間質性肺炎
間質性肺炎(かんしつせいはいえん、interstitial pneumonia (IP))は肺の間質組織を主座とした炎症を来す疾患の総称。治療の困難な難病である。進行して炎症組織が線維化したものは肺線維症(はいせんいしょう)と呼ばれる。間質性肺炎のうち特発性間質性肺炎(後述)は日本の特定疾患。間質性肺臓炎(interstitial pneumonitis)ともいう。
1989年6月には、美空ひばりがこの病因により、52歳で死亡した。また2009年5月には、官房副長官だった鴻池祥肇がこの病気を理由に入院し、官房副長官を辞任した。
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病態概念 [編集]
肺は血液中のガスを大気中のものと交換する器官であり、大気を取り込む肺胞と毛細血管とが接近して絡み合っている。それらを取り囲んで支持している組織が間質である。
通常、肺炎といった場合には気管支もしくは肺胞腔内に起こる炎症を指し、通常は細菌感染によるものを指す。間質性肺炎の場合は支持組織、特に肺胞隔壁に起こった炎症であり、肺胞性の肺炎とは異なった症状・経過を示す。
- 肺コンプライアンスの低下
- いわば「肺が硬くなる」。肺の支持組織が炎症を起こして肥厚することで、肺の膨張・収縮が妨げられる。肺活量が低下し、空気の交換速度も遅くなる。
- ガス交換能の低下
- 間質組織の肥厚により毛細血管と肺胞が引き離される。その結果、血管と肺胞の間でのガス交換(拡散)効率が低下し、特に酸素の拡散が強く妨げられる。
症状 [編集]
その病態から、呼吸困難や呼吸不全が主体となる(息を吸っても吸った感じがせず、常に息苦しい)。また、肺の持続的な刺激により咳がみられ、それは痰を伴わない乾性咳嗽である(痰は気管支や肺胞の炎症で分泌されるため)。肺線維症に進行すると咳などによって肺が破れて呼吸困難や呼吸不全となり、それを引きがねとして心不全を起こし、やがて死に至ることもある。
所見・診断 [編集]
- 理学所見
- 診察上特徴的なのは胸部聴診音で、パチパチという捻髪音 fine crackleが知られる。これはマジックテープをはがす音に似ているため、マジックテープのメーカー(ベルクロ社)にちなんでベルクロラ音とも呼ばれる。また、呼吸器障害を反映してばち指がみられることもある。
- 臨床検査
- 単純X線撮影および胸部CTではすりガラス様陰影 ground-glass opacityが特徴的である。これは、比較的一様に濃度が上がった、ぼやっとした肺陰影である。進行すると線維化を反映して蜂巣状を呈するようになっていく。診断は画像診断でほぼ確定することができる。
- 呼吸生理学検査では、%肺活量、一酸化炭素拡散能の低下がみられる。これは重症度判定の目安になる。間質性肺炎は基本的に拘束性換気障害を呈するため、COPDなどの閉塞性肺疾患を合併していない限り、1秒率は低下しない。
- 血液検査では、非特異的だがLDH、血沈の上昇が知られる。特異性の高い所見としてはSP-A、SP-D、KL-6の上昇があり、これは炎症の活動度の判定や治療効果の判定に信頼性が高い。
- 病理所見
- 硝子膜形成、II型上皮の腫大・増生、肺胞壁への炎症細胞浸潤がみられる。末期には蜂窩肺となる。
治療 [編集]
炎症の抑制を目的としてステロイドホルモンや免疫抑制剤が使用される。感染が原因である場合、これらは増悪を招くおそれがある。2008年より、日本ではピルフェニドン(商品名ピレスパ錠200mg®)が発売された。現在日本でのみ承認されている。光線過敏症などの副作用はあるが、特発性肺線維症(病理組織分類では通常型間質性肺炎)に対してはこの薬のみが唯一有効性が証明されている。
対症療法として呼吸不全に対して酸素投与が行われるが、進行して二酸化炭素排泄も不十分となった場合には酸素投与のみでは炭酸ガスナルコーシスを引き起こしかねないため人工呼吸器を導入せざるを得なくなる。
肺移植の有用性も検討されており移植の適応疾患に認められているが、日本では2005年の時点で10例程度施行されたのみである。
予後 [編集]
進行性で治療に抵抗性のものでは数週間で死に至るものもある。慢性的に進行した場合は10年以上生存することも多い。
