同人誌

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同人誌(どうじんし)とは、同人(同好の士)が、資金を出し作成する同人雑誌(どうじんざっし)の略語。非営利色の強い少部数の商業誌を含めて、「リトルマガジン」と呼ぶこともあり、同人誌に用いる場合は文学・評論系に限られる。「ミニコミ誌」も参照。

概要

現在では漫画・アニメ・ゲームなどの二次創作市場の拡大により、「同人誌」=「漫画・アニメ・ゲームの二次創作同人誌」で「卑猥なものしかない」といったネガティブなイメージも定着しているがその歴史は古く、文学などによる創作(オリジナル)の著述分野で始まっている。

日本における同人誌の始まりは明治時代の硯友社の『我楽多文庫』など文学、小説、俳句、短歌の同好の士が発表の場を求めて自費で雑誌を刊行したに始まる。これらの同人誌は『文学界』『新思潮』『白樺』のように近代文学の発展に大きな役割を果たした。名作だと呼ばれる文学作品やの中にも初出が同人誌だというものや、文豪と呼ばれる作家を輩出することも多数あり、それに伴い文学において同人誌は一定の地位を得た。その証左に芥川賞は選考対象作品に同人誌で発表されたものを含めていたし、公募型文学賞の中には募集要項に「未発表のもの(同人誌も含む)」などとするものもあった。しかし出版産業の発展や公募型文学賞の増加とともに同人誌の地位は低下していくと、同人誌の参加者は減少と高齢化が一途をたどり、明治の同人誌と同名の文学雑誌『文学界』では「同人誌探訪」のコーナーをやめるなど文学における同人誌のその役割を終えつつある。 

第二次世界大戦後、手塚治虫藤子不二雄石ノ森章太郎赤塚不二夫など漫画家が現れ、マンガとアニメの文化が興隆しはじめると、それらの同人誌が登場した。マンガの同人誌は文学の同人誌同様の役割を果たしたが、それ以外に既存の作品の二次創作物の発表の場となった。マンガやアニメの二次創作物は活字のみで表現される文学と異なり比較的制作が容易(プロットといったものから作家の画風作風など視覚的に模倣すべき要素が多く、どこを模倣しているかがわかりやすい)で、マンガ・アニメファンによる同人誌の刊行が相次いだ。それに伴い同人誌の読者も増加し、制作者と読者との相互の交流が活発になるなど活性化し、二次創作物のみならずオリジナルの作品も出るなど、サブカルチュアの一つの分野を形成するに至っている。

流通形態

関連する商業誌に紹介ページが用意され、発行同人に連絡をとって入手することが多い。また『宇宙塵』のような中核的同人誌に掲載されることで、他の同人の存在が周知されることもある。また、同人になることでしか入手できない場合・または購読会員という形で同人に所属することを必要とする場合もある。

文芸系同人誌

文芸系同人誌は、発行同人に連絡をとる、委託書店で購入する以外の方法は極めて少ない。また、出版形式はもちろん、連絡手段や宣伝などを含め、コンピュータの利用は漫画・アニメ同人誌と比べると非常に低いことは大きな特徴である。「ぶんぶん!」「文学フリマ」など、文芸系同人誌主体の即売会も少数ながら存在する。

漫画・アニメ・ゲーム系二次創作同人誌

漫画・アニメ・ゲーム等の同人誌は、商業化が進行しコミックマーケット等の同人誌即売会同人ショップ・ネット販売などで、流通市場が成立している。CLAMP等ではニュースペーパーを発行、購読会員の囲い込みを行うことも少なくない。

同人誌の分類

個人誌

全体が1人の作者による作品により構成された同人誌を指す[1]。他者の原稿が掲載されている場合でも、その全体に占める割合が少なければ、個人誌に分類され得る。近年の同人誌においては主流の発行形式である。

合同誌

特定のジャンル(創作を含む)を元に、複数の作者により作られる同人誌。特に、それぞれ独立したサークルとして活動している作者複数の作品が掲載された同人誌を指すのが一般的で、商業誌たるアンソロジーとの類似点がある。ただし、同一のサークルに所属する複数人の作品が掲載されている場合(つまり本来の意味での同人誌)をこう呼ぶこともある。

