直接民主制

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直接民主制(ちょくせつみんしゅせい)または直接民主主義(ちょくせつみんしゅしゅぎ)とは、構成員が、代表者(代議員)などを介さずに、所属する共同体意思決定に直接参加し、その意思を反映させる政治制度または思想である。対比概念は間接民主制(間接民主主義)または代表民主制(代表民主主義)。

直接民主制の原理は、イニシアティブ(住民発案)、リコール(住民解職)、 レファレンダム(住民投票国民投票)の3つの要素の集合である。

現在、ほとんど全ての国が間接民主制を採用しているが、多くは一部に直接民主制を併用している。直接民主制を重視している国にはスイスがある。

概説[編集]

スイス・グラールス州のランツゲマインデ(州民集会)。2014年。

直接民主制の起源は、紀元前800年ごろの古代ギリシアの民主主義政治である。政治参加資格のある国民、住民、市民などが直接議論し決定を行っていた。当時の主な利点には、有権者全員が参加したため、公開性が高く、最新の住民意思が直接反映され、決定の正統性も当時の基準では、高い水準にあったと考えられる。その反面、解読された古代ギリシア語から、主な難点として、全員が集合し議論する時間・場所・費用などの負担、特に専門的分野での知識経験の不足、個々の時点で相反する決定をするなど継続性への不安、いわゆるポピュリズムに陥る懸念、などがあったことが明らかにされてきた。

紀元前1200年ごろには、古代ギリシア都市国家共和政ローマ民会などがあり、18世紀にジャン=ジャック・ルソーは直接参加型民主主義のみを「真の民主主義」と考えた[1]

17世紀から、スイスでは、スイス連邦議会(国会)の決議や、国民が作成した法案ついて、国民自らがイニシアチブ(国民発議)を行使し、レファレンダム(国民審議と国民投票)によって、その是非を決する参政権が広く浸透している。イニシアチブは、議題の内容を問わず、年間500件以上行われている。[2]一方で、地方自治における直接民主制(ランツゲマインデ (Landsgemeinde)は、26州のうち、2つの州でしか行われていない。[3]

19世紀中期の、主にヨーロッパ諸国では、間接民主主義である議会制(代表制、代議員制)を採用し、重要な決定に限り国民投票住民投票など、直接民主主義を併用した政治と制度が用いられるようになった。

日本日本国憲法では憲法改正には国民投票が必要である。また地方自治法第94条及び第95条による規定により、「町村総会」の設置が認められており、八丈小島にあった宇津木村東京都)では1955年(昭和30年)に八丈村と合併するまで村議会が置かれずに直接民主制による村政が行われていた。また旧制度の町村制の施行下における神奈川県足柄下郡芦之湯村(現在の箱根町の一部)の事例で村議会が置かれずに直接民主制による村政が行われていた。

また国家や地方自治の制度ではないが、デモ活動などの直接的示威行為も広義には直接民主主義の一部とも呼ばれている[4]

なお、かつてのリビアは、直接民主制(ジャマーヒリーヤ)を標榜し、議会や政府を持たなかったが、実質的には独裁国家であったと解釈されている。

長所[編集]

古代アテナイで採用されたように民主主義の原点であり、議会選挙など最初の段階で直接民主制の正統性に依存する間接民主制と比較して、その決定には高い正統性が得られる。制度の構造が単純で、国民の数が非常に少なくても運用できる。また、選挙制度などで制度が歪められる余地が少ない。

賛否が分かれる議案では、直接民主制では50%以上の支持を得た案が採用される。しかし間接民主制(特に小選挙区制)では、50%以上の支持を得た人間が選挙で議員となり、議会では議員の50%以上の支持を得た案が採用されるため、理論的には1/4程度の意見が全体の意思決定ともなりうる。また直接民主制では、各時点の各課題への民意が直接に反映される。しかし間接民主主義では、選挙時の公約などと、当選後の議会での審議や議決の間には状況の変化などの時間差があり、また当選後に意見を変更する事が可能である。

更に間接民主主義では、適切な知識や見識を持った人物が選出される事が期待されているが、住民は選挙時以外は政策に触れる機会が減少し、議員は専門家・専業化・世襲化・特権階級化してエリート主義と化す結果、住民との乖離が拡大し恒久化する可能性も存在するが、直接民主主義では住民が当事者意識や主権者意識を持続させやすい。

スイスは伝統的に直接民主主義を重視している。国政レベルだけでも年に3~4回の国民投票が実施されており[5]、更に各州の住民投票が存在する。なおスイスは周囲を大国に囲まれた永世中立国および国民皆兵であり、都市国家の歴史的伝統を受け継ぎ、自主独立の意識が高い。

短所[編集]

共同体の地域や住民が増加すると、全員が1か所に集まり議論する事には限界がある。ただし、自治自体を国・州・都市・村などのように階層化し、役割分担を整理する事で緩和は可能である。またマスメディアインターネット技術などがこの問題を軽減できるとの主張もある(E-デモクラシー)。

結果が二分されて混乱が続く、政党や議員のような調整役がいない事もあり多数の意見が出て収束しない、選挙結果により多数派支配となる、政策の継続性が確保できない、などの懸念も存在する。ただしこれらは、民主主義自体の課題であり、間接民主主義でも運用によっては同様に発生しうる課題でもある。

脚注[編集]

  1. ^ 「キリスト教と民主主義:現代政治神学入門」(ジョン・W・デグルーチー、新教出版社)p21
  2. ^ 世界一投票所に通うスイス人
  3. ^ 最高の民主主義? アッペンツェルのランツゲマインデ
  4. ^ 「「デモ」とは何か: 変貌する直接民主主義」(五野井郁夫、NHK出版、2012年)
  5. ^ 世界一投票所に通うスイス人 - SWI swissinfo.ch

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]