仮設住宅
仮設住宅(かせつじゅうたく、英: Temporary housing, Temporary home)とは、自然災害などにより、居住できる住家を失い、自らの資金では住宅を新たに得ることのできない人に対し、行政が貸与する仮設の住宅。
アメリカ合衆国[編集]
アメリカ合衆国では国家安全保障省所管のFEMA等が担当官庁となる[1]。災害発生時にはアメリカ陸軍工兵隊が被災した重要な公共施設の復旧、仮設住宅や発電機の設置を支援している[1]。
連邦組織管理庁の職員が被災地に向かう時は、アメリカ陸軍工兵隊の災害の専門家も一緒に被災地に派遣される[1]。
2012年10月に発生したハリケーン・サンディのアメリカ陸軍工兵隊の復旧計画では、約51億ドルの予算措置のうち施設整備費が76%であった[1]。
アメリカではトレーラーハウスの仮設住宅が活用されている[1]。また、公営住宅制度によって被災者の住居問題を解決することも多い[2]。
- モバイル・ホーム(トレーラーハウス)タイプ
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ハリケーン・カタリーナで被災した人々のための仮設住宅群としてもうけられたトレーラー・パーク
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災害に備えたモバイル・ホーム(トレーラーハウス)の備蓄
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内装例
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内装例
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内装例
イタリア[編集]
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日本[編集]
日本の行政用語では「応急仮設住宅」という。略称は仮設。
災害救助法[3]によれば応急仮設住宅は『住家が全壊、全焼又は流失し、居住する住家がない者であって、自らの資力では住家を得ることができないものに供与するものであること』『1戸当たりの規模は、29.7平方メートルを標準とし、その設置のために支出できる費用は、253万円以内とすること』とされている。
日本での概要[編集]
避難生活の最初期段階では大抵、被災者は集団で(体育館などの)収容避難場所に避難し寝泊りすることになるが、隣人との仕切りといっても、せいぜい高さが数十センチメートル - 1メートル強程度の段ボール一枚や毛布一枚などでで隔てられているだけであることが多い。そのため、プライバシーが確保できず、睡眠も浅くなり、まともな生活に必要な設備も備わっていない。これが長期に及ぶと疲労が蓄積し健康を害すため、仮設住宅が建設され被災者に提供されることになる。
元の住居と全く無関係に部屋が割り振られると、もともとの人と人のつながりやコミュニティが破壊されてしまい、孤立化してしまう傾向があるため、行政は部屋の割り振りには被災者が属していたコミュニティ(元の居住区の近さ)も十分に考慮して部屋を割り当てる必要がある。
仮設住宅は、収容避難場所と比べればかなり良い環境であるにしても、一般に、数年暮らすほどには十分にプライバシーを確保できず、手狭で十分には快適ではなく、仮設住宅暮らしが長期に及ぶようでは被災者の何割かが体調を崩す。つまり仮設住宅というのは、被災者のためを思えば、基本的には数カ月から1年、せいぜい2年程度の使用にしか耐えないと判断されるので、行政は、仮設住宅が十分に建設・供給されたら、次の段階に入り、被災者に本格的な住宅を供給(再建)するための方策を練り始めたり調整を始める必要がある。
- 関連法規
災害救助法の適用は、都道府県知事がその適用の適否を判断し、着工は災害の発生の日から20日以内としており、貸与期間は完成の日から2年以内と規定されている。
現在では、仮設住宅の一種として、民間賃貸住宅の借上げ(みなし仮設)も用いられている。
- 建築物しての構造や工法
現在[いつ?]の日本では、主にプレハブ工法による、組立タイプとユニットタイプが用いられている。木造タイプが作られることもある。トレーラーハウスが用いられることもある。
歴史[編集]
1923年の大正関東地震(関東大震災)では多くの家屋が焼失したため、靖国神社などに仮設住宅が設置された。その後、兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)、新潟県中越地震、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)、福島第一原子力発電所事故でも設置されている。