印刷方法による分類

印刷方法によって、個人がコピー機などを用いて製作する「コピー本」と印刷業者にオフセット印刷などによる印刷や製本を委託する「オフセット本」に分類される。過去にはこれ以外の形態も見られた。

近年はパーソナルコンピュータの普及に伴い、CD-ROMDVD-ROMインターネットからのダウンロードなどで同人作品を頒布するという方式が増えているが、これらは本の形態ではないため、厳密には同人「誌」ではなく「デジ同人」「同人ソフト」などと呼ばれる。

他には便箋抱き枕バッジなどのアクセサリーや日用品も製作され頒布されている。これらは「同人グッズ」と呼ばれる。

漫画・アニメ系同人誌を取り巻く状況と問題点

同人誌市場の拡大

当初、同人誌を頒布する機会はほとんどなく、僅かにSF大会や、学漫であれば文化祭などで頒布する以外は、制作者近辺でしか流通しなかったが、1975年(昭和50年)、第1回コミックマーケットが開催されたことにより状況が一変する。コミックマーケットの開催目的は、一般流通で頒布することのできない、素人による同人誌専門の流通市場の創設だった。当初、32サークル、参加者700人で始まった同人誌即売会という市場の出現は、それまで制作者と読者が同一だった同人の世界に、明確な「読者」という存在を作り出した。翌年、同即売会の運営母体だった迷宮発行の『萩尾望都に愛をこめて』に掲載された萩尾望都作品『ポーの一族』のパロディ『ポルの一族』によって、エロ要素を含むパロディが同人誌において重要な存在となっていく。

そしてパロディが主流となっていく中、廃れ行く創作系においても新たな展開を模索する動きがあり、京都を中心に活動した球面表着(きゅうめんひょうちゃく)のように漫画以外に特集コーナーなどの雑誌的要素を取り入れるものもあった。

その後、イベントの大型化、市場の拡大により同人誌印刷を行う印刷所も増え、それに伴う印刷コストの低減、DTPの普及、コピー、プリンター等の低価格化によって、形態は多様化していった。同時に内容も、創作漫画、漫画批評、アニメファンジンに止まらず、パロディやサブストーリー、エロティックな描写や小説など多様化した。1980年代前半にはロリコン、アニパロが、後半にはやおいがキーワードとなる同人誌が流行した。また、1990年代に入ると、グラフィックが十分な性能を備え出したことからかゲームに対しても、攻略、サブストーリー、エロパロなどの同人誌が増えていった。対象も広がり、鉄道コンピュータモバイルなどあらゆる分野について、技術的な内容(特に裏情報)を深く掘り下げたもの、噂やパロディなど商業誌では取り上げられない内容を扱うものも出現している。

商業作家の参入と営利化

市場が拡大した一方、同人誌活動には営利化(商業化)という問題がつきまとうようになった。本来は経済的利益の追求とは無関係に趣味として作成と販売が行われていた同人誌だが、おたく人口の増大とマーケット拡大により、特に人気同人誌の売り上げ額は非常に大きくなった。一定数の売り上げが見込めるほど流通市場が拡大したことにより、プロやセミプロの作家が同人誌で小遣い稼ぎをするという光景も見られるようになった。その反面、同人誌は商業誌が商業利益追求のために切り捨てた部分を補う役目を果たすようになっている。商業誌で人気がないため連載が打ち切りになったり、出版社の倒産などで掲載誌そのものが廃刊となった場合に、作家が自己の作品の続きをオリジナルの同人誌で発表したり、単行本化されない作品を同人誌で発行するという形も見られる。原稿が散逸したり、出版権などの権利関係が複雑で商業ベースでの復刻が事実上不可能になってしまっている作品を、同人誌で復刻したりすることが行われている。

さらに他方では、コミックとらのあななどの同人誌を中心に扱う書店が、自店舗での独占販売を前提としたいわゆる合同誌を企画することも見られている。このような形態の同人誌では知名度の高いプロの漫画家やイラストレーターを中心に作家の人選が行われることも多く、とどのつまりは一般的な商業流通のルートに乗っていないだけで、商業流通しているアンソロジー本と内容的には実質的な差が無いものまで見られるようになっている。

