ステロイドホルモン

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ステロイドホルモン〈Steroid hormones〉とは脊椎動物に作用するホルモンである。ステロイドホルモンは結合する受容体により5種類に分類することができ、それは

  1. 糖質コルチコイド
  2. 鉱質コルチコイド[1]
  3. アンドロゲン
  4. エストロゲン
  5. 黄体ホルモン[2]

である。

ビタミンD誘導体はホルモン様受容体に結合するホルモン系に関係するので6番目に並べられることもある。 しかし、化学構造的にはステロイドというよりはステロールに属する。

糖質コルチコイド、鉱質コルチコイドは副腎皮質より分泌されるため副腎皮質ホルモンとまとめて言うこともある。

炎症性疾患の治療のために用いられる、いわゆる「ステロイド」は、ステロイドホルモンを配合した薬品(ステロイド剤)のことであり、多くの場合は糖質コルチコイドおよびその改変型が用いられる。また、スポーツなどでその投与がドーピング問題として取り上げられることがある「ステロイド」とは、ステロイドホルモンと同様あるいはそれより強力なホルモン作用を持つ人工的に合成されたステロイドであり、鉱質コルチコイドや男性ホルモンが用いられる。外用剤は皮膚炎の治療にも使用される。ステロイド外用薬を参照のこと。.

目次

[編集] 概略

天然型ステロイドホルモンは一般に生殖腺[3]副腎においてコレステロールから合成され。それらのホルモン分子の構造は脂質であり、それらは細胞膜に達すると容易に内部に通過し細胞核へ到達する。

ステロイドやステロールは脂質に溶解するので血液から標的細胞の 細胞膜やその中の細胞質へとかなり自由に拡散することができる。したがってステロイドホルモンもその誘導体も細胞膜を通過することができ、細胞内にある受容体と結合する。これはペプチドホルモンが極性の為に細胞膜を通過せず、細胞膜上の受容体と結合し、ジクナル伝達を行うのと対照的である。

細胞質中ではステロイドは酵素が関与する、還元、ヒドロキシ化、芳香化などの、変換を受けたりうそのままであったりする。そして細胞質中でステロイドは特異的な受容体と結合する。ステロイドとステロイド受容体との結合は多くの場合は二量体を形成する。2つの受容体サブユニットが互いに結合してDNAに結合する機能を持つユニットが形成され、それは細胞核.に入ることができる。ホルモンシステムのいくつかはヒートショックプロテイン[4]に関連した受容体(分子シャペロン)であることが知られている。ホルモンが核内に入り込むと、ステロイド-受容体基質複合体は特定のDNA配列と結合し、標的遺伝子の転写を誘導する。

ステロイドホルモンは血液中では一般に特定の輸送タンパク質と結合している。性ホルモンやコルチコイドはグロブリンと結合している[5]。さらなる構造変換や異化は肝臓や周辺組織あるいはホルモンの標的組織で行われる。また、組織に広く分布するために血液組織液中にいる時間が長い。その結果、水溶性のものに比べ持続性の長い応答に関わる傾向が見られる。

[編集] 生理作用

ステロイドホルモンは、その機能から、性ホルモン、糖質コルチコイド鉱質コルチコイドなどに分類される(性ホルモンはタンパク同化ホルモンも含む)が、多義的な作用を持つことがほとんどである。すなわち、糖質コルチコイドであっても鉱質コルチコイドのような類代謝作用を弱いながらも持っており、機能による分類は一応の目安に過ぎない。また、ステロイドホルモンはみな、生体のエネルギー利用を助ける方向に作用し、血糖値の上昇、水分の保持、気分の高揚などの作用を持つ。このため、副腎皮質の機能不全や、副腎皮質を制御する下垂体の機能不全でステロイドホルモンが不足すると、全身の倦怠感などが出現する。

いわゆる環境ホルモン(内分泌撹乱物質)は、ステロイドホルモンの受容体と結合し転写を阻害、または不適切なときに促進し生体に悪影響を及ぼすことが多い。

[編集] 生合成

[編集] アルドステロン生合成経路

  1. コレステロール → 20α,22β-ジヒドロキシコレステロール EC 1.14.15.6
  2. 20α,22β-ジヒドロキシコレステロール → プレグネノロン EC 1.14.15.6
  3. プレグネノロン → プロゲステロン EC 1.1.1.145、EC 5.3.3.1
  4. プロゲステロン → 11-デオキシコルチコステロン EC 1.14.99.10
  5. 11-デオキシコルチコステロン → コルチコステロン EC 1.14.15.4
  6. コルチコステロン → 18-ヒドロキシコルチコステロン EC 1.14.15.5
  7. 18-ヒドロキシコルチコステロン → アルドステロン EC 1.14.15.5

