ドラえもん最終話同人誌問題

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ドラえもん最終話同人誌問題(ドラえもんさいしゅうわどうじんしもんだい)とは、男性[1]漫画家の田嶋安恵が「田嶋・T・安恵」という名前で、『ドラえもん』の最終話に関する同人誌を販売したことによる著作権問題のことである。1999年ポケットモンスターのキャラクターを複製したアダルトマンガを販売して逮捕された事件とともに、同人誌における著作権侵害で問題化した例である[2]とともに、二次創作がどこまで許容されるかという議論に一石を投じた問題となった[1]

概要[編集]

1998年頃からインターネット上で広まっていた、電池切れで動かなくなったドラえもんを、ロボット工学者となったのび太が甦らせるという内容の「最終話[1][3]をもとに、男性漫画家が「田嶋・T・安恵」のペンネームで2005年秋に漫画化し、20頁の冊子にした[3]同人誌即売会会場で頒価300円、秋葉原等に展開し同人誌等を取り扱うメロンブックスにて420円(5%税込 卸値280円)、同店インターネットショップを通して販売を行った[1][3]

藤子・F・不二雄そっくりの絵柄や最終話らしい展開、感動的な結末がインターネットなどを通じて評判となり、同人誌としては異例の15,500部が出荷され、約13,000部を売り上げた[1][3][4]。販売終了後も、ネットオークションで5,000円近い価格で売買され[3]、時には数万円の値が付くこともあった[1]。さらにコピーされたものが、インターネット上で自由に見られる状態となった[5]

同人誌はA5オフセット版の全20ページで、表紙はオリジナルの小学館てんとう虫コミックスを意識して作られている(オリジナル版において、タイトル上部の「てんとう虫コミックス」と表記される箇所に「ガ・フェーク同人誌」、巻数の箇所に「最終話」という表記がなされている。また、裏表紙には収録タイトル(目次)が記載される箇所に、ドラえもんへの想いをつづったあとがきが書かれている)。

第三者によってWebに無断で公開された時は、作者やサークル名の記載された表紙裏表紙は省かれ、本文のみであったことが後に誤解を呼ぶ事となった。

著作権者である小学館および藤子プロ側は、絵柄が原作と酷似しているため「藤子・F・不二雄の真作」であると勘違いし、小学館に問い合わせる者が出るなど、あまりに広まりすぎたために「想像していた以上に深刻な事態」[6]と受け止め、男性に著作権侵害を通告。小学館の通告を受け、男性は侵害を認めて謝罪し、在庫が全て廃棄処分されることになった。あわせて、Webで公開(無断転載)されたものについても削除を依頼した[6]

小学館ドラえもんルーム室長の横田清は「これまでも、そこそこのことであれば見過ごしていたが、ネットで野放図に拡大されていくことには強い危機感を覚える。もしドラえもんに最終回があるとすれば、それは亡くなられた藤子先生の胸の中だけであり、この『ドラえもん 最終話』によって、先生が作り上げた世界観が変質してしまうようなことがあってはならないと思っている」と表明した[6]

2007年5月、男性は謝罪文と二度としないという誓約書を提出し、売上金の一部を藤子プロに支払った[1][3]。小学館の大亀哲郎・知的財産管理課長は、「装丁もオリジナルと酷似し、本物と誤解した人もいる。『ドラえもん』はいわば国民的財産で、個人が勝手に終わらせていいものではない。1万3000部という部数も見過ごせなかった」と語った[1]

FLASH』2007年6月19日号では、著作権侵害を批判する一方で、この同人誌における漫画の全16ページが掲載された[7]。この件については、小学館から著作権侵害の拡大につながるという抗議があり、謝罪している[8]

作品[編集]

ストーリーは、電池切れで動かなくなったドラえもんを、35年後にロボット工学の第一人者に成長したのび太が甦らせた[3]という、インターネット上で広まっていた「最終話」を基にしている。

『ドラえもん』への敬意や愛を感じた人も少なくなかったようで、プロの漫画家から「絵だけではなく、テーマや展開も藤子・F・不二雄さんの思想を受け継いでいる」という声が出た[5]夏目房之介は、「最終話を読んで僕も泣いた。ドラえもんへの愛情にあふれる作品だ」と評価した[4]

言及[編集]

