思い出のマーニー
『思い出のマーニー』(おもいでのマーニー、原題:When Marnie Was There)は、イギリスの作家、ジョーン・G・ロビンソンによる児童文学作品。かたくなに心を閉ざした少女アンナが海辺の村に住む少女マーニーとの交流を通じて心を開いていく様子が描かれる[1]。初版は1967年にイギリスの出版社コリンズより出版され25万部を売り上げた[2]。1968年にカーネギー賞の最終候補にノミネートされた[3]。1971年にBBCの長寿番組であるJackanoryでテレビ化された。日本では1980年に岩波少年文庫(岩波書店)より刊行された[4]。
スタジオジブリ制作・米林宏昌監督により長編アニメーション映画化され、2014年7月19日公開。米林にとっては2010年公開の『借りぐらしのアリエッティ』以来、4年ぶりの監督作品。第88回アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされている[5][6]。
あらすじ
幼い頃に孤児となったアンナは、養女として育てられている。なぜか友達ができないアンナは、自分が目に見えない「魔法の輪」の外側にいるのだと感じており、母や祖母が自分を残して死んだことも憎んでいる。養母からは実の子のように思われていると感じていたのだが、養母がアンナの養育費を市から受給しており、それをアンナに隠していると知ると、アンナは養母の愛にまで疑問を感じるようになってしまう。無気力になったアンナは喘息まで患い、療養のために海辺の村で過ごすことになる。
村を訪れたアンナは、入江の畔に、「これこそずっと自分が探していたものだ」と直感的に感じる古い無人の屋敷を見つける。"湿地屋敷"と呼ばれるその屋敷を、なぜかアンナは特別な存在だと感じ、この屋敷に住むことになる人は特別な人のはずだと夢見るようになる。屋敷は長いこと無人だったはずだが、屋敷に長く住むという不思議な少女マーニーとアンナは出会う。マーニーを「まさしく自分のような子」だと感じたアンナは、彼女と友達になり、悩んでいた養育費のことも打ち明けるようになる。アンナは、恵まれた子だと思っていたマーニーが孤独を感じていることも知り、やがて友情を深めた二人は永遠に友達でいる誓いを立てる。
ある日アンナは、マーニーが小さな頃に風車小屋に閉じ込められそうになったことがあり、それからは風車小屋を恐れ続けていることを知る。その日の夕方にアンナが風車小屋を見に行くと、中には既にマーニーがいた。マーニーは勇敢になろうと思って風車小屋の二階に登ったが、怖くて梯子を降りられなくなったのだという。風雨の音に怯えたマーニーは、その後も動けず、日も暮れてしまい、疲れ果てた二人は風車小屋で寝てしまう。すると誰かがマーニーを迎えに来たような気配があり、アンナが目を覚ますと真っ暗な風車小屋にはアンナだけが取り残されていた。アンナは、初めてできた親友に裏切られたと激しく怒り、悲しんだが、アンナが湿地屋敷へ行くと、窓の内側にいるマーニーから突然の別れを告げられる。マーニーは部屋に閉じ込められており、明日になるとどこかに連れて行かれるのだという。マーニーが、アンナが大好きだ、置き去りにするつもりはなかったと叫ぶと、アンナは、やはりマーニーは自分を大好きなのだと感じて彼女を許し、マーニーが大好きだ、絶対に忘れないと叫び返す。激しい雨が降り、窓の向こうにいるマーニーは見えなくなる。するとアンナには、まるで屋敷が最初から無人であったかのように見えた。
