公営住宅
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公営住宅(こうえいじゅうたく)は、地方自治体等が低所得者向けに賃貸する住宅。
イギリスの公営住宅[編集]
イギリスでは第一次世界大戦の勃発により労働者住宅の家賃が高騰し、1915年にはグラスゴーで家賃ストライキが発生するなど住宅難が社会不安を生じさせていた[1]。
1919年には住宅及び都市・農村計画法(アディソン法)が制定され、地方自治体が公共住宅を建設する場合の政府補助金の制度を創設した[1]。
1930年には住居法(グリーンウッド法)が制定され、地方自治体がスラムを撤去する場合の補助制度や地方自治体の家賃割引の権限を定めた[2]。
1949年には住居法が制定され、公的住宅供給の条件であった労働者階級という要件を撤廃し、すべての国民に公営住宅への入居権を認めた[3]。
日本の公営住宅[編集]
日本では、公営住宅法(昭和26年法律193号)によって定められている。
地方自治体の中には「都民住宅[4]」「市民住宅[5]」などの名で中堅所得者層を対象とした賃貸住宅を運営しているものもあるが、これらは公営住宅とは別個のものである。
歴史[編集]
日本では、大正中期から昭和初期にかけて公営住宅に関する実験的な取り組みが行われるようになった[6]。
1922年(大正11年)9月21日からは大阪府で住宅改造博覧会が開催された。
1923年(大正12年)に発生した関東大震災を受け、たとえば現在の港区立芝小学校などにバラックが建てられ[7]、翌1924年(大正13年)には震災義捐金で財団法人同潤会が設立されると、仮設住宅に続き鉄筋コンクリート造アパート・同潤会アパートの建設が始まり、合計16カ所に完成した[8]。同潤会は1941年(昭和16年)の太平洋戦争勃発に伴い、主に軍需産業の労働者への住宅供給を行う住宅営団へと発展的に解消した[9]。
1927年(昭和2年)には不良住宅地区改良法が施行され、住宅地区改良事業が進められ改良住宅が建設された。これは戦後の1960年(昭和35年)5月17日に制定された住宅地区改良法に引き継がれた。
1945年(昭和20年)に終戦を迎えた後、主要都市は空襲により住宅の絶対数が不足しており、主要な戦災都市に越冬のための簡易住宅30万戸を国庫補助により建設することが決定された[10]。1949年(昭和24年)頃になると資材不足は緩和し、応急的な住宅政策から恒久的な住宅政策へと移った[11]。1950年(昭和25年)には住宅金融公庫が発足した。
1951年(昭和26年)6月4日には公営住宅法が制定[12]、同年7月1日に施行された[12]。同法に基づき、公営住宅の整備が本格的に始まった[13]。深刻な住宅不足を解決すべく、戦後復興の一環として国民に住宅を大量供給する目的で開始された[13]。当初の公営住宅の入居者は、低所得者層ではなく家賃支払能力のある所得階層を対象としており[13]、公営住宅にはセーフティーネットとしての機能は持たされていなかった[13]。
その後、1955年(昭和30年)に日本住宅公団(現:都市再生機構)が設立。高度経済成長によって増加したサラリーマン世帯を主とする勤労者階層に対する住宅供給は公団住宅が担うこととなり、公営住宅は低所得者層への社会福祉の一環[12]として位置づけられるようになっていった。
参考文献[編集]
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- 谷聖美「自治体住宅政策の史的展開--神戸市の場合を中心に」『岡山大学法学会雑誌』第48巻3-4、岡山大学法学会、1999年3月、 419-471頁、 ISSN 03863050、 NAID 110000130588。
- 大阪の集合住宅の歴史をひもとく
- 宮内貴久「高度経済成長期における公営住宅の建設 : 福岡市営弥永団地を中心に (高度経済成長と地域社会の変化)」『国立歴史民俗博物館研究報告』第207巻、国立歴史民俗博物館、2018年2月、 183-221頁、 ISSN 0286-7400、 NAID 120006595804。
公営住宅への入居[編集]
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地方自治体により異なるが、定期的に空き家募集があり、各自治体の広報誌やウェブサイトなどで通知される。募集要項は市区町村の役所などで配布される。低所得者層を対象とするため所得制限(上限)がある。入居については公平を期すため、抽選および所得や家族構成など世帯の状況を審査した上で決定される。
