東日本大震災後の仮設住宅
東日本大震災後の仮設住宅(ひがしにほんだいしんさいごのかせつじゅうたく)では、2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)により提供された仮設住宅について述べる。表記上特に記載が無い場合は2011年の出来事とする。
概要[編集]
国土交通省は当初、「2カ月以内に3万戸」の設置を目指していた。さらに4月5日、被災地からの要請を踏まえ、「8月までに3万戸の追加供給」の準備を進めるよう、住宅業界の各団体に要請した[3]。
しかし、合板(ベニヤ板)・断熱材などを製造する工場が被災しており、資材不足による着工の遅れが懸念されている[3]。
また、後述の宮城県のように、余震により着工が中断している場合もある。
震災から2カ月あまり経った5月31日、大畠章宏国土交通相は、同日分の見込みも含めた竣工済み戸数が2万7200戸と、予定の3万戸を下回ることを明らかにした[4]。
みなし仮設住宅[編集]
大規模な災害が発生した際、地方公共団体が民間住宅を借り上げて被災者に供与し、その賃貸住宅を国や自治体が提供する仮設住宅に準じるものと見なす制度[5]。被災者自らが探して契約した場合も仮設住宅とみなされ、家賃の補助を受けることができる[6]。
みなし仮設住宅では、家賃や手数料などが国庫負担の対象とされる。適用期間は2年間。既存の空室を利用するため、プレハブよりもコストが低く抑えられる。また、住み心地もプレハブより快適とされる[7]。
特に被害が大きかった東日本大震災では、最終的に従来型プレハブ仮設住宅42,951戸、地元工務店仮設住宅9017戸、みなし仮設住宅67,877戸というみなし仮設住宅がおおよそ半分の割合という結果となった[8]。
問題点[編集]
- 未入居者
抽選に当たりながら入居しない被災者も出て、問題となった[9][注 1][注 2]。南三陸町ではその対策として、入居期限を設け、その入居期限までに入居しない被災者に対して、明け渡しを求めた。
- 施工ミス
岩手県釜石市の仮設住宅で4月下旬、「雨漏り」の苦情が市に相次いで寄せられていたことが発覚した[10]。
- 格差
仮設住宅の規格は施工業者ごとにまちまちで、防音性、断熱性、窓の大きさ、玄関扉の網戸の有無など、格差が生じた[11]。
- 応急仮設住宅の入居期限問題
国は、震災復興が進まないとして、公営住宅などの部屋を被災者に提供する「応急仮設住宅」の無償入居期限を2年から3年に延長するよう各自治体に通知したが、広島県呉市はこれに従わず、2年で打ち切っていたことが明らかになった[12]。この件が大きく報じられたことを受け、同市小村和年市長は「被災者の心情を鑑みる[13]と厳しすぎる判断だった」として期限を1年延長したが、すでに期限が過ぎており、退去していた被災者もいた。また、打ち切りの判断は一般入居希望者の数が多いことなどを理由に同市の住宅課(現住宅政策課)が単独で行っており、市長自身も報道で初めて知ったと釈明した。[14]。
各県ごとの状況[編集]
岩手県[編集]
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岩手県 応急仮設住宅 建設地 | |
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県内全域 |
地図の不具合を報告 | |
4月5日、震災後初となる陸前高田市立第一中学校の校庭に設置された仮設住宅36戸の抽選が行われ、それには募集数に対して50倍以上の応募があった[15]。
4月25日、大船渡市では、県立大船渡病院跡地に設置された仮設住宅の入居者説明会が行われ、57世帯の入居者に鍵が渡された。この時点で同市内では、822戸が着工されていた[16]。しかし、市内でも大船渡町内の設置戸数は約300戸で、住民からは不安と不満が発生していた[17][注 3]。
宮城県[編集]
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宮城県 応急仮設住宅 建設地 | |
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気仙沼市 |
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東松島市・女川町・南三陸町・大郷町・美里町 |
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石巻市 |
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仙台市・塩竈市・名取市・多賀城市・岩沼市・亘理町・山元町・七ヶ浜町 |
