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公営住宅

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
公営住宅の例
宮城県営柴田槻木住宅
宮城県柴田郡柴田町1998年竣工)[1][2]

公営住宅(こうえいじゅうたく)とは、公的機関が直接的に供給・管理している住宅[3]のことである。

なお、所有者が公的機関であるかを問わず、建設や維持管理に公的助成を受け、低家賃で貸与・供給されているものは社会住宅という[4]イギリスアメリカには、政府の公的機関が直接的に住宅を供給する公営住宅制度がある[3]。一方、フランスドイツでは住宅の供給は経済活動であり行政機関が直接行うものではないとされており、地方公共団体による公営住宅は歴史的に存在せず、適正家賃住宅組織による社会住宅制度が存在する[3]

日本の公営住宅

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災害公営住宅の例
東日本大震災により建設された天神復興公営住宅岩手県釜石市

日本では、公営住宅法昭和26年法律193号)によって定められている。同法により建設される公営住宅の中には、災害被災者の住居を確保するための災害公営住宅も含まれる。

なお、地方自治体や各自治体の地方住宅供給公社が管理運営する、中堅所得者向け賃貸住宅や[5][6]、分譲住宅団地もあるが、これらは公営住宅とは別のものである。

歴史

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日本では、大正中期から昭和初期にかけて公営住宅に関する実験的な取り組みが行われるようになった[7]

1922年(大正11年)9月21日からは、大阪府住宅改造博覧会が開催された。

1923年(大正12年)に発生した関東大震災を受け、たとえば現在の港区立芝小学校などにバラックが建てられ[8]、翌1924年(大正13年)には震災義捐金で財団法人同潤会が設立されると、仮設住宅に続き鉄筋コンクリート造アパート・同潤会アパートの建設が始まり、合計16カ所に完成した[9]。同潤会は1941年(昭和16年)の太平洋戦争勃発に伴い、主に軍需産業の労働者への住宅供給を行う住宅営団へと発展的に解消した[10]

1927年(昭和2年)には不良住宅地区改良法が施行され、住宅地区改良事業が進められ改良住宅が建設された。これは戦後の1960年(昭和35年)5月17日に制定された住宅地区改良法に引き継がれた。

1945年(昭和20年)に終戦を迎えた後、主要都市は空襲により住宅の絶対数が不足しており、主要な戦災都市に越冬のための簡易住宅30万戸を国庫補助により建設することが決定された[11]1949年(昭和24年)頃になると資材不足は緩和し、応急的な住宅政策から恒久的な住宅政策へと移った[12]1950年(昭和25年)には住宅金融公庫が発足した。

1951年(昭和26年)6月4日には公営住宅法が制定[13]、同年7月1日に施行された[13]。同法に基づき、公営住宅の整備が本格的に始まった[14]。深刻な住宅不足を解決すべく、戦後復興の一環として国民に住宅を大量供給する目的で開始された[14]。当初の公営住宅の入居者は低所得者層ではなく、家賃支払能力のある所得階層を対象としており[14]、公営住宅にはセーフティーネット英語版としての機能は持たされていなかった[14]

その後、1955年(昭和30年)に日本住宅公団(現:都市再生機構)が設立。高度経済成長によって増加したサラリーマン世帯を主とする勤労者階層に対する住宅供給は公団住宅が担うこととなり、公営住宅は低所得者を対象とする社会福祉の一環[13]として位置づけられるようになっていった。

平成初期の1990年代半ば以降は、住宅関連に対する政府による公的支援は大幅に削減された。住宅政策・都市計画を専門とする平山洋介によれば、これにより「住宅と住宅ローンの大半」が市場に委ねられることとなった[15]2005年(平成17年)には公営住宅の戸数が減少に転じた[15]

2003年地方自治法一部改正により指定管理者制度が法制化されたことから、主に都道府県などが管理する公営住宅を中心に、指定管理者への民間委託が実施される事例も増えている[16]