- 近年の仮設住宅の歴史
- 1947年 - 災害救助法第23条の制定により応急仮設住宅が制度化される。
- 1959年 - 伊勢湾台風、建設1万4,192戸[4]
- 1995年 - 阪神・淡路大震災、発注4万8,300戸[5]
- 2004年 - 新潟県中越地震、建設3,460戸[6]
- 2009年 - 台風9号での兵庫県、建設42戸
- 2011年 - 東日本大震災、建設52,182戸[7]
- 2011年 - 平成23年7月新潟・福島豪雨、建設8戸
- 2012年 - 九州北部豪雨、建設75戸
- 2012年 - 台風6号、建設8戸
- 2013年 - 7月28日からの大雨での山口県、建設40戸
- 2013年 - 台風24号、建設25戸
- 2013年 - 台風26号、建設29戸
- 2016年 - 熊本地震、建設3,605戸
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阪神・淡路大震災における仮設住宅(1995年)
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新潟県中越地震における仮設住宅(2005年)
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福島第一原子力発電所事故における仮設住宅(2011年)
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東日本大震災後に七ヶ浜サッカースタジアム内に設営された仮設住宅(竣工前)
- 近年の仮設住宅
現在の日本では、主にプレハブ工法による組立タイプもしくはユニットタイプが用いられている。
- 建設地
仮設住宅は公園や学校の校庭、その他様々な理由で生じている空き地に設けられ、いずれの場合も本来の居住地から遠く離れる事例も多い。
- 価格と広さ
2017年4月1日より、東日本大震災の教訓から仮設住宅一戸当たり29.7m²の規定を廃止して、都道府県が実情に合わせて広さや間取りを決められるようになり、価格は551万6,000円となった[8]。
2017年3月31日まで、厚生労働省が災害救助法に準じて示している1戸あたりの標準仕様は、広さが29.7m²、価格が238万7000円となっていた。それ以外の細かな仕様は、被災地の都道府県に委ねられていた[9]。
- 供給
災害によってインフラが破壊された地域において、仮設住宅は一度に早く、安く、大量に供給が求められる。その為、都道府県が普段から業界と協定を結んでいる[10]。 ただし、立地・電気・水道・下水のインフラの整っている場所の大量の確保は課題となる為、後述の諸問題が起こってくる。あまりに大規模な災害の場合、業界の設備投資を超えての供給能力が問題となる。
- 特殊な仮設住宅
大規模災害においては建設のスピード・建設用地の確保がしばしば問題となる。また、木材が手に入る場所では木造仮設住宅が適するケースもある[11]。 通常は簡易的な平屋建てのプレハブ仮設住宅が建てられることが多いが、東日本大震災では一度に需要が集中したため、従来の工法だけでは期限内に建てられる仮設住宅の戸数が不足した。その結果、様々な仮設住宅が提案、建設された。
- 移動式住宅の事例
宮城県気仙沼市大島などでは2011年6月、アメリカ製のトレーラーハウスが東日本大震災における(日本式の)仮設住宅の代わりとして使用されることが決まった。支援団体によって20台が提供されたもので、一般の仮設住宅を設置および撤去する費用よりもコストが安上がりだという(トレーラーハウスは1台あたり約300万円)[12]。
- ログハウスの事例
福島県二本松市では、ログハウスの仮設住宅が建設された[13][14]。
- 木造仮設住宅の事例
岩手県大槌町では、ロフト付きの木造仮設住宅が設置された[9]。
- 建設地問題対応の事例
宮城県女川町では、平地が少ない女川町の地勢に対応するため、日本の仮設住宅としては初の海上コンテナによって3階建構造を実現したコンテナハウスの設置を行っている[15]。
諸問題[編集]
- ペットの可否
1995年の兵庫県南部地震で神戸市は、被災者に対する制約軽減の一環として、ペットを連れての入居を禁止しなかった[16]。2005年に動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)が改正され、災害時における動物救護対策の必要性が、国の方針に盛り込まれた。2011年の東北地方太平洋沖地震でも、被災地各県と地元獣医師会が連携して、被災動物の救援本部を設置した[17]。
