ローストビーフ・サンドイッチ

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ローストビーフ・サンドイッチ
ローストビーフを挟んだサブマリン・サンドイッチ
種類 サンドイッチ
発祥地 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
提供時温度 温かい
主な材料
類似料理
Cookbook ウィキメディア・コモンズ
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アービーズのホット・ローストビーフ・サンドイッチとフライドポテト。

ローストビーフ・サンドイッチ: roast beef sandwich)とはローストビーフの薄切りを具材とするサンドイッチ。米国では多くのダイナーで提供されており、アービーズロイ・ロジャーズ英語版などのファストフードチェーンでも販売されている[1]マサチューセッツ州、特にノースショア英語版のローストビーフ・サンドイッチが最も有名。多く見られるのはハンバーガーバンズに具を挟んだタイプで、バーベキューソースアメリカンチーズマヨネーズのトッピングが主流[2]レタストマトホースラディッシュピクルスを加えるのも一般的で[2]、レシピによってはチリソース赤タマネギを用いることもある[3]。温製と冷製のいずれも存在し、オープンサンドイッチにしたものもある[4]

歴史[編集]

ローストビーフのオープンサンドイッチにグレービーをかけ回すタイプの料理は全米各地に存在し、「ホットビーフ」「ホット・ローストビーフ・サンドイッチ」など多くの名前がある[5]。その起源は、一説によると1877年のレシピ集に記載された「ビーフステーキ・トースト[6]」にまでさかのぼれる。冷たくなったステーキの薄切りを煮込んでパンにかける料理で、当時はそれほど知られていなかった。この料理は1900年にワシントン・ポスト紙で「食欲をそそらない」「グレービーの洪水に浮かぶ古びた箱舟のよう」と紹介された[5]。しかし年月を経るうちに人気が高まり、2004年には料理書の中で「これこそサウスダコタの味」と言われるまでになった[5]

マサチューセッツ州にチェーンを展開するケリーズ英語版は、リビア市にあった同店が1951年に初めてパンに挟むタイプのローストビーフ・サンドイッチを生み出したと主張している[7]。あるカップルの結婚式が中止になり、披露宴で出されるはずだったローストビーフを流用したという話が伝わっている[1][2]。1960年代になると、ケリーズのメニューを手本としたオハイオ州アービーズ[8]や、フロリダのネバ、インディアナのロビー[9](後のロイ・ロジャーズ)のようにローストビーフ・サンドイッチを扱うファストフードチェーンが他州に登場し始めた。バーガーキングマクドナルドのような大手ハンバーガー・チェーンもローストビーフ・サンドイッチを販売していたことがある[1]

地域ごとの特色[編集]

1950年代に入って以来、ローストビーフ・サンドイッチはマサチューセッツ州のボストン都市圏、特にノースショアの名物となっている。ローストビーフの薄切りを温めてオニオンロール英語版(ドライオニオンをまぶしたロールパン)に挟んだものが一般的[10]。用いられる部位は主にモモ肉英語版である[2]。ボストンを含むマサチューセッツ州東部一帯では多様なローストビーフ・サンドイッチが根付いており、好みのスタイルを巡って活発な議論が行われている[2]。人気のトッピングはマヨネーズバーベキューソース、白いアメリカンチーズ英語版で、単独でも組み合わせても注文できる。3つを同時に乗せたものは俗に「スリーウェイ」と言われる[1][2]ホースラディッシュのクリームソースでピリッとした風味を加えることもある。

ブルックリンで1938年から営業しているブレナン&カーは、ローストビーフをバンズに挟んで全体を肉汁に浸した看板料理を1970年代から提供している[11]

類似のサンドイッチ[編集]

ビーフ・オン・ウェック[編集]

伝統的なビーフ・オン・ウェック

ビーフ・オン・ウェックは主にニューヨーク州西部英語版で食べられているサンドイッチの一種[12][13][14]。塩とキャラウェイシードをまぶしたクーメルウェック・ロールと呼ばれるパンでローストビーフを挟む。具の肉はレアの薄切りを用い、上側のパンを肉汁に浸してホースラディッシュを塗るのが一般的。

チビート・サンドイッチ[編集]

チビート・サンドイッチはウルグアイの国民食[15]、叩いて柔らかくしたテンダーロイン英語版などの牛肉のステーキに[16][17]チーズトマトマヨネーズ固ゆで卵ハムを合わせるのが一般的[18][19]。パンにはバンズを用い、フライドポテトを添えることが多い[15][20]。そのほかビーツエンドウ豆、グリルか炒めた赤唐辛子キュウリの薄切りなどの材料も加えられることがある。

コンビーフ・サンドイッチ[編集]

米国でいうコンビーフとは塩水で漬けてから茹でた塊肉のことで[21]コンビーフ・サンドイッチにはマスタードとキュウリのピクルスを添えるのが普通[22]。英国でコンビーフは缶詰の保存食品を指し[23]ブランストン・ピクルス英語版(野菜のみじん切りのピクルス)とともにパンに挟むことが多い[24]

フレンチディップ[編集]

