円周率は3

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円周率3(えんしゅうりつは3)とは、2002年度実施の小学校学習指導要領の改訂にともなって、日本算数教育の現場で巻き起こった困惑や混乱を象徴するそれ自体誤解のあったフレーズである。

このいわゆる「ゆとり教育」の一環として掛け算や割り算や小数点の算数の学習内容が削減される一方で算数の学習の段階から計算機の使用が許可されるようになった。このため小学生は3.14を掛けたり割ったりする手計算ができなくてもよいこととなった[1]。つまり、円周率の一般に使用される概数が3.14であることは習うものの、実際に面積等を求める際には、計算機を使うか、円周率は3として手計算することになったのである。ところが、大手学習塾が大々的に行った広告マスコミの報道等を通じて、またそれらがあいまって、「ゆとり教育の結果、公立小学校では円周率は3と教えることになった」とのテーゼが社会に広く認識されることとなった。これは誤解であるが、2002年前後の小学校における「ゆとり教育」と円周率の扱いの関係や、世間の認識、その後の教育政策に与えた影響等には複雑な関係があり、本項において詳述する。

目次

[編集] 概要

ゆとり教育と呼ばれる学習内容の削減政策に伴って、小学校における乗法の学習内容も大幅に削減された。この結果として、小数点による乗法や除法を習っていない段階での円の周の長さや面積の手計算には円周率の概数として3.14ではなく3を授業で使用せざるを得ない状態に陥った。[1]文部省(後に文部科学省)は円周率を計算で使う場合の一般の概算は3.14であると教えた上で、円周率を計算に用いる場合、3.14を掛ける際には計算機を使い、手計算の際には円周率は3として概算できればよいと考えていた。もちろん円周率は正確には3でも3.14でもない。後者の方がより正確(有効数字はそれぞれ1ケタと3ケタ)であるが両方とも概数である。よって円が関わる幾何学の「概算」の手順の学習においては前者と後者は基本的に同等であるといえる。しかし算数の学習が終了していない段階で計算機を導入することや小数点を含む算数や分数の学習を終了していない状態で(円周率や除法による小数点が頻繁に出現する)幾何学の学習を導入することに教育界には戸惑いや反対活動が広がっていった。

そんな折、学習塾大手の日能研が「ウッソー!?半径×半径×3」等と書かれた広告を首都圏の通勤電車の中に大量に張り出す等して大々的なキャンペーンを行った。マスコミもこれを扇情的に取り上げ、「ゆとり教育の結果、公立小学校では円周率は3と教えることになった」との短絡的なテーゼが社会に広く認識されることとなった[2]。ただし逆に言えば「円周率=3」は算数の修得の著しい退化と算数学習が不備な段階で数学(幾何学)を導入するという「ゆとり教育」のゆがみを端的(ゆとり教育の擁護者から言えば短絡的)に表すものであるとされる。ただしこのようなゆがみは以前からも存在し、例えば、日本の高校の物理の学習においては数学で微分積分の学習が終了されていないため古典力学はその数学的基礎である微分積分を使わずに学習される。

[編集] 背景

学習指導要領はあくまでも目安として始められたものであるが、ある時期から法的拘束力を持つとされるようになった[3]。またこれに加えて「過不足なく教えなければいけない」という、いわゆる「歯止め規定」も存在した[4]。ところがこの規定を厳密に取ると、円の円周面積の求め方についての導入学習(ある単元の最初期にイントロダクションとして行う学習)において、およその数としての円周や円の面積を求めるのに「円周率を(暫定的に)3で計算」するという教え方をすると、学習指導要領を逸脱しているとされるおそれがあった。このため1989年の学習指導要領の改訂時(小学校では1992年度実施)に「目的に応じて3を用いて処理」という記述が加えられ、1998年の改訂時(小学校では2002年度実施)にもこの記述は引き継がれた[5]

ただし小数点の乗法や除法の算数をちゃんと学習していない段階で円周率を3.14として導入すること自体に無理がある。そもそも、(小数点を使った)乗法や除法さらに分数の算数を修得していない段階で数学(幾何学)を授業に導入するには無理があり、この無理な導入のために必要になる計算機の使用は暗算や算数のできない状態で義務教育を終了する子供を増やす原因になるとの指摘が存在する。拡大すれば教科の学習が中途半端な段階で次の課程に進ませるゆとり教育の根本的欠陥を端的(短絡的)に表すものであるとの批判が存在する。なお、2002年度実施の指導要領における円周率の扱いは、前述のように3.14を用いることになっている。実際、2002年度から使用されている小学校5年生の算数の教科書には、「円周率は3.14」と明記されている。ただし、円に関する単元では、教科書の中では「計算機を使用する」こととされているので[1]、本来小数点以下2桁の演算の負担を考慮して用いられることもあった、暫定的に円周率を3とする教え方は不要となった。

[編集] 文言の消滅

2003年12月に学習指導要領の一部改正が行われて「過不足なく教えなければいけない」という歯止め規定が撤廃され、必要に応じて指導要領に書かれている内容以上の内容(=発展的記述)を教えても良いという最低基準に変更されたため、「目的に応じて3を用いて処理」という記述は、事実上意味をなさなくなった。

また2008年2月15日に、文部科学省は教育基本法全面改正後初となる新学習指導要領(小学校は2011年度施行)を公表したが、円周率に関する項については「円周率は3.14とする」とだけ記述しており、「目的に応じて3を用いる」という記述が削除された[6]

ただし算数と分数の教育がゆとり教育以前の状態に復活しない限りは根本的な問題は解決されていないとの反論も存在する。

[編集] 余波

  • 円周率の議論が盛んになった2003年、東京大学入試問題(数学)において「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」との問題が出題された。(2007年2月頃に日能研によりJR東日本の通勤電車の広告に掲出された)
  • 3年B組金八先生」第5シーズンでは、「最後の授業」で、数学担当の乾先生が数学の奥深さを語るとともに「円周率は3ではない」と嘆くシーンがある。ただしこれは円周率は3.14でもないという事実を見過ごした数学的には的外れな台詞。

[編集] 参考文献

  • 伊藤敏雄 『誰も教えてくれない教育のホントがよくわかる本 ゆとり教育になって学校はどうなった?』2006年
  • 藤原正彦 『祖国とは国語』

[編集] 脚注

  1. ^ a b c 手計算で3.14を掛けることができない理由としては、2002年度実施の指導要領における乗法の指導については「2位数×2位数」および「3位数×1位数」までを扱うこととしており(2001年度までは、「3位数×3位数」まで学習していた)、乗法の筆算に関する内容が軽減されていること、および、小数の乗法については小数第一位まで扱えばよくなったため、3.14という数を掛けることは学習指導要領の最低基準から外れることが理由として挙げられる。
  2. ^ 「総合学習」進化する塾
  3. ^ 伝習舘高校事件・最高裁判所第一小法廷判決・平成2年1月18日・民集44巻1号1頁
  4. ^ 西日本新聞「歯止め規定」
  5. ^ 平成10年度告示・平成14年度施行の小学校学習指導要領第2章 第3節「算数」における円周率の取り扱いについては、第5学年の「3 内容の取扱い」(4)に示されている。その文言は「内容の「B量と測定」の(1)のイ及び「C図形」の(1)のエについては、円周率としては3.14を用いるが、目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮するものとする。」である。
  6. ^ 学習指導要領案:40年ぶり授業増 「3.14」完全復活(2008年2月15日 毎日新聞)

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク