ディーゼル排気微粒子

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ディーゼル機関車の排気

ディーゼル排気微粒子(ディーゼルはいきびりゅうし、英語:Diesel Particulate Matter、略称:DPM、Diesel Exhaust Particles、略称: DEP)とは、ディーゼルエンジン排気に含まれる微粒子成分[注 1]を指し、濃度が高い場合は黒煙として見ることができる。その成分には発ガン性が指摘されるものや呼吸器疾患の原因物質として考えられているものが含まれていて、古くから研究が続けられている。また、ディーゼルエンジンに触媒を用いた排気浄化装置が長らく実用化されなかった理由の一つでもある。

解説

ディーゼルエンジンの燃焼機構は拡散燃焼と呼ばれ、液体燃料によって蒸発し、周囲の空気に拡散しながら燃焼している。したがって、酸素と燃料の混合割合は不均一となり、酸素濃度の低い領域(低酸素雰囲気)を取り囲むように燃焼が進行する。低酸素雰囲気下にある燃料成分は、酸素と結合して燃焼することができないまま周囲の燃焼により加熱、圧縮されることにより微粒子成分を構成する化合物に変化すると考えられている。同様に微粒子成分が生成する現象はガソリンエンジンでも発生する場合がある[注 2]が、ディーゼルエンジンは恒常的に発生しており、陸上交通機関や海上交通機関、発電などの産業動力として広く普及していることから、環境への影響が大きいとして着目されている。

成分は主に以下の3種類から構成される。

構造体は10 μm 以下の細かい粒径のものが多く、大気中に長く浮遊することから、浮遊粒子状物質(SPM)とも呼ばれ、大気汚染の要因とされている。多くの場合は炭素の固体微粒子を核に硫酸塩を含んだ液体状のSOFが付着していて[1]、人体の気道に沈着しやすく喘息気管支炎などの呼吸器疾患を引き起こす原因物質と考えられている。また、SOFは主に多環芳香族炭化水素で構成されていて、発ガン性が指摘されている。このため、交通が集中する主要国道の周辺住民が相次いで道路管理者であるに対して訴訟を起こし、2000年には、尼崎公害訴訟名古屋市南部公害訴訟で、自動車由来の浮遊粒子状物質の排出差し止めを国に命じる判決が出ている。

ガソリンエンジンでは1970年代から三元触媒が用いられてきたが、ディーゼルエンジンではDPMが触媒表面を覆うように付着して十分な効果が安定して得られないことが一因となって、触媒を用いた排ガス浄化装置の実用化が遅れていた。したがって近年までのディーゼルエンジンは、光化学スモッグの発生原因となるNOxをそのままの濃度で排出する点も問題視されてきた。特に日本では、大都市圏を中心とした自治体によりディーゼル車由来の大気汚染を抑制する要求が強く、国により法規制が強化された。

日本や欧州自動車メーカーによって燃料噴射方式の開発改善が進み、DPM生成を最小限に抑えることが可能なコモンレール噴射システムやDPF(ディーゼル微粒子フィルター)が実用化された。これにより、燃焼速度(温度と圧力の変化)を緩やかにしてNOxの発生を効果的に抑えることができ、酸化触媒尿素SCRシステムといった後処理機器も普及したことで、ディーゼル車由来の大気汚染問題は大幅に改善しつつある。

脚注

注釈

出典

  1. ^ 杉本和俊著 『ディーゼル自動車がよくわかる本』 山海堂 2006年7月24日初版第1刷発行 ISBN 4381077709

関連項目