ゆとり教育

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ゆとり教育(ゆとりきょういく)とは、日本において、2000年代から[1]2010年代初期まで実施されていたゆとりある学校をめざした教育のことである。

概要[編集]

ゆとり教育は、知識重視型の教育方針を詰め込み教育であるとして学習時間と内容を減らし、経験重視型の教育方針をもって、ゆとりある学校をめざし、1980年度、1992年度、2002年度から施行された学習指導要領に沿った教育のことである。

ゆとり教育は、2002年度から施行された学習指導要領による教育であるが[2]、1992年度から施行された新学力観に基づく教育[3][4]、および1980年度から施行された教育もゆとり教育であると定義する人もいる。

ゆとり教育の経緯[編集]

まず1970年代に日本教職員組合 (日教組) が「ゆとりある学校」を提起をし[5][6][7]、国営企業の民営化を推し進めた第2次中曽根内閣の主導のもとにできた臨時教育審議会(臨教審)で、「公教育の民営化」という意味合いの中で導入することでゆとり教育への流れを確立した[8]

さらに、校内暴力いじめ登校拒否落ちこぼれなど、学校教育や青少年にかかわる数々の社会問題を背景に、1996年(平成8年)7月19日の第15期中央教育審議会の第1次答申が発表された。答申は子どもたちの生活の現状として、ゆとりの無さ、社会性の不足と倫理観の問題、自立の遅れ、健康・体力の問題と同時に、国際性や社会参加・社会貢献の意識が高い積極面を指摘する。その上で答申はこれからの社会に求められる教育の在り方の基本的な方向として、全人的な「生きる力」の育成が必要であると結論付け[9]、 「ゆとり」を重視した学習指導要領を導入し開始した。

ゆとり教育は、詰め込み教育に反対していた日教組や教育者、経済界などの有識者などから支持されていたが、生徒の学力が低下していると指摘され、批判されるようになった[10]。そして、中山成彬文部科学大臣は、中央教育審議会に学習指導要領の見直しを要請し、さらに第1次安倍内閣の主導のもとに、ゆとり教育の見直しが着手された。さらに、教育再生会議内閣府設置会議)が出した報告書(第1次:2007年(平成19年)1月24日 第2次:2007年(平成19年)6月1日)において、「授業時間の10%増(必要に応じて土曜日授業の復活)」などが盛り込まれた。そうして2008年には、今までの内容を縮小させていた流れとは逆に、内容を増加させた学習指導要領案が告示され、2009年度以降徐々に施行されていった。マスコミからは、この改訂された教育の事を「脱ゆとり教育」と称されている[11]

経緯一覧表[編集]

 : 1971年(昭和46年)からの学習指導要領
 : 1980年(昭和55年)からの学習指導要領
 : 1992年(平成4年)からの学習指導要領
 : 2002年(平成14年)からの学習指導要領
 : 2011年(平成23年)からの学習指導要領