また、こういった発行物を大量に仕入れ、ネットオークションや漫画専門の古書店に売りさばく「転売屋」と呼ばれる存在もある。

所得税の申告と実情

同人誌販売やグッズ販売などで得た所得も、無論課税の対象となる。年間を通して反復継続して販売行為を行えば事業所得、そうでなければ雑所得として、一年間の所得を合算して申告する必要がある。なお特例として、これら収入から必要経費を差し引いた後の所得金額が20万円以下で、年末調整を受けた給与所得以外の収入がない者には、申告不要制度を利用することが可能である(国の税務経費削減が目的で条件がある)。また他に所得が全くない場合基礎控除(年間38万円)以下の所得であれば、計算上所得税は発生しないため、申告義務は発生しない(住民税はこれ以下でも発生する場合がある)。

税務調査の実態として、同人誌即売会による収入の捕捉は難しいため、以前は税務当局による厳しい処分がなされないケースが多かったといえる。しかし近年は、専門店などへの卸行為や委託販売行為も幅広く行われており、これらは振り込みにより決済されるケースが多いため収入が捕捉されやすく、同人作家で6000万円の追徴課税を受けた者が現れて以降は、同人作家に対して課税の強化を行っている。

同人誌と青少年を取り巻く問題

特にコミックを中心とする同人誌での性描写に対し、青少年の健全な育成を主張する立場から、表現規制を求める声が毎年強まっており、後述の著作権よりも一層深刻な問題となっている。

その一例として、「児童の保護」を口実に「東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正案」で規定されている「非実在青少年」[2]と、各道府県の「青少年保護育成条例」、「児童ポルノ法の改正案」で導入を進めている準児童ポルノに対する規制案」「(準児童ポルノを含めた)単純所持に対する罰則の新設案」を根拠に、同人誌を含むコミックの性表現を規制しようとする運動があり、少なくとも一方が可決されるだけでも、規制の論拠として足りるものとなる。

さらに、前述の改正案が可決され、性表現の規制が厳しくなれば、今度は「コミックの規制に乗じ、暴力・犯罪などの表現も合わせて規制」しようとする動きもある[3]

また、いくつかの市民団体や推進派らが管理者(地方公共団体、企業など)に対し、公共施設(コンベンションセンター(展示場)、多目的ホール貸し会議室など)を同人誌即売会の会場として提供しないよう陳情する運動も行われ、後述のように東京都立産業貿易センターが同人誌即売会の会場(特に成人向け同人誌)として提供することを拒否し始めるなど、首都圏内においても次第に活動が困難となりつつあり、近畿圏や、特に保守的な気質の地方においてもその影響を強く受けているため、大手同人ショップの実店舗や代理店などが地方へほとんど進出しない原因のひとつになっている。

これらの運動は、同人誌には文学系のものなど芸術性の高いものも含まれることと、また必ずしも全ての同人誌の内容が卑猥かつ反社会的とは言いきれないにもかかわらず、「同人誌や同人ソフトは全て低俗で反社会的なもの」という、誤った認識や偏見に基づく不当な運動である場合もある。

その一方で、一般的な感性の人々が嫌悪するような性描写のある、いわゆる『成人向け』の同人誌などが数多く存在するのは否めない事実であり、それらが同人誌即売会において、一般向けとの区分が曖昧なまま購買側の年齢などの確認が充分に行えない方法で販売されていることに対しては、何らかのゾーニング(年齢別での購入制限)が必要であるとの問題意識もある。ゾーニングが有効であるとする前提の下に、コミックとらのあなメロンブックスのような大手同人ショップの店舗で販売する場合、成人向けと一般向けを明確に区別することにより、少しでも児童(ここでは18歳未満の者の意。以下一部除き同様)の目から隔離されるよう配慮がなされている。

