睡眠時無呼吸症候群

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睡眠時無呼吸症候群
分類及び外部参照情報
ICD-10 G47.3
ICD-9 780.57
eMedicine ped/2114
MeSH D012891
プロジェクト:病気Portal:医学と医療
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睡眠時無呼吸症候群(すいみんじむこきゅうしょうこうぐん、sleep apnea syndrome; SAS)とは、睡眠時に呼吸停止または低呼吸になる病気である。

病気の定義(概念)[編集]

無呼吸・低呼吸指数」(apnea hypopnea index; AHI) が5以上かつ日中の過眠などの症候を伴うときを睡眠時無呼吸症候群とする定義が多い(米国睡眠医学会の提唱する基準より)。

ここでは

無呼吸 
口、鼻の気流が10秒以上停止すること。
低呼吸 
10秒以上換気量が50%以上低下すること。
無呼吸・低呼吸指数 
1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせたもの。

を指す。

なお、この定義には当てはまらないものの低呼吸状態を繰り返して不眠を訴える場合があり、その場合も睡眠時無呼吸症候群と同様、患者のいびきや歯ぎしりがひどい場合が多いため「いびき・歯ぎしり不眠症」と呼ばれる。

分類[編集]

睡眠時無呼吸症候群は、次の3種類がある。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群 (OSAS, Obstructive SAS) 
上気道の閉塞によるもので呼吸運動はある。肥満者は非肥満者の三倍以上のリスクがあるとされる[1]。また、顎が小さい骨格であるほど発症のリスクも高い(下記の補足を参照)。
中枢性睡眠時無呼吸症候群 
呼吸中枢の障害により呼吸運動が消失するもの。
混合性睡眠時無呼吸症候群 
閉塞型と中枢型の混合したもの。

ほとんどは閉塞型で中枢型は少ない。

原因[編集]

閉塞性睡眠時無呼吸症候群 
睡眠中の筋弛緩により舌根部や軟口蓋が下がり気道を閉塞することが主な原因である。
中枢性睡眠時無呼吸症候群 
脳血管障害・重症心不全などによる呼吸中枢の障害で呼吸運動が消失するのが原因である。

症状[編集]

  • 就寝中の意識覚醒の短い反復、およびそれによる脳の不眠
  • 昼間の耐えがたい眠気
  • 抑うつ
  • 頻回の中途覚醒
  • 集中力の低下
  • (家族などが気づく)睡眠時の呼吸の停止
  • (家族などが気づく)大きな鼾(いびき)など
  • (家族などが気づく)夜間頻尿(2型糖尿病になりやすくなる)
  • 起床時の頭痛
  • インポテンツ(女性の場合は月経不順
  • のどが渇く
  • こむら返り
  • 糖尿病性昏睡

家族などの同居者がいない場合、この病気の発見は非常に遅れる。特に自覚症状が弱い場合は誰にも発見されないため、その状態が徐々に悪化して深刻な問題を起こしてしまう。よくある深刻な問題の例は、自動車の運転中に強い眠気が発生し運転操作を誤って人身事故になることである。そしてこういう事故をきっかけにこの症状を知るというケースが目立つ。この病気が一般社会に知られるようになったのも、患者が起こした事故の報道によるものであった。

また、同居者がいてもこの病気に関する情報を持っていなければ、単に「いびきをかきやすい性質」としか認識されず、治療開始が遅れることもありえる。

睡眠時無呼吸症候群に特有のいびきは、通常の一定リズムではなく、しばらく無音のあと著しく大きく音を発するという傾向・特徴を持っている。

検査[編集]

睡眠ポリソムノグラフィ検査[編集]

睡眠ポリソムノグラフィ検査は、睡眠ポリグラフ (PSG) 検査とも呼ばれる。入院して下記のようなデータ収集を行なうものである。携帯型の簡便な装置(アプノモニター)で在宅検査を行なう場合もある。

  • 脳波、眼電図、頤筋筋電図による睡眠ステージ
  • 口・鼻の気流、胸・腹部の動きによる呼吸パターン
  • パルスオキシメーターによる経皮的動脈血酸素飽和度 (SpO2)

治療[編集]

閉塞性睡眠時無呼吸症候群[編集]

減量療法[編集]

患者が肥満者の場合、減量により上気道周辺の脂肪の重さによる狭窄を改善する。

持続陽圧呼吸療法[編集]

nasal CPAP(nasal continuous positive airway pressure; 鼻シーパップ、ネーザルシーパップ)装置よりチューブを経由して鼻につけたマスクに加圧された空気(陽圧の空気)を送り、その空気が舌根の周囲の軟部組織を拡張することで吸気時の気道狭窄を防ぐ方法。

CPAP装置の例1

CPAP装置には大きく分けて2タイプあり、ひとつは固定CPAPと呼ばれ、もうひとつはオートCPAPと呼ばれる。いずれも日本国内では保険診療として認められており、1ヶ月当たり5,000円弱で利用することができる。一般的には保険診療扱いで「装置をレンタルして使う」ようなスタイルのため、症状の有無に関わらず1ヶ月に最低1回は担当医師の診察が必要であるが、通院が困難な場合などはCPAP装置を購入するという選択肢もある。

固定CPAPは、患者があらかじめ検査入院するか計測器を自宅で取り付けて適切な圧力を測定し、それを医師が装置に設定し、患者が使うものである。設定値が高い場合、患者の入眠が妨げられることもあるため、始動時からある程度の時間は弱い圧力で作動し、徐々に設定した圧力に変わるようになっているものがある。

