宇都宮牛

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放牧中の宇都宮牛

宇都宮牛(うつのみやぎゅう[1][2])は、栃木県宇都宮農業協同組合(JAうつのみや)の管内で生産される銘柄牛[2][3]品種黒毛和種である[2][3]

歴史[編集]

1972年(昭和47年)[2][4][5]9月に[2]東京都中央卸売市場食肉市場[5]、日本国内10番目の銘柄牛として認知された[2][3][4][5][6]1980年(昭和55年)には宇都宮牛が日本一の高値を記録し[6][7]1983年(昭和58年)には「宇都宮牛」で商標登録された[5][注 1]

2008年(平成20年)度に、宇都宮市は「宇都宮牛復興プロジェクト補助金」を創設し、宇都宮牛の上物出現率の向上と出荷頭数の増加を目標に掲げた[8]2011年(平成23年)の宇都宮市の黒毛和種肥育農家(≒宇都宮牛農家)は22戸、出荷数は663頭・5.12億円であった[5]。同年は福島第一原子力発電所事故の発生した年であり、エサとなる稲わらの放射性物質調査と、牛の全頭検査が実施された[9]2012年(平成24年)8月から9月にかけて行われた調査によると、宇都宮牛の市内での認知度は66.8%(1,050人のうち)であり[注 2]、食べたことのある人は265人(≒25.2%)であった[5]。同年、肉質等級が5等級の中でも上位の枝肉に「宇都宮牛 極」(きわみ)の称号を付与するようになった[11]

JAうつのみやには2019年(平成31年)まで、「宇都宮牛協会」の別名を持つ宇都宮牛肥育部会があった[12]が、2020年(令和2年)に[13]肉牛専門部会[12]と統合し、肥育牛部会になった[13]。2019年(平成31年)2月末の宇都宮牛肥育部会の会員は11人で[12]、2020年(令和2年)2月末の肥育牛部会の会員は24人である[13]

生産と流通[編集]

生産[編集]


歩留等級
A B C



5 宇都宮牛
4
3
2
1

JAうつのみや管内で肥育された黒毛和種のうち、日本食肉格付協会による枝肉の肉質等級が3 - 5等級のものを宇都宮牛という[2][14]。また、オスの場合は去勢されていることも条件に含まれる[2][15]2011年(平成23年)時点では、歩留等級がAまたはBであり、32か月齢であること、という条件もあった[15]。宇都宮牛の中でも、肉質等級5等級で[11]、最高級のものには「極」(きわみ)の称号が付く[注 3]

宇都宮市内の生産地域は、篠井地区富屋地区国本地区河内地区城山地区平石地区横川地区であり[3]、特に横川地区が主力産地である[5]

肉牛農家は一般に、子牛を産ませる繁殖農家と、子牛から成牛に育てる肥育農家に分かれ、宇都宮牛を飼う農家には、どちらも存在する[14]。また、出産から成牛まで一貫生産を行う農家もある[4]。牛舎ではおがくずもみがらを敷き、衛生的な環境を保つようにする[2]など、生産農家が少数であることから、各戸が手間暇と愛情をかけ[10]、すべての農家が統一マニュアルに従って飼育する[17]

繁殖農家は、母牛に人工授精するところから始まり、受精した母牛は約290日後に子牛を出産する[14]。生まれた子牛は、繁殖農家の下でストレスがかからないように約10か月育てられた後に、家畜市場へ出荷される[14]。肥育農家は、家畜市場などから子牛を購入し、約20か月飼養して成牛に育て、食肉市場へ出荷する[14]。飼料には「特撰宮牛」という独自の配合飼料を用いる[5]。中には、宇都宮市内の稲作農家から稲わらを入荷し、稲作農家へ牛糞堆肥を提供することで、循環型農業に取り組むところもある[14]

流通・消費[編集]

宇都宮牛の切り落とし

出荷された宇都宮牛は食肉市場で買われ、加工・流通を経て消費者に届く[14]2022年(令和4年)度の宇都宮牛出荷頭数は119頭(JAうつのみや管内)であり[2]、そのほとんどは東京都中央卸売市場食肉市場へ出荷される[11]。宇都宮牛の味は「珠玉の味」と讃えられ[5]、どの部位も良質で[17][3]タンパク質脂質に富み[4]、脂身に甘みがある[注 4]のが特徴である[3][17]。「肉本来のおいしさを味わえる」という評価がある[6]。また、肉は柔らかい[14][17]成瀬宇平と横山次郎は、すき焼き焼肉しゃぶしゃぶステーキなどによいと評している[17]