家賃と入居条件

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一般的に入居できる者としては、家族一世帯辺り(以下同文)の月収25万9000円までを上限とし、政令で規定する規定月収・15万8000円を参酌して、条例に基づいて設定しており、家賃は入居者の家賃負担能力と、入居する住宅の便益に応じた「応能応益制度」により定められる[17]。そのため、所定期間に世帯全員の収入申告が必要となり、申告漏れとなった場合は近傍のマンションなどと同等の家賃負担が適用される[18]

入居から原則3年以上が経過し、入居収入規定を上回る収入を得た場合は「収入超過者」の扱いとして明け渡し努力義務が生じる[17]

また入居から原則5年以上が経過し、直近2年間の年収が31万3000円以上(条例により同25万9000円まで引き下げ可)ある者は、「高額所得者」の扱いとして、土地を所有する地方自治体が明け渡しを請求できる事(行政執行。即ち特定公共賃貸住宅(後述)、公社住宅=都道府県か政令指定都市の住宅供給公社運営マンションか、UR賃貸住宅=公団住宅などの公的マンションや、それに準じる物件への移動を促す)もできる[17]

この場合、収入超過者は入居から5年以上経過後、高額所得者はそれが認定されたその段階で、近傍のマンションなどと同等の家賃負担が適用される[17]

家賃は原則としてその月の月末までに所定金融機関、または各自治体の窓口に納付書とともに提出するか、口座振替による引き落としで納付する。支払期限を過ぎて払い込みがない場合の、いわゆる滞納が一定期間続いた場合は入居許可取消し=退去・明け渡しの対象とみなされる[18]

入居資格者

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下記の各項目をすべて満たしていること[19]

通常入居は抽選申し込み制で各自治体年数回に分けて募集するが[20]、応募者なしや、定員割れのものに関しては、追加抽選募集[21]や、先着無抽選による通年随時募集[22]を行う物件もある。

  1. 同居、または同居しようとする家族・親族がいること(内縁関係者=要住民票確認、婚約者=要婚姻届受理証明書、並びにパートナーシップ宣誓制度に基づいた宣誓書を持っている者も対象)。但し次の各項目に該当する場合は単身でも可とする。
    1. 満60歳以上(年齢は募集期間末日における満年齢。以下同文)
    2. 身体障害者手帳1-4級保持者
    3. 精神障害者手帳1-3級保持者
    4. 療育手帳交付者、またはそれと同程度に準じる障害者と認定される者
    5. 戦争疾病者
    6. 原子爆弾被爆認定者
    7. 生活保護又は中国残留邦人等に対する支援給付を受けている者
    8. 1996年3月31日までの間に厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所に入所していた者
    9. DV被害者
  2. 入居収入基準に合う者(原則月収15万8000円以下の者。裁量世帯者=上記1-1〜8と、同居者に未就学児がいる世帯、及び一部自治体の国外からの戦後引揚者の該当者は月収21万4000円以下の者)
  3. 住宅困窮者(原則持ち家のある者は入居不可)
  4. 申し込み本人が原則として居住予定地の在住か在勤・在学者であること(例外として、主に都道府県営から市区町村営に転嫁した場合は、同一都道府県内の別の市区町村からの入居を認める物件もある[23]
  5. 都道府県or市区町村税を滞納していないこと
  6. 緊急連絡先届けを出していること
  7. 過去に滞納や無断退去など、不正行為をして入居していないこと
  8. 暴力団関係者でないこと(本人、同居者問わず)
    入居申し込み・審査の際、申し込み本人・同居者を問わず、暴力団関係者であるか否かについては、その物件所在都道府県の警察本部に身分照会を行う[24]。これは全国的に公営住宅を悪用した重大事件が発生しており、他の入居者の安心・安全の確保や、生活の妨害行為や不安が広がっていることを受け、それらを防ぐことや、暴力団関係者が入居することで、それらの不当な収入が暴力団の資金源になることにより、公営住宅への暴力団の入居を助長(手助け)をしてしまうという観点から、暴力団関係者の入居を全面的に堅く禁じていることによる[25]

申し込み失格となる場合

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以下の各項に抵触する者は申し込み無効や失格となる場合がある[19]