マーニーと別れた後のアンナは、少しずつ人に心を開くようになり、湿地屋敷に引っ越してきたリンジー家の人々と友人になる。マーニーのことは自分が想像で作り上げた友達だと思うようになっていたが、アンナはリンジー家の少女から、アンナの"秘密の名前"を砂浜に書いたので見て欲しいと言われる。アンナが見に行くと、そこには「マーニー」と書かれていた。少女は湿地屋敷でマーニーの日記を見つけており、引っ越してくる前にアンナが屋敷の門から出てくるところを見たことがあったので、日記を書いたのはアンナだと思い込んでいたのだ。不思議なことにマーニーの日記は50年も前のものだった。少女の母であるミセス・リンジーは、湿地屋敷のことを昔から知っている老婦人のギリーならば、全ての答えを知っているかもしれないという。
その後、アンナの養母が村を訪れ、アンナに養育費のことを打ち明ける。彼女はお金をもらっていることでアンナが傷つくかもしれないと恐れ、アンナには黙っていたのだという。アンナは大きな心の荷を降ろし、いつしか自分でも知らないうちに、母と祖母への憎しみが自分の心から消え去っていたことにも気づく。
後日、アンナたちが老婦人のギリーにマーニーの日記を見せると、彼女は湿地屋敷に住んでいたというマーニーの過去を語り始める。大人になったマーニーは結婚して娘をつくり、孫娘もできたが、マーニーの娘は交通事故で亡くなり、マーニーも孫娘を引き取ってからすぐに亡くなったのだという。その話を聞いたミセス・リンジーは、その孫娘とはアンナのことではないかと思い当たる。ギリーの話が、アンナの養母から聞かされていた、幼き日のアンナの話と一致したのだ。孤児院に入れられたアンナは湿地屋敷の写真を持っており、その写真から手を離そうとはしなかったという。
アンナはリンジー家のような大家族の子供ですら、時々「輪」の外側にいると感じていることに気づく。それは、近くに誰かがいるかどうかとは関係がなく、心の中の問題だったのだ。ミセス・リンジーは、雨の日にずぶ濡れで屋敷の中に入ってきたアンナを見て、こんな日に外にいたのかと驚く。するとアンナは、自分はもう「中」にいるのだと言って笑うのだった。
作品背景・モデル
この小説の舞台は、イギリスのノーフォーク州にある海辺の村リトル・オーバートンであるが、この村は実在せず、同じくノーフォーク州にある海辺の村Burnham Overyがモデルとなっている。作者のジョーン・G・ロビンソンは生涯を通じてノーフォーク州との結びつきが強かったが、特に1950年からはBurnham Overyとの結びつきが強くなり、ジョーンと家族は毎年夏をその地で過ごした。この小説の着想もジョーンがこの海辺の村で体験したことが元になっている[8]。
ある日の夕方、ジョーンが湿地の小道を通っていると、青い窓とドアを持つレンガ造りの屋敷が湿地の畔に見えた。しかし少し目を離してから再び彼女が振り返ると、その屋敷は景色に溶け込み、まるで消えてしまったかのように思えた。そして数分後に夕日が再び屋敷を照らし出すと、金色の髪を梳かしてもらう少女の姿が、その窓の中に見えたという。この不思議な体験から着想を得たジョーンは、夏の間に何冊かのノートにアイディアをまとめ、その後約18か月をかけて小説を完成させた[8]。
ジョーンの長女であるDeborah Sheppardは、主人公アンナの描写(ふつうの顔、輪の外側にいること)にはジョーンの子供時代の記憶が色濃く反映されていると語っている[8]。彼女によると、ジョーンの母(Deborahの祖母)はとても厳しい人で、ジョーンは愛に飢えた子供時代を過ごしたという[7]。また中央大学の名誉教授である池田正孝が1990年代末頃にBunham Overyの民宿で聞いた話によれば、ジョーンは毎夏2人の娘を伴ってBunham Overyを訪れていたが、下の娘はアンナのような境遇の養女だったという[7]。
登場人物
- アンナ(Anna)