なお、これは厳密にいえば「児童が手に取れないように区別」しているのではなく、単に「売り場を仕切り、目につきにくくしているだけ」なので、実際はゾーニングではなく単なるパーティショニングである。アメリカなど海外の先進国の場合は、表現の規制こそ日本より緩いように思われるが、そもそも成人向けの作品は「成人しか入場できない店舗」でしか販売できないように区別し、なおかつ児童連れの入店を禁止するのが普通である。また、児童への販売が発覚した場合は、販売者も処罰される。日本のように誰にでも入店できる店舗で、便宜上のゾーニングを行うだけで成人向けコンテンツを堂々と販売するという形式は、先進国の中では稀である。

しかし、成人向けではないものを含む全ての同人誌即売会について、高校生も含めた児童の参加を一律に禁止すべきとする、モラル・パニックに近い批判の声まで上がっており、仮に性描写のある同人誌の販売を一切禁止するよう規制ができても、そのような状態に陥っている層からの理解は到底得られないともみられており、同人に対する汚名の返上が困難を極めている。

特に2000年代の情勢を考慮して、2006年(平成18年)以降のコミックマーケットでは修正関連も含めて規則を強化している。また、2007年(平成19年)8月23日に起きたわいせつ図画頒布容疑での同人作家の逮捕や、同年10月下旬に起きた同人誌即売会に対しての会場(東京都立産業貿易センター)の貸し出し拒否の波及などを受け、印刷業組合や各同人誌即売会の主催者などは、ガイドラインの制定や規則に沿った修正を確実にするよう促している。

なお、日本(世界)最大の同人誌即売会であるコミックマーケットに固有の、安全性や地域住民の理解・会場確保に関する問題については、コミックマーケットの項を参照されたい。

同人誌と著作権問題

同人誌市場における著作権慣習

現行の日本著作権法では、フランス知的保有権法典第122条の5第4項のパロディ条項のようなパロディを正面から認める法理存在せず、判例や通説でもパロディを例外として認めていないため、原作の著作権者の許諾を得ることなく二次創作物を不特定多数への販売することは、原則として著作権侵害となる。一方で、漫画というメディア自体がパロディを高度な表現手段として確立してきた経緯、商業作家が自らの作品のパロディを同人誌で作成する状況などがあり、一面的な法解釈についての疑問もある。

ディズニーサンライズ任天堂コナミのように二次創作物に対し法的手段を用いて積極的に規制する企業がある一方で、ファンクラブの延長線としてとらえ、または宣伝効果や相乗効果を期待して、著作権元に中傷や実害が及びかねない内容や、著しく反社会的な態様の作品でもない限りあえて黙認している著作権者も少なくないため、一概に無許諾ともいえない状況にある。なお、黙認とは、黙って認めることであり、認める意思がなく単に黙っているに過ぎない場合は本来、含まれない。

特に性表現を含めない一般向けの場合においては、よほど極端な表現でもない限り黙認する権利者も少なくない。また、積極的に規制が行われているような著作物については、いわゆるオタク層に見放されることがあり、オタク層向けのコンテンツでこれを行うと、グッズ展開や続編コンテンツ自体が不調に終わることもある。

ただし、同人ショップなどの商業流通に乗せられて販売されるものは「ファンクラブ活動」の範囲を逸脱しているものとして摘発されるか、当のサークルへ警告を下すケースもある。

一方で、規制に積極的とされる企業であっても、コミケットなどの同人イベントでの摘発事例は少なく、著作権侵害に対し厳しい態度を取っているディズニーを別とすれば、摘発はこれらの商業流通のものに限られていた。しかし、ビデオやDVDなどの映像作品については摘発される可能性が高く[4]例えば、深夜アニメやアダルトゲームの場合、本編の売り上げを超える規模で二次創作物が頒布されることも多く、それら二次創作物の販売による利益(ロイヤリティ)が著作権者に全く還元されないため、看過できる範囲を超えることになる。また大規模化したため、サークル別に警告が出されるケースもある。

許諾の意思がない場合との識別が困難ではあるものの、その意思に基づく限りにおいて、著作権者による黙認には事実上の許諾という側面もある。ただし、「ときめきメモリアル」(コナミ)のように黙認と思われていた状態から突然、法的手段の行使に至る場合や、「しまじろう」(ベネッセ)のように、一旦許諾したものを突然取り消してファンクラブ活動が休止に追い込まれるケースもある。