コミックマーケットで売買されるような二次創作は多くが原作者に無断であり、法的には著作権侵害となるが、コミックマーケットでは長い間黙認されてきた[4]。イベントが巨大化したことと、模倣を重ねたアマチュアがプロとなって人気作家に成長する例があることから、人材供給源となっている事情もあった[4]

小学館の大亀哲郎・知的財産管理課長は今回の件を和解で収めたことについて、「今回はやりすぎだが、節度あるルールが守られている以上、(漫画文化のすそ野としての)同人誌そのものを全否定はしない」と、同人誌については一定の理解を示した[1]

今回の件については、内容が直球過ぎであり、パロディと分かる発表をすべきだった(三崎尚人)という言及や、一定以上売れる同人誌については著作者に利益を還元されるルールを作るべきかもしれない(藤本由香里)といった提案があった[1]

村上知彦は、改変作品を売ることの問題意識に欠落していたと指摘するとともに、「最終話」を読んでみたい読者の願望の強さをあぶりだしたとも指摘している[5]

同人誌版のあらすじ[編集]

※都市伝説版と微妙に異っている箇所がある。

ある日突然ドラえもんが動かなくなってしまった。タイムテレビで未来の世界のドラミに原因を尋ねたところ、バッテリー切れが原因だと告げられる。しかし、旧式のネコ型ロボット(この場合はドラえもん)のバックアップ用記憶メモリーは耳に内蔵されており、ドラえもんは耳を失っていたため、バッテリーを交換してしまえば、のび太と過ごした日々を完全に忘却(リセット、すなわち消去)されてしまう。バックアップを取ろうにも方法が分からず、未来の世界で修理をしてもらおうとタイムマシンに近づこうとした瞬間、何らかの力によって阻止されてしまう。一方、未来からかけつけようとしたドラミもタイムパトロールによって行く手を阻まれてしまう。開発者を呼ぼうとするも設計開発者の情報は訳あって絶対に開示されない超重要機密事項となっていた。

テレビ越しのドラミは「タイムパトロールの追跡をかわしつつ電池交換をする」「このまま部屋に残して記憶を維持する」という2つの案を提示する。のび太は一晩考えた末に一つの決断をドラミに伝える。すると、通信が終わるのと同時にタイムテレビも姿を消した。

それから35年後、のび太はトップクラスのロボット工学者になっていた。一方、総理となった出木杉の元にスネ夫ジャイアンが招かれる。「ドラえもんが来た22世紀の技術と、現代の技術の差は大きすぎると思わないか」と問いかける出木杉に賛同する二人。すると、出木杉は続けて「今夜、ある技術者が大きなブレイクスルーを達成する。そして未来からは『その技術者に干渉しない事』という超重要機密事項が各国のトップに通達されている」と語る。

のび太は、妻となったしずかの目の前で、努力の末に記憶メモリーを維持したままで修理完了したドラえもんのスイッチを入れると、ドラえもんがいつものように「のび太君、宿題終わったのかい?」と言い復活する。ドラえもんの製作者が明かされていなかったのは、開発者がのび太自身のため、そしてタイムパラドックスを引き起こさないためであった。

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d e f g h i j 「「ドラえもん」無断最終話 同人誌販売の男性謝罪 「本物と誤解した人も」」、読売新聞 東京朝刊、2007年6月5日、19頁。
  2. ^ 「TPP参加でアキバ文化が消える日」、サンデー毎日、2013年4月7日号(3月26日発売)、25-29頁。
  3. ^ a b c d e f g 「勝手に「ドラえもん」最終話、ごめんなさい 1万3千部売った「作者」本家に一部払う」、朝日新聞 東京朝刊、2007年5月29日、14頁。
  4. ^ a b c d 「【知はうごく 文化の衝突】第1部 著作権攻防(6)パロディーが生む文化」、産経新聞 東京朝刊、2007年2月1日、1頁。
  5. ^ a b c 「(観流)ドラえもん「最終話」 模倣、どこまで許される」、朝日新聞 東京朝刊、2007年6月9日、27頁。
  6. ^ a b c 2006年12月号、小学館総務局知的財産管理課
  7. ^ 「ネットで高騰…偽ドラえもん”最終話”の驚内容」(「驚」は○に驚)、「FLASH」2007年6月19日号(6月5日発売)。
  8. ^ 「「ドラえもん最終話」無断掲載で謝罪」、読売新聞 東京朝刊、2007年6月7日、33頁。

関連項目[編集]