- 本作の主人公。ミセス・プレストンの養子でロンドンに住む、黒髪で色白な少女。生まれた直後に両親が離婚して父がいなくなり、母も交通事故で失う。祖母に育てられたが、三歳くらいの時に祖母も病死してしまい、孤児院に入れられ、その数年後にプレストン夫妻に引き取られた。母や祖母が自分を残して死んだことを恨んでおり、そのためミセス・プレストンが母や祖母の話をしようとしても聞こうとはしない。変わり者あつかいされており、人と仲良くなろうとしても相手のほうがすぐにアンナから興味をなくしてしまい友達ができない。その原因を自分が目に見えない魔法の輪の外側にいるからだと考えており、その失望を作り物の表情である「ふつうの顔」[註釈 1]をして隠そうとする。養親のミセス・プレストンのことを愛しており、自分のことを実の子供のように思ってくれていると感じていたが、少し前にミセス・プレストンがアンナの養育費を市から受給していることを隠していると知ると、愛の純粋さに疑問を持つようになった。そのせいか無気力になり、半年前からミセス・プレストンや担任の教師から「やろうとすらしない」と言われ続けている。最近では一日のほとんどを何も考えずに過ごすようになり、友達ができないことも気にしなくなった。喘息の転地療養で訪れたリトル・オーバートンでも孤独を深めたが、そこで運命的に出会った湿地屋敷を特別な存在だと感じ、この屋敷に住むことになる家族は特別な人のはずだと夢見るようになる。
- マーニー(Marnie)
- 本名はマリアン(Marian)。淡い金髪と海の色の目を持つ、湿地屋敷に住む裕福な家庭の一人娘。無人のはずだった湿地屋敷に突然現れたが、本人はなぜか「生まれてこのかた夏はいつだってここ」と話す。村の子供と遊ぶことは禁じられており、湿地を訪れたアンナと友達になりたいと思っていた。両親をこの上なく誇りに思い自慢しているが、両親からはほったらかしにされており、世話は婆やとメイドにまかせっぱなしにされている。小さい頃に婆やたちに風車小屋へ閉じ込められそうになったことがあり、それからは風車小屋を恐れている。アンナと親友になり一生友達でいる誓いを立てたが、嵐の夜にアンナを風車小屋に置き去りにしてしまい、後日湿地屋敷を訪れたアンナに許しを求めながら豪雨に打たれた窓の中に消えてしまう。
- ミセス・プレストン(Mrs Preston)
- アンナの養母。いつも不安そうな顔をした女性。夫と銀行員の息子がおり、アンナからは"おばちゃん"(Auntie)と呼ばれている。アンナに友達がいないことや、「やろうとすらしない」ことを心配しているが、アンナのことを愛して心配するあまり、かえってすれちがいを起こしてしまう。アンナを本当の娘だと思えるように、アンナを引き取る時に名前をマリアンナからアンナに変えた。
- スーザン・ペグ(Susan Pegg)
- ミセス・プレストンの昔なじみ。リトル・オーバトンに住む丸顔で大柄な女性。子供はいない。喘息の転地療養としてアンナを預かることをミセス・プレストンから引き受ける。アンナがサンドラと喧嘩したことをミセス・スタッブズから責められても、アンナのことを「金のように良い子(as good as gold)」だと言ってかばう優しい女性だが、時としてアンナをしかることもある。
- サム・ペグ(Sam Pegg)
- スーザンの夫。日焼けしてしわのある顔に青い目とぼさぼさの眉毛を持つ男性。スーザンと同じくアンナにはやさしい。
- ワンタメニー(Wuntermenny)[註釈 2]
- 寡黙な漁師。小柄で背が曲がり、しわだらけのやせた顔をした老人。アンナをよくボートに乗せてくれるが会話はほとんど無い。11番目の子供として生まれたが、母から「この子はあまりんぼだ(one-too-many)」と言われ、以後ワンタメニーと呼ばれるようになる。アンナがマーニーと別れた直後に、増水した入江でアンナが死にかけていたところを、救い出した。
