輪番停電

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輪番停電(りんばんていでん、: Rolling blackout)とは、電力需要が電力供給能力を上回ることによる大規模停電を避けるため、電力会社により一定地域ごとに電力供給を順次停止・再開させることである。

概要[編集]

一般に輪番停電は発電所による発電能力の不足、もしくは発電した電力を供給する電力供給網(送電線、変圧器等)の能力不足のいずれかによって発生する。このような停電は発展途上国では一般的どころか日常の一部にすらなっている傾向があるが、成熟した電力設備を持ち、電力需要予測や設備投資計画の発達した先進国で見られることは稀である。

電力会社が経験豊かな場合であれば、産業等への影響を最小限にするため事前に計画が広報される。しかし多くの場合、電力会社は電力供給が安全限界に近づくと事前通知なしで電力供給をカットしてきた。日本国内においても夏場のピーク電力抑制のため、大口需要家との需要調整契約に基づく電力供給制限が、東京電力2007年平成19年)8月22日(大口需要家23件、12万kW)に行われたこともある。

停電は管轄変電所などの一定地域ごとに行われるため、一般家庭、オフィス、病院や鉄道など、公共施設などを区切って、停電の枠外にすることは困難である[1]。このため、自宅で医療機器を使用する場合や、病院やデータセンター基地局などは、自家発電による対応が必要である[2]。また、発電機のない信号機や31メートル以下の建物に設置されたエレベーターは、使用不能になることから注意が求められる[3]

実施事例[編集]

日本[編集]

日本における輪番停電の実施は、第二次世界大戦戦後混乱期[4][5]東日本大震災(後述)の事例がある[注 1]

東京電力東北電力および各マスコミでは、東日本大震災の被害・影響に伴い実施されていた輪番停電に関しては主に「計画停電」の名称を用いている[4][6][7][8][9][10][11]2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により、東京電力では、福島第一および第二原子力発電所をはじめ、火力発電所、水力発電所および変電所、送電設備に大きな被害が発生し、電力不足に対応するため、3月14日から輪番停電が実施された[8]

3月29日以降は実施されておらず[12]4月8日に、6月3日までの間は輪番停電を原則として実施しない旨を発表した[13]5月13日、東京電力は同年夏の電力供給力見通しを約5520万kWに上方修正すると発表したが、東北電力への電力融通も予定されていたため、それを考慮するとやはり需要に供給が追いつかない可能性があった。東京電力は夏季の輪番停電の回避に向けて供給の確保に全力を挙げるとしていた[14]

東北電力でも、発電所および送電設備に大きな被害が発生したことにより、想定される電力不足に対応するため、一部地域で輪番停電を行うことを同年3月15日に発表[10][11]したが、需給バランスが緩和したため中止した[15]

2012年5月14日に、日本国政府が「エネルギー・環境会議」を開き、関西電力管内で夏に懸念される電力不足に対応して、電力使用制限令発動の検討を始め、北海道電力四国電力九州電力を加えた4電力管内で、計画停電を準備する方向で議論することも確認した。計画停電について国家戦略局担当相の古川元久は「基本的には考えていないが、万が一に備える」として、日本国政府として万全を期す姿勢を強調した[16]

問題点[編集]

パチンコ業界についての著述を行うPOKKA吉田の体験によると、都内の自宅は5つある停電エリアグループのうちグループ4に属していたが、近隣にはグループ5のエリアがあり、その間に「グループ4でもあり5でもあるエリア」が存在し、そのエリアでは2回分の停電になったという。吉田は、こうした杜撰さの話は殆ど報道されていないと指摘している[17]

このような「電力供給経路の錯綜」問題は、JR東日本でも同様であった。JR東日本では自社発電所を持ち、各施設に電力の供給も行っていたが、所轄する管内にある踏切のうち、どの踏切が東京電力・自社発電所から電力供給を受けているのか把握し切れなかったため、運輸指令と現場に混乱が起きている[18]

また、東京都区部荒川区足立区を除く)では、計画停電は実施されず、事務的に停電地域を決定した結果、3月14日の初日に実施に踏み切られた唯一の停電では、重度の被災地域である茨城県鹿行地区、県北地区が停電された。これにもインターネットを通じて大量の抗議があったほか、茨城県知事橋本昌が公式に記者会見を開いて、東京電力を非難した。この結果、翌15日からは、茨城県全域が輪番停電の対象から外された[19]

フリージャーナリストの烏賀陽弘道は、この停電を巡る報道で、「なぜ、どういう意図の下に計画停電という言葉を使うのか」「それはいつ、誰が考えたのか」「なぜ輪番停電という言葉は消えたのか」を検証した記事や番組が、見当たらなかったことを指摘している[20]

アイルランド[編集]

アイルランドでは1970年代から1980年代にかけて、労働組合ストライキにより、電力供給公社 (ESB:Electricity Supply Board) が輪番停電を行うことが何度か発生した。1991年以来ストライキによる輪番停電は発生していないが、ESBはこのような事態に備えて国内をA、B、C、X、Y、Zの6つの地域に分け、それぞれに停電のリスクが高い時間帯、中程度の時間帯、低い時間帯を割り振って3時間毎にローテーションすることとした。また、上記の地域の例外として、病院のある区画は優先区域と設定し停電の対象外としている。

ESBは停電の可能性のある地域およびローテーションを全国紙に掲載し、さらに電力需要が逼迫する時間帯の節電を国民にアピールする。実際に電力供給が逼迫した場合、まず停電のリスクが高い時間帯にある地域の一部、または全部への電源供給がカットされ、それでも足りない場合は中程度の時間帯の地域、低い時間帯の地域の電力の順番で停電していく。

ミャンマー[編集]

慢性的に国内の電力が不足しているミャンマーでは、2011年現在においても日常的に輪番停電が行われている。特に、水力発電による電力供給が乏しい乾季の3月から5月に顕著である。ミャンマーの最大都市であるヤンゴンにおいても、乾季では日中のほとんどの時間帯に電力が供給されない。また、停電の時間帯や電気が来る時間帯も知らされることはない。市民もそのことは覚悟しており、なるべく電気に頼らない生活を営んでいる。小型の発電機を持つ家庭も多い。スーパーやホテルでは大型の発電機を持つところが多く、道路には発電機の騒音が鳴り響いている。たまに電気が来ると、家族みんなで喜ぶ光景が見られる。この電力供給の不足が、ミャンマーの経済発展の大きな妨げの一つになっている。実施状況は地域差があり、ヤンゴンでも地価が高いところや、首都・ネピドーなどには優先的に電気が供給されるなど、国内で電力供給にバラツキがあり、市民の不満の一つとなっている。

アメリカ合衆国[編集]

アメリカ合衆国カリフォルニア州では、カリフォルニア電力危機に直面していた2001年に大規模な輪番停電が行われ、信号停止による交通事故多発や、工場の操業停止など社会的に大きな影響を与えた[4]。また犯罪準備をさせないために、事前に停電する地域・時間帯は一切公表されなかった[21]

リビア[編集]

リビアベンガジにおいては、2011年に起きた内戦に伴う紛争などで政情不安が長引いており、電力不足から同年4月半ばより1日3時間ほどの輪番停電が実施されるなどの事態に見舞われている[22]

韓国[編集]

2011年9月15日韓国では猛暑により電力需要が増え予備電力量が400万キロワットを大きく割り込んだため、午後3時から8時までの間輪番停電を実施した[23]

注記[編集]

  1. ^ 2003年夏など、東京電力の「東京電力原発トラブル隠し事件」による不祥事が発覚して原子力発電所が稼動停止となっていた時期に計画停電が実施される可能性が出たが、「国民生活への影響は避けられない」(経済産業省資源エネルギー庁)との理由で結果的に回避されたことがあった〔“用語解説 / 計画停電とは” (日本語). 読売新聞朝刊 全国版 (読売新聞社): p. 24(特24). (2011年3月14日). http://plus.yomiuri.co.jp/article/words/%E8%A8%88%E7%94%BB%E5%81%9C%E9%9B%BB 2011年3月18日閲覧。 〕。 [リンク切れ]

脚注[編集]

