モンテ・クリスト伯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『モンテ・クリスト伯』(モンテ・クリストはく、Le Comte de Monte-Cristo)は、アレクサンドル・デュマ・ペールによる小説。
目次 |
[編集] 概要
主人公エドモン・ダンテスが無実の罪で監獄に送られ、そこで長い年月を過ごしたのち、脱獄して巨万の富を手にし、モンテ・クリスト伯爵として自らを陥れた者たちに復讐する物語である。1844年から1846年にかけて、フランスの当時の大手新聞「デバ」紙に連載されて好評を博し、同じく1844年から1846年にかけて18巻本として出版された。
日本では明治時代に黒岩涙香が『史外史伝巌窟王』の題名で翻案。1901年(明治34年)3月18日~1902年(明治35年)6月14日、『萬朝報』に連載され、大好評を得た。以後、日本では長く『巌窟王』(がんくつおう)の名で一般に親しまれることとなった。なお、黒岩涙香の『巌窟王』は、当時の日本人がなじみやすいように人名や船の名前を日本風に変えているが(たとえば、エドモン・ダンテスは團友太郎)、舞台はヨーロッパのままであり、ストーリーも原作とほぼ同じである。
[編集] ストーリー
注意:以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。
1815年、マルセイユの一等航海士であるエドモン・ダンテスは、航海中に死んだ船長の遺言で、ナポレオン・ボナパルトの流刑先であるエルバ島に立ち寄る。そこで、ナポレオンの側近のベルトラン大元帥からパリのノワルティエという人物に宛てた手紙を託される。航海から戻ったダンテスは、船長の死に伴い船主から新たな船長への昇格を約束されるが、それを聞いた会計のダングラールは若輩のダンテスの出世をねたみ、ダンテスの隣人のカドルッスに紹介されたダンテスの恋敵のフェルナンに、検事のもとに「ダンテスがミュラからナポレオンあての手紙を委託されてエルバ島に届け、代わりにナポレオンから支持者に向けて送った秘密文書を預かった」という嘘の密告書を届けるようそそのかす。そんなこととは知らないダンテスは婚約者のメルセデスとの結婚式の準備を進めるが、婚約披露のパーティーの最中に逮捕されてしまう。
ダンテスを取り調べたのは検事代理のヴィルフォールだった。ヴィルフォールに対して、ダンテスは「自分はベルトラン大元帥から私的な手紙を預かっただけだ」と託された手紙を見せるが、手紙の宛先であるノワルティエこそ、ヴィルフォールの父親であり、手紙の内容はナポレオン軍の再上陸に備えて準備をすすめるよう命じる命令書であった。「王政復古の世の中において、身内にナポレオン支持者がいることは身の破滅につながる」と考えたヴィルフォールはダンテスを政治犯が収容されるマルセイユ沖のシャトー・ディフ(イフ城)に投獄し、ダンテスが一生牢から出られないように手配する。
シャトー・ディフでダンテスは無為の日々を過ごし、遂には餓死自殺を図るが、やがて隣りの独房に投獄されていたファリア神父という老人と出会う。ダンテスから事情を聞いたファリア神父は「ダングラールとフェルナンが検事に密告し、ヴィルフォールが自己保身のためにダンテスを投獄したのではないか」と教える。ファリア神父のもとで様々な学問を学ぶダンテスだったが、やがてファリア神父は病に倒れ、モンテクリスト島に隠された財宝のありかをダンテスに伝えて死ぬ。
ファリア神父の遺体と入れ替わることによって、シャトー・ディフからの脱獄に成功するダンテスだったが、そのときダンテスは34歳。既に投獄から14年の月日が過ぎていた。
モンテ・クリスト島の財宝を手に入れたダンテスは、やがてイタリアの貴族モンテ・クリスト伯爵と名乗るようになる。そして、独自に調査した結果、ファリア神父の推理が正しいことを知ったダンテスは、今や成功して時の人となっていたダングラール、フェルナン、ヴィルフォールに近づき、自分の富と権力と知恵を使って復讐していく。
[編集] おもな登場人物
- エドモン・ダンテス/モンテ・クリスト伯爵(Edmond Dantès / le Comte de Monte Cristo)