出来事
1972年 日本教職員組合が、「ゆとり教育」とともに「学校5日制」を提起[5][6][7]
1977年-1978年
(1980年-1982年)
学習指導要領の全部改正。
  • 小学校は1980年度、中学校は1981年度、高等学校は1982年度[12]から施行。・・・ゆとり教育の開始
    • 学習内容及び授業時数の削減。
    • 「ゆとりと充実を」「ゆとりと潤いを」がスローガン。
    • 教科指導を行わない「ゆとりの時間」を開始。
1984年 第2次中曽根内閣のもとにできた臨時教育審議会(臨教審)がゆとり教育の方針に取り組む[8]
1985年-1987年 中曽根政権臨時教育審議会が「個性重視の原則」「生涯学習体系への移行」「国際化、情報化など変化への対応」などの、ゆとり教育の基本となる4つの答申をまとめる[2]
1989年
(1992年-1994年)
学習指導要領の全部改正[13]
  • 小学校は1992年度、中学校は1993年度、高等学校は1994年度[12]から施行。
1992年 9月から第2土曜日休日に変更。[14]
1995年 4月からはこれに加えて第4土曜日も休業日となった。[14]
1996年 文部省中教審委員にて「ゆとり」を重視した学習指導要領を導入[15]
1998年-1999年
(2002年-2003年)
学習指導要領の全部改正[16]
2003年 一部学習指導要領が改正される。
2004年 OECD生徒の学習到達度調査(PISA2003)、国際数学・理科教育調査 (TIMSS2003)の結果が発表され、日本の点数低下が問題となる。
2005年 中山成彬文科相、学習指導要領の見直しを中央教育審議会に要請。
2007年 OECD生徒の学習到達度調査(PISA2006)の結果が発表され、日本の点数低下がさらに問題となる。
2008年 国際数学・理科教育調査(TIMSS2007)の結果が発表され、学力低下の下げ止まる。
2010年 OECD生徒の学習到達度調査(PISA2009)の結果が発表され、学力が上昇する。
2008年
(2011年-2013年)
学習指導要領の全部改正[21]
  • 小学校は2011年度、中学校は2012年度、高等学校は2013年度(数学及び理科は2012年度)[12]から施行。・・・ゆとり教育の終焉

ゆとり教育と誕生年度[編集]

誕生年度と教育の早見表[編集]

生まれた年と学習指導要領の対応表。
赤色が1998年改訂(2002年度以降実施)の行学習指導要領下での教育。橙色、緑色がそれ以前の学習指導要領下での教育。青色がそれ以降の学習指導要領下での教育である。なお、黄緑色、ピンクは移行措置間の教育であり、改訂前の教育と改定後の教育が混ざっている教育となっている。今後、新たに学習指導要領の改変が行われない限り、この表通りに教育が実行される。

ゆとり教育を受けた世代と関係する各教育制度が実施された時期を次の表にしめす。

誕生年度は原級留置(留年)などの処置を受けなかった場合のものである。なお、4月1日生まれの者は前年度生まれ扱いとなる。また、高校では基本的に入学時の教育が卒業するまで継続されるため[22]、1987年度生まれや1988年度生まれが高校の途中からゆとり教育ではなくなったり、1994年度生まれや1995年度生まれが高校の途中から脱ゆとり教育を受けたりすることは原則なく、大学受験も、原則現役の高校生が受けた内容で出題される[23]

表の見方
黄色 水色
示している教育 旧課程教育 ゆとり教育 内容の一部が脱ゆとり教育(移行措置) 脱ゆとり教育(理数のみ) 脱ゆとり教育
ゆとり教育と脱ゆとり教育受ける年代の変化
年度生まれ 小1 小2 小3 小4 小5 小6 中1 中2 中3 高1 高2 高3 現役時の大学入試
1986年 旧課程教育
1987年 ゆとり教育
1988年 ゆとり教育
1989年 ゆとり教育
1990年 ゆとり教育
1991年 ゆとり教育
1992年 ゆとり教育
1993年 ゆとり教育
1994年 ゆとり教育
1995年 ゆとり教育
1996年 脱ゆとり教育(理数のみ)
1997年 脱ゆとり教育
1998年 脱ゆとり教育
1999年 脱ゆとり教育
2000年 脱ゆとり教育
2001年 脱ゆとり教育
2002年 脱ゆとり教育
2003年 脱ゆとり教育
2004年 脱ゆとり教育
  • ここでの旧課程教育とは1989年改訂学習指導要領による教育を指す。
  • ここでの年度生まれはその年の4月2日から、翌年の4月1日生まれまでを指す。

移行期間:算数、数学、理科に関して脱ゆとり教育の内容を一部先行実施(その他の変更点は文部科学省のHPを参照)

ゆとり教育と関連付けられる事項[編集]

