コバルト文庫

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コバルト文庫(コバルトぶんこ)は、株式会社集英社の文庫レーベルである。

最初期を除き現在に至るまで、少女向け小説(少女小説ライトノベルと称される)を中心に扱っている。

概要[編集]

ティーンズの淡い恋愛をテーマに扱ったものが多く、イラストや表紙に力を入れているのも特徴である。旧スーパーファンタジー文庫系のファンタジーサイエンス・フィクションの要素が加味されたものも少なくない。『りぼん』『別冊マーガレット』『コーラス』などといった集英社の有する少女漫画雑誌の連載作品を原作とする(旧コバルトピンキー系の)ノベライズも扱っている。1990年代から徐々に2000年代半ばまで少女を主人公にした作品のほかにボーイズラブを題材とした作品の増加が顕著であった。2000年代半ばからは女性の楽しめる娯楽小説がケータイ小説ボカロ小説など多彩になり、少女小説レーベルは人気ジャンルの幅が狭まるが、その中で「姫嫁」[注 1]といった設定で書かれる男女の恋愛ものが少女小説界隈で人気ジャンルとなり、コバルト文庫も例にもれなかった。だが、姫嫁一色となった同時に読者層が狭まってしまったことで、ジャンルの多彩さは失われ、『Cobalt』の休刊や紙媒体の刊行の停止のようにレーベルとして衰退した[2]

多くは書き下ろしスタイルをとるが、隔月刊誌Cobalt連載後に加筆・文庫化するパターンもある。各シーズンごとに様々なフェアを行っている。

コバルト文庫を中心に活動する作家に、前田珠子桑原水菜今野緒雪藤原眞莉らがいる。赤川次郎も吸血鬼シリーズを隔月刊誌に掲載している。過去には新井素子久美沙織氷室冴子藤本ひとみ窪田僚といった面々も執筆していた。また、ジュディ・ブルーム『キャサリンの愛の日』(原題: Forever)、リチャード・ペック『レイプの街』(原題: Are you in the house alone?)などのアメリカ・ヤングアダルト小説の翻訳紹介も行っていた。

沿革[編集]

1965年創刊の、集英社コバルト・ブックス[3]を前身とする。B6サイズのソフトカバーの形態であった。最初の1冊は1965年5月に刊行された松島トモ子『ニューヨークひとりぼっち―ミュージカル留学記』で、2冊目から「コバルト・ブックス」のシリーズ名が使われるようになった[4]。「コバルト」は青春という言葉を象徴する色としてのコバルトブルーからきている[4]。1966年4月には雑誌『小説ジュニア』が創刊され、以降は『小説ジュニア』に掲載された作品がコバルト・ブックス化されるのが主流となった[5]。コバルト・ブックスは1976年4月10日発行の、通しナンバー216、赤松光夫『心に愛の血が流れている』まで続いた[6]

1976年5月28日(奥付上は6月)、このコバルト・ブックスの後継として集英社文庫コバルトシリーズが創刊された。創刊ラインナップは11冊で、富島健夫『制服の胸のここには』『初恋宣言』、佐伯千秋『若い樹たち』『青春放浪』、吉田とし『ヴィナスの城』『この花の影』、三木澄子『純愛』、佐藤愛子『困ったなア』、清川妙『こころはいつもあなたの隣』の小説9冊と、鈴木健二のエッセイ『美しき“おんな”への道』と、新川和江編の詩集『愛の詩集』であった[7]

創刊時にはコバルト・ブックスで出版されていた作品[8]、続いて、少女向け雑誌『小説ジュニア』(この後、1982年に『Cobalt』としてリニューアルされる[6])掲載作品が文庫化されていった。コバルトシリーズ新設にあたってイメージガールを選出し、宣伝ポスターや書店で配布される栞などでPR活動をした。また新人アイドルがイメージソングをリリースすることもあった[注 2]

シリーズ名に「集英社文庫」を冠しているが、当時、一般向けレーベルとしての集英社文庫は存在しない。「集英社文庫」として一般向け作品の刊行が開始したのは1977年5月であり、コバルトシリーズが1年ほど先行している。