- マルセイユの船乗りだったが、無実の罪で14年間も投獄され、婚約者も奪われてしまう。獄中でファリア神父に出会い、彼から彼の知識を受け継ぎ、同時に莫大な財宝のありかも教えられる。ファリア神父が死んだ際に彼の死体と入れ替わって脱獄に成功。脱獄後はモンテ・クリスト島の財宝を手に入れて、莫大な富を手に入れると、自身を陥れた者たちへの復讐の準備を始める。数年後、モンテ・クリスト伯としてパリの社交界へと現れ、仇敵との再会を果たす。その後、かねてより準備していた復讐を実行していく。
- メルセデス(Mercédès)
- ダンテスの婚約者。ダンテスが投獄された後、ダンテスを陥れた張本人とは知らず、従兄フェルナンと結婚する。
- フェルナン・モンデゴ/モルセール伯爵(Fernand Mondego / le Comte de Morcerf)
- ダングラール(Danglars)
- もとは船の会計だったが、ダンテスの出世をねたみ、フェルナンをそそのかして嘘の密告をさせる。ダンテス逮捕後、スペインに渡る。スペインの銀行で頭角を現し、フランス有数の銀行家にまでのしあがって男爵の地位を得る。
- ヴィルフォール(Villefort)
- マルセイユの検事代理。自己保身欲の塊であり、自分が出世するためには他人を犠牲にすることをいとわない。検事総長にまで出世するが、ダンテスにそそのかされた夫人が『秘薬』を用いて犯罪を犯し、さらに自身の過去の過ちもベネデットによって暴露されてしまう。
- アルベール(Albert)
- メルセデスとフェルナンの間に生まれた青年。許嫁にダングラールの娘ウージェニーがいるが、本人もウージェニーもあまり乗り気ではない。ローマで友人のフランツと旅行中にモンテ・クリスト伯と出会い、その後山賊たちの手から伯爵によって救出されたことから彼を慕うようになる。伯爵がパリへ旅行に来る際彼を自宅へ招待し両親に伯爵を紹介する。物語の中盤以降の重要なキャラクターの一人である。
- ベネデット(Benedetto)/アンドレア・カヴァルカンティ(Andrea Cavalcanti)
- ヴィルフォールとダングラール夫人の間に生まれた不義の子供。生後すぐ庭に埋められたが、ヴィルフォールに恨みを持つベルトゥッチオ(モンテ・クリスト伯の執事となる)により助けられ、ベネデットと名付けられる。しかし、非行に走り、同居していたベルトゥッチオの義姉を殺害して逃亡し、以後常習犯罪者として生きる。モンテ・クリスト伯に探し出され、「幼くして行方不明になったカヴァルカンティ家の嫡子」として社交界に入り、ダングラールの娘と婚約するが、直後カドルッス殺害容疑で逮捕される。裁判でヴィルフォールが過去に行った悪事を白日の下に晒した。
- ファリア神父(l'Abbé Faria)
- イタリアの神父。イタリアの独立を企てたため、ナポレオンによってシャトー・ディフに収監される。脱獄を企てトンネルを掘っている内に隣りの独房のダンテスと出会う。かつて仕えた貴族の家に伝わる古文書を解読して、モンテ・クリスト島に隠された財宝のありかを突き止めるが、誰にも相手にされなかった。各種言語や知識、そして不撓不屈の精神を兼ね備えた人物であり、ダンテスに知識の全てを教える。やがて衰弱し死期を悟ると、ダンテスに財宝のありかを託して死ぬ。心臓に持病があり、彼が使っていた『秘薬』はダンテスが引き継ぐが、これが後に復讐計画に利用される事になる。
- カドルッス(Caderousse)
- ダンテスの隣人の仕立て屋。根はいい人間だが気が弱いために、ダングラールの悪巧みを知りながら真実を言えなかった。ダンテス逮捕後は没落するが、ブゾーニ神父に変装したダンテスからダイヤモンドを贈られる。しかし、欲を出して犯罪に手を染め、投獄されてしまう。その後、アンドレア・カヴァルカンティ(ベネデット)と脱獄、しばらく放浪していたところ、アンドレアがモンテ・クリスト伯のもとで裕福にしているのを見て、彼にたかるようになる。
- エデ(Haydée)
- ギリシアのジャニナ地方の太守、アリ・パシャ(実在)の娘。フェルナンの裏切りによって父親を殺され、自らも奴隷身分に落とされてしまう。しかし、モンテ・クリスト伯爵によって救出され、以後、出身にふさわしい扱いを受ける。貴族院でフェルナンの罪を告発し、フェルナン失脚に一役買う。モンテ・クリスト伯爵を心から愛している。