フレンチディップ・サンドイッチ。

フレンチディップ・サンドイッチはフランスパン(バゲット)でローストビーフの薄切り(他の肉を使うこともある)を挟んだホットサンドイッチである。オー・ジュー英語版で、すなわち肉を調理するときに出た肉汁を添えて提供されるのが一般的。肉汁の代わりにビーフブロスまたはビーフコンソメが用いられることもある。名前に反してアメリカで生まれた料理であり、フランスでは知名度は皆無である。「フレンチ」は発祥地ではなくパンの種類を指しているとみられる。

パストラミ・オン・ライ[編集]

パストラミ・オン・ライニューヨークに多いユダヤ系のコーシャデリカテッセンから有名になった古典的なサンドイッチである。1888年にサスマン・ヴォルクによって発明され、ニューヨークのデランシー・ストリートにあるヴォルクのデリで売り出された。ライ麦パンとスパイシーなブラウンマスタードを使ったパストラミ・オン・ライはやがて他のデリでも人気メニューとなった[25]。現在ではニューヨークのデリ(カッツ・デリカテッセンが代表的)の名物メニューになっている[26][27]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d Where’s the beef? The North Shore, where they’re fighting over the No. 1 sandwich”. Boston Globe (2019年5月29日). 2020年12月20日閲覧。
  2. ^ a b c d e f The North Shore Roast Beef Sandwich: a Scientific Study”. Edible Boston. 2020年12月20日閲覧。
  3. ^ Deluxe Roast Beef Sandwich”. MyRecipes.com. 2009年11月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年4月2日閲覧。
  4. ^ Neman, Daniel (2016年3月30日). “Variety is the slice of life”. The Daily Gazette. 2016年4月2日閲覧。
  5. ^ a b c Olver. “The Food Timeline: history notes--sandwiches”. The Food Timeline. 2016年4月2日閲覧。
  6. ^ Buckeye cookery, and practical housekeeping : compiled from original recipes. Buckeye Publishing Company. (1877). https://d.lib.msu.edu/fa/10#page/172/mode/2up 2020年12月20日閲覧。 
  7. ^ Kennedy, Louise, "At Kelly's, roast beef sandwiches rule", The Boston Globe, May 18, 2011
  8. ^ Arby's Inc. History”. Funding Universe. 2020年12月20日閲覧。
  9. ^ Marriott May Buy A Restaurant Chain”. Newspapers.com. The Record. p. C-20 (1968年1月12日). 2020年12月20日閲覧。
  10. ^ Sarah Walker Caron. “Regional Bites: Roast Beef Sandwiches of Greater Boston”. Sarah's Cucina Bella. 2016年4月2日閲覧。
  11. ^ Hot Roast Beef and Close Ties on Avenue U”. New York Times (2012年1月12日). 2020年12月20日閲覧。
  12. ^ Beef on Weck: A Locally Famous Sandwich, Upgraded”. BuffaloChow.com. 2009年8月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年10月10日閲覧。
  13. ^ History of Beef on Weck”. The Kitchen Project.com. 2009年10月10日閲覧。
  14. ^ Ekfelt (Spring–Summer 2003). “Buffalo's Other Claim to Fame”. Voices Volume 29. The New York Folklore Society. 2009年10月10日閲覧。
  15. ^ a b Caskey, Liz (2010). Knack South American Cooking: A Step-by-Step Guide to Authentic Dishes Made Easy. Guilford, CT, USA: Globe Pequot Press. pp. 148–149. ISBN 978-1-59921-918-9. https://books.google.com/books?id=XOgdzXyTjl0C&q=chivito&pg=PA148 
  16. ^ Uruguayan Beef Tenderloin “Chivito” Sandwich”. Oman Daily Observer (2019年9月21日). 2020年12月20日閲覧。
  17. ^ Chivito (Tenderloin sandwich)”. Uruguayan Meats. 2020年12月20日閲覧。
  18. ^ Chivito Steak Sandwich Recipe”. NYT Cooking. 2020年12月24日閲覧。
  19. ^ A Brief History of Uruguay's Chivito”. Culture Trip (2017年9月6日). 2020年12月24日閲覧。
  20. ^ Bernhardson, Wayne (2008). Moon Buenos Aires. Berkeley, CA, USA: Avalon Travel div. of Perseus Books Group. pp. 74. ISBN 978-1-56691-991-3. https://books.google.com/books?id=StsjlVpzG7EC&q=chivito&pg=PA74 
  21. ^ How to make salt beef”. The Guardian (2010年11月3日). 2020年12月22日閲覧。
  22. ^ Serious Eats (2008年3月5日). “Serious Sandwiches: Hot Salt Beef Bagel”. 2016年4月2日閲覧。
  23. ^ We’re Obsessed With This British Version of Corned Beef”. Nosher (2019年6月20日). 2020年12月20日閲覧。
  24. ^ Ultimate Corned Beef Sandwich”. Princes Food. 2020年12月22日閲覧。
  25. ^ Marks, Gil (2010). Encyclopedia of Jewish Food. Houghton Mifflin Harcourt. ISBN 978-0544186316. https://books.google.com/books?id=gFK_yx7Ps7cC&q=Pastrami+on+rye 2016年3月25日閲覧。 
  26. ^ Weissmann (2014年10月27日). “The Ur-Deli”. Slate. 2016年3月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年3月25日閲覧。
  27. ^ NYC Jewish Delicatessens: The Ultimate Guide”. New York Eater (2015年12月22日). 2016年3月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年3月25日閲覧。

外部リンク[編集]