官僚

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官僚(かんりょう)とは、一般に、国家の政策決定に大きな影響力を持つ公務員をいう。いわゆるビューロクラート (bureaucrat)。

日本の官僚については官吏キャリア (国家公務員)の項目も参照。

概要[編集]

「官僚」の語は、語義的には「役人」と同義語であるが、一定以上の高位の者ないしは高位になり得る者に限定して用いられることが多い。ヘーゲルによる定義では、国家への奉仕かつ私有財産の配慮を行う者の総称となっている。

歴史学人類学的には、国家の公共事業治水灌漑)の拡大とともに、官僚機構が生まれたとされている。最初に官僚機構が発展したのはエジプトで、官僚たちはファラオの奴隷だった。

官僚には、文官(いわゆる行政官)と武官の2つがある(※なお、現行の日本国憲法下では「武官」は現役の自衛隊員に相当すると解されているが、明記されてはいない)。また行政官には事務官技官の2種類が存在する。武官は、各国軍部の大学校卒業者を幹部候補生とする国が多い。官僚制度(官僚制)は、ピラミッド型に整理された、権限の分担とその指揮系統に関する官僚の階層構造を意味する。これは統治構造の一種であり組織は問わないが、歴史的に政治統治組織が起源であるため「官僚制」と呼ばれることとなった。

総労働者数に占める官僚の数の割合は、ノルウェースウェーデンでは約40%、デンマークフィンランドでは約30%と北欧諸国での高さが際立ち、またカナダドイツイギリスオーストラリアなどの国々も労働人口のおよそ20%が公務員である。それに対して日本は10%を下回り、これはOECD加盟国における調査対象の15カ国のうち最低の数字である[1]

日本における「官僚」とは、最も広い意味では試験に合格して採用された公務員全般を指すが、狭義的には国の行政機関に所属する国家公務員の中でも、特に中央省庁の課室長級以上(これらの職級は任用上も特殊な扱いとなる[1])を指す。また「高級官僚」は、国の行政機関に所属する国家公務員の中でも、特に中央省庁指定職以上の地位にある者を指すことが一般的である。官僚という用語は法律で規定されている訳ではなく、公的なものを含めて明確な定義は存在しない。日常会話において「官僚」と言う場合、霞ヶ関の中央省庁で政策に携わる公務員を漠然と指すことが多い。大臣副大臣大臣政務官は上級の公務員であるものの、選挙で選出された政治家国会議員)であるため官僚にあたらない。地方公務員は通常、官僚とは呼ばれないが、大規模自治体の幹部職員に対して「都庁官僚」のように比喩的に使われることがある[2][3]

「官僚」「官吏」の語源であるが、「官」は上級公務員を意味し、「僚」「吏」は下級公務員や、官に雇われている者を意味し、これらの総称で「官僚」「官吏」となった。

官僚制の特質
  1. 規制による規律
  2. 明確な権限
  3. 明確な階統構造
  4. 公私の分離
  5. 文書主義
  6. 資格任用制
  7. 専業制

官僚の任務[編集]

日本における官僚の任務は、主に下記として分類される(政府機関によって異なる)。

予算[編集]

日本においては、予算は、まず内閣府の経済財政諮問会議において基本方針が立てられ、各省庁の予算の細部については、財務省主計局が審査を行い、内閣が予算を作成し、国会の議決を経る。各官庁では、大臣官房の会計課長が集計、管理する。また、各局長が主計局と折衝し、国会議員への根回しを行う。経済財政諮問会議や財務省主計局は、予算を通じて国政全般を仕切るところであるとも言える。

法案[編集]

法律の制定は国会の仕事であるが、実際には官僚主導で内閣が議案を提出し国会で制定されることが多い。これは、各官庁の大臣官房の文書課長、各局総務課長や審議官を中心として案をまとめ、国会議員への根回しを行う。

人事[編集]

各省庁の大臣官房の秘書課長官房長事務次官が採用されたキャリア公務員の人事を決定するとされており、非公式ながらこれらと同様に退職後の天下り先の手配まで行っていると一般には指摘される。

指揮・監督・許認可[編集]

指揮、監督、指導、許認可の権限と実施は影響力や予算規模の大小に応じて担当部署が類別されており、小規模の案件は地方局や地方公共団体(都道府県)で行うが、大きな案件は中央官庁が管轄し、各局の担当官にて執行される。

