ゆとり教育

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ゆとり教育(ゆとりきょういく)とは、従来の詰め込み学習内容を以前よりも縮小した教育のこと。日本教職員組合が提起をし[1][2][3]、国営企業の民営化を推し進めた中曽根内閣の主導のもとにできた臨時教育審議会(臨教審)で、「公教育の民営化」という意味合いで導入された。[4]

目次

[編集] 経緯

  • 1972年(昭和47年) 日本教職員組合が「学校5日制」「ゆとりある教育」の提起をはじめる[1][2][3]
  • 1977年(昭和52年)〜1978年(昭和53年) 学習指導要領の全部改正 (1980年度〔昭和55年度〕から実施)
    • 学習内容、授業時数の削減。
    • 「ゆとりと充実を」「ゆとりと潤いを」がスローガン。
    • 教科指導を行わない「ゆとりの時間」を開始。
  • 1984年 中曽根政権のもとにできた臨時教育審議会(臨教審)がゆとり教育の方針に取り組む[5]
  • 1985-1987年 中曽根政権臨時教育審議会が「個性重視の原則」「生涯学習体系への移行」「国際化、情報化など変化への対応」などの、ゆとり教育の基本となる4つの答申をまとめる。[6]
  • 1989年(平成元年) 学習指導要領の全部改正 (1992年度〔平成4年度〕から実施)
    • 学習内容、授業時数の削減。
    • 小学校の第1学年・第2学年の理科社会を廃止して、教科生活を新設。
  • 1992年(平成4年)9月から第2土曜日休業日に変更。1995年(平成7年)4月からはこれに加えて第4土曜日も休業日となった。
  • 1996年 (平成8年) 文部省中教審委員にて「ゆとり」を重視した学習指導要領を導入[7]
  • 1998年(平成10年)〜1999年(平成11年) 学習指導要領の全部改正 2002年度〔平成14年度〕から実施)・・・ゆとり教育の実質的な開始
  • 2004年(平成16年) OECD生徒の学習到達度調査(PISA2003, TIMSS2003)の結果が発表され、日本の点数低下が問題となる。
  • 2005年(平成17年) 中山成彬文部科学大臣、学習指導要領の見直しを中央教育審議会に要請。
    • 次年度より指導要領外の学習内容が「発展的内容」として教科書に戻る。
  • 2007年(平成19年)安倍晋三首相のもと「教育再生」と称して、ゆとり教育の見直しが着手されはじめる。しかし日教組は「ゆとり教育を推進すべき」との主張を続ける(2007年7月1日、TBS「JNN報道特集」)。

[編集] ゆとり教育以前 「知識重視」対「経験重視」

そもそも、日本の学校教育は知識重視型と経験重視型の教育方針の間で度々揺れ動いてきたという歴史を持っている。

第二次世界大戦前の日本の教育は諸学問の成果を系統的に教授する形態が取られていた。第二次世界大戦後の民主化改革の流れの中で、こういった教育形態は、知識を持つ教員から知識のない児童・生徒に対する一方的かつ権威主義的な教育であり、軍国主義の一因になったものとして批判された[誰?]

そのことから、終戦後の教育には子供達の日常生活という、直接体験から学ぶ経験主義的な教育方針が採用されたのであった。しかし、この経験学習に対しては第二次世界大戦前に比べて学力が低下しているとの批判が次第になされるようになったため、日本の教育は再び系統的な知識も重視するものへ方針を戻すこととなった。ゆとり教育以前のいわゆる「詰め込み教育」も、実のところ、こうした教育方針転換の結果であった[要出典]

1970〜1980年代の団塊ジュニア世代詰め込み教育管理教育受験戦争によって発生した[要出典]校内暴力いじめ登校拒否落ちこぼれ受験戦争など、学校教育や青少年に関わる数々の社会問題を背景に、1996年(平成8年)7月19日の第15期中央教育審議会の第1次答申が発表された。

答申は子供達の生活の現状として、ゆとりの無さ、社会性の不足と倫理観の問題、自立の遅れ、健康・体力の問題と同時に、国際性や社会参加・社会貢献の意識が高い積極面を指摘する。その上で答申はこれからの社会に求められる教育の在り方の基本的な方向として、全人的な「生きる力」の育成が必要であると結論付けた[8]

この提言を受けて、週5日制など「ゆとりの教育」が始まったとされている。具体的に週5日制に移行したのは2002年(平成14年)4月である[9]。なお、この提言の具体策は筑波大附属や学芸大附属などの国立学校で実験されて導入されたものである。