原因による分類 [編集]
- 感染
- ウイルス感染は間質性肺炎の形態をとることがあり、間質性肺炎の鑑別診断の一つとして考慮すべきである。血液疾患などで見られることの多いサイトメガロウイルス肺炎が代表的なものであるが、インフルエンザウイルス等も原因となることがある。
- 膠原病
- 関節リウマチ、全身性強皮症、皮膚筋炎、多発性筋炎、MCTDなど線維化を来す膠原病の一症候として間質性肺炎が出現する頻度が高い。特に皮膚筋炎に合併するものは急速に進行し予後が悪い傾向がある。
- 放射線
- 画像診断程度の線量ではまず発生することはなく、放射線療法程度の強い被曝に起こる。照射野に一致した炎症像を呈する。また、基礎疾患として間質性肺炎のある患者の場合は照射野外にも広範囲に広がる重篤な間質性肺炎を起こす可能性がある。
- 中毒・薬剤性
- ブレオマイシン、ゲフィチニブなどの抗癌剤、漢方薬の小柴胡湯、インターフェロン、抗生物質などや胆道疾患改善薬(ウルデストン錠)によるものがよく知られている。特にゲフィチニブによるものは日本(人)での発症率が高く、主として先行販売されていた海外でのデータをもとにして薬事承認されていたため上梓後に危険性が顕在化することとなり、社会的にも大きな影響を生じた。これらが疑われたときには原因薬剤の速やかな中止が第一となる。
中毒としては、パラコート中毒の際に細胞障害の結果起きることがある。この場合、パラコートの細胞障害作用には酸素が働いているため酸素投与は絶対禁忌となる。
特発性 [編集]
以上に挙げた明確な原因を持たないものは特発性間質性肺炎(IIP: Ideopathic Interstitial Pneumonitis)と呼ばれる。組織型によりいくつかに分類されるが、剥離性間質性肺炎は喫煙との関連が明らかになっている。
病理学的分類:Liebow(1968)の分類
- 通常型間質性肺炎(UIP: usual interstitial pneumoniae)
- 閉塞性細気管支炎を合併したびまん性肺胞障害(BIP: bronchiolitis obliterans and diffuse alveolar damage)
- 剥離型間質性肺炎(DIP: desquamative interstitial pneumoniae)
- 巨細胞性間質性肺炎(GIP: giant cell interstitial pneumoniae)
- リンパ性間質性肺炎(LIP: lymphoid inerstitial pnumoniae)
その後検討され、2002年のATS(American thoracic society)/ERS(European respiratory society)の分類では、以下の7つに分類できる。
- UIP (usual interstitial pneumonia)
- NSIP (nonspecific interstitial pneumonia)
- COP (cryptogenic organizing pneumonia)- BOOP(bronchiolitis obliterans with organizing pneumoniae:器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎)と言われていたもの
- DIP (desquamative interstitial pneumonia)
- RB-ILD (respiratory bronchiolitis-associated interstitial lung disease)
- AIP(acute interstitial pnaumonia)
- LIP (lymphocytic interstitial pnaumonia)
急性増悪 [編集]
間質性肺炎は、原疾患の病勢、治療薬の副作用、感染症などをきっかけに急激に症状が増悪し致命的となる場合がある。これを急性増悪といい、管理上の最大の問題となる。緊急的にステロイドパルス療法が行われる。
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