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  1. ^ “東日本大震災:「計画停電」14日から実施…1回3時間” (日本語). 毎日新聞. (2011年3月13日). オリジナル2011年4月12日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20110412012608/http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110314k0000m040072000c.html 2016年3月4日閲覧。 
  2. ^ 「東日本大震災 輪番停電 準備不足、東電責任免れず」『産経新聞』2011年3月14日付け東京朝刊、1面。
  3. ^ 「東日本大震災:計画停電 市民生活直撃」『毎日新聞』2011年3月14日付け東京朝刊、4面。
  4. ^ a b c 大久保渉 (2011年3月13日). “東日本大震災:東電、「輪番停電」実施へ 戦後混乱期以来” (日本語). 毎日jp(毎日新聞) (毎日新聞社). オリジナル2011年3月15日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20110315201908/http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110313k0000e040029000c.html 2016年3月4日閲覧。 
  5. ^ 計画停電が実施される場合の労働基準法第26条の取扱いについて - 厚生労働省 2011年(平成23年)3月15日
  6. ^ “需給逼迫による計画停電の実施と一層の節電のお願いについて【3月14日9時改訂版】” (プレスリリース), 東京電力, (2011-03-14日), http://www.tepco.co.jp/cc/press/11031404-j.html 
  7. ^ “東電、14日から計画停電「少なくとも1週間続く」” (日本語). 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2011年3月12日). http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819696E3E0E2E6868DE3E0E2E1E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;at=ALL 2011年3月13日閲覧。  [リンク切れ]
  8. ^ a b 【計画停電】東電、午後5時から供給停止 茨城と静岡、山梨、千葉の一部 朝昼は見送り - Sankei Biz 2011年3月14日 [リンク切れ]
  9. ^ “輪番停電 鉄道、間引き・運休も” (日本語). asahi.com(朝日新聞) (朝日新聞社): p. 1. (2011年3月14日). http://www.asahi.com/national/update/0314/TKY201103140013.html 2011年3月15日閲覧。  [リンク切れ]
  10. ^ a b “最大限の節電ならびに緊急的な計画停電実施へのご協力のお願いについて” (プレスリリース), 東北電力, (2011年3月15日), http://www.tohoku-epco.co.jp/news/normal/1182380_1049.html 
  11. ^ a b 東北電16日から計画停電 日本海側中心に3時間、8グループで - 日本経済新聞 2011年3月16日
  12. ^ “計画停電近く終了宣言、4月中実施なしの公算大 社会 YOMIURI ONLINE(読売新聞)”. 読売新聞. (2011年4月7日). http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110406-OYT1T00927.htm 2011年4月17日閲覧。  [リンク切れ]
  13. ^ “計画停電、6月3日まで原則実施せず 東電”. 産経新聞. (2011年4月8日). http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/business/financial/501448/ 2011年4月17日閲覧。  [リンク切れ]
  14. ^ “プレスリリース:今夏の需給見通しと対策について(第3報)” (プレスリリース), 東京電力, (2011年5月13日), http://www.tepco.co.jp/cc/press/11051304-j.html 2011年5月26日閲覧。 
  15. ^ 東北電力の計画停電、16日は実施せず 17日も見送りの可能性 - ITmedia News 2011年3月16日
  16. ^ 関電管内で使用制限令検討=北海道、関西、四国、九州は計画停電も-政府 - 時事通信 2012年5月14日 [リンク切れ]
  17. ^ POKKA吉田 『石原慎太郎はなぜパチンコ業界を嫌うのか』 主婦の友新書 226 ISBN 978-4072799246、28-29p。そうしたエリアの人が、道路を挟んだエリアでパチンコ店が営業しているのを見ると、感情的に批判を行うのは無理もない、と記している。
  18. ^ 川辺謙一 『東京総合指令室 東京圏1400万人の足を支える指令員たち交通新聞社新書 072 ISBN 978-4330507149、83-84p
  19. ^ 東京電力の“無計画停電” 避難所が被害に - スポーツニッポン 2011年3月15日 [リンク切れ]
  20. ^ 烏賀陽弘道 『報道の脳死』 新潮新書 467 ISBN 978-4106104671、106-108p
  21. ^ 計画停電の公平な方法は?米では地域・時間帯非公表 日本でも受け入れられるか ZAKZAK 2011年3月18日 [リンク切れ]
  22. ^ リビア:市民、募るいらだち 医薬品不足・計画停電、生活を直撃--ベンガジ - 毎日jp(毎日新聞) [リンク切れ]
  23. ^ <大規模 停電事態>「電気先進国」誇った韓国で屈辱の“ブラックアウト”中央日報、2011年9月16日)

関連項目[編集]