するとともに、ここを出発点として、多様なご意見等を把握しながら制度を育ててまいります」と述べた[27]
  • 2023年2月の定例会で区議会の自民党会派幹部が「(前区政より)見劣りする」「(岸本氏の)リーダーとしての資質に不安を覚える」などと岸本を批判。区議会での対立が鮮明化した。初当選のときから過半数を占める反岸本勢力を突き崩すため、岸本は同年4月の区議選に向けて、「環境先進都市」や多様性ある社会の実現、「対話と参加」による自治など7項目の「政策合意書」に賛同する候補を支援するという作戦に出た[29]。区長選で岸本を支えた住民団体は「区長は変わった。次は議会」を合言葉に、岸本に賛同する立候補予定者を一堂に集めて街頭演説する「合同街宣」を繰り返し開催した。4月16日、選挙が告示され、定数48に対し69人が立候補した。岸本は19人の候補者を支援し、そのうち15人が女性だった。同日から投票前日の22日までの1週間、公務時間外に自転車や電車でかけつけ、応援する候補への支持を呼びかけた。また、独自の行動として1人で連日街頭に立ち「投票に行こう」と呼び掛けた[29][30]。4月23日投票、24日開票。女性が24人当選し、男性の23人を上回った(山名奏子は性別を公表しなかった)[31]。投票率は43.66%で、前回と比べて4.19ポイント上昇した。自民党は改選前の16議席を9議席に減らし、全員当選が目標だった公明党は落選者を出すなど、岸本の行動が波乱を起こす結果となった[29][30]

著書[編集]

単著
  • 岸本聡子『水道、再び公営化!―欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』集英社集英社新書〉、2020年3月17日。ISBN 978-4087211139 
  • 岸本聡子『私がつかんだコモンと民主主義―日本人女性移民、ヨーロッパのNGOで働く』晶文社、2022年7月26日。ISBN 978-4-7949-7319-1 
  • 岸本聡子『地域主権という希望―欧州から杉並へ、恐れぬ自治体の挑戦』大月書店、2023年1月16日。ISBN 978-4-272-21128-9 
共著
  • 岸本聡子、三雲崇正、辻谷貴文、橋本淳司『安易な民営化のつけはどこに―先進国に広がる再公営化の動き』イマジン出版、2018年12月21日。ISBN 978-4872998047 
  • 内田聖子(編著)、岸本聡子、武田かおり他『日本の水道をどうする!? 民営化か公共の再生か』コモンズ、2019年8月3日。ISBN 978-4-86187-159-7 
  • アジア太平洋資料センター(編)、藤原辰史、斎藤幸平、内田聖子、大江正章、岸本聡子他『コロナ危機と未来の選択―パンデミック・格差・気候危機への市民社会の提言』コモンズ、2021年4月28日。ISBN 978-4-86187-169-6 
  • 斎藤幸平、松本卓也[要曖昧さ回避](編)、白井聡松村圭一郎、岸本聡子、木村あや、藤原辰史『コモンの「自治」論』集英社、2023年8月25日。ISBN 978-4-08-737001-0 

出演[編集]

映画[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 辻元清美の証言より[1]。当時、ピースボートなどの活動をしていた辻元は地球サミットにNGOの一員として参加[2]。二人は同サミットを通じて知り合った。
  2. ^ 内田聖子も、水道事業民営化の反対の立場から、2019年に『日本の水道をどうする!?―民営化か公共の再生か』を出版している。
  3. ^ 田中裕太郎は2012年8月に尖閣諸島魚釣島に上陸し、日本の国旗を掲げた人物として知られる[13][19]

出典[編集]