『小説ジュニア』からの文庫化作品は少女小説に分類されるものが中心であったが、創刊翌年の1977年にはSF作品(豊田有恒編『ロマンチックSF傑作選』、横田順彌『2095年の少年』)や川端康成『万葉姉妹』、山本直純の詩集なども発刊されている。

1978年には宇宙戦艦ヤマトブームの到来により若桜木虔による『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』が刊行され、以降アニメブームに乗る形で、若桜木虔、藤川桂介辻真先らによるノベライズ作品が次々と刊行された。

1983年から、公募賞としてコバルト・ノベル大賞(1996年よりノベル大賞)を開催。直木賞作家の山本文緒唯川恵角田光代なども受賞者である。

1990年、正式名称が集英社文庫コバルトシリーズからコバルト文庫に改名された[9][10]

1991年3月には、少女向けとしないファンタジー路線作品をスーパーファンタジー文庫として独立創刊している( - 2001年4月)。

また、1992年3月には、漫画のノベライズなどを含む、より若年層向けのコバルト・ピンキーシリーズが作られた( - 1998年9月[注 3])。

2014年2月から8月にかけて不定期でコバルト文庫と違う背表紙のデザインを施し、発売日を集英社文庫と揃えて刊行する一部の作品があったが、これらのシリーズは、2015年に集英社オレンジ文庫として独立レーベルとなった。

2014年11月刊より背表紙リニューアル。白を基調としたものに変わり、裏表紙のデザインもあらすじを載せるなど変更された[11]。ただしシリーズで続いているものは変更せず、前巻と同じ色のままである[11]

2016年、4月1日発行の5月号を最後に雑誌『Cobalt』が休刊となった[12]。それまで雑誌の広報を主としていた公式サイトは、Web小説配信を強化したものとしてリニューアルされた。

2019年1月から紙文庫の定期刊行が停止され電子書籍メインになるが、2021年1月にはWebサイトで連載されていた小説が、2月以降には電子書籍で出していたシリーズが加筆修正され集英社オレンジ文庫から改めて発売されるパターンが増えていった。

主な作家[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 政略結婚などを経て「嫁になる」ところから始まり、夫婦生活を軸に物語が進むといったスタイルが特徴[1]
  2. ^ 5代目コバルトガール・古賀栄子「逢いたさ指数」c/w「コバルトの好きな女の子」(日本ビクター)など。
  3. ^ 「国立国会図書館オンライン」では、「Cobalt-pinky」と附された書籍は、カトリーヌあやこ/落合ゆかり著『真実をつきとめろ!! : 電撃おさわがせ隊』(1998年9月刊行)が最新のものである。

出典[編集]

  1. ^ 20代以上が読む「姫嫁」もの、10代に刺さった『告白予行演習』/『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』著者・嵯峨景子インタビュー”. wezzy (2018年1月6日). 2023年5月5日閲覧。
  2. ^ 石井ぜんじ・太田祥暉・松浦恵介『ライトノベルの新潮流』スタンダーズ、2022年1月1日初版発行、313 - 314、341頁。ISBN 978-4866365367 
  3. ^ コバルト・ブックス 全リスト
  4. ^ a b 烏兎沼 2017, p. 67.
  5. ^ 烏兎沼 2017, p. 67-68.
  6. ^ a b 烏兎沼 2017, p. 68.
  7. ^ 烏兎沼 2017, p. 40.
  8. ^ コバルト文庫について 創刊
  9. ^ 烏兎沼 2017, p. 56.
  10. ^ コバルト文庫について
  11. ^ a b 11月刊からコバルト文庫の背が変わります”. コバルト編集ブログ (2014年10月9日). 2016年7月15日閲覧。
  12. ^ 氷室冴子さん、新井素子さん…人気作家が連載 小説誌「Cobalt」が休刊 ウェブマガジンに移行”. 産経新聞 (2016年4月1日). 2024年4月21日閲覧。

参考文献[編集]

  • 烏兎沼佳代『コバルト文庫40年カタログ コバルト文庫創刊40年公式記録』集英社、2017年12月20日。ISBN 978-4087816389 

関連文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]