  1. 不正記載、虚偽申請があった場合
  2. 申し込み用紙の必要記入事項の記載漏れ
  3. 入居資格を満たしていない者(暴力団関係者含む)
  4. 友人などの寄合世帯や、家族を不自然に分割や合併して申し込んだ場合(夫婦別居や兄弟・姉妹、友人同士、おじ・おば、おい・めい・いとこなどの組み合わせ。但し両親が死亡した場合の兄弟・姉妹での入居は可)
  5. 申し込み記載者全員が同時に入居できない場合(但し、入居者が結婚や死亡したり、乳児出生の場合は再審査とする)
  6. 1回の申し込みによる複数世帯の重複申し込み(同一世帯の複数通の申し込み<=郵送と窓口、ネットなど複数媒体の利用も>含む)
    ※婚約者がいる場合も1世帯とみなす[18]
  7. 仮当選した後、指定された日までに審査に必要な書類が提出できない場合
  8. 優遇世帯の申請者が仮当選後の入居資格審査後に、その優遇資格がないことがわかった時
    ※優遇世帯:次の項目に当てはまる場合、抽選倍率を優遇する処置が取られる。
    1. 障害者(上記参照)
    2. 母子(父子)家庭
    3. 高齢者(60歳以上、かつ同居者に18歳未満が含まれる場合も)
    4. 多子世帯(18歳未満が3人以上いる場合)
    5. 未就学児のいる世帯
    6. DV被害者
    7. その他犯罪被害などにより、従前の住居への移住が困難となった世帯
    8. 中国残留邦人世帯
    9. 著しい低所得世帯
    10. 大規模災害被災者(直近1年間以内で何らかの災害により住宅が崩壊したり、全半壊などを受け、引き続き居住が困難と判断された場合)
    11. 3回以上申し込んで連続して落選した者(ただし一度当選した者が、辞退や失格などで資格喪失となった場合は申込回数は改めてリセットされるが、補欠当選後の入居照会辞退の場合は申込回数は維持される)

その他

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  • ペット類の飼育は原則禁止・不可[19](集合住宅の構造上、動物の飼育には適しておらず、それらを住宅内で飼うことは入居者間でのトラブルを招くため)[18]
  • 自治体の許諾なく入居者の変更はできない。また住居を他人に譲渡や貸借することも禁じられている[19]
  • 住宅以外の事務所や店舗、作業所などへの転用は原則不可[19]
    • ただし、障害者が世話人などの支援を受けて自立した生活を送れるようにするため、公営住宅法に基づいて公営住宅を障害者グループホームとして、その運営を担う団体・法人などに対して物件の使用許可を出しているもの、また子育て世帯や高齢者支援、若者向けシェアーハウスとして活用している物件も一部ある。[24]
  • 部屋の内装の模様替え、増改築なども原則不可(退去時に原状回復をしなければならないため)[19]
  • 住宅の敷地内に無断で個人による不法な耕作や花壇に流用することや、敷地内の駐車場以外の場所、ならびに周辺道路への違法駐車は堅く禁止されている[18]
  • 募集時に「浴槽なし」とされている場合は、原則として入居者自身の負担で浴槽や風呂釜を設置することになるが、一部はその住宅の所在地にある都市ガス会社が提供するリース式メンテナンス制度での設置(リース料と、保証金の支払い必要)もできる物件もある[18]
  • 住居内の修理・修繕は一部入居者の負担が必要なもの(ふすまや畳、壁紙の張り替え、排水管の詰まり、網戸、換気扇の故障など)がある[19]
  • テレビの受信に関しては、地上波はマンション用共同受信装置を通して視聴することができるが、BS・CSに関しては原則としてケーブルテレビフレッツなどテレビ再放送サービスが提供されるインターネットプロバイダー業者との契約が必要となる(一部BSも共同受信装置を通して直接視聴できる物件あり[26])。パラボラアンテナの設置に関しては、土地所有者の自治体への設置許可書などの届け出と、対象棟の入居者全員の許諾が必要となっている[27]
  • 敷金は、入居時に家賃3か月分を預託してもらう[18]