学校週5日制

1992年9月[14]に公立学校において、第二土曜日が休日となったのから始まり、1995年度[14]から第四土曜日、そして2002年度[14]からは全ての土曜日が休み(完全学校週5日制)となった。このことは、学校教育法施行規則(第六十一条)に決められており、2014年現在改訂されていないため、公立学校において、原則として土曜日は休みである。なお、私立学校では各学校の方針に任せられているため、土曜日の扱いについては学校によって異なり、完全週5日制を実施している学校もあれば、1991年度以前のように週6日制を続けている学校もある。

また、文部科学省は、完全学校週5日制について、生きる力[24]をはぐくむために必要であるとしている[25]

総合的な学習の時間

1998年の学習指導要領の改正のときに新しくできた科目で、2002年度以降[26]から開始された。総合的な学習の時間教員や児童・生徒の力量・意欲が高い場合は成功しやすく、そういった要素に左右されるという欠点を持つとされるが、基本的に総合的な学習時間の何を成功・失敗の評価基準とするのかという問題も存在する。実際、総合的な学習の時間を有意義に使う学校もある一方で、単に不足している授業時間の補完など評価基準のはっきりした伝統的科目の学力向上に使うなどというケースも少なくなかった。また、基礎学力が低い生徒は「総合的な学習の時間」の目的とされる、「主体的に考える力」なども低くなる傾向があるという指摘もあった[27]。その後、2008年の学習指導要領が改正され、新しい学習指導要領で、この総合的な学習の時間の授業時間が削減された。

絶対評価

1998年の学習指導要領の改正とともに採用された評価方法である絶対評価については、2014年現在も継続している。

ゆとり教育の結果[編集]

ゆとり教育(ここでは平成10年度から11年度にかけて告示された指導要領を指す)は学力低下を引き起こすと懸念されていたが、成果については(文部科学省内においてすら)確定的な評価はない[28][29]。学力の上昇を示すもの、低下を示すという両方の例が見られる。

誕生年度と国際学力調査の結果[編集]

PISAの読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーについての順位の推移

2000年代に入ってから、よく用いられる子どもの学力をはかる指標として、PISATIMSSの結果が挙げられる。ただし、この指標は学力が低下していることを示すための道具として使われているとの指摘もあり、また、条件が一定ではないことなどから、この結果だけで学力が高いか低いかという判断をするのには注意が必要である。

以下、誕生年度とPISAとTIMSSの点数および順位を示す。

PISA、TIMSSの結果早見表
誕生年度 PISA TIMSS(中2) TIMSS(小4) 備考
読解力 数学的リテラシー 科学的リテラシー 数学 理科 算数 理科
点数 順位 点数 順位 点数 順位 点数 順位 点数 順位 点数 順位 点数 順位
1980 605 3 571 3 2002年度以降の学習指導要領以前の教育
1984 522 8 557 1 550 2 579 5 550 4 597 3 574 2
1987 498 14 534 6 548 1 2002年度以降の学習指導要領開始後
1988 570 5 552 6
1990 498 15 523 10 531 5
1992 570 5 554 3 565 3 543 3
1993 520 8 529 9 539 5
1996 536 7 538 4 547 4 570 5 558 4 568 4 548 4 2012年度(中学)学習指導要領開始前[※ 1]
2000 585 5 559 4 小学4年:2011年度学習指導要領開始直前[※ 2]
  1. ^ ただし、中学校1年から移行措置
  2. ^ 小学校3年、4年においては移行措置期間

出典

OECD生徒の学習到達度調査(PISA)[編集]

2004年12月に発表された「OECD生徒の学習到達度調査」(PISA)2003では[32]、読解力は8位から14位へ、数学リテラシーは1位から6位へ(統計的には1位グループ)、科学的リテラシーは2位のまま(同1位グループ)という結果となった。