なお、学習指導要領的な性質をもつようになったのは1958年(昭和33年)以降であり、それまでは法的な性質を有していない「試案」とされていた。

[編集] 社会的な支持

知識偏重の詰め込み教育を批判していた教師や保護者などの他にも、経済同友会などの経済界[10][11]や、学者弁護士をはじめとする識者などの民間人が参加した「21世紀日本の構想」懇談会小渕恵三内閣総理大臣の私的諮問機関)でも、ゆとり教育を支持していた[12]。「21世紀日本の構想」懇談会の第5分科会[13]は2000年(平成12年)1月に提出された最終報告書の中で、教育への市場原理導入の観点から、義務教育週3日制と教科内容を5分の3にまで圧縮することを提案した[14]

[編集] 結果

ゆとり教育(ここでは平成10年度から11年度にかけて告示された指導要領を指す)は学力低下を引き起こすと心配されていたが、成果については(文部科学省内においてすら)定まってはいない[15][16]。学力の上昇を示すもの、低下を示すという両方の例が見られる。

例えば、ゆとり教育見直しの機運が高まるきっかけとなった国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2003 2003年にIEA(国際教育到達度評価学会)が実施)[17]では中学2年生の数学は前回のTIMSS1999年よりも9点、前々回のTIMSS1995よりも11点、いずれも有意に低くなっており(順位は5位のまま)、数学が楽しいと思う者の割合も減少している。

一方で、平成15年度 小・中学校教育課程実施状況調査(2003年に国立教育政策研究所が実施)[18]では多くの学年、教科で、前回調査と同一の問題については正答率が有意に上昇した設問が、正答率が有意に下降した問題よりも多かった。特に、小学生と中学3年生の学力向上が顕著で、理科では前回より正答率が上昇し、アンケートで「勉強が好き」「どちらかというと好きだ」と答えた子の割合は増加傾向にある。

しかし2007年12月に発表されたPISA2006では、読解力は14位→15位へ(統計的には9〜16位グループ)、数学的リテラシーは6位→10位へ(同4〜9位)、科学的リテラシーは2位→6位へ(同2〜5位)へと全分野で順位を下げる結果となっている。

これについて、PISAは2003年度が41ヵ国、2006年度が56ヵ国と、年々調査対象国を増加させており、日本の順位低下の理由は調査参加国が増えていることも原因であると主張する「ゆとり教育」擁護派が存在しているものの、実際には以前から参加していた国に追い抜かれる、さらには問題の正答率平均値が下がるという事実が存在し、統計的に見て学力低下があったと見なされている。2003年と2006年で共通に実施された(同一)問題48題について、平均正答率は03年が56.1%、06年が53.4%であり、約2.7%低下していた。正答率の比較では、06年は03年より、上回った問題が8問、下回った問題が40問だった。そのうち5ポイント以上、上回った問題が1問、下回った問題が10問であった。

その他結果の詳細は学力低下#試験・調査結果を参照されたい。

[編集] 政府の方針転換

2005年(平成17年)、中山文部科学大臣が中央教育審議会に学習指導要領の見直しを指示した。

2007年(平成19年)10月30日の中央教育審議会答申ではゆとり教育による学力低下を認め、反省し、授業日数の増加、理数系、英語の授業日数増加を提言した。

他には教育再生会議内閣府設置会議)が出した報告書(第1次:2007年(平成19年)1月24日 第2次:2007年(平成19年)6月1日)において、「授業時間の10%増(必要に応じて土曜日授業の復活)」などが盛り込まれている。

2008年(平成20年)2月15日、文部科学省は諮問機関「中央教育審議会」が前月に出した答申に沿い、2011(平成23)〜2012(平成24)年度から授業時間を全体で3〜6%、理数系に限れば2009(平成21)年度から前倒し実施で15%ほど増加させた指導要領改定案を発表した。なお、高校の指導要領改定案は2013(平成25)年度の1年生から、理数系に限れば2012(平成24)年度の1年生から学年進行で実施される予定。

[編集] 指導要領の解釈のブレの問題

従来、学習指導要領に示される学習内容は「到達目標」(教育目的における十分条件)とされてきた。しかし、実際には「これ以上教えてはいけない」という硬直的な解釈もまかり通り、学習内容の削減とともに学習進度の早い児童・生徒(浮きこぼれなど)に対する対処が問題となった。

2002年平成14年)に文部科学省は学習指導要領の内容を最低基準と位置づけ、発展的な学習内容を教科書に掲載したり、各学校で発展的な学習の指導を行ったりしても良いという方針に改めた[19]。このことと整合性をとるため、2005年(平成17年)の教科書検定では小中学校の教科書にも発展的な内容の記述が容認された。