特定公共賃貸住宅

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この他、都道府県や市区町村が運営するものに、特定公共賃貸住宅があり、主に中堅所得層の家族向けに、各自治体が直接運営・供給するマンションもある。入居の条件としては、世帯月収が15万8000円から48万7000円以下の者であるのと、家族向けであるため単身者のみの入居不可である他は、基本的に一般公営住宅の入居資格者に準じている[28]

名称

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名称は「…住宅」または「…団地」とする自治体が多いが、東京都営住宅は「…団地」または「…アパート」[注釈 1]広島市営住宅は「…アパート」[注釈 2]名古屋市営住宅は「…荘」[注釈 3]の名称を採用する。

バリアフリー化

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後付けの階段室型エレベーターの例
大阪市営放出西住宅)
後付けの階段室型エレベーターの例
大阪府営東大阪鴻池住宅)
後付けの片廊下型エレベーターの例
東京都東砂二丁目団地)

阪神・淡路大震災東日本大震災の発生以降、築40年以上経過したものに関しては、建て替えないしは耐震補強工事を進めつつ、バリアフリー推進の流れからエレベーター車椅子スロープの設置が進められている。

エレベーターに関しては、建築基準法により基準として高さ31m以上の建物、並びに「サービス付き高齢者向け住宅」についても3階建て以上の建物はエレベーターの設置が必須[29]とされ、それ以下は原則的にその設置義務がないことなどから、エレベーター自体が設置されていない住宅も多い。

そのため、近年は既存の住宅に外付けする形で、国土交通省を中心として提案を募集した4人程度が乗れる低コストの小型タイプのエレベーターを1階層につき2部屋(実際は中間階に設置するため、2階層・4部屋)を1つで共有する階段室型、または片廊下増設型[30]のどちらかで設置する計画が進んでいる。

階段室型の場合は、階段がそのまま残るため、車椅子用スロープの設置工事をしない限り、車椅子での直接移動が困難ではあるが、既存の階段の踊り場の壁を撤去し、工事期間中も既存の住居で住み続けながら外付け工事をすることができる[30]。一方、片廊下増設型の場合はバリアフリーの点では優れているが、一時的に住居を閉鎖し、他の部屋・住居への仮住まいをしなければならないなどのデメリットも多い[30]

コストパフォーマンスの点では、設置費用・メンテナンス費用・数十年後の改修に伴う撤去費用などを総合的に踏まえて考えた際、長崎県が「5階建て・1棟につき30室・20年間使用[注釈 4]」を想定して費用を試算したところ、階段室型は約4,800万円に対し、片廊下増設型は約7,600万円(工事費に加え、対象住居の仮住まい費用などが掛かるため)と大きく差がつき、前者が低コストで工事がしやすいという結果となった[30]

エレベーター増設は地方公共団体の財政負担が大きく、入居者が負担する共益費の増加もあることから、山形県では設置予定の目処が立っておらず、歩行困難な高齢者障害者がいる世帯では、階段の移動負担が少ない低層階への引越しを促すことで解決を図るとしている[31]神奈川県川崎市宮前区の川崎市営高山住宅では、試験的に17号棟でベランダ側に外廊下型エレベーターを設置した。これは玄関側だと建築基準法の問題があり、設置が困難とされていたが、ベランダ側であれば問題がないとして設置工事を行ったもので、この方法だと外廊下型ではあるが階段室タイプと同様に、工事と並行しながら現在の住居に居住できるため、一時的な移動の負担も減るなどメリットもあるとされる[32]

なお、空き室の追加や随時募集物件に関しては、車椅子常用者向けなど一部の例外はあるが、原則として以前入居し、上記の収入超過者、ないしは高額所得者による明け渡し、ないしは入居者の死亡などて空き室になったものを一部原状回復工事のみを行ったものであり、新築住宅のような綺麗な状態ではないため、必ずしも高齢者や障害者向けなどへの改良を行っているとは限らない[18]

ギャラリー

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英米の公営住宅

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イギリス(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)

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イギリスの地方公共団体には住宅部局があり公営住宅を供給・管理している[3]第一次世界大戦の勃発により労働者住宅の家賃が高騰し、1915年にはグラスゴー家賃ストライキが発生するなど住宅難が社会不安を生じさせていた[33]

