メロトロン

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1999年発表のメロトロンMkVI
1999年発表のメロトロンMkVI

メロトロン(Mellotron)は、1960年代に開発された、主にアナログ再生式(磁気テープを媒体とする)のサンプル音声再生楽器である。アメリカのハリー・チェンバリンが作成したチェンバリンを元に、イギリスのレスリー・フランク・ノーマンのブラッドレィ3兄弟が、設計と作成を行った。

目次

[編集] 概要

ハリー・チェンバリンが開発した"Chamberlin Rhythmate"という、テープ音源を用いたリズム/伴奏用のマシン(いわばホームオルガン用のカラオケマシンか)が先祖である。彼自身がこれを応用したテープ音源のオルガンを製作したことからメロトロンの歴史は始まる。鍵盤に対応した音程でそれぞれ録音された、ある音声(音色)を一式揃えておけば、音階を持った楽器として使用できる。これにより弦楽器管楽器などの音を鍵盤で奏でることを可能とした。また、一定の伴奏パターンや効果音が録音されたテープもあり、メロトロンの原案となったモデルでは(当然、そのコピーである初期のメロトロンでも)左手側の鍵盤に使用された。チェンバリンの会社ではこの楽器を大量生産するのは難しく、製造を依頼する目的でイギリスに持ち込まれ、目をつけたのが楽器用の再生ヘッドを発注されたブラッドレィ兄弟であった。

メロトロンは、1963年ブラッドレィ兄弟により設立された「ストリートリー・エレクトロニクス(Streetly Electronics)」社でチェンバリンの楽器を(無許可で)模倣・改良する形で製作され、「リビングルームに設置して一人または二人で気軽に演奏する、家庭用のオルガン」として販売された(販売はロンドンに本拠を置く「メロトロニクス(Mellotronics)」社)。ほどなく若干のマイナーチェンジを経て、ムーディー・ブルースビートルズキング・クリムゾンらにより伝説を作り上げた「MkII」となる。このモデルは1本のテープにつき3トラック×6ステーション(カセットテープの「頭出し」の要領で各ステーションに停止したテープは、そこから音色の再生を始める)の18音色を収録。左手および右手用として35鍵の鍵盤が2セット、並列に設けられたものである(左手用鍵盤には、前述の伴奏パターンを収録したテープがインストールされている)。一部アーティストによりステージでも使用されたものの、この楽器はあまりにも大きく繊細(かつ高価)であった。鍵盤を1セットにまとめた「M300」を経て、よりコンパクトなバリエーション「M400」が1970年に発表された。前述したステーション構造を廃し、鍵盤も1セットとした。選べる音色が18音色から3音色に減少したのを補うため、35本のテープを一度に交換できる「テープフレーム構造」を採用。MkIIと比べて軽量・コンパクトかつ耐久性のある(メカニズムの簡略化による)楽器となり、その白い外観も相まって認知度は一挙に高まる。ロックやジャズの領域拡大とともにメロトロンを録音やライブで使用するアーティストは増えていき、観客はステージで奇妙な音を出す白い楽器を頻繁に見かけるようになる。

イギリスのミュージシャン・ユニオンでは当初、これを使用する事でバイオリンなどの演奏者を必要としなくなり、仕事を奪うものであるという批判がされたが、その特徴的な音は生の管・弦楽器などを代替することはなく、早い内から実際の楽器音とは区別して使われるようになる。例えばレッド・ツェッペリンの「カシミール」などの曲では両者が併用され、見事に役割を演じきっている。

原案者であるハリー・チェンバリンとブラッドレィ兄弟は特許および知的所有権で争っていたが、結果的に1966年、チェンバリンがブラッドレィ兄弟に権利を3万ドルで売り渡すこととなる。チェンバリンも1970年以降、自らの会社でテープ再生式の楽器を開発、販売した。もっとも普及した「M-1」はメロトロンよりコンパクトなボディと、よりハイファイなサウンドを持つ。マーヴィン・ゲイエルヴィス・コステロなど、こちらもメロトロンほどではないにせよ広く用いられた。

機構上の欠点として「モーターが非力なため、複数の鍵盤を同時に押さえると音程が下がる」「頻繁に再生・巻き戻しをさせられるテープが傷みやすい」「モーターの回転速度が電圧の影響を受けやすく、音程がフラつく」「複雑なメカニズムを内蔵しているため大きく重く、壊れやすい」「再生ヘッドの品質が悪く、出力された音は蓄音機のように劣化する」などが挙げられる(もっとも、現在ではこれらの特徴は殆どが「味」として再評価され、ノスタルジックかつサイケデリックな音色に魅せられる人はプレイヤー、リスナー問わず後を絶たない)。1970年代中盤にはポリフォニックシンセサイザーストリングアンサンブルが普及したため、問題を多く抱えるメロトロンのユーザーは次第に減少。経営が悪化したストリートリー・エレクトロニクスは1977年、メロトロンの商標権をダラス・ミュージック・インダストリーへ売却する。その後、メロトロンの名称が使えなくなったストリートリー・エレクトロニクスは「ノヴァトロン(Novatron)」の名称で楽器の開発・販売を続けるが、1986年に倒産した。一方メロトロンの商標権はいくつかの業者の手をわたり、現在はメロトロン・アーカイブス(Mellotron Archives)社を設立したデヴィッド・キーンが保有している。

1970年代後半になって、RMIや360 systemsといったメーカーからデジタル技術で録音された楽器音を演奏する楽器が登場。PCM音源の発達に伴い、1980年代にはフェアライトCMIシンクラビアなどの楽器がサンプリング機能を有し、音楽制作の現場で人気を博す。いつしかこの類の楽器はサンプラー(サンプリング・シンセサイザー)と呼ばれるようになった。先祖であるメロトロンの音も初期からサンプリングの対象になったが、代替品として使えるレベルになるのは1993年にイーミュー社からプリセットサンプラー・モジュール「Vintage Keys」が発売されるのを待つこととなる。折からのビンテージキーボード・ブームも手伝い、この楽器はメロトロンのサウンド目当てのユーザーから高く評価された。メロトロンのサウンドは常に一定のニーズがあるため、いくつかのメーカーは、よりリアルなサンプルを提供するよう努力している。

なお、現在でもメロトロンは販売されている。カナダでメロトロンの商標を持っているメロトロン・アーカイブス社は、モデル400シリーズの新型「MkVI」などを発売している。レスリー・ブラッドレィの息子らによって再建されたストリートリー・エレクトロニクスでもレストアされた旧型メロトロンを販売している。同社は2007年、M400と似た筐体の中にMkIIと同様のステーション構造をもつ新型メロトロン「M4000」を発表した。音源テープは、この2つの会社それぞれが新規で録音された物も含めて取り扱っている。

プログレッシブ・ロックファンからはハモンドモーグと並び3大キーボードと呼ばれることもある。

[編集] 発音機構

メロトロン発音機構の模式図
メロトロン発音機構の模式図

音源となるテープ(右図赤線)は鍵盤(1)と再生ヘッド(6)の間にセットされている。鍵盤にはテープを再生ヘッドに押し付ける「プレッシャーパッド(2)」と、モーター(5)に押し付ける「ピンチローラー(3)」が取り付けられている。鍵盤を押し込むと、テープはモーターとピンチローラーに挟まれて前進しつつ再生ヘッドに押し付けられて発音して、ケースに格納される(4)。鍵盤を離すとテープはモーターの回転から開放され、一端に取り付けられたスプリング(7)によりおよそ0.5秒で巻き戻される。この機構により、以下に列挙する独特の反応がみられる。

  • a)演奏する際には鍵盤を押した指から力を抜くと音は掠れて止まってしまう(プレッシャーパッドの板バネにより、鍵盤の反発力が強い)。
  • b)高速で同音連打を行うと、テープが途中から再生されるため、独特なニュアンスとなる。
  • c)押し込んだ鍵盤をさらに強く押し付けると、テープ走行に対する抵抗が強くなるため音程が下がり、潰れたような太い音になる。
  • d)勢いよく鍵盤を押し込むと、テープが再生ヘッドに叩き付けられて電気的スパークが発生する。これによってアタックの強い音になる。
  • e)逆に弱く弾くと最初にテープの走行がスタートした後にゆっくりと再生ヘッドに接触するため、立ち上がりの遅い音になる。

最初は戸惑う鍵盤タッチだが、使いこなすと鋭いアタックから逆回転風サウンドまで指のタッチでコントロールでき、初期の電子楽器としては表現力はなかなか高い(ただし、旧型のメロトロンの鍵盤は歪みを生じ易い上に、プレッシャーパッドやピンチローラーの調整具合によってはこのような変化を生じない。現行生産のものは高品質の鍵盤を採用し、タッチによる表現を行い易く調整されている)。このような有限の長さのテープを用いた面倒な機構を採用したのは、ピアノなどの減衰音の再生を可能とするためである。楽器音で5.5秒~8秒と短い持続時間のため、演奏者は長い持続音や和音を演奏するために様々な工夫をした。