[編集] 総合的な学習の問題

ゆとり教育によって導入された「総合的な学習の時間」は教員や児童・生徒の力量・意欲が高い場合は成功しやすく、そういった要素に左右されるという欠点を持つとされる。ただし、基本的に総合的な学習時間の何を成功・失敗の評価基準とするのかという問題も存在する。

実際、総合的な学習の時間を有意義に使う学校もある一方で、単に不足している授業時間の補完など評価基準のはっきりした伝統的科目の学力向上に使うなどという所も少なくなかったとされる。また、基礎学力が低い生徒は「総合的な学習の時間」の目的とされる、「主体的に考える力」なども低くなる傾向があるという指摘もある[20]

[編集] 受験産業の反応

改訂された学習指導要領の内容が明らかになると、学習塾や進学予備校などの受験産業は活発な営業活動を行った。マスコミなどを使い「ゆとり教育」に対する危機感を訴えることによって、親の不安を煽り、活発に児童・生徒の勧誘活動を行ったのである[21]

折込チラシ、CMなどの広告活動や、自らがスポンサーとなっているテレビ番組内などで、「小学校では円周率をおよそ3として教えている(日能研[21]」「ゆとり教育で学力低下を引き起こす」「あなたの子供の将来が危ない」という正確性にかける情報で危機感を煽り、営業活動を行った事例もある(実際には円周率を3と教えているわけではない)。

学習塾などがこういった営業活動を行った背景には少子化で子供が減る中で、学習塾間で「パイの奪い合い」が発生していたことが挙げられる[21]

また、一部私立小学や私立中学の募集広告にも「公立小学や公立中学に通うと学力低下、本校は独自カリキュラムで学力低下とは無縁」といった謳い文句での営業活動も見られる。

一般的に、学習塾や進学予備校、さらには半ば進学予備校と化している一部私立学校の教育は本来、日本教育が世界よりも立ち遅れていて、解決すべき課題である「自ら考える、解決する力」を補足的に伝授するというよりも、上位校や有名進学校の受験突破のための「暗記」「受験テクニック」を教えることが多く、偏差値上での学力向上はするが、「考える力」が身につくかどうかは不明であるとの声もある[誰?]

一部の公立校は塾の教師やスタイルを取り入れて学校教育を変えようという試みもみられている。一例としては杉並区立和田中学校(校長は民間出身者)にて2008年(平成20年)1月に行われた「夜スペシャル」があり[22]、これは成績上位者のみを対象に、名門進学塾の講師を派遣して有料(1万円〜2万円)で授業を行う(学校が運営しているわけではなく、保護者の有志団体による運営形式)。

これについて「学校の特色としてはいい」という意見の一方、「学力格差の固定に公立学校が手を貸している」(西東京市教育委員会、武蔵野市教育委員会)、「受験テクニックを学校で教えるべきではない」(杉並区教職員組合委員長)との批判も聞かれたが、結果的には区外からも入学志望者が増加する人気公立中学校となった。

さらには、都立高校などが「総合的な学習の時間」のカリキュラム作成にもたついている間に、日能研を初めとする一部の塾は

「自ら学び考える力を育てる授業。『総合学習』そのものだ」[21]より引用

と「総合的な学習の時間」を商品として提供を始めている。この背景には私立学校中高一貫校入学試験が、PISAに似たものになってきている状況がある[21]

[編集] 世界における「ゆとり教育」的な教育

ゆとり教育をすすめていたデンマークでも、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)の結果が下がり、学力低下が議論になった。教育改革として、義務教育の1年早期化などが議論されている。学校の現場では学力向上を目指した教育改革に反発があるものの、生徒の親は学力低下への不安が強いようである[23]

しかし、同じくOECD生徒の学習到達度調査(PISA:数学・科学・読解力の3教科のみ)においてトップの成績をあげ、全ての項目で日本を上まわったフィンランドは週休二日制であり、授業時間も日本よりかなり少なく、また、「総合的な学習」に相当する時間も日本より多く、「ゆとり教育」に近い内容である。

授業の組み立て方や教科書の選定など、教育内容の大部分を現場の裁量に任せられているという特徴もあり、学習塾や偏差値も存在しない。フィンランドで講師を務めたこともある中嶋博早大名誉教授は「落ちこぼれをつくらない、というだけでなく、楽しんで学ぶことがフィンランドの教育の特徴」「日本や韓国が高得点をあげていた過去の国際調査は、詰め込まれた知識量をみるものだった」「暗記や暗唱が中心の教育に戻したり、授業時間を増やしたりする方法では、日本の教育が抱えている課題は解決できない」として、時数削減や総合的な学習と「学力低下」は無関係であると述べている[24]