1919年には住宅及び都市・農村計画法(アディソン法)が制定され、地方公共団体が公共住宅を建設する場合の政府補助金の制度を創設した[33]

1930年には住居法(グリーンウッド法)が制定され、地方自治体がスラムを撤去する場合の補助制度や地方自治体の家賃割引の権限を定めた[34]

1949年には住居法が制定され、公的住宅供給の条件であった労働者階級という要件を撤廃し、すべての国民に公営住宅への入居権を認めた[35]

しかし、公営住宅に代わって非営利民間組織である住宅協会(housing association)が供給する社会住宅の数が伸びている[3]。住宅協会は特定の都市の一定地域のみを対象としていることが多く、住宅公庫に登録された団体が約2,300団体ある[3]。住宅協会の組織形態には、協会、会社、信託団体があり、慈善団体が母体のものから元公営住宅部局の職員が主体のものまで幅広い[3]。地方公共団体が供給、管理、運営、払い下げ、住宅協会への移管が進んでいる[36]。また、地方公共団体及びニュータウン開発公社により管理されている公的賃貸住宅の居住者への払い下げとハウジング・アソシエーションヘの移管が急速に進んでいる[37]。小規模世帯等の増加に対応し、住宅の供給を増やすことが必要とされ、賃貸住宅に対しても既存の住宅の改善を進めるために、民間の資金を導入して整備を行おうとしている[37]

カウンシル・フラット

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イギリスの地方公共団体によって建てられた低所得者向けのカウンシル・フラット(カウンシル・ハウス、カウンシル・エステート)は、割安な家賃で、低所得者、失業者シングルマザー生活保護対象者などが優先的に入居できる仕組みである[38]。もともとカウンシル・フラットは、1875年の公衆衛生法で定められた地方都市のスラム解体政策の一部であり、当初の目的は労働者階級の暮らしを向上させ、同時にスラムをなくすことで近隣の土地の価値を上げることだった[38]。その後、第二次世界大戦による住居の破壊、急激なインフレーション、兵士の復員による新婚世帯の増加などが原因で、深刻な住宅不足が起きる。これを受けた政府は1946年、住宅法を制定し公営住宅の建設を積極的に推進し、1951年までに英国全土で約90万戸のカウンシル・フラットが建設された[38]。やがて1960年代に入ると、再び都市部のスラム解体政策に重点が置かれるほか、核家族化に伴う若年層・高齢者用住宅の建設も開始し、住居の大量供給のためカウンシル・フラットの高層化も進んだ[38]

マーガレット・サッチャー首相率いる保守党政権が1980年の住宅法によって導入したのが、Right to Buyという制度で公営住宅の住人が現在居住する物件を市価より安い値段(約33 - 50%)で購入できる権利を与えるもので、この制度によって英国の持ち家率は飛躍的に上昇し、現在も改定されながら続いている[38]。これにより、公営住宅が次々と私有化・民営化され、順番待ちをする入居希望者は、膨大な数にのぼった[38]。その後1980年代にかけて建設され、それ以降カウンシル・フラットの建設は大幅に減少しているといわれている[38]

新たな公営住宅建設には政府からの資金援助が望めず、借入金にも厳しい制限があることから、自治体は従来とは異なる方法で公営住宅建設の費用を捻出する必要があった[38]。そこで、地方公共団体は所管の住宅建設会社を設立し、民間の土地開発業者のように個人向け住宅を建設・販売し、その収入を公営住宅建設費に充てるというスタイルを編み出した[38]。イギリスの地方公共団体の3分の1以上が独自の住宅建設会社を設立し、1980年の住宅法によって力を奪われていた地方公共団体は、約40年ぶりに公営住宅を建設し始めた[38]

アメリカ

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アメリカでは地方住宅庁(local housing authority)が公営住宅を供給・管理している[3]。家賃負担は応能家賃制度となっている。

アメリカでも公営住宅に代わって非営利民間組織であるCDC(community development corporation)が供給する社会住宅の数が伸びている[3]。アメリカには2000以上のCDCがあるが、組織の分類が困難なほど多様で、賃貸住宅が一般的だが、持ち家を中心に供給している組織もあり、商業開発や啓蒙活動等も行っている組織もある[3]

