ベガーズ・バンケット
『ベガーズ・バンケット』 | ||||
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ローリング・ストーンズ の スタジオ・アルバム | ||||
リリース | ||||
録音 | 1968年3月17日 - 7月25日 | |||
ジャンル | ロック | |||
時間 | ||||
レーベル |
Decca/ABKCO (UK) ABKCO (US) | |||
プロデュース | ジミー・ミラー | |||
専門評論家によるレビュー | ||||
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ローリング・ストーンズ アルバム 年表 | ||||
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ベガーズ・バンケット(Beggars Banquet)は、ローリング・ストーンズが1968年に発表したオリジナルアルバム。全英3位[1]、全米5位[2]を記録。
概要
1960年代後半のストーンズはルーツであった黒人音楽から離れ、サイケデリック・ムーブメントに完全に浸かり、当時のストーンズ・ファンクラブではバンドの将来についてディスカッション大会まで開かれるほど、ファンの間では不安が広がっていた。その不安を吹き飛ばすかのように、1968年5月にリリースしたシングル「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」は全英1位の大ヒット。そしてそれに続く本作は、ロックバンドとして原点に立ち返ったストーンズの姿を誇示したものとなった。
ミック・ジャガーはバンドがその方向性を決定づけるプロデューサーが必要であると考え、1968年初めにスペンサー・デイヴィス・グループやトラフィックのプロデューサーであったジミー・ミラーの招聘を決定した。結果は成功し、以降『レット・イット・ブリード』、『スティッキー・フィンガーズ』、『メイン・ストリートのならず者』という傑作アルバムを次々と生み出し、その関係は1973年まで続いた。
バンドは7月のリリースを目標にして3月15日よりロンドン、オリンピック・スタジオにてレコーディングを開始した。以降、レコーディングは散発的に行われ、ロサンゼルスで最終的なオーバーダブとミキシングを行い、7月5までには完成した。だが後述するように、ジャケットデザインをめぐってバンドとレーベルの間に対立が起き、リリースは結局年末までにずれ込んだ。
「悪魔を憐れむ歌」や「ストリート・ファイティング・マン」のようなバンドの新しい方向性を示す曲がある一方で、エレキギターよりもアコースティックギターを中心に据えたサウンドが目立ち、ドラムスを使用しない曲が3曲もあるなど(「ノー・エクスペクテーションズ」、「ディア・ドクター」、「ファクトリー・ガール」)、ルーツであるブルースへの回帰がより強調された内容となっている。
本作でのギターは例によって大半がキース・リチャーズによるものである。一方、ブライアン・ジョーンズの心身の不調は前年以上に深刻なものとなっており、彼の本作への貢献度は前作『サタニック・マジェスティーズ』以上に少なかった。ジョーンズはレコーディング期間中の1968年5月に、保護観察中にもかかわらずカナビス樹脂所持の罪で再起訴されている。結局罰金刑に処せられ収監は免れたものの、バンドはジョーンズの解雇と新メンバーの採用を考え始めるようになった。ジョーンズの当時の様子は、ジャン=リュック・ゴダールによるドキュメンタリー映画『ワン・プラス・ワン』に描かれている。
1968年12月10日、11日にバンドは本作のプロモーションとして、『ロックンロール・サーカス』と名付けられたTVショウを、ジョン・レノン、エリック・クラプトン、ザ・フーなど多数のゲストを招いて収録した。映像と音源は当時のマネージャーのアラン・クレインが掌握しており、クレインとの関係が切れたことにより作品は封印されてしまうが、1996年にVHSとサウンドトラックがアブコ・レコードよりリリースされた。
2002年8月にアブコ・レコードよりリマスターされた上で、SACDとのハイブリッドCDとしてデジパック仕様で再発された。また、ある時期までのマスターは現行マスターに比べてピッチが若干低く、キーが不明瞭になっている曲がいくつか存在した。
アートワーク論争
現在の本作のジャケットとして採用されている「汚れた便所の落書き」の写真は、映像監督のバリー・フェスティンとニューヨークのデザイナー、トム・ウィルクスによってデザインされた。だがデッカ・レコードは、バンドから提示されたこのジャケットデザインを拒否した。バンドはこれに抵抗し、茶色の紙袋に入れて「Unfit for Children(子供達には不向き)」というラベルを貼って出すという代案を提示するが、これも却下される。アメリカのディストリビューターであるロンドン・レコードもデッカの決定を支持し、バンドの不満は高まった。ストーンズはその報復としてデッカとロンドンの態度が軟化するまでアルバムを提供しなかった。しかしながら11月までにストーンズは招待状を真似た単純なジャケットでリリースすることを渋々認め、屈服することとなった。