フィンランドは授業時間は少ないものの、様々な教育の工夫が試みられている。多くの学校で学費が無料であるため、低所得の世帯でも安心して教育を受けさせることが出来る。また、中高一貫の学校が多いため、受験を気にせずじっくりと学習に取り組む事ができ、学習への理解が不足している、いわゆる「落ちこぼれ」の生徒は義務教育中であっても、留年してじっくり教育を受けるシステムが確立されている。

なお、フィンランドは日本と違い、留年した生徒への社会的なペナルティは皆無である[25]

[編集] 脚注

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  1. ^ a b 2007年7月1日放送TBS「報道特集」にて槙枝元文元委員長談
  2. ^ a b 1992年1月29日毎日新聞社説 日教組が学校五日制を、教職員の週休五日制とセットで実現しょうと運動方針に掲げ始めたのは1972年からだった。(中略)日教組は学校五日制を教育改革としてとらえ、子供にとって、ゆとりのある学校への転換の実現をめざしている。
  3. ^ a b 『迷走 日本の原点』櫻井良子 新潮社 ISBN 9784104253036
  4. ^ http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2002/01254/contents/732.htm
  5. ^ http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2002/01254/contents/732.htm
  6. ^ http://www.asahi.com/edu/university/kougi/TKY200707140244.html
  7. ^ 日教組が支持していた日本社会党自社さ連立政権となり与党となったことで、日教組と文部省の対立が弱まり、1996年、中教審委員に日教組関係者が起用された(2007年7月1日放送TBS「報道特集」)。
  8. ^ 中央教育審議会「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について-子供に『生きる力』と『ゆとり』を-」1996年7月19日
  9. ^ 週5日制の実施はあくまでも国公立学校においての事であり、私立学校では実施に消極的な傾向が強く、特に大都市部の中高一貫校では今なお週6日制を堅持している学校も多い。
  10. ^ 『学校から「合校」(がっこう)へ』1995年4月 経済同友会
  11. ^ 『規制撤廃・緩和に関する要望』1995年9月8日 経済同友会
  12. ^ 広田照幸; 斎藤哲也 (2007-11-16). "なぜ「ゆとり教育」は失敗したのか? 〜せっかちな創造性の追求【前編】". 日経ビジネス オンライン. 日経BP社. 2008-12-16 閲覧。
  13. ^ 第5分科会メンバー一覧
  14. ^ 「21世紀日本の構想」懇談会 (2000-01-18). "第5章 日本人の未来(第5分科会報告書)". 「21世紀日本の構想」懇談会最終報告書. 首相官邸. 2008-12-16 閲覧。
  15. ^ 『「好成績」戸惑う文科省 なぜ、上向いたのか』 毎日新聞、2005年4月23日。
  16. ^ 『ゆとり教育:学力向上にプラスかマイナスか 揺れる評価』 毎日新聞、2007年4月14日。
  17. ^ "国際数学・理科教育動向調査の2003年調査(TIMSS2003)". 国立教育政策研究所 (2004-12-15). 2008-12-17 閲覧。
  18. ^ 研究開発部研究開発課 (7 2005). "平成15年度 小・中学校教育課程実施状況調査". 教育課程実施状況調査. 国立教育政策研究所. 2008-12-17 閲覧。
  19. ^ なお、この方針は“発展的な学習の指導を行わなければならない”というわけではなく、“学習指導要領に定めた最低基準を満たしさらに余裕のある児童・生徒に対し、その実態に合わせてさらに発展的な学習の指導を行っても良い”というものである。
  20. ^ 苅谷剛彦 『調査報告「学力低下」の実態』 岩波書店岩波ブックレット〉(原著2002年10月)。ISBN 9784000092784
  21. ^ a b c d e “【公教育を問う】第2部(2)「総合学習」進化する塾”. 産経新聞(. 2008-02-18). http://sankei.jp.msn.com/life/education/080218/edc0802182202000-n1.htm 2008-12-17 閲覧。. 
  22. ^ 小田博士; 村上智博 (2008-01-26). “「夜スペ」スタート、特効薬か劇薬か 杉並区立和田中”. 産経新聞. http://sankei.jp.msn.com/life/education/080126/edc0801262011006-n1.htm 2008-12-17 閲覧。. 
  23. ^ 『デンマークで“ゆとり教育”見直し』 読売新聞、2006年7月4日。
  24. ^比較・競争とは無縁 学習到達度「世界一」のフィンランド朝日新聞、2005年2月25日。
  25. ^ 実川真由 『受けてみたフィンランドの教育』 文藝春秋(原著2007年9月)。ISBN 4163694501

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

[編集] 外部リンク

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