音色として有名なのはビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」で知られる"Flute"、ローリング・ストーンズ「2000光年のかなたに」やキング・クリムゾン「クリムゾン・キングの宮殿」などでフィーチャーされた"3 Violins"(もっとも多く使用された音色。メロトロンMkII、M400、チェンバリンで共用している唯一の音源だが、再生される楽器によりニュアンスは大きく異なる)、リック・ウェイクマンが自身のソロスポットで用いた他、ジェネシストニー・バンクスが愛用した"8 Choir"(男女4人ずつの混声合唱。男女の声を分けた形でも提供された)などが挙げられる。メロトロンの為に録音された音は、大きなノイズが含まれたり、過大入力により潰れたり、音程が正確でなかったりと劣悪なものが多かったが、そのぶん大音量のロックバンドの中でも明確に個性を主張することになった。

チェンバリンはテープの巻き戻しにもモーターを使用しており、テープは常にリールに巻き取られている。そのため、筐体を小型化することが可能だった。メロトロンは楽器としての演奏性能を追求したためバネを使った巻き戻しに拘り、小型化には限界があった。その上、スプリングを用いても同音連打した音は立ち上がりが不自然なものとなった。
メロトロンは、全ての機種で磁気テープを録音再生媒体として用いるが、他の方式でのサンプル・プレイバック・キーボードには、光学式ディスクを用いるオプティガン(OPTIGAN)という楽器が挙げられる。これはマテル社が児童向けに開発したものだが、プロ用に作られたオーケストロン(Vako Orchestron)という楽器に発展した。
メロトロンの欠点であった「大きく重く、かさばる」「音色を3つしか選べない」「8秒以上音を伸ばせない」点を改良するために、リック・ウェイクマンはデヴィッド・バイロとともに8トラックテープを用いた「バイロトロン(Birotron)」を開発。37の鍵盤それぞれに8トラックカセットをセットし、8つのループされた音色を選択可能。音の立ち上がりや減衰を調節できる。ウェイクマンはこの楽器をイエスのアルバム「トーマト」、ソロアルバム「罪なる舞踏」で使用した(17台ほど作られたが、市場には殆ど出回らなかった)。

[編集] メロトロン機種リスト

  • Mellotron MkI : Chamberlin 660 Musicmasterを元にして作られた。左右に35ずつの鍵盤を持つ。6ステーション×3トラック。
  • Mellotron MkII : 1960年代に数々のロックミュージシャンに愛用された、Mk Iの改良版。外観では殆ど区別出来ない。
  • Mellotron M300 : 52の鍵盤を持つ、最初のコンパクトモデル。左から17の鍵盤は伴奏および効果音が割り当てられた。6ステーション×2トラック。初期型は音程を調節できない。
  • Mellotron M400 : もっとも普及したモデル。ステーション構造を廃止し、更なる小型化を実現。35鍵、3トラック。EMI製のモデルもあり、外観が異なる。
  • Mellotron MkV : M400を左右に繋げたようなモデル。コントロールパネルを鍵盤前面に配置。
  • Novatron T550 : 機構を小型化してフライトケースと一体化したモデル。見た目の印象と裏腹に、筐体自体はさほどコンパクトではない。
  • Mellotron 4Track : M400を4トラック仕様に改良したモデルで、Mellotron USAが生産。
  • Mellotron MkVI : M400の改良型で、真空管プリアンプとハーフスピードスイッチを追加。モーターの安定性も高くなった。Mellotron Archives製。
  • Mellotron MkVII : MkVIのデュアルバージョン。MkVの現代版といえる。
  • Streetly M4000 : M400とよく似た筐体にステーション構造を内蔵。8ステーション×3トラック。新生Streetly Electronics製。

[編集] 代表的なユーザー

  • 伝説的なメロトロン・プレイヤーとして、ムーディー・ブルースのマイク・ピンダーが挙げられる。彼はメロトロンの出荷前点検をしていた経歴があり、馴染み深いこの楽器を最大限に活かす演奏をした(よくある誤解だが、彼は開発にはタッチしていない。また彼のメロトロンMkIIは俗に「ピンダートロン」と呼ばれるが、特にカスタマイズされてはいない。通常リズム音源を入れておく左手鍵盤にもリード音源を入れている)。
  • イアン・マクドナルドはキング・クリムゾン脱退後はこの楽器を使うのを強く拒否しているばかりか、現在でもサンプリングされた音すら用いない。彼が2002年に21st Century Schizoid Bandで来日した際、著名な日本のメロトロン・ユーザーからの「メロトロンを用意しますからステージで使ってください」というオファーを断ったエピソードがある。
  • リック・ウェイクマンは不安定なこの楽器に業を煮やし、自宅の庭に引きずり出してガソリンを掛け、火を放ったことがある。彼はその後非常に後悔したとのこと(燃やしたもの以外にも数台を所有しており、その後全て売却している)。
  • キース・エマーソンは初期のインタビューで「メロトロンは好きになれない」と度々発言している(ザ・ナイスのレコーディングで使用歴あり)。1972年のツアーでELPが「奈落のボレロ」を演奏した際、モーグの多重録音によるオーケストレーションを再現するのにメロトロンを使用した。奏者はグレッグ・レイク。厳密には、演奏というよりあらかじめレコードから録音されたバッキングパターンを順番にトリガーしていた(註:メロトロン本体には録音の機能はない。)。
  • BBCなどの放送局にはマイク・ピンダーらとは逆に、全ての鍵盤に効果音を仕込んだ「FXコンソール」というものが導入された。生放送や収録などの際、リアルタイムで効果音を出すことができ、それなりに利用されたようだ。MkIIとM400をベースに製作され、いずれも筐体は青みがかったグレーに塗装された。
  • 日本では冨田勲シンセサイザー多重録音作品の中で使用しており、混声合唱の音色を使って重厚なコーラスサウンドを構築している。ロックの分野では厚見玲衣が有名。前述の、イアン・マクドナルドにメロトロンを用意したのは彼である。厚見はZONEなどのJ-POPでもメロトロンを演奏している。小室哲哉も再結成後プログレッシブ・ロック色の増したTM NETWORKのライブやアルバムでメロトロンを使用している。


