マスキュリズム

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マスキュリズム(英:masculism)は、男性に対する性差別男性差別)の撤廃を目指す思想や運動。直訳すると「男性主義」であり、かつての欧米では男尊女卑という意味で使われていた言葉だが、この思想の主唱者であるワレン・ファレルフェミニズムの対置概念として提唱してからは現在の意味で使われるようになった。主に西ヨーロッパ北アメリカで普及しており、中東極東でも萌芽が見られる。

マスキュリズムの推進者や同調者をマスキュリストと呼ぶ。

概要[編集]

マスキュリズムは、性役割に基づく男女の区別を男性差別と見なすか否かで左派と右派に分かれる。

両派に共通するのは、現代社会は男尊女卑だという社会観の否定である。この他には以下のようなことが主張されている。

  • 徴兵制などの身体的な男性差別を、男女間の体力の平均値の差を論拠にして正当化することはできない。女性並の体力しかない男性への配慮が欠けており、それ以外の男性に対しても体力差を超えた負担が課せられるためである。
  • もともと参政権は男性が徴兵制の対価として獲得したものであり、女性にだけ無条件で参政権を与えることを目指した近代の婦人運動は、明らかに間違っていた。女性参政権が浸透した現代における男性のみの徴兵は、権利と義務の均衡を失っているという観点からも不当である。
  • 経済力の男女差は両性の収入ではなく支出をもとにして算出すべきである。一般的な夫婦の場合、金を稼ぐのは夫だが用途の決定権は妻が握っている。
  • 男性が多数を占める地位・階層は政治家や経営者だけではない。兵士、土木作業員、自殺者、戦死者、過労死者、野宿生活者の多数もまた男性である。
  • 男女の平均寿命の差異は、生命力の男女差という生物学的な要因のみならず、上述の社会学的な事情も深く関係している。
  • 男女がともに不利益をこうむっている社会問題について、さも女性だけが苦しんでいるかのように述べるのは間接差別である。ファレルは家庭内暴力などの被害者を女性に限定して議論を進めることを批判し、こうした議論が不当な立法や行政を促進していると指摘した。

しばしば左派は男性解放(メンズリブ)、右派は反フェミニズムと混同されるが、男性差別への批判という要素を含まないこれらの思想とは本質的に異なる。特に、男性にも家族などに対して自己犠牲の精神を求める保守的な反フェミニズム(プロミス・キーパーズなど)とは正面から対立する。

男性差別の存在は19世紀の末から指摘されていたが、マスキュリズムが大規模な社会運動として台頭したのは1970年代である。この運動の推進者の一人であるメル・フェイトは、アメリカ合衆国での台頭の原因について、フェミニズムによって性差別という概念が一般化したところへヴェトナム戦争の勃発による徴兵が行われ、それによって男性のみが不当に不利益を課されているという認識が広まり、男性の意識が覚醒したためだという見解を示している。

戦前にはイギリスの左翼系知識人が主軸となって推進していたが、現在では上述の経緯からアメリカ合衆国が運動の中心である。また、フェミニズムによって新たな男性差別が生み出されているということが意識されるようになるにつれ、国を問わず保守主義からマスキュリズムに転向する人物も増えている。このことは、「性規範の固守に拘泥する右翼と性差別の撤廃を推進する左翼」という従来の保革対立の構図を崩しつつある。なお、イギリスの左翼もなお影響力を保っており、かつてイギリスの統治下にあった英連邦王国諸国やインドでは、人脈や理論など当時の遺産を利用したマスキュリズムの再興が試みられている。インターネットの浸透が、イギリス本国およびアメリカ合衆国と旧植民地の間の連絡を容易にしている。

参考文献[編集]

  • エリス・コーズ著、近藤 和子訳『マンズ・ワールド』日本経済評論社、1998年。ISBN 4818809624
  • Warren Farrell "The Myth of Male Power", Berkley Publishing Group, 1994. ISBN 0425143813

関連項目[編集]

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