- マクシミリアン・モレル(Maximilien Morrel)
- 騎兵大尉。ダンテスの恩人である船主の息子。モンテ・クリスト伯爵からは実の息子のように可愛がられ、エデとの結婚を望まれるが、彼自身はヴィルフォールの娘ヴァランティーヌとの愛を貫く。その矢先、恋人のヴァランティーヌが『秘薬』で毒殺されかかるという事件が起き、結局ヴァランティーヌは死亡してしまい(だがこれは彼女の身に危険が及ばぬように、という伯爵の配慮からの偽装死)、彼は自殺を考えるまでに人生に絶望してしまう。
- ヴァランティーヌ
- ヴィルフォールの先妻の娘。マクシミリアンとは恋人同士。後妻の息子であるエドワールに比べ母親の家系が上流で、家長である祖父に可愛がられていた事もあって、相次ぐ毒殺事件の犯人に疑われる(遺産目的)。
[編集] 日本語で読むには
岩波文庫から全7巻で出ている「モンテ・クリスト伯」(山内義雄訳)が今日、書店で入手できる唯一の完訳である。子供向けのダイジェスト版は岩波少年文庫版全3巻(竹村猛訳)など複数出版されている。 中村真一郎訳栗本薫解説のものが、図書館などにおいてある。
[編集] 派生作品
[編集] 翻案小説
- 『アドリア海の復讐』 Mathias Sandorf(1885年)
- 『復讐(ヴェンデッタ)』 Vendetta!(1886年)
- 『虎よ、虎よ!』 The Stars My Destination (Tiger! Tiger!)(1956年)
- アルフレッド・ベスター翻案。宇宙が舞台。
- 『明治巌窟王』
- 村雨退二郎翻案。日本が舞台。
- 『新巌窟王』
- 谷譲次翻案。日本が舞台。
[編集] 映画・TVドラマ
1908年のサイレント期より幾度となく映画化されている。主な作品は次のとおり。
- The Count of Monte Cristo (1908年 アメリカ 日本公開は不明) 主演:ホバート・ボスワース
- 『巌窟王』 Le Comte de Monte-Cristo (1918年 フランス) 主演:レオン・マト
- 『巌窟王』 The Count of Monte Cristo (1922年 アメリカ) 主演:ジョン・ギルバート
- 『巌窟王』 Le Comte de Monte-Cristo (1928年 フランス) 主演:ジャン・アンジェロ
- 『巌窟王』 The Count of Monte Cristo (1934年 アメリカ) 主演:ロバート・ドーナット
- Le Comte de Monte-Cristo (1955年 フランス 日本未公開) 主演:ジャン・マレエ
- 『巌窟王』 Le Comte de Monte-Cristo (1961年 フランス) 主演:ルイ・ジューダン
- The Count of Monte Cristo (1975年 アメリカ TVシリーズ) 主演:リチャード・チェンバレン
- 『日本巌窟王』(1979年) 主演:草刈正雄、脚本:小野田勇 舞台を江戸時代の日本に置き換えたNHK製作の時代劇。
- 『モンテ・クリスト伯』 Le Comte de Monte-Cristo (1998年 フランス TVシリーズ) 主演:ジェラール・ドパルデュー 総製作費20億円をかけて原作を忠実に再現している。フランス国内では視聴率50%を超えるヒット作となった。ただし、ラストは原作とは異なる。
- 『モンテ・クリスト-巌窟王-』 The Count of Monte Cristo (2002年 イギリス/アメリカ/アイルランド) 主演:ジェームズ・カヴィーゼル 原作をコンパクトにまとめているが、ストーリーには大幅な改編が加えられ、ストーリーの歴史的背景もほとんど省かれている。
- 他にこの作品を元にした喜劇や復讐ドラマは数多く製作されており、『凸凹巌窟王』(1957年、大映、主演:花菱アチャコ)、『女巌窟王』(1961年、新東宝、主演:三原葉子)、『青き復讐の花』(2002年、NHK TV、主演:宮沢りえ) 等がある。
[編集] 漫画
- みなもと太郎 『モンテ・クリスト伯』(1972年講談社『週刊少年マガジン』/原作:アレクサンドル=デュマ)
[編集] テレビアニメ
- 『巌窟王』(2004 - 2005年)