また地方自治体によっては、民間のオーナーが所有している建物をある一定の期間借り上げて公営住宅として提供する、借上げ市営住宅なども存在する。
公営住宅の家賃[編集]
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2014年現在、適用されている公営住宅の家賃は1998年に改正された公営住宅法の規定によっている。従来は原則定額であった家賃を入居する世帯の収入に応じたきめ細かいものとしている。家賃は原則として入居世帯の所得階層に応じて設定される家賃算定基礎額に、立地係数、規模係数、経年係数、利便性係数の4つの係数を乗じて算定される。
立地係数は公営住宅の所在する市区町村ごとに国が定める係数で、大都市であるほど大きな数値が設定される。規模係数は住宅の占用面積65m2を1.0としてその大小により上下させる。経年係数は当該住宅の経年により住宅の構造に応じて決定されることとなっており、この3つの係数については運営する地方自治体の裁量の余地はない。
これに対し、利便性係数は運営地方自治体が独自に設定できる唯一の係数で、トイレや浴室等の住宅設備や自治体内の立地条件を考慮して、0.5 - 1.3の間で定められる。
収入超過者に対しては退去のインセンティブを与えるため、本来の家賃と近傍同種の住宅の家賃との差額に所得階層に応じた係数を乗じたものを加算する。ある一定以上の所得がある世帯の家賃は、付近の同程度の賃貸住宅と同等程度の家賃を支払うことになる。収入超過者となる基準は従来は全国統一のものであったが、公営住宅法の改正を受け、2012年4月より地方自治体が条例で規定するようになった。
また、家賃は毎年入居者からの収入報告書の提出を受け、それによって翌年の家賃が算定される。入居者からの報告書の提出がなかった場合には、近傍同種の住宅の家賃が適用されることになる。
さらに、高額の所得がある入居者について2年連続で規準収入を超えた場合は、地方自治体はその入居者に対し期限を定めて当該住宅からの退去を命じることができる。これは本来目的とする低所得者層への公営住宅の供給を目的とするもので、期限を過ぎても退去しない場合は近傍同種の住宅の家賃に割増家賃を加えた高額な違約金(近傍同種の住宅の家賃の2倍以内で地方自治体が定める)を支払うこととなる。
障害者等の家賃減免制度[編集]
地方自治体によっては、障害者等に対し家賃の特別減免制度を設けているところもある。例えば東京都の場合、精神障害者保健福祉手帳1級及び2級を持っている精神障害者に対し都営住宅の特別減免制度がある[14]。
公営住宅からの暴力団員排除[編集]
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暴力団(反社会的勢力)の公営住宅への入居は、付近の住民に与える迷惑を省みず、金銭獲得のための不当な行為や悪徳商法を横行させる治安悪化の主要要因であった。
2004年6月に広島県と広島市が条例で公営住宅入居資格について「本人とその同居親族が暴力団対策法に規定する暴力団員でないこと」と規定されたのが、公営住宅からの暴力団員排除を条例で規定した最初の例[要出典]である。後に、同様の内容を盛り込んだ暴力団排除条例が全国で制定されることになる。
2007年の東京都町田市における公営住宅で発生した町田市立てこもり事件を契機として、公営住宅から暴力団を排除する気運が高まった。[要出典]調査した結果、ほぼ全国的に公営住宅において暴力団員による不法行為等が多発していることが明白になり、これまで各都道府県や市区町村で進めてきた住宅管理条例の改正を強く推進する必要性が生じた。[要出典]
同年6月、国土交通省から各都道府県知事へ向けて「公営住宅における暴力団排除について」が発出され、暴力団排除に関する基本方針を一本化した[15]。これを受け、各都道府県や市区町村では住宅管理条例に暴力団排除を盛り込むとともに、所管の警察との連携強化を進め、公的な賃貸住宅からの暴力団排除を強く推進した[16]。
2010年5月には、兵庫県尼崎市で低所得者を対象とした家賃減免制度を悪用し市営住宅の家賃の支払いを免れたとして、兵庫県警が山口組系の暴力団組長を詐欺罪容疑で逮捕した[17]。
脚注[編集]
- ^ a b 荻田、Lim 1989, p. 17.