政策[編集]

官僚は政策の企画と施策を行うことが多い。この実現方法としては、法令の制定、予算確保による補助金や施設の発注、行政指導や許認可による民間企業へのコントロールという形を取る。内容的に上記の「予算」「法案」「監督・指導・許認可」に含まれるとも言える。この政策をまとめる局は、各省庁の筆頭局となることが多く、他局間の調整を行う。

各国の官僚任用制度[編集]

国家公務員は、世界的に、上級ポストとその候補者(キャリアと呼ぶ)、および下級職員(下級官僚)を分けて採用する国が多い。広義の官僚とは国家公務員全般を指すが、狭義の官僚とは上級ポストの公務員であるため、ここでは各国の高級官僚(世界的に見て慣例的に局長クラス以上を指すが、場合によっては本省・本府審議官または課長級以上を指す場合もある)とその候補生の登用・昇進システムを説明する。

この登用・昇進システムは各国によって相違がある。歴史上科挙を祖とするもので高位職の登用も内部昇格が原則のメリット・システム、政治家である任命権者の裁量により高位職が登用される政治任用制、政治任用制の一種であるがアメリカを典型とする高位職の外部登用を主とする猟官制(党人任用制、スポイルズ・システム)、高級官僚が貴族や一部の門閥で占められているタイプに分けられる。

日本[編集]

日本では資格任用制によるキャリア制度となっている。ノンキャリアであっても中央省庁課室長級の官僚になることはあるので、キャリア制度のみが官僚人事を構成しているわけではない。

アメリカ合衆国[編集]

高級官僚は、基本的に職業公務員以外から大統領が指名する猟官制度で、大統領の交代と共に入れ替わる。通常の職業公務員は課長クラスまでしか昇進しない。アメリカでは、官僚の社会的地位は日本などに比べると低い。

中華民国[編集]

中華人民共和国[編集]

大韓民国[編集]

ベトナム[編集]

フランス[編集]

メリット・システムとスポイルズ・システムの折衷型である。フランスは、日本以上にキャリア選抜が険しく、また日本以上に烈しい官僚政治国家としても知られる(近年では、政治家の地位の方が上になってきてはいる)。官僚の社会的地位は日本より高い。事務官キャリアはエナルクと呼ばれる国立行政学院 (ENA)出身者で占められ、技官キャリアは理工科学校卒業生で占められる。高級官僚は、政治家の意向によって、キャリアの中から選抜される。

ドイツ[編集]

元々日本のキャリア制度は、ドイツの公務員システムを参考にして作られた。しかしその後の歴史的経緯から、ドイツはフランスと同様にメリット・システムと、スポイルズ・システムの折衷型に落ち着いた。

公務員は「官吏」(いわゆる官僚)と「職員・労働者」で構成される。官吏の中で政治的官吏(高級官僚)は、キャリアの中から政治任用される。キャリアになるためには、大卒後2年の準備勤務を経て高級職ラウフバーン試験に合格する必要がある。高級職ラウフバーン試験は司法試験も兼ねており、合格すると弁護士になることもできる。

イギリス[編集]

日本と類似したメリット・システムによるキャリア制度となっている。試験名の日本語訳によっては、高等文官試験と表記されることがある。1855年に開始。インドの高等文官試験に影響を与えた。

インド[編集]

イギリスとほぼ同様のシステムとなっている。試験名の日本語訳によっては高等文官試験と表記される。東インド会社インド省になった際に、現地のインド人にも高級官僚の登用のチャンスが与えられるようになった。インド独立後には名称が若干変更された (Indian Administrative Service)。

日本の官僚の問題[編集]

法案作成に関する問題[編集]

立法は国会の機能であるが、国会議員が自ら法案を起案することはほとんどない。法案のほとんどを占める内閣提出法案を官僚が作成するのはもちろん、議員立法も多くは官僚のサポートに依拠していると言われている。

官僚は法律を起案すると所属省庁の大臣を通して国会に法案として提出する、大臣のほとんどは国会で多数を占める与党の役員であるため、法案は形式上野党との審議が行われるものの、それに関わらず最終的に与党の賛成多数で国会を通過することがほとんどである。つまり日本の法律は現状として官僚の意のままに作られていると考えてよい。このようにして三権のうち行政権が極めて強くなる傾向を行政権の肥大化という。