- 当初はベスターの『虎よ、虎よ!』をアニメ化しようとしたが、著作権問題により果たせず、原作の『モンテ・クリスト伯』をアニメ化する事になった。宇宙を舞台にした設定などにモチーフはいくつか残っている。原作では脇役の一人に過ぎなかったアルベールを主人公として、復讐する側の視点ではなく、復讐される側の子どもたちの視点から話を構成するなど、ストーリーや人物設定に大きな改変が加えられている。GONZO製作アニメーション。前田真宏総監督。
[編集] ラジオドラマ
- 『モンテ・クリスト伯』(1996年)
- 新庄嘉章訳版(講談社文庫)をNHK-FMの番組「青春アドベンチャー」でラジオドラマ化。全15回。内野聖陽主演。語りはアリ役の高橋長英。後に内野は2001年の舞台『モンテ・クリスト伯』でも主演している。
[編集] 影響・受容史
- 大正時代の冤罪事件「吉田岩窟王事件」の名は、この事件を紹介した新聞が「今様巌窟王」と呼んだことにちなむ。
- 映画『Vフォー・ヴェンデッタ』で、『巌窟王』の映画版が仮面の男「V」の好きな映画として出てくる。
- 映画『スリーパーズ』にて、主人公たちが復讐計画の合言葉として、エドモンの名を利用する場面がある。
その他、後世の文芸作品で影響を受けているものが幾つもある。例を挙げてみると、
- 死体と入れ替わって脱獄というアイディアは黒澤明監督『用心棒』で使われている。同じ手が『ヤング・インディ・ジョーンズ』でも使われた。
- 監禁した悪人に法外な料金の食事代を請求するというエピソードは黒澤明の『悪い奴ほどよく眠る』に引用されている。
- 韓国ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』でも、追放された主人公が身分を変えて復讐に戻って来るプロットや、宮殿の死体を運び出す門から主人公が袋に入れられて運び出される描写など、『モンテ・クリスト伯』の影響を思わせる。
- 漫画「エリア88」は原作者の新谷かおるによるとこの作品をベースにしたという(主人公・風間真は友に裏切られ、恋人を奪われ、生きて帰ることが難しい外人部隊に入隊させられる)。
- 英語学習者のために書き下ろしたオリジナル、あるいは簡略化された名作が収録されたペンギン・リーダースに『Count of Monte Cristo』として収められているが、脱獄したエドモンが帰ってくると、生きていた父と結婚せずに待っていたメルセデスという、大胆な翻案となっている。
- ゲームソフト「西風の狂詩曲」は、ソフトマックスが制作したRPGで、韓国で大ヒットを記録し、日本でも日本ファルコムがローカライズ販売したゲームソフトである。ストーリーは、モンテ・クリスト伯をモチーフとしている。
- 2007年9月17日放送のあらすじで楽しむ世界名作劇場で、千原ジュニアが「モンテ・クリスト伯」をテーマに取り上げ紹介した。しかし、ヴィルフォールの最後は失踪、また、最初に復讐されるはずのフェルナンが最後にきていたりなど、原作(番組内では岩波文庫版7巻を使っていた)と異なる部分が多々あり、しっかり読んでいなかったことを露呈させた。
- ティム・バートン監督の『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師(2007年12月21日公開)』で、無実の罪に陥れられた主人公が15年間投獄され、脱獄して名前を変えて復讐の為舞い戻るというプロットが『モンテ・クリスト伯』を思わせるとの指摘が近年(2007~2008年現在)持ち上がっているが、元々「スウィーニー・トッド」の名前が出たのは1846年と言われており、これは『岩窟王』とはほぼ同時期である。さらに映画は同作のミュージカルを原作としており、その初演は1979年である。
- 『潜水服は蝶の夢を見る』では、主人公が、小説『女モンテ・クリスト伯』執筆の構想を練っているエピソードがある。後に主人公は脳溢血に倒れて左目しか動かせなくなるが、目の動きで自分の意志を伝えようとする姿を、中風で全身麻痺になり目の動きでしか意志を伝えられなくなっているヴィルフォールの父ノワルティエの姿に重ね合わせようとする描写がある。
- 『金田一少年の事件簿』の最終話は、犯人の境遇が『岩窟王』になぞらえられており、犯人は『岩窟王』と名乗っている。(自分を陥れた者達への復讐や大切な人への恩返しを行っている。)