オートCPAPは設定を必要とせず、患者の状態に合わせてリアルタイムで圧力が変化するようになっている。また、オートCPAPにはデータを記録するための機能を持っており、そのデータを医師が回収して分析することも可能である。

CPAP装置から鼻マスクへ送出される空気の気圧は、症状や体格により異なるが、4~20cmH2O程度である。どうしても処方直後は不快感を持ちやすく、睡眠中無意識に鼻マスクを外してしまうことがある。機種によっては、このような場合に警告音を鳴らすことができる。CPAPの普及に伴い、不快感を減少させるための工夫が年々行われている。どのような形式の鼻マスクであれ、調整用のバンドが付いているので快適な装着感が得られるまで調整を繰り返し、できるだけ早く慣れるように試みるのが基本である。骨格などの関係で、どうしても不快感が残る場合は医師に相談し、サイズ・形状の異なる鼻マスクの提供を受けるのがよい。

鼻マスクは、あえて空気が漏れやすい構造になっている。作動時は常にシューという空気の摩擦音が発生するが、これは異常ではない。潜水用の酸素マスクのような、呼吸に連動して作動するバルブは付いておらず、息を吐き出したらスムーズにマスクの外へ流れるようになっている。機種によっては、息を吐く時だけ圧力が下がるものがある。

特に冬季は、冷たい室内の空気が加圧されて送られるため、冷たさや乾燥を伴うことがある。CPAPの機種によっては(オプションパーツの場合も含め)加湿器・加温器を備えているものがある。これを用いることで不快感を減らすことができるが、過度に加湿・加温した場合、かえって不快感が発生することがある。その場合はCPAP側で対応するのではなく、寝室空調で対応すると解決しやすい。

CPAPにはコンパクトで効率の高いエアフィルターが付いている。花粉ハウスダストなどによるアレルギー症状を持つ患者には、オプションパーツとしてアレルゲン対応のエアフィルターが提供される。どのようなエアフィルターを用いる場合でも、定期的な洗浄・清掃は不可欠である。装置が提供された際はその方法についての説明をよく聞いておくのが得策である。

CPAPの利用者は、宿泊を伴う移動の際は必ずこの装置を携行しなければならない。そのため、CPAPは携行の便を考慮したリュックサックやショルダーバッグのようなケースに収めて提供される。特にビジネス目的の移動では、装置を携行しなかったために移動先での活動が不十分になってしまうようなリスクに留意する必要がある。重さはだいたい1~3キログラムであるが中には1kgを切るとても軽い機器もある。どうしても携行しにくい場合は、精密機器扱いの宅配便で目的地に送っておくなどの工夫が望ましい。 尚、電源の確保が難しい航空機内やキャンプ泊用として、専用の携行バッテリーが各社からリリースされているが、国内では未発売となっている。

スリープスプリント(マウスピース)療法[編集]

スリープスプリント(マウスピース)を用いて下顎を前進させた状態を固定し、気道の狭窄を防ぐ。肥満体でなく下顎の小ささに由来する原因が主な対象。

外科的治療(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)[編集]

口蓋垂、口蓋扁桃、軟口蓋の一部を切除し、気道を広げる。

中枢性睡眠時無呼吸症候群[編集]

  • 原因となる脳疾患、心疾患(虚血性心疾患など)などの治療
  • 在宅酸素療法
  • BiPAP(バイパップ)療法が有効であるとの報告あり

合併症[編集]

肥満高血圧高脂血症不整脈多血症虚血性心疾患脳血管障害糖尿病など。 動脈硬化性疾患の危険因子である。

診療科[編集]

神経内科(睡眠外来のあるところ)、耳鼻咽喉科呼吸器科などが適している。 軽度の場合は、医科からの紹介により歯科・口腔外科でスリープスプリント療法が行われることがある。

疫学[編集]

閉塞性睡眠時無呼吸症候群においては、肥満者は非肥満者の三倍以上の発症リスクがあるとされている。日本人は欧米人よりも肥満度は低いのにもかかわらず、有病率は欧米に劣らないという報告もある。これは、いわゆる東アジア人の顔面骨格構造のために発症しやすいのではないかと考えられている[1](補足も参照)。

補足[編集]

新幹線の運転士やトラックの運転手など、人命に直結する職業に就いているものの中にもこの病気が隠れていることが話題となった。

職業柄、大相撲の力士にもこの病気が多く、横綱大乃国白鵬などがこの病気に悩まされた。なかでも大乃国は現役時代の1980年代後半にこの病気にかかって成績不振となり、好角家の間に睡眠時無呼吸症候群の名を一躍有名にした。[2]また、プロレスラー橋本真也の早すぎる死も睡眠時無呼吸症候群が原因の一つであるといわれている。

NHKスペシャルの「病の起源」によれば肥満体型の人のほかにも、顎の小さい人もなりやすいとも言われている。顎の小さい人は同時に気管が狭く、気管狭窄になりやすいともいわれている。また、人類の顎は時代が経つにつれて小さくなりつつあるといわれている。これは、人類が食料不足を解消するため、これまで口にしてこなかった動物の内臓や骨の髄などの柔らかい部分を食料にしたことで、顎を使う機会を減らしていったと考えられている。そうした影響で人類の顎は次第に小さくなり、ついには睡眠時無呼吸症候群になりやすい骨格へと変わっていったと考えられている。この睡眠時無呼吸症候群を宿命病の一種と考える学者も多い。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b 成井浩司「SASの診断・治療の現状と歯科への期待」、『歯界展望』第105巻第3号、医歯薬出版、2005年3月、 pp. 478-482。
  2. ^ 大乃国のいびき ――睡眠時無呼吸症候群 朝日新聞 (本紙記事より) 2013年1月15日

外部リンク[編集]