[編集] メロトロンの代替機種

楽器としてのメロトロンは概要の通り取り扱いにくい面を持つ為、シンセサイザー・サンプラーなどで代用音源・音色などがシミュレートされてきた。しかし、メロトロンの「味」は楽器の機械的特性に因るところも大きく、完全なる再現には程遠いのが現実である。シンセサイザー内蔵音源ではメモリ節約および使い易さを狙ってループ処理されているものが多いが、不安定な音源をループ化するのは困難で、いずれも繋ぎ目がはっきりと聴き取れる(逆にスムーズにループ化すると、メロトロンと認識出来ないような音になる。初期のサンプラーはメモリの容量が小さかったので、当時の数少ないメロトロンのサンプルは0.5〜1秒程度でループされており、個性はほぼ消失していた)。

  • 代替機種として代表的なのは、前述したイーミュー社のプリセットサンプラー・モジュール「Vintage Keys」である。改良型として「Vintage Keys Plus」、廉価版「Classic Keys」、最終バージョン「Vintage Pro」が発売された。イーミュー社の個性か、コンプレッションの掛かったような太くまろやかな音色が特徴で、3 Violins、8 Choir、Brass、Fluteが用意されている。音色のエディットも可能。イーミュー社はハードウェア製造からは撤退したため現在は全て生産中止だが、現在もスタジオ、ライブを問わず広く使われている。
  • 現在(2006年12月)、スタンドアローン、また各デジタルオーディオワークステーションのプラグインとして動作するソフトウェアシンセサイザージーフォースエムトロン(GForce M-Tron)がエムオーディオ(M-Audio)より発売されている。メロトロン・チェンバリン等の、代表的な音色を録音し素材として利用している。スタジオでは普及してきたが、動作が重いため、ライブでの使用例はまだ少ない。
  • 2006年にはメロトロンM400の白いボディとよく似た外観をもつデジタル楽器「メモトロン(Memotron)」がドイツのManikin Electronicというメーカーから発売された。専用のCD-ROMもしくは上記M-Tron用のものからサンプルを読み込んで使用する。PCのオーディオインターフェースを用いるM-Tronと比べて音の太さ、生々しさで勝っている。ただし、メロトロンの機械的特性の再現には至っておらず、あくまでも「実物同様のコントロールが可能なプリセットサンプラー」に留まっている。
  • 2007年、スウェーデンのクラビア社の新製品「nord wave」にメロトロンのマスターテープからサンプリングした波形が搭載された。サンプルの提供はメロトロン・アーカイブス。波形は6秒程度のループとされ、3 Violins、Flute、8 Choir、’Cello、Boys Choir、Brass、Tenor Saxが用意されている。この波形をベースとしてアナログシンセサイザー同様の音作りが可能。クラビア社のサイトから、7秒のフルサンプリング波形もダウンロードが可能。
  • ローランドのシンセサイザーに音源波形、音色を追加するエクスパンションボードの一つ、"Ultimate Keys"というビンテージ鍵盤楽器のサンプル波形を収録したボードにメロトロンのループ波形が幾つか搭載されている。こちらは3秒程度のループで、全てのキーからはサンプルが採られていない。
  • メロトロン・アーカイブス社はMkVIを発表する前年の1998年に、マイク・ピンダー監修のサンプル・ライブラリーを発売。CD-ROMで提供され、AKAIのフォーマットで使用できる。音色はリズム音源も含めて潤沢に用意されている。音色・音程は非常に安定している。
  • その他様々なメーカーから、サンプラー用のライブラリーとしてメロトロンのサンプルが提供されているほか、フリーウェアとしてインターネット上にソフトウェアシンセサイザーが提供されている。これらは大抵3から4音色を装備している。

[編集] 参考リンク