地図の不具合を報告 | |
宮城県女川高等学校、女川町立女川第一中学校、石巻市牡鹿清崎運動公園に設置予定であった仮設住宅は、余震で地割れが発生したため中断された[18]。
6月、大島(気仙沼市の離島)などでは、アメリカ製のトレーラーハウスが仮設住宅の代わりとして使用されることが決まった(支援団体による20台の提供)[19][注 4]。
6月8日、山元町では、町独自で260戸の発注をすることを決めた。石巻、女川、南三陸の3市町でも同様の準備をしていた[20]。
6月9日の時点で仙台市では、1371戸の仮設住宅が完成したが、申し込みは758世帯にとどまった。当初、2500戸を建設する計画だったが、後に1600戸に下方修正した。逆に「民間借り上げ住宅」の需要の方が高まった(6434戸)ためである[21]。
11月6日には、女川町の野球場で、海上コンテナを積み上げて作った3階建ての仮設集合住宅(コンテナハウス)への入居が開始された[22]。女川には平地が少ないため平屋の仮設住宅では十分な量を供給できず、町が独自に建築家の坂茂に打診して多層式の仮設住宅や集会所、マーケットなどを発注し、構造上の問題等がないことを確認して完成させた[23]。
福島県[編集]
5月8日、郡山市(ビッグパレットふくしま北側の市有地)で、富岡町と川内村の避難者向け仮設住宅の建設が開始。両町村合わせて、約310世帯分(間取りは2DK)。6月上旬に完成[24]。
二本松市では、ログハウスの仮設住宅が建設されている[25][26]。
千葉県[編集]
震災から丁度2ヶ月後の5月11日、旭市[注 5]では、午前9時から43世帯122人の入居が始まった(前日の10日に、200戸のうちの50戸が完成)[27]。残り150戸も完成し、5月23日の時点で、計178戸が入居完了との発表があった[28]。
長野県[編集]
5月14日、長野県北部地震(3月12日)で被災した栄村で、仮設住宅への入居が始まった。
コミュニティーケア型仮設住宅[編集]
岩手県釜石市は、東京大学・高齢社会総合研究機構と連携し、「コミュニティーケア型仮設住宅」の建設を計画している。敷地内に介護拠点や託児所を併設するもので、高齢者の孤立防止や地域交流などが狙い。住宅間の通路をウッドデッキにし、玄関にスロープを設けるなど、バリアフリーにも重点を置く。市内の平田総合公園に着工予定の約240戸のうち、1/3がコミュニティーケア型となった[29][30]。
さまざまな支援[編集]
岩手・宮城・福島の仮設住宅では、一軒あたりエアコン1台が設置されているが、光熱費は入居者の自己負担となっている[31]。
今回、「応急仮設住宅」(公営住宅は対象内、民間社宅は対象外)の被災者を対象に、薄型テレビ(32型)/全自動洗濯機/冷蔵庫(約300ℓ)/炊飯器(5.5合炊き)/電子レンジ/電気ポット(2ℓ)の「家電製品6点セット」(計約20万~25万円相当)が、日本赤十字社から現物支給(寄贈)された。この予算は、同社に日本国外から寄せられた「海外義援金」(総額約230億円のうち8割強の190億円を充当)によるものであり、日本国内で寄せられた義援金は使われていない。なお、対象者が約9万世帯にも上るため調達・配送が追いつかず、7月時点で3割の対象者にまだ届いていなかった[32][33][34]。
大東建託株式会社は3県475戸(岩手県228戸、宮城県141戸、福島県106戸)を施工。その他、復興工事に必要な住宅や工具の無償提供を実施。[35]
5月26日に三井物産は、社有林を伐採して仮設住宅用の建材を、被災自治体に無償提供する方針を発表した[36]。
フェール城日仏協会(フランスの対日交流団体)は、被災地に100戸の仮設住宅を送る計画をしていた[37][38]。
6月13日、エルピーガス協会は、仮設住宅入居世帯のLPGガス料金の割引(1戸あたり最大で合計3万円分)を発表した。サウジアラビア政府が日本政府に寄付した2000万ドル(約16億円)を原資にしたサービス。対象は約5万世帯にわたり、6月27日以降の検針分から実施する[39]。
ペット問題[編集]
「ペット飼育可」の仮設住宅も増えているとの報道がある[40]。
仮設住宅の解消[編集]
プレハブ仮設住宅のある岩手県・宮城県・福島県の3県26市町村のうち、22市町村は2018年3月~2021年3月に解消の見込み。岩手県陸前高田市は2020年度以降で、福島第一原子力発電所が立地する福島県双葉郡大熊町と双葉町の2町は解消時期を見通せていない[41][42]。そのうち建設型仮設住宅(プレハブ仮設住宅)の解消の見通しもいまだにたたないのは双葉町のみである。
関連項目[編集]
- フラワープロジェクト - 仮設住宅を彩るアート活動(宮城県石巻市)