成立法案でみると、閣法(内閣提出法案)が全体の85%程度を占める (1994-2004)。

人事システムの問題[編集]

日本の官僚には政権政党によって官僚の人事が左右される猟官的要素が非常に少ないため、官僚組織は固定化される傾向が強く学閥の弊害が指摘されている。特に、採用時や昇進時に東京大学など特定大学出身者が優遇されているという指摘がなされる。 採用時について言えば、国家公務員採用I種試験の合格率及び合格者にいわゆる一流大学の出身者が多いことは事実であり、採用者も多くなっている。もっとも、情実採用が問題になることはほとんどなく、この結果は、単純に能力差によるものが大きい[要出典]。しかし、試験情報や、官庁訪問など就職活動についての情報の多寡が採用の成否に影響している部分も大きく、入省者の多様性を実現するためには、これら就職プロセスのより一層の透明化と情報開示が求められている。

不透明な民間企業への関与の問題[編集]

民間企業に行政指導といった形で(実質上の)命令を行ったり、天下りといった形で人事に介入することが、民間企業を不当に支配するものだとして問題になることが多い。行政手続法などにより行政プロセスの透明化は進んでいるが、官僚に大きな裁量権が委ねられている部分は多く、特定の民間企業から政治献金を受け取った政治家が、官僚の裁量権に影響を与えようと圧力をかけるなど腐敗の温床になりやすい。

倫理観(日本、人事院調査)[編集]

2004年9月15日、人事院は「国家公務員に関するモニター調査」の結果を発表した。 官僚について「倫理観が高い」と答えた人は1.85%、「全体として倫理観が高いが、一部に低い人もいる」と答えた人は43.1%、「全体として倫理観が低いが、一部に高い人もいる」と答えた人は21.8%、「倫理観が低い」と答えた人は10.5%、「どちらとも言えない」と答えた人は22.2%、「分からない」と答えた人は0.6%という結果となった。調査は2004年の5月から6月に公募したモニター500人を対象に実施され、487人から回答を得た。

ジャーナリストの田原総一朗は、自身のレギュラー番組サンデープロジェクトの中で、「世の中の悪しきことのほとんどは官僚が原因」という旨を発言しているが、官僚が制度上は国民に選ばれた政治家に指揮される存在であることを揶揄した発言ともいえる。

辻清明による日本の官僚研究[編集]

日本の政治学者・行政学者である辻清明は、明治時代以来の日本における官僚機構の特質を研究し、その構造的特質の1つとして「強圧抑制の循環」という見解を表明した。

彼は『新版・日本官僚制の研究』 (1969) にて、戦前において確立された日本の官僚は特権的なエリートによる構造的な支配、すなわち支配・服従の関係が組織の中核を成しており、さらに組織外の一般国民にまでその構造が拡大されている状況を指摘した。つまり、組織内部において部下が上司の命令に服従するのと同様に、日本社会では軍人・官僚への国民(臣民)の服従を強要する「官尊民卑」の権威主義的傾向を有していたとする説である。

さらに辻は、この社会的特質は戦後民主化改革の中でも根強く生き残り、政治的な民主化への阻害要因になっているともしている。この「強圧抑制の循環」という見解は、日本の官僚が政治家よりも大きな政策決定への影響力を有するという前提に立つものであり、政治学および行政学における官僚優位論の代表的研究と見做された[4]

  • 辻清明『日本官僚制の研究』新版、東京大学出版会、1969年
  • 村松岐夫『戦後日本の官僚制』東洋経済新報社、1981年

脚注[編集]

  1. ^ ILO working papers Statistics on public sector employment: methodology, structures and trends
  2. ^ 官僚は法令などを担当する事務官僚と技術などを担当する技術官僚に大別でき、メディアで官僚として取り上げられるのは「事務官」と呼ばれる事務官僚が多く、技術官僚は比較的少ない。
  3. ^ 林雄介著、『省庁のしくみ』、ナツメ社、2010年12月23日初版発行、ISBN 9784816349614
  4. ^ しかし、このような官僚優位論に対しては、村松岐夫より、戦後の日本政治は官僚による支配というよりも自由民主党による政治主導の下で統治が行われているとの批判もある(詳細は政党優位論を参照)。しかし、自民党も政策決定において官僚に依存しているところから、政治家主導による統治が行われているとする主張にも疑問が提起されている。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]