低所得者への住宅政策は1937年から始まり、不良住宅の解消と住宅費補助を二大目標として、自治体が建設する公営住宅の所要資金の元利を40年にわたって償還するというものであった[39]。公営住宅は、必ずしも対象を貧困層に限定してはいなかったが、民間住宅業者を圧迫しないという条件があって第2次世界大戦後家賃は市場家賃の80%に抑制され、スラム地区改良や都市再開発に伴う住宅取り壊しを補完するものとされたため、対象者は低所得者、人種的マイノリティに偏った[39]

1968年から、入居者の家賃負担を世帯収入の25%に限定するとした改正は、入居者の貧困世帯化を反映するものであると同時に、促進するものであった[39]。公営住宅は貧困世帯とマイノリテイのゲットー化をもたらすイメージが、公営住宅団地の造成を困難にした[39]。既存の公営住宅団地のなかには、ゴーストタウン化するものもあった[39]

1993年のアメリカの公営住宅132万戸とされていたが、既に新規供給は停止されており、取り壊しや払い下げにより公営住宅は減少している[3]

2018年7月31日に住宅都市開発省(HUD)は、公営住宅敷地内と建物から25フィート以内の喫煙を禁止した[40]。この喫煙禁止は、政府住宅機関の医療費や修繕費を1年間に1億5300万ドル節約できると推定されている[40]。屋内とビルの近くでの喫煙を排除することは、受動喫煙から人々を守る唯一の方法であるとし、また、住民や従業員を受動喫煙してしまうことから守ることに加えて、禁煙政策は、禁煙をしたい人と禁煙を試みている人の禁煙行動を促し健康な環境を作ることを目的としている[40]

カリフォルニア州

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カリフォルニア州では住宅価格の高騰、、地元経済への悪影響と人口流出が問題になっている[41]。カリフォルニア州ハウジングコンソーシアムによると、手頃な住宅提供(affordable housing)は、不本意な引っ越しの軽減、住宅の開発による一時的な建設に関連する雇用と地元経済での継続的な消費を通じた地元の経済活動を促進、検討された社会サービスを集中的に提供することを通じて社会サービスのコストを削減、貧困のサイクルを終わらせる手助けをなど、広範な利点があると考えられると述べている[42]

独仏の社会住宅

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ドイツ連邦共和国

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ドイツではsozialer Wohnungbau(社会福祉的な住宅建設)と呼ばれるが、名前が長いのでSozialwohnung(社会福祉住宅)と呼ばれることが多い[43]。社会住宅が住宅政策に大きな役割を果たしており、低利の公的資金を投入して建設され、低利資金が未返済の状態で、借家人、家賃水準および居住面積が一定の条件を満たすものをいう[4]。ドイツでは公益住宅企業が社会住宅(社会賃貸住宅)の約3分の2を管理しており、残りは個人家主や民間企業が管理している[3]

1990年までは税制優遇を受けることのできる公益住宅企業が存在し、社会住宅の主たる担い手となっていたが、住宅の公益に関する法律が廃止されて、公益住宅企業の税制上の優遇策は廃止された[37]

2002年1月には、50年間にわたり住宅建設促進の基本法であった第2次住宅建設法が廃止され、代わって社会的居住空間促進法が制定された。新法では、住宅市場を活用し、自力では住宅の手当できない世帯(低所得者、多子世帯、高齢者等)に目的を特定して住宅政策を実施することとなった[37]

第一次世界大戦後、国は労働者用のアパートの建築に取り組み、ナチスの時代になるとさらにこれに拍車がかけられた[43]。第二次世界大戦後、「国は社会の広い層に住む場所を提供すべし。」と法律で定めたことがきっかけになり、国が公営住宅を建てた[43]。これが低所得層の大きな支えになっていたが、「ただでもらった公営住宅を管理するよりも、目先の利益に目が眩んで、低所得層の住居を投資家に売却してしまった。民間企業のノウハウを利用した方が効率のいい運営ができる。」と州政府はこれを正当化し、1988年公営住宅を州の管轄に移行した[43]。国は社会福祉住宅を16の州に払い下げたが、投資家が興味を示すのは利益のみで買い取った社会福祉住宅は大規模に改築されて、上層中間層から裕福層へのアパートと変わってしまった[43]