また、一部の企業にはガレージキット(キャラクターのフィギュアなど)などを中心に即売会会場で制作者に利用を許諾し、比較的少額の対価で販売権を与える『当日版権』などの発展的な試みをしている場合があり、有力パロディ元の一つであるアダルトゲームの主要ブランドでは、一定のガイドラインを設けた上で二次創作を認める[5]など、明示の許諾に切り替える動きもあるが、多くの企業は現時点ではこの問題に未着手である。

出版社やコンテンツ配給会社なども、同人誌即売会の有名作家をヘッドハンティングして質の高い作家を集めたり、新人賞などをとった作家の修行先としての役目を果たしている側面もあるため、黙認しているのが現状である。さらに講談社では、コミックマーケットの企業スペース内に少年マガジン編集部ブースを出展し、原稿持ち込みを受け付けるなど、むしろ積極的に認めるかのような行動を取っていたこともある。

個人においても、プロを志す者がその過程の一つとして同人活動を行っている場合があり、その中には二次創作物を製作していたというケースも多い。すなわち、二次創作の元となる作品を供給している側も、かつては自分が二次創作によって創作技術を磨いてきた場合もある。中には、プロとなってからも同人誌などで堂々と二次創作を行っている例も多い。また、高いレベルの二次創作家がプロにスカウト、またはスポット的な仕事をすることがある。こういったことにより「消費のみのファン - 二次創作家 - プロ作家」の区分が流動的になっている。その意味では、二次創作はプロ作家などの有力な供給源で、作品の多様性と高品質を支えており、消費のみのファンにとっては製作側に親近感を抱きやすくし、製作側にとっても消費側との乖離を防ぎニーズを吸い上げやすくしていると言える。ただし、同人活動を経ず漫画雑誌の新人賞からプロになった作家では同人活動に対し拒否反応を示すこと多いとされ、同人活動とプロの距離感はあくまでケースバイケースである。

ただし、同人誌の経験がある、あるいは同人出身とされる作家の中には、商業誌の代わりの発表の場として同人誌を選んだだけで、作家自身のオリジナル作品しか創作していない者や、単に同人誌の経験もあるというだけで、実際はアシスタントや持ち込みの経験から評価されてデビューの機会を与えられた者も多い。これらは、1980年代初頭までにデビューした作家に多い。また、現在に至る二次創作物が登場し始めた1980年代以降であっても、そもそも同人とは全く関係のない出自の作家も多数いる。

近年では逆に、元々同人誌とは無関係だったプロ作家が自著の不人気、出版元とのトラブル、あるいは高齢や健康上の理由による引退などから発表の場を同人誌に移すケースも増えており、二次創作とは無関係なオリジナル作品[6]を発表することも多い。

女性向けやコンピュータソフト制作(同人ソフト)を中心に、「プロ同人」と呼ばれる、同人活動のみで生計を立てる者もいる。これらは、商業誌などからプロデビューのオファーがあっても、スケジュールの自由度を奪われ、締め切りの厳守が難しいなどの理由で辞退することが多い。原作の著作権者や税務署など、当局らはアマチュアとはみなしておらず、これらのサークルが二次創作を行った場合や過剰な性表現の作品を発表した際に摘発に至るケースが多い。

他の先進国(特にアメリカ)と異なり、このように著作権侵害に当たるような行為を著作権者が「黙認」することによって、製作側・消費側ともに断続面のない厚い地層が形成されていることが、現在の日本における漫画アニメ隆盛の原動力の一つとなっているともいえる。

週刊少年ジャンプに籍を置いている傍ら、同人誌を発行したことがある漫画家冨樫義博は自身の同人誌で、コミケ(二次創作同人誌)に関してパロディ自体は好きだから同人誌もいいと思うが、その同人誌(特に、自分の作品(『幽☆遊☆白書』)を題材とした成人向けやおい同人誌)が売れるからといって女王様気取りになっている同人作家は大嫌いだと述べている。