[編集] コルチゾール・コルチゾン生合成経路

  1. プレグネノロン → 17α-ヒドロキシプレグネノロン EC 1.14.99.9
  2. 17α-ヒドロキシプレグネノロン → 17α-ヒドロキシプロゲステロン EC 1.1.1.145、EC 5.3.3.1
  3. 17α-ヒドロキシプロゲステロン → 21-デオキシコルチゾール EC 1.14.15.4
  4. 21-デオキシコルチゾール → コルチゾール EC 1.14.99.10
  5. コルチゾール ⇔ コルチゾン EC 1.1.1.146

[編集] エストロン、エストラジオール生合成経路

  1. 17α-ヒドロキシプレグネノロン → デヒドロエピアンドロステロン EC 4.1.2.30
  2. デヒドロエピアンドロステロン → アンドロスタンジオール EC 1.1.1.51
  3. デヒドロエピアンドロステロン → アンドロステンジオン EC 1.1.1.145、EC 5.3.3.1
  4. アンドロスタンジオール → テストステロン EC 1.1.1.145、EC 5.3.3.1
  5. テストステロン → 19-ヒドロキシテストステロン EC 1.14.14.1
  6. 19-ヒドロキシテストステロン → 19-オキソテストステロン EC 1.14.14.1
  7. 19-オキソテストステロン → エストラジオール EC 1.14.14.1
  8. エストラジオール ⇔ エストロン EC 1.1.1.62
  9. テストステロン ⇔ アンドロステンジオン EC 1.1.1.64
  10. アンドロステンジオン → 19-ヒドロキシアンドロステンジオン EC 1.14.14.1
  11. 19-ヒドロキシアンドロステンジオン → 19-オキソアンドロステンジオン EC 1.14.14.1
  12. 19-オキソアンドロステンジオン → エストロン EC 1.14.14.1
  13. アンドロステンジオン → アンドロスタンジオン EC 1.3.99.5
  14. アンドロスタンジオン → アンドロステロン EC 1.1.1.50
  15. アンドロステンジオン → 11β-ヒドロキシアンドロステンジオン
  16. 11β-ヒドロキシアンドロステンジオン → アドレノステロン EC 1.1.1.146

[編集] 反応の経路図

[編集] 合成ステロイド・合成ステロール

さまざまな合成ステロイドや合成ステロールが創り出されている。その多くはステロイド化合物であるが、似た分子形状の為にステロイド受容体に作用しうる非ステロイド分子も含まれる。受容体作用の点でいくつかの合成ステロイドは天然型ステロイドよりも弱いが、あるものは天然型以上に強いものもある。

次に合成ステロイドホルモンの一部を示す。

  • 鉱質コルチコイド: フルドロコルチゾン[7]
  • ビタミンD: ジヒドロタキステロール[8]
  • アンドロゲン: オキシアンドロン[9], デカドラボリン[10] (タンパク同化ホルモン[11]として知られている)
  • エストロゲン: ジエチルスチルベストロール[12] (略号DES)
  • プロゲスティン: ノルエチンドロン[13], 酢酸メドロキシプロゲステロン[14]

[編集] 医薬品

詳細はステロイド系抗炎症薬を参照。

[編集] 総論

ステロイドホルモンは治療薬としても用いられる。ステロイドホルモンは、リンパ球の働きを抑え、炎症を強力に抑制する。そのため気管支喘息アトピー性皮膚炎を代表とするアレルギー疾患をはじめ、膠原病多発性硬化症など自己免疫疾患に対する治療薬として利用されるほか、悪性リンパ腫に対して著効する。非常に効果が高い反面、重篤なものを含む多彩な副作用もあり、使用には慎重を要する薬剤の一種である。この場合には、抗炎症活性を高め、かつ本来の血糖値制御などのホルモン活性を低める目的で修飾基を改変されたものが用いられることが多い(プレドニゾロンデキサメサゾンなど)。

ステロイド内服薬ステロイド外用薬吸入ステロイド点滴座薬点眼薬などの形態が存在する。

医師による処方薬のみならず、一般に販売される市販薬にも含まれているものがある。

[編集] 副作用

全身投与

多彩・重大な副作用のうち、代表例を列記する[15]