2007年12月に発表された「OECD生徒の学習到達度調査」(PISA)2006では[33]、読解力は14位から15位へ(統計的には9〜16位グループ)、数学的リテラシーは6位から10位へ(同4〜9位)、科学的リテラシーは2位から6位へ(同2〜5位)へと全分野で順位を下げる結果となっている[34]。2003年と2006年で共通に実施された(同一)問題48題について、平均正答率は03年が56.1%、06年が53.4%であり、約2.7%低下していた。正答率の比較では、06年は03年より、上回った問題が8問、下回った問題が40問だった。そのうち5ポイント以上、上回った問題が1問、下回った問題が10問であった。

2010年12月に発表された「OECD生徒の学習到達度調査」(PISA)2009では[35]、読解力は15位から8位へ(統計的には5〜9位グループ)、数学的リテラシーは10位から9位へ(同8〜12)、科学的リテラシーは6位から5位へ(同4〜6位)へと全分野で順位を上げる結果となっており統計的に、読解力に関して有意に上昇していることが示された[36]。また、同一問題について正答率をPISA2006とPISA2009を比較すると、読解力では58.4%から61.7%、数学的リテラシーでは51.9%から54.4%、科学的リテラシーでは59.5%から61.8%であった。

国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)[編集]

義務教育の中途段階における算数・理科の基礎学力知識を調査するために1995年から4年ごとにIEA(国際教育到達度評価学会)が実施している国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の2003年度調査(TIMSS2003)において、日本の数値がそれまでの調査に比べ低下したことがゆとり教育を見直すきっかけとなった[37]。TIMSS2003では、中学2年生の数学は前回のTIMSS1999年よりも9点、前々回のTIMSS1995よりも11点、いずれも有意に低くなっており(順位は5位のまま)、数学が楽しいと思う者の割合も減少していた。

TIMSS2007では前回のTIMSS2003の結果よりも平均得点が全て上回った[38]。ただし誤差を考慮すると前回と同程度であるとしている。8800人の児童が参加し2011年に行われたTIMSS2011では、小学校4年生の成績は過去最高を記録した。この結果について文部科学省では、「2008年度に学習指導要領を改訂し、学習内容や授業時数を増やしたこと[39]、2007年度からの全国学力調査の取り組みが成果を上げてきた」ことが原因であり「脱ゆとり教育」路線に変更したことの成果であると評価していると報道されている[40]

小・中学校教育課程実施状況調査[編集]

一方で、平成15年度 小・中学校教育課程実施状況調査(2003年に文部科学省に属する国立教育政策研究所が実施)[41]では多くの学年、教科で、前回調査と同一の問題については正答率が有意に上昇した設問が、正答率が有意に下降した問題よりも多かった。特に、小学生と中学3年生の学力向上が顕著で、理科では前回より正答率が上昇し、アンケートで「勉強が好き」「どちらかというと好きだ」と答えた子の割合は増加傾向にある。

社会的な見解[編集]

支持[編集]

元文部省官僚である寺脇研は、当時の文部省の考えを代弁するスポークスマンとしてメディアに出て、ゆとり教育について説明を行っていた。

作家教育課程審議会会長として、ゆとり教育に舵を切った新・学習指導要領の答申の最高責任者であった三浦朱門は2000年7月、ジャーナリストの斎藤貴男に、ゆとり教育について、新自由主義的な発想から、多数の凡人の中に必ずいるはずの数少ないエリートを見つけて伸ばすための「選民教育」であるという主旨を述べた[42]

知識偏重の詰め込み教育を批判していた教師や保護者などの他にも、経済同友会などの経済界[43][44]や、学者弁護士をはじめとする識者などの民間人が参加した「21世紀日本の構想」懇談会小渕恵三内閣総理大臣の私的諮問機関)でも、ゆとり教育を支持していた[45]。「21世紀日本の構想」懇談会の第5分科会[46]は2000年(平成12年)1月に提出された最終報告書の中で、教育への市場原理導入の観点から、義務教育週3日制と教科内容を5分の3にまで圧縮することを提案した[47]