社会福祉住宅の代わりに、子供がいる家族や個人が収入不足のために適切な住居に住むことができない場合、州が補助金を出す制度としてWohngeld(家賃補助金)が実施された[43]。ドイツで就職して税金を納めていれば、需給資格が生まれる[43]。しかし、郊外から都市部にドイツ人が流れ込みを始めると住宅不足が生じ、家賃が上昇して、これまでは家賃補助金がなくても生活できた人が、補助金を申請するようになった[43]。都市部で払えるアパートを借りること自体が困難になり、家賃補助金も何の役にも立たなくなった[43]

市民の不満の高まり、州選挙での敗北が原因となって、地方自治体は2016年頃から公営住宅の建築に力を入れている[43]。しかし新しく建設される公営住宅よりも、公営住宅のステータスを失う住宅の方が多く、この状況が好転するのは早くても2020年頃になると予測される[43]

フランス共和国

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フランスには適正家賃住宅という社会住宅がある[4]。HLM(適正家賃住宅)組織が社会住宅の9割を管理しており、残りは国などから出資を受けた経済混合会社(SEM)が管理している[3]。HLM組織はフランス国内に900以上あり、HLM公社・建設整備公社、HLM株式会社、HLM建設協同組合がある[3]。APL(個別住宅援助)やALF(家族住宅手当)の受給者要件を満たさない者に対するALS(社会住宅手当)もあり、適正家賃住宅の居住者に対して所得、世帯構成、住宅の評価額、地域、家賃等に応じて支給される[4]

オイルショック以降、移民、低所得者などの社会的弱者が集中するようになり、住宅の劣化に加え、失業、バンダリズム、軽犯罪などの社会問題を抱えてきた。1977年以降、政府は、都市の困窮防止政策として、住宅団地の改修や建替え等の物理的対策を中心に、雇用・教育対策などの社会的対策についても取り組んできたが、根本的な解決には至らず、社会問題が深刻化し顕在化していくなか、一定の社会階層が限られた地区に集中することが、社会問題の要因の1つであるとの認識が一般化される[44]

1991年7月13日の都市基本法は、ソーシャルミックスの概念を初めて取り上げ、都市圏内で均衡ある社会住宅の配置を目的に、社会住宅の少ない市町村にその建設を促す取組みを定めた[44]2000年12月13日の都市の連帯と再生に関する法律は、それを強化するために、一定の都市圏に位置する一定規模以上の市町村に全住宅戸数のうち20%を社会住宅とすることを義務付けた[44]。このように、社会住宅の供給と同時にソーシャル・ミックスを達成することが、フランスの都市住宅政策の課題として求められていた。

2003年にボルロー法が制定され、主要目的の1つとして、困窮地区の居住と住環境を持続的に再生することが掲げられた[44]。その手段として、市街地改良全国プログラム(Programme National de Rénovation Urbaine=PNRU)が制定され、その実施主体として全国市街地改良機構(Agence Nationale pour la rénovation urbaine=ANRU)の創設が規定された[44]。これにより、2004年から、パリ都市圏を中心にフランス全国でPNRUが実施されている[44]

アジアの公営住宅

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ここでは、日本以外の事例について見る。

香港

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シンガポール

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脚注

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注釈

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  1. 東京都営住宅の例として、村山団地白鬚東アパートなど。
  2. 広島市営住宅の例として、基町高層アパートなど。
  3. 名古屋市営住宅の例として、名古屋市営みなと荘など。
  4. 築40年の住宅の耐震補強などの改修を行い、さらに20年程度の寿命が増えて60年程度使用したものとみなして考える。

出典

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  1. 公営住宅 - 県営住宅一覧について 宮城県、2023年6月14日、2025年5月6日閲覧。
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参考文献

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関連文献

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関連項目

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外部リンク

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