金色で縁取られた薄クリーム色のジャケットには「Rolling Stones Begger's Banquet」と真ん中に、左下隅に「R.S.V.P.」('Reponse s'il vous plait, ご返事願います、の略)と黒字の筆記体で記入された。見開きジャケットの内側には、タイトルどおりこじき(Beggar)風の格好をしたメンバー5人が宴会(Banquet)を開いている情景が写されている。ビートルズが二週間前に『ホワイト・アルバム』をリリースしていたことで、幾人かの評論家はストーンズが再びビートルズを今度は単純なジャケットで真似たとして非難した。1984年のリマスター盤でようやく当初の写真が採用されるようになった。この一連の論争についてジャガーは「全くの時間の無駄だった」と振り返っている。
評価
イギリスでは3位、アメリカでは5位とプラチナ・アルバムを獲得。チャート最高位こそ前作『サタニック・マジェスティーズ』を越えられなかったものの、音楽に関してはほとんどの批評家がその曲と彼らのルーツへの回帰を高く評価、前作で下がったバンドへの評価を回復する事に寄与した。本作の成功により、ストーンズは彼らが進むべき方向性を確認した。
ローリングストーン誌が選ぶオールタイム・ベストアルバム500(2002年の大規模なアンケートで選出)において58位[3]、VH1によるグレーティスト・アルバムに於いては67位となった。
収録曲
特筆無い限り、作詞・作曲はジャガー/リチャーズ。
- A面
- 悪魔を憐れむ歌 - Sympathy for the Devil 6:18
- 本作およびストーンズを代表する1曲。謎めいた歌詞が悪魔崇拝ではないかと受け取られ、議論を呼んだ。
- ノー・エクスペクテーションズ - No Expectations 3:56
- スライドギターはブライアン・ジョーンズによる。ジャガーは「100%マジで打ち込んでるブライアンを見たのはこの曲が最後だった」と回想している。アメリカではシングル「ストリート・ファイティング・マン」のB面として初登場。
- ディア・ドクター - Dear Doctor 3:21
- パラシュート・ウーマン - Parachute Woman 2:20
- ジグソー・パズル - Jigsaw Puzzle 6:05
- スライドギターはキース・リチャーズによる。歌詞の中にメンバー5人を指すと思われる箇所がある。
- B面
- ストリート・ファイティング・マン - Street Fighting Man 3:15
- アメリカではアルバムに先駆けてシングルとして初登場。
- 放蕩むすこ - Prodigal Son (Rev. Robert Wilkins) 2:51
- 戦前はブルース歌手として、戦後は牧師として活動したロバート・ウィルキンスの曲のカヴァー。リリース当時は作者不明であったため「ジャガー/リチャーズ」とクレジットされたが、後に修正。
- ストレイ・キャット・ブルース - Stray Cat Blues 4:37
- ファクトリー・ガール - Factory Girl 2:08
- 地の塩 - Salt of the Earth 4:47
- リチャーズがジャガーと共にリードヴォーカルをとっている。「ロックンロール・サーカス」のエンディングで歌われた他、2001年のアメリカ同時多発テロ事件で犠牲になった消防士の追悼&チャリティのために、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンにて行われた『ザ・コンサート・フォー・ニューヨーク・シティ』でも披露されている。
参加ミュージシャン
ローリング・ストーンズ
- ミック・ジャガー/リード・ヴォーカル、ハーモニカ(A-4)
- キース・リチャーズ/エレキギター、アコースティックギター、バッキング・ボーカル、ベース(A-1、B-1)、リード・ヴォーカル(B-5)
- ブライアン・ジョーンズ/スライドギター(A-2)、ハーモニカ(A-3、A-4、B-2)、メロトロン(A-5、B-3)、シタール&タンブーラ(B-1)、バッキング・ボーカル(A-1)
- ビル・ワイマン/ベース、バッキング・ヴォーカル&マラカス(A-1)
- チャーリー・ワッツ/ドラムス、バッキング・ヴォーカル(A-1)、クラベス(A-2)、タブラ(B-4)
ゲストミュージシャン
- ニッキー・ホプキンス/ピアノ、オルガン、バッキング・ボーカル(A-1)
- ロッキー・ディジョン/コンガ(A-1、B-3、B-4)
- リック・グレッチ/バイオリン(B-4)
- デイブ・メイソン/シャハナイ(B-1)、マンドリン(B-4)
- ジミー・ミラー/バッキング・ボーカル(A-1)
- マリアンヌ・フェイスフル/バッキング・ボーカル(A-1)
- アニタ・パレンバーグ/バッキング・ボーカル(A-1)
- ワッツ・ストリート・ゴスペル合唱団/コーラス(B-5)
脚注
参考文献
- 『ローリングストーンズ/グッド・タイムズ・バッド・タイムズ』 (テリー・ロウリングス/アンドリュー・ネイル/キース・バッドマン著、 筌尾正訳、シンコーミュージック刊、2000年)ISBN 978-4401616541
- SIGHT VOL.14 特集「ロックの正義!!ストーンズ全100ページ」(株式会社ロッキング・オン、2003年)