- ^ 荻田、Lim 1989, p. 19.
- ^ 荻田、Lim 1989, p. 21.
- ^ 都民住宅 東京都住宅供給公社
- ^ “市民住宅 入居登録者の募集”. 府中市 (東京都) (2010年10月1日). 2011年5月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年11月27日閲覧。
- ^ 荻田、Lim 1989, p. 10.
- ^ 『非常災害情報・バラックニ関スル調査 (芝尋常小学校避難者収容所報告書)』6、東京都〈都史資料集成〉、2005年7月。
- ^ 荻田、Lim 1989, p. 34.
- ^ 荻田、Lim 1989, p. 37.
- ^ 荻田、Lim 1989, p. 38.
- ^ 荻田、Lim 1989, p. 41.
- ^ a b c “法律第百九十三号(昭二六・六・四)公営住宅法”. 衆議院. 2021年1月31日閲覧。
- ^ a b c d 松本暢子「大規模都営住宅団地における居住者の世帯構成の変化に関する考察」『社会情報学研究』第19号、大妻女子大学、2010年、 65-75頁、 ISSN 13417843、 NAID 110008426686、2021年1月31日閲覧。
- ^ “精神障害者保健福祉手帳”. 東京都保健福祉局. 2010年3月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年3月31日閲覧。
- ^ “公営住宅における暴力団排除に係る通知の発出について” (プレスリリース), 国土交通省, (2007年6月1日) 2009年9月6日閲覧。
- ^ “公共賃貸住宅における暴力団排除に係る通知の発出について” (プレスリリース), 国土交通省, (2007年12月13日) 2009年9月6日閲覧。
- ^ “市営住宅の家賃減免制度を悪用 暴力団組長を詐欺容疑で逮捕 兵庫県警”. 産経新聞. (2010年5月7日) 2010年6月5日閲覧。
参考文献[編集]
関連文献[編集]
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- 河野正輝『住居の権利 : ひとり暮し裁判の証言から』ドメス出版〈住宅政策研究〉、1981年。全国書誌番号:81029229。
- 小沼正、仲村優一、一番ヶ瀬康子、阿部志郎『社会福祉の課題と展望 : 実践と政策とのかかわり』川島書店、1982年。全国書誌番号:83018966。
- 建設省住宅局『Q&A新しい公営住宅法』商事法務研究会、1996年。全国書誌番号:97046473。
- 公営住宅制度研究会 (編)『地域住宅特別措置法・改正公営住宅法等の解説』ぎょうせい、2006年。全国書誌番号:21063164。
- 住本靖、井浦義典、喜多功彦、松平健輔『逐条解説公営住宅法』ぎょうせい、2008年。全国書誌番号:21485685。
- 第2次改訂版 (2018年03月20日発行)ISBN 9784324104576
- 松久三四彦、後藤巻則、金山直樹、水野謙『社会の変容と民法の課題 : 瀬川信久先生・吉田克己先生古稀記念論文集』成文堂、2018年。全国書誌番号:23039985。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 公営住宅について - 国土交通省住宅局住宅総合整備課
- 公営住宅制度の概要について - 国土交通省(住宅・建築)
- 公営住宅法 - 衆議院
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