局所投与

尚、ステロイド外用薬は全身症状が表れにくいが、大量または長期間に広い範囲の密封法〈ODT〉により、副腎皮質ホルモンを全身投与した場合と同様な症状が現れる例が知られている[16]

[編集] 全身投与における諸注意

外部からのステロイドホルモン投与(特に内服ステロイド薬)で副腎皮質ステロイドホルモン分泌能が抑制され、副腎皮質が萎縮・機能低下する。これにより、特に急激な投与中止後に体内のステロイドホルモン不足による諸症状が見られることがある。これをステロイド離脱症候群とよばれ、強い倦怠感吐き気頭痛血圧低下などの症状が起こる。このためステロイドの離脱に際しては、急激な中止・減量を避け、症状を考慮しながら少量ずつ段階的に減量するなどの細やかな治療計画が必要である。自己判断で急激に服用を中止することは危険を伴うので、医師の指示のもとに行うことが大切である。

上記の様な多彩かつ重篤な副作用があるが、効果も高いので日本の医療現場では広く処方・販売される。しかし市場には作用の強弱や体内動態の異なるステロイド剤は多数開発されているので、症状や副作用の程度により適切な薬剤を選択することも可能である。副作用を回避する為にも、主治医は薬の性質や予想される副作用を前もって患者に伝え、患者は投薬により生じた症状は適切に主治医に伝え治療に反映させるといった対応(インフォームド・コンセント)が重要な薬剤である。

[編集] 筋肉増強剤

スポーツ選手が自分達の競技パフォーマンス向上のため、特に筋力を向上させることを目的にステロイドを使用する事は意外に古くから行われていた。競技の公平性や選手の健康のために、様々な検査方法でドーピングの蔓延を防ごうと努力され、オリンピックをはじめとする大会では各種の厳重な検査を実施している。しかし、規制対象外の薬品を新たな増強剤として採用したり、増強剤の使用痕跡が出ないような薬品が開発されたりと、あの手この手で検査をすり抜ける試みが後を絶たない。

中には国家が中心になってドーピングを行っている場合もあり、近年では検査をごまかす能力に長けた大国のドーピング違反者が減り、逆にドーピング歴の浅い小国が検査に引っかかる機会が多いという現象も起きている。また米国では、有名なメジャーリーガーにステロイド使用の疑惑が持たれたり、また「見栄えを良くしたい」という理由でステロイドを使う高校生が出て社会問題となったため、ステロイドの販売を法律で規制している。

日本においては個人での所有・使用に関しては合法とされているが、オリンピック種目を中心としたほとんどのスポーツではルールで使用を禁じている。法的に所有が禁止されていないため、インターネット販売を通じて入手し使用している者が一部に存在し、また具体的な薬のプロフィールやステロイドサイクルを掲載した情報もネットを中心に出回っているが、その内容の正確性は当然のことながら何の保証もされていない。

筋肉増強剤としてステロイドを使用することは大変危険な行為であり、また筋肉増強剤に「正しい使い方」というものは存在しない。ステロイド使用を必要悪であり、きちんと理解して使えば危険はないという情報は何ら科学的根拠が示されていない。使用することで健康に深刻なダメージを受けるリスクがあるから一般にドーピングとして禁止されているのであり、「こう使えば安全」「この薬なら危険が少ない」という情報で、使用する事は危険である。法に触れないということと、健康上問題がないということは必ずしも一致しない。

[編集] 註・出典

  1. ^ w:en:mineralocorticoid
  2. ^ w:en:progestagen
  3. ^ w:en:gonad
  4. ^ w:en:heat shock protein
  5. ^ コレステロールはリポタンパク質で形成された膜の中の脂肪といっしょになり輸送される
  6. ^ w:en:prednisone略号PDN
  7. ^ w:en:fludrocortisone
  8. ^ w:en:dihydrotachysterol
  9. ^ w:en:oxandrolone
  10. ^ w:en:decadurabolin
  11. ^ w:en:anabolic steroid
  12. ^ w:en:diethylstilbestrol
  13. ^ w:en:norethindrone
  14. ^ w:en:medroxyprogesterone acetate
  15. ^ 水島裕編著 『今日の治療薬-便覧と解説』 南江堂
  16. ^ 8.副作用、『デキサメサゾン外用剤医薬品インタビューフォーム』、pp10-11。

[編集] 外部リンク