- 東雲住宅 - 東京にあり、被災者を受け入れる避難住宅として機能している36階建ての超高層マンション。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ First of Japan Disaster Survivors Get Temporary Houses - Voice of America 4月11日
- ^ 第1期分応急仮設住宅の申込み開始!! - 七ヶ浜町災害対策本部(七ヶ浜町役場地域福祉課) 4月10日(Googleキャッシュ)
- ^ a b 仮設住宅、資材不足 早期整備に懸念も - 毎日新聞 4月3日[リンク切れ]
- ^ 仮設住宅、月内までに3万戸に届かず - 毎日新聞 5月31日[リンク切れ]
- ^ goo辞書
- ^ コトバンク
- ^ 新語用語辞典
- ^ 被災者への住宅供給システムについての考察 土木学会 2012年10月
- ^ “「理由ないなら鍵返却を」抽選で入居決まるも避難所に”. 河北新報. (2011年6月8日). オリジナルの2011年6月10日時点におけるアーカイブ。
- ^ 釜石の仮設住宅、雨漏り相次ぐ 県「施工の精度に問題」
- ^ 仮設に「格差」 - 読売新聞夕刊 7月19日
- ^ “東日本大震災:広島・呉市、仮設打ち切り 国は延長通知、被災3世帯入居”. 毎日新聞. (2013年4月30日). オリジナルの2013年5月10日時点におけるアーカイブ。
- ^ 正しい用法は「~に鑑みる」でなく「~を考慮する」だが、小村市長の勘違いなのか記者の誤記なのかは不明である。
- ^ “広島・呉市仮設打ち切り:住宅提供1年間延長 市長が陳謝”. 毎日新聞. (2013年5月1日). オリジナルの2013年7月2日時点におけるアーカイブ。
- ^ 仮設住宅、初の抽選 岩手・陸前高田で36戸 - MSN産経ニュース 4月5日
- ^ 【大船渡】仮設住宅の入居開始 72世帯予定 - 岩手日報 4月26日
- ^ 大船渡市仮設住宅 見通し示されず不安 説明不足、行政に苛立ちも - 東海新報 5月26日
- ^ 余震で仮設住宅の工事中断 女川町と石巻市の3カ所 - 共同通信 4月13日
- ^ 【震災】仮設住宅の代わりに“トレーラーハウス” - テレ朝ニュース 6月13日
- ^ 宮城・山元町、独自に仮設住宅260戸 希望者の声反映 - 朝日新聞 6月9日
- ^ “仙台市仮設住宅の入居申請 プレハブ低迷”. 河北新報. (2011年6月11日). オリジナルの2011年6月12日時点におけるアーカイブ。
- ^ 初の3階建て仮設住宅 被災者入居始まる 宮城・女川 - 産経新聞 11月6日
- ^ 第2フェーズ: 多層コンテナ仮設住宅(2、3階建) - 坂茂建築設計
- ^ ビッグパレットそばに仮設住宅建設開始 - 福島放送 5月9日(Googleキャッシュ)[リンク切れ]
- ^ “建築家の目 「仮設」に提案”. 読売新聞. (2011年6月9日). オリジナルの2011年6月11日時点におけるアーカイブ。
- ^ ブログ6月 - はりゅうウッドスタジオ 6月9日
- ^ 千葉・旭市 仮設住宅への入居始まる - 日テレNEWS24 5月11日
- ^ 千葉県内の震災避難所解消 旭市は仮設178戸入居 - 共同通信 5月23日
- ^ 車イス移動楽々、介護拠点も併設…ケア重視の仮設住宅 - 読売新聞 5月17日
- ^ 「コミュニティーケア型」仮設住宅、釜石市が建設計画 /岩手 - 毎日新聞 地方版 5月24日[リンク切れ]
- ^ 仮設住宅「室温46度の蒸し風呂」エアコン光熱費は自己負担 - J-CASTテレビウォッチ 2011年7月6日
- ^ 日本赤十字社、釜石市の仮設住宅に家電寄贈 - 日テレNEWS24 4月24日
- ^ 「家電6点セット」社宅入居には支給されず - 毎日新聞 6月3日
- ^ 海外募金で家電支給まだ7割…日赤、調達に遅れ - 読売新聞夕刊 7月19日
- ^ http://www.kentaku.co.jp/corporate/csr/about/support02.html
- ^ 三井物産社有林、仮設住宅用建材を無償で提供 - 読売新聞 5月26日
- ^ 世界からエール - 読売新聞 5月21日
- ^ le projet - フェール城日仏協会
- ^ エルピーガス協会、仮設住宅世帯のガス料金引き下げ - 日本経済新聞 6月13日
- ^ 24時「ペット避難所」 - 読売新聞 5月22日
- ^ 2018年3月1日中日新聞朝刊29面
- ^ “東日本大震災に係る福島県借上げ住宅の供与期間の延長について - 福島県ホームページ”. www.pref.fukushima.lg.jp. 2021年8月1日閲覧。
外部リンク[編集]
- 応急仮設住宅関連情報(国土交通省)