なお、企業、同人作家問わず、パロディなどとは異なり、著作権法で容認されている批評などのための引用についても、著作権者の許可が必要という認識は強い。しかし、漫画の引用については小林よしのり上杉聰らの間で争われた「『脱ゴー宣』裁判」で絵の引用が争点となったが、2002年(平成14年)4月26日に「絵の引用は合法」とする最高裁判決が出ている(ただし、「レイアウトの改変は違法」とされた。詳細は脱ゴーマニズム宣言事件を参照)。この判決は、コミックマーケットがシンポジウムで取り上げるなど、同人誌にもある程度の影響を及ぼした。しかし前出のサンライズなど、現在でも判例を無視して一切の画像利用禁止を告知している企業もあり、絵の引用においては著作権者の許可を必要とする認識がなお主流となっている。

著作権紛争の発生事例

そのような中、2005年(平成17年)12月30日に開催されたコミックマーケットで「AQUA STYLE」というサークルから頒布される予定だった「MALIGNANT VARIATION FINAL」という映像作品が著作権者から警告を受けて販売中止になった。

警告が成されたのは全ての準備が整ったコミックマーケット開催前日で、約4万枚の全てが廃棄処分に追い込まれ、サークルは300万円を超す損失となった。1枚1890円で総売り上げが7000万円以上になることと、当の著作権者がロイヤリティ(売上の数%からなる印税)を受け取れず、多大な利益が侵害されることから、さすがに無視できなくなったとされる。ただし、実際に警告を受けたのは「FINAL」ではなく、同じ「MALIGNANT VARIATION」(通称「マリグナ」)シリーズの「味を見ておこう」で、警告のタイミングが自主回収とイベント頒布中止の直前だったため混同されている。だが、どちらの作品も著作権侵害映像作品であり、作品の種類・名称を問わず問題であることは明らかである。

当の警告を発した著作権元は明らかにされていないが、警告後にイベント専売用に製作された映像作品「KITE'S BIZARRE ADVENTURE」が事実上「MALIGNANT VARIATION」シリーズの後継作であり、その作品に今まで出てきていた特定のキャラクターが出なくなったことから、そのキャラクターを扱う著作権元が警告主ではないかと、インターネット掲示板などで噂されている。

当時、同時期に同ジャンルのサークルが多数警告を受けており、ある程度は想像することができるが、警告を受けたサークル側が警告主を類推(特定)できる方法を取り、著作権的に問題のある映像を警告後も販売し続けている事実が物議を醸している。

また、同年田嶋安恵が「田嶋・T・安恵」名義の元で事実無根の都市伝説を元にした「ドラえもんの最終回」を発表。2006年(平成18年)になってからは各メディアでも取り上げられ、問い合わせがあるなど反響の大きさに慌てた出版元小学館著作権元藤子プロ著作権侵害を通告し、田嶋に在庫の廃棄処分と不当に得た利益の返還を命じた(ドラえもん最終話同人誌問題)。この事件は、原作者が故人という状況下における事例であり、また、原作に酷似した製本デザインや、ブログの無断転載などで有名化したことにより、「公式なもの」もしくは「原作そのもの」だと誤解した一般人が相次いだなど、この影響がただちに他へ波及するとは考えにくいが、同人誌における二次創作物への各出版社の今後の対応が注目されている。

非親告罪化への動き

著作権侵害非親告罪化への動きも、同人誌関係者には不安要素となりつつある。

現在のところ、著作権侵害(著作権法第119条)の刑事罰は親告罪とされており、著作権者漫画家出版社アニメ制作会社など)が告訴しない限り刑事責任を問うことができない[7]。このことが、著作権者によるパロディ同人誌の黙認に刑事司法上の一定の効果を与えている。しかし、非親告罪となった場合、著作権者が「二次創作を容認」し「告訴する気がない」場合であっても、警察側の判断で逮捕・告訴することが可能になるため、事前かつ明示の許諾を求める必要が発生する(事後に許諾を求めた場合、たとえ著作権料などを支払う用意ができても著作権侵害になる)。

なお、現状でも刑事責任とは別に、損害賠償の請求や、発行の中止、または回収・廃棄させるなどの民事責任も問うことができる(刑事責任を不問とする代わりに、民事責任のみを問うこともできる)。この場合も著作権者訴えの提起を必要とする。