ほとんどが東京都へ出荷されるため、宇都宮市内での流通量は少ない[11]。宇都宮観光コンベンション協会によると、宇都宮牛を提供する宇都宮市内の飲食店は7店、販売店は2店である[7]。これらの店舗とは別に、宇都宮牛を使った宇都宮餃子を生産販売する店や[16][18]、「宇都宮牛」の刻印があるどら焼き(宇都宮牛は不使用)を販売する店もある[16]。なお、宇都宮市が認定する「うつのみや地産地消推進店」の認定基準は、「通年で宇都宮市産農産物を10品目以上販売していること」であるが、宇都宮牛の販売店舗については、1品(宇都宮牛)のみでも認定を受けることができる[19]

脚注[編集]

注釈
  1. ^ 特許情報プラットフォームJ-PlatPatによると、2024年1月現在、「宇都宮牛」に係る有効な商標は存在しない。
  2. ^ 認知度の向上は宇都宮牛の優先課題となっており、生産者自身、宇都宮市民であってもなじみが薄いかもしれないのではないかと考えている[10]。都市的な性格を持つ宇都宮市にブランド牛が存在することを知り、驚く人もいる[10]
  3. ^ 具体的な条件は明示されていない[11][16]
  4. ^ 「上品な甘み」という評価もある[6]
出典
  1. ^ 宇都宮市(うつのみやし)はどんなまち”. 宇都宮市総合政策部広報広聴課広報グループ (2023年12月1日). 2024年1月7日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j 宇都宮牛協会”. 農業王国うつのみや. うつのみやアグリネットワーク運営委員会事務局. 2024年1月7日閲覧。
  3. ^ a b c d e f ④宇都宮の農産物”. 小学校版「宇都宮学」副読本. 宇都宮市教育委員会事務局学校教育課指導グループ. 2024年1月7日閲覧。
  4. ^ a b c d 11月は地産地消強化月間 宇都宮のおいしいをいただきます”. 広報うつのみや2021年4月号 No.1741. 宇都宮市総合政策部広報広聴課 (2021年4月1日). 2024年1月7日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i 第2次宇都宮市食料・農業・農村基本計画〜「農業王国うつのみや」の実現に向けて〜”. 宇都宮市 (2014年3月). 2024年1月7日閲覧。
  6. ^ a b c d 新朝プレス 2015, p. 34.
  7. ^ a b 宇都宮牛”. 宇都宮観光コンベンション協会. 2024年1月7日閲覧。
  8. ^ 施策カルテ/農産物の産地力の向上”. 宇都宮市農業振興課. 2024年1月7日閲覧。
  9. ^ 第4回 横川地区まちづくり懇談会 開催結果”. 宇都宮市総合政策部広報広聴課 (2016年9月16日). 2024年1月7日閲覧。
  10. ^ a b c 新朝プレス 2015, p. 35.
  11. ^ a b c d e 宇都宮牛「極」”. RBZ firday. RADIO BERRY FM栃木 (2014年5月2日). 2024年1月7日閲覧。
  12. ^ a b c JAうつのみやガイドブック2019”. 宇都宮農業協同組合. 2024年1月7日閲覧。
  13. ^ a b c JAうつのみやガイドブック2020”. 宇都宮農業協同組合. 2024年1月7日閲覧。
  14. ^ a b c d e f g h 11月は地産地消強化月間 宇都宮のおいしいをいただきます”. 広報うつのみや2023年11月号 No.1772. 宇都宮市総合政策部広報広聴課 (2023年11月1日). 2024年1月7日閲覧。
  15. ^ a b 農業王国うつのみやの推進”. 宇都宮市農業振興課 (2011年). 2024年1月7日閲覧。
  16. ^ a b c 商品情報”. 珠玉の味 宇都宮牛. 宇都宮牛協会. 2024年1月7日閲覧。
  17. ^ a b c d e 成瀬・横山 2015, p. 93.
  18. ^ 宮牛包(宇都宮牛使用)”. 寿限無餃子. JcTクリエーションズ. 2024年1月7日閲覧。
  19. ^ うつのみや地産地消推進店認定基準 チェック表”. 宇都宮市. 2024年1月7日閲覧。

参考文献[編集]

  • 成瀬宇平・横山次郎『47都道府県・肉食文化百科』丸善出版、2015年1月31日、322頁。ISBN 978-4-621-08826-5 
  • 「珠玉の味「宇都宮牛」を求めて」『Re:raku』第32号、新朝プレス、2015年7月10日、34-35頁。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]