ゆとり教育について、2013年に西部邁(評論家)は、ゆとり教育を主導した寺脇研は、多くの個性のある子供たちの中で勉強の嫌いな子に無理して偏差値教育をしてもしょうがないと主張しており、その意見に賛同していたと述べた[48]

批判[編集]

学力低下の心配から批判された。#ゆとり教育の結果も参照

教育コンサルタントによると、過去に出題された同一問題の正答率を比較した結果、読解力、科学的リテラシー、数学的リテラシーのすべてにおいて、PISA型学力が下がり続けていることがわかっている[49]

また、自分がやりたいことだけをやればいいという考えを教え、その考えを教えた世代にさまざまな人格的影響を与えたという批判もある[50]新学力観も参照 )。

更に「教育上の差別の解消」に向けて始められたはずが実態はスクールカーストの導入を生み差別助長にも繋がっている。

擁護[編集]

第3期の教育改革(2002年度実施された学習指導要領改正)は始まったばかりで、ゆとり教育の評価は時期尚早だという意見もある[2][51]

批判に対する反論[編集]

『学力低下は錯覚である』(森北出版株式会社)を著した神永正博は、自身のブログで、「根拠がはっきりしないことで、若者をディスカレッジしない方がよいのでは」と補足している[52]

早稲田大学教授永江朗は自身の執筆したコラム記事の中で、PISAの順位の低下は「参加国が増えたため」とも、冷静に分析すれば考えられると述べ[53]、「PISAの結果が少し落ちていたぐらいで大騒ぎする理由がわからない」と教育社会学の専門家が疑問を呈しているということを紹介している。

東京大学総長有馬朗人はゆとり教育によりむしろ理科の力が上がった、と述べている[54]

広島大学教授の森敏昭はIEA(国際教育到達度評価学会)の調査結果を検討した上で「我が国の児童・生徒の学力は、今なお高い水準を保っている。(中略)「我が国の小・中学校段階の児童・生徒の学力は、全体としておおむね良好である」という文部科学省のいささか楽観的すぎるコメントも、あながち的はずれではない。」と述べている[55]

受験産業の反応[編集]

改訂された学習指導要領の内容が明らかになると、学習塾や進学予備校などの受験産業や、私立学校(特に中高一貫校)は広告やマスメディアを利用して活発な営業活動を行った。マスコミ媒体などに頻繁に登場した西村和雄京都大学教授などの言説を論拠に[56]、「ゆとり教育」に対する危機感を訴えることによって、親の不安を煽り、活発に児童・生徒の勧誘活動を行った[57]。 折込チラシ、CMや電車内のドア周辺や吊り広告などの広告活動や、自らがスポンサーとなっているテレビ番組内などで、「小学校では円周率をおよそ3として教えている(正確にはゆとり教育のため小数点による計算が遅れたため幾何学において概算に3を使うようになったため)(日能研[57]」、「ゆとり教育で学力低下を引き起こす」「あなたの子供の将来が危ない」など、あるいは、学習時間の多寡を基準に、日本よりも学習時間が長いイタリアなどが、PISAでは日本のはるか下位に位置しているのにも拘わらず「世界の子は勉強している(栄光ゼミナール[56]」といい、教科の好き嫌いを基準に、算数の好きな子の割合がイランが1位、日本は24位で日本の教育がダメだといい(栄光ゼミナール)[56]、統計値を恣意的につまみ食いした正確性・客観性に欠ける情報で感情論に基づいて危機感を煽ったり、この種の営業活動を行った事例もある[56]。学習塾などがこういった営業活動を行った理由として、子供が減るために学習塾間で「パイの奪い合い」が発生していたことがある[57]一方で実際に学力の低下が国際機関の調査で明確に顕著となったことも考慮すると親が子供の学力維持に塾に頼らざる得ない状況が生まれたともいえる。ゆとり教育への不信を背景とした中学受験ブームは、2008年(平成20年)にリーマンショックが起こるまで右肩上がりで続いた。[要出典]