朝日新聞2007年(平成19年)5月26日号「著作権が「脅威」になる日 被害者の告訴なしに起訴、共謀罪でも」(丹治吉順)によると、日本は「模倣品・海賊版拡散防止条約」の制定を提案している。しかし、アメリカ合衆国から「海賊版摘発を容易にするため、非親告罪化を盛り込んで欲しい」という要望[8]があり、条約提唱国としては国内の著作権法も条約に合わせて改正するのが望ましいとされた。そこで、文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会で3月から審議が始まった。

また、同記事によると、文化庁の審議とは別に国会で審議が進んでいる共謀罪法案には、自民党の修正案3案のうち2案で、著作権法を共謀罪の対象としている。自民党案をとりまとめた衆議院議員早川忠孝は、「犯罪組織が海賊版を資金源にすることを防ぐのが目的」と述べている。

ここで注意しなければならないのは、「海賊版」と「パロディ」「二次創作物」の本質的な違いである。「海賊版」は創作性のない複製物、つまり単なるデッドコピーであり、なんら創意工夫をせず複製(コピー)だけで利益を得る手段である。「パロディ」「二次創作物」は二次的で(なおかつ著作権者が公認していないものでも)一応創作物になる。これらは、現行の著作権法でいずれも「著作権を侵害する行為」として一括りにされ、同列に扱われているが、本来「海賊版」と「パロディ」は同列に扱われるべきものではない。

編集者竹熊健太郎は、「非親告罪化によって警察・司法が独自の判断で逮捕することが可能になれば、商業的な出版・放送・上演・演奏のみならず、コミケの二次創作・パロディ同人誌などにも深刻なダメージが加わる可能性がある」と指摘。「俺を含めて多くの作家・マンガ家・同人誌作家・ブロガーは何か書く場合でも無意識のパクリがないかどうかおっかなびっくり書くことになり、ひいては表現の萎縮につながりつまらん作品ばかりになるかもしれないので俺は反対だ」[9]と主張した。

また、クリエイターの小寺信良は「行使する側が「模倣」と「創作」の違いがわからない場合、クリエイターの活動を萎縮させかねない」とコメントした[10]

脚注

  1. ^ 「同人」を「志や趣味をおなじくする仲間」と定義するなら、個人誌を同人誌にふくめるのは矛盾した認識である。
  2. ^ 出版社・アニメ制作会社・同人ショップなどの本社がほとんど東京都に集中しているため、その影響から事実上法律と変わらない効力を有することになる。
  3. ^ ITmedia News:2007年10月25日「漫画・イラストも児童ポルノ規制対象に」約9割──内閣府調査。なお、調査は2007年(平成19年)9月13日から同月23日までの期間、個別面接によって行われ、有効回収率は約6割。
  4. ^ サークルと無関係の業者による無断複製の海賊版から連座的に摘発された事例もある。
  5. ^ アダルトゲームが原作であれば、成人向けの二次創作に対する規制も緩やかになることが多い。
  6. ^ 中にはプロ時代に未完で終了した連載の続編や、過去作の外伝などを発表するケースもあるが、これは場合によっては二次創作物とみなされることもある。
  7. ^ 「作品のイメージが傷つけられた」からといって、ファンが代理で告訴することはできず、著作権者に「著作権を侵害しているものがある」旨の通達することしかできない。告訴するか否かは著作権者自身の判断に委ねられる。
  8. ^ 2006年12月5日日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書(「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書 2006年12月5日」)には、「知的財産権保護の強化」のための要求の一つに「起訴する際に必要な権利保有者の同意要件を廃止し、警察や検察側が主導して著作権侵害事件を捜査・起訴することが可能となるよう、より広範な権限を警察や検察に付与する。」がある。
  9. ^ たけくまメモ:2007年5月21日 【著作権】とんでもない法案が審議されている
  10. ^ ITmedia +D LifeStyle:2007年6月11日 知財推進計画が目指す「コンテンツ亡国ニッポン」

関連項目

「同人」で始まる項目
関連用語
図書館
その他

外部リンク