  1. ^ 清美チャンネル (2022年7月4日). “【LIVE】7.4 20:30 START 2人の「へこたれへん!」原動力とは? つじもと清美 × 泉房穂”. YouTube. 2022年7月5日閲覧。
  2. ^ 第140回国会 衆議院 環境委員会 第2号 平成9年2月21日”. 国会会議録検索システム. 2022年7月5日閲覧。
  3. ^ a b 歴史年表”. 国際青年環境NGO A SEED JAPAN. 2022年6月20日閲覧。
  4. ^ 『毎日新聞』1996年8月30日付東京夕刊、総合、9面、「『キャンパる』 肌で感じた1万人の『ごみ』収集体験―日本ランドHOW遊園地で」。
  5. ^ a b “水へのアクセスは権利だと説く 岸本聡子さん 博物館の力強さを信じて”. ふぇみん. (2019年2月25日). https://www.jca.apc.org/femin/interview/20190225kishimoto.html 2022年6月20日閲覧。 
  6. ^ a b c プロフィール”. 岸本さとこ公式サイト. 2022年6月20日閲覧。
  7. ^ 『毎日新聞』1997年12月13日付東京朝刊、科学、25面、「世代と国境を超え、活動―地球温暖化防止京都会議、240のNGOが参加」。
  8. ^ a b 井上恵一朗 (2022年6月20日). “杉並区長選、新顔の岸本氏が初当選 現職の田中良氏と約190票差”. 朝日新聞. https://www.asahi.com/articles/ASQ6N457ZQ6NUTIL00L.html 2022年6月20日閲覧。 
  9. ^ “田中・杉並区長、4選出馬を表明 6月19日投票 /東京”. 毎日新聞. (2022年2月10日). https://mainichi.jp/articles/20220210/ddl/k13/010/005000c 2022年7月1日閲覧。 
  10. ^ a b c デモクラシータイムス (2022年6月30日). “岸本さとこはなぜ勝てた!? 杉並区長選(内田聖子)【2022選挙に行こう】”. YouTube. 2022年7月1日閲覧。
  11. ^ 砂上麻子 (2022年4月12日). “NGO研究員の岸本さん擁立へ 杉並区長選で市民団体”. 東京新聞. https://www.tokyo-np.co.jp/article/171122 2022年6月20日閲覧。 
  12. ^ a b c 砂上麻子、長竹祐子 (2022年6月20日). “「女性が頑張った選挙だった」 杉並区長選で岸本聡子さんが初当選 約190票差で現職破る”. 東京新聞. https://www.tokyo-np.co.jp/article/184606 2022年6月21日閲覧。 
  13. ^ a b 砂上麻子 (2022年6月15日). “杉並区長選 候補者の横顔”. 東京新聞. https://www.tokyo-np.co.jp/article/183434 2022年6月20日閲覧。 
  14. ^ Kishimoto Satoko Facebook 基本データ
  15. ^ 松岡瑛理 (2022年8月19日). “187票差で杉並区初の女性区長、岸本聡子さんの異色経歴 「男社会に風穴あけなきゃダメ」”. AERA dot.. 2022年8月26日閲覧。
  16. ^ 「自民党すぎなみ」区政報告 号外 令和4年春。
  17. ^ 杉並の問題をみんなで考える会 2022年4月4日 午後9:03”. Twitter. 2022年7月1日閲覧。
  18. ^ “杉並区長に岸本氏 初当選 僅差で現職破る”. 読売新聞. (2022年6月21日). https://www.yomiuri.co.jp/local/tokyo23/news/20220620-OYTNT50254/ 2022年7月1日閲覧。 
  19. ^ 山崎元 (2012年8月21日). “同行記者が見た尖閣諸島・魚釣島上陸の一部始終”. SPA!. https://nikkan-spa.jp/276115 2022年6月22日閲覧。 
  20. ^ 砂上麻子 (2022年5月29日). “杉並区長選出馬 田中区議が表明”. 東京新聞. https://www.tokyo-np.co.jp/article/180223 2022年6月22日閲覧。 
  21. ^ 令和4年6月19日執行 杉並区長選挙選挙公報” (PDF). 杉並区選挙管理委員会 (2022年6月12日). 2022年6月20日閲覧。
  22. ^ “杉並区長選、野党系の岸本聡子氏が初当選…自公推薦の現職・田中良氏と187票差”. 読売新聞. (2022年6月20日). https://www.yomiuri.co.jp/election/local/20220620-OYT1T50129/ 2022年6月21日閲覧。 
  23. ^ a b 連合東京【公式】”. Twitter (2022年6月14日). 2022年6月21日閲覧。
  24. ^ “杉並区長選 岸本聡子さんが初当選 同区で初、東京23区で3人目の女性区長 投票率は37.52%”. 東京新聞. (2022年6月20日). https://www.tokyo-np.co.jp/article/184534 2022年6月20日閲覧。 
  25. ^ 村上一樹、砂上麻子、奥野斐 (2022年6月22日). “投票率アップが選挙結果に影響か 新人勝利の杉並区長選「変化求め投票」 物価高争点の参院選は?”. 東京新聞. https://www.tokyo-np.co.jp/article/184846 2022年6月22日閲覧。 
  26. ^ 井上恵一朗 (2022年7月11日). “私に投票しなかった人たちへ 東京・杉並、女性区長の就任メッセージ”. 朝日新聞. https://www.asahi.com/articles/ASQ7C5KFFQ7CUTIL020.html 2022年12月31日閲覧。 
  27. ^ a b 後藤純一 (2023年4月3日). “4月1日、広報すぎなみに「性の多様性尊重条例」施行を祝う区長コメントが掲載され、市民団体のお祝い街宣も行なわれました”. PRIDE JAPAN. 2023年5月11日閲覧。
  28. ^ 原田遼 (2023年3月16日). “パートナーシップ制度 杉並区が4月から導入”. 東京新聞. 2023年5月11日閲覧。
  29. ^ a b c 松田果穂 (2023年5月2日). “東京・杉並区議会が「女性過半数」に、動いた岸本聡子区長の作戦”. 朝日新聞. 2023年5月11日閲覧。
  30. ^ a b 原田遼 (2023年4月28日). “杉並区議選の波乱を起こした「2万票」…女性が当選者の半数、自民が大量落選”. 東京新聞. 2023年5月11日閲覧。
  31. ^ 「女性の時代だな」選挙で敗れた88歳現職がつぶやいた 女性が半数の議会も「ようやくスタートライン」”. 東京新聞 (2023年4月25日). 2023年4月25日閲覧。
  32. ^ https://eiga.com/movie/100718/>

外部リンク[編集]

公職
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田中良
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2022年 -
次代
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