一部の公立校では、塾の教師やスタイルを取り入れて学校教育を変えようという試みもしている。一例としては杉並区立和田中学校(校長の藤原和博、後任の代田昭久、共にリクルート出身)にて2008年(平成20年)1月に行われた「夜スペシャル」(通称〝夜スペ〟)があり[58]、これは成績上位者のみを対象に、名門進学塾サピックスの講師を派遣して有料(1万円〜2万円)で授業を行う(学校が運営しているわけではなく、保護者の有志団体による運営形式)。

さらには、都立高校などが「総合的な学習の時間」のカリキュラム作成にもたついている間に、日能研を初めとする一部の塾は

「自ら学び考える力を育てる授業。『総合学習』そのものだ」([57]より引用)

と「総合的な学習の時間」を商品として提供を始めている。私立学校や中高一貫校の入学試験が、PISAに似たものになってきているからだ[57]

日本国外の類似例[編集]

デンマーク[編集]

ゆとり教育をすすめていたデンマークでも、OECD生徒の学習到達度調査 (PISA) の結果が下がり、学力低下が議論になった。教育改革として、義務教育の1年早期化などが議論されている。学校の現場では学力向上を目指した教育改革に反発があるものの、生徒の親は学力低下への不安が強いようである[59]

フィンランド[編集]

OECD生徒の学習到達度調査(PISA:数学・科学・読解力の3教科のみ)においてトップの成績をあげ、全ての項目で日本を上まわったフィンランドは週休二日制であり、授業時間も日本よりかなり少なく、また、「総合的な学習」に相当する時間も日本より多く、「ゆとり教育」に近い内容である。

具体的な中身として一つは、中学校の教育に特筆されるのは三分の一にわたる(成績の低い)生徒が特別学級に振り分けられるか、補習授業をうけていることがある。低学力の生徒に対する個別の教育により底辺の学力を上げるだけでなく、優秀な生徒にはそれ相応の特別な教育がおこなわれている。つまり、生徒の能力の違いを前提にして全体の学力を上げている。生徒の個別の能力差に沿った教育が行われているため、無理に能力の低いものを能力の高い授業に適応させる必要がないために「遅れる」ことはあっても「落ちこぼれる」ということはない。特定の基準を満たさない生徒にそぐわない授業内容を押しつける必要がないから「ゆとり」があるわけである[60]

また、高校入学は中学の成績に基づいて振り分けが行われており、よい高校やよい課程に入学するには中学でよい成績をおさめなければならない[61]

他には、授業の組み立て方や教科書の選定など、教育内容の大部分を現場の裁量に任せられているという特徴もある[62]。また、フィンランドは授業時間は少ないものの、日本にはない様々な教育の工夫が試みられている。多くの学校で学費が無料であるため、低所得の世帯でも安心して教育を受けさせることができる[63]

このようなシステムがフィンランドにはあるため、フィンランドで講師を務めたこともある中嶋博早大名誉教授は、落ちこぼれをつくらず楽しんで学ぶ教育がフィンランドの教育であると述べており[64]、フィンランドに留学経験のある者は、中高一貫の学校が多いため、(中学)受験を気にせずじっくりと学習に取り組む事ができ、学習への理解が不足している、いわゆる「落ちこぼれ」の生徒は義務教育中であっても、じっくり教育を受けるシステムが確立されていると述べている[65]

脱ゆとり教育[編集]

2008年に改訂された学習指導要領のことを脱ゆとり教育と呼ぶ者もいる[66]。小学校では2011年度、中学校では2012年度から完全実施され、高校では2013年度入学者以降に対して完全に実施された[67]。この改訂後の学習指導要領では、授業時間・内容の削減を行ってきたゆとり教育とは逆に内容を増やし、授業時間を増加させる教育となっている。この教育はマスコミから「脱ゆとり」と呼ばれた[68]

脚注[編集]