- 孤立化
兵庫県南部地震では入居者が本来の居住地に関係なく割り振られた事からコミュニティが分断・消滅してしまい、高齢者を中心に孤独死も発生した。そこで、新潟県中越地震以降は元の居住地ごとにまとまって入居できるような配慮も行われている[18]。
- 不完全なプライバシー
壁や窓が簡素であることから生活音に対する苦情やプライバシーが十分に確保できない、といった問題も指摘された。
- 長年月暮らすには不十分な環境
仮設暮らしは体育館などでの段ボールなどで仕切った環境よりは良いのだが、さりとて本物の一般的な住宅ほど快適というわけではなく、震災後の復興支援がうまくいかず仮設住宅暮らしが1~2年以上に及んでしまうと、仮設暮らしの環境の悪さによって健康に異常をきたす居住者の割合が次第に増えていく[19]。
- 二重ローン問題
だが、仮設から簡単に脱出できるかと言うと、災害で唯一の大切な住宅を失い、仕事も失い、さらにすでに高齢になっている人は、余生のために高価な住宅を新たに購入して長期のローンを組むわけにはいかず(実際にはたとえば70歳~80歳などでローン返済するために労働はできないので銀行などがローンを認めない)、結局なんら良い解決策や明るい未来が描けないままにあまり快適ではない環境である仮設住宅暮らしをつづけざるを得なくなり、精神的に閉塞感にさいなまれる人の割合が増えていく。また、年齢が若くローンを組むことができ新たな住宅を購入して仮設から出られた人でも、すでに失った住宅の分と新たな住宅の分と二重にローンを背負うことになり、過重な債務により家計が成り立たず、家庭が崩壊したり、離婚に追い込まれたりといった事態に陥るという問題も控えている[19]。
これらに対して、個人に対しては「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」、事業者に対しては東日本大震災事業者再生支援機構法案があり、救済が図られている。(二重ローン問題を参照)
- 東北地方太平洋沖地震における事例
- 入居期限
- 家族構成
- バリアフリー、ケア問題
- コミュニティ問題
- 通勤通学や買い物など立地上の問題
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ a b c d e “米国ハリケーン・サンディに関する現地調査 第二次調査団”. 国土交通省. 2018年1月4日閲覧。
- ^ “過去の大規模災害と 海外事例からみる 東日本大震災と都市財政”. 財団法人 日本都市センター. 2017年4月4日閲覧。
- ^ “災害救助法 | e-Gov法令検索”. elaws.e-gov.go.jp. 2022年9月22日閲覧。
- ^ 中央防災会議災害教訓の継承に関する専門調査会「1959伊勢湾台風報告書」平成20年3月146ページ
- ^ “4万8300戸 前例のない仮設住宅の大量供給”. 神戸新聞社. 2017年4月4日閲覧。
- ^ “新潟県中越地震 被災から2年 復興の現状と課題”. 長岡造形大学. 2017年4月4日閲覧。
- ^ “被災者に対する住宅供給の現状と課題”. 国立研究開発法人 建築研究所. 2017年4月4日閲覧。
- ^ “仮設住宅、広さの目安廃止…地域の実情に応じる”. 読売新聞. 2017年4月4日閲覧。
- ^ a b 仮設に「格差」 - 読売新聞夕刊 2011年7月19日
- ^ “東日本大震災 復興の課題 - 日本都市センター”. 日本都市センター. 2017年4月4日閲覧。
- ^ “木を活かした応急仮設住宅等事例集 - 内閣府防災情報”. 内閣府. 2017年4月4日閲覧。
- ^ 【震災】仮設住宅の代わりに“トレーラーハウス” - テレ朝ニュース 6月13日
- ^ 建築家の目「仮設」に提案 - 読売新聞 6月9日
- ^ ブログ6月 - はりゅうウッドスタジオ 6月9日
- ^ 宮城最後の仮設住宅、入居始まる=土地少なく初の3階建て-女川 2011年11月6日 時事ドットコム
- ^ ペット同伴、割れる対応 仮設住宅で自治体 - 岩手日報 2011年4月4日
- ^ ペット避難所24時 - 読売新聞 2011年5月22日
- ^ 「仮設住宅の悩み相談を」 柏崎市、心のケアセンター開設へ - 共同通信 2007年8月18日
- ^ a b NHK総合「震災4年 被災者1万人の声」2015年3月8日放送