  1. ^ 広義では1980年度以降
  2. ^ a b c asahi.com 「ゆとり教育」と教育改革の行方:1(寺脇教授)
  3. ^ 【ワイドショー通信簿】「上司が支援するのは当然」 2010新人を面白がる法
  4. ^ 陰山英男氏が指摘する「ゆとり世代」3つの特徴
  5. ^ a b 1992年1月29日毎日新聞社説 日教組が学校五日制を、教職員の週休二日制とセットで実現しょうと運動方針に掲げ始めたのは1972年からだった。(中略)日教組は学校五日制を教育改革としてとらえ、子供にとって、ゆとりのある学校への転換の実現をめざしている。
  6. ^ a b 2007年7月1日放送TBS「報道特集」にて槙枝元文元委員長談
  7. ^ a b 『迷走 日本の原点』櫻井良子 新潮社 ISBN 9784104253036
  8. ^ a b 日本財団図書館 文部科学省の教育改革を語る(寺脇研)
  9. ^ 中央教育審議会「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について-子供に『生きる力』と『ゆとり』を-」1996年7月19日
  10. ^ 平成15年9月7日毎日新聞への元文部大臣中曽根弘文の寄稿文中曽根弘文ホームページ
  11. ^ 4月から「脱ゆとり教育」の学習指導要領一部実施へ
  12. ^ a b c d 高等学校は学年進行であるため、施行された年に1年生の者から適用され、施行された年に2年、3年生の者は前の教育のままである。
  13. ^ 文部科学省 旧学習指導要領
  14. ^ a b c d e f 学校週5日制に関するこれまでの経緯”. 文部科学省. 2014年2月27日閲覧。
  15. ^ 日教組が支持していた日本社会党自社さ連立政権となり与党となったことで、日教組と文部省の対立が弱まり、1996年、中教審委員に日教組関係者が起用された(2007年7月1日放送TBS「報道特集」)
  16. ^ 文部科学省 新学習指導要領(現行学習指導要領)
  17. ^ 小学校学習指導要領(平成10年12月)”. 文部科学省. 2014年2月27日閲覧。
  18. ^ 中学校学習指導要領(平成10年12月)”. 文部科学省. 2014年2月27日閲覧。
  19. ^ 高等学校学習指導要領(平成11年3月)・附則”. 文部科学省. 2014年2月27日閲覧。
  20. ^ 2007年7月1日、TBSJNN報道特集
  21. ^ 文部科学省 新しい学習指導要領
  22. ^ 新学習指導要領・生きる力 新指導要領の説明でも、開始時期が○○年4月~と表記される小中学校と違い、高校では平成25年度入学生からという表記になっている。
  23. ^ 前述のとおり大学入試は2015年、2016年に変更される。
  24. ^ 2002年度以降に施行された学習指導要領で目標としているもので、2011年度以降の学習指導要領では、これを全面的に押し出している。
  25. ^ 完全学校週5日制”. 文部科学省. 2011年10月4日閲覧。
  26. ^ もしくは、移行措置期間である2000年度以降
  27. ^ 苅谷剛彦 『調査報告「学力低下」の実態』 岩波書店岩波ブックレット〉(原著2002年10月)。ISBN 9784000092784
  28. ^ 『「好成績」戸惑う文科省 なぜ、上向いたのか』 毎日新聞、2005年4月23日。
  29. ^ 『ゆとり教育:学力向上にプラスかマイナスか 揺れる評価』 毎日新聞、2007年4月14日。
  30. ^ OECD生徒の学習到達度調査(PISA2009)「デジタル読解力調査」のポイント”. 2012年12月12日閲覧。
  31. ^ 国際数学・理科教育動向調査の2011 年調査(TIMSS2011)”. 2012年12月12日閲覧。
  32. ^ PISA(OECD生徒の学習到達度調査)2003年調査”. 文部科学省 (2004年12月). 2010年9月22日閲覧。
  33. ^ OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2006年調査国際結果の要約”. 文部科学省 (2007年12月). 2010年9月22日閲覧。
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参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]