- サンドラ(Sandra)
- ペグ家の近所に住む色白でどっしりとした少女。スーザンからは「ぎょうぎの良い上品なお嬢ちゃん」と呼ばれている。母につれられてペグ家を訪れアンナとトランプで遊ぶが、ズルをしたためアンナから嫌われ無視されてしまう。しかし本人は当初アンナと友達になりたいと思い、一番良い服を着てペグ家を訪れていた。ペグ家から帰ったあとでアンナのことを「不細工なでくのぼう」だと陰口を言うが、後日アンナからは「太ったブタ」と言われてしまう。
- ミセス・スタッブズ(Mrs Stubbs)
- サンドラの母。黒い目をした大柄な女性でスーザンの友人。娘のサンドラをつれてペグ家へ遊びに行くが、アンナとサンドラが喧嘩をしたことを知ると、それをスーザンに言いつける。
- ミスター・リンジー(Mr Lindsay)
- マーニーが去ったあとに湿地屋敷を別荘として購入したリンジー家の父。口数が少ない学者。本人は仕事で忙しいため平日は湿地屋敷にはおらず週末に時々帰ってくる。アンナがボートの錨を盗んだと知った後でも、アンナを信じて思いやる優しさを見せる。
- ミセス・リンジー(Mrs Lidsay)
- リンジー家の母。灰色の目で、顔は娘のジェーンそっくりだが少しふっくらしている。堅苦しい態度はとらず自然にアンナを受け入れる優しい女性。
- アンドリュー(Andrew)
- リンジー家の長男。14歳くらい。最初リンジー兄妹を恐れて逃げ回っていたアンナを捕まえる。
- ジェーン(Jane)
- リンジー家の長女。金髪をお下げにしている、大人っぽくてかしこそうな少女。末弟のローリーポーリーの面倒を良く見る。
- プリシラ(Pricilla)
- リンジー家の次女。愛称はシラ(Scilla)。長い茶色の髪をもつ痩せた少女。アンナより少し年下に見える。リンジー兄妹の中で最初にアンナを見つけた。棚の後ろからマーニーの日記を発見し、アンナをマーニーだと思い込む。
- マシュー(Matthew)
- リンジー家の次男。7歳 - 8歳くらい。ジョークを言うのが好き。
- ローリーポーリー(Roly-poly)
- リンジー家の三男。本名はローランド(Roland)。ほとんど赤ちゃんで、かたことの言葉だけを話す。家族の愛を一身に受ける。
- ギリー(Gilly)
- ミセス・リンジーの古い友人。背が低くてずんぐりしており短い白髪がバサバサしている老婆。画家であり、湿地屋敷の絵を描いているときにアンナと知り合う。子供の頃からのマーニーの友人で、マーニーが死ぬ少し前まで連絡を取っていた。アンナたちの前でマーニーの過去を語る。
- マリアンナ(Marianna)
- マーニーの母。若くて明るく美しい女性。夏の間はマーニーの世話を婆やとメイドたちにまかせっきりにしており、自身は湿地屋敷にいることよりもロンドンの自宅にいることが多い。湿地屋敷のパーティーに訪れたアンナからシーラベンダーの花を買う。
- マーニーの父
- 背の高い海軍軍人。作中で名前は明らかにされない。湿地屋敷のパーティーでアンナにやさしい声をかける。第一次大戦中に溺死した。
- エドワード(Edward)
- マーニーの遠い親戚。金髪で背が高い16歳くらいの少年。マーニーからはいとこのような人だと言われている。きびしいところがあり、風車小屋を恐れるマーニーを風車小屋に連れて行きたがる。後にマーニーと結婚し一人娘のエズミを授かるがその後亡くなる。
- エズミ(Esme)
- マーニーとエドワードの一人娘。第二次大戦が始まってからアメリカに疎開させられたが、一人で遠くに追いやられたことを恨み、13歳近くに帰国した時には別人のようになっていた。家出をして母に知らせもせずに若くして結婚する。相手は真っ黒な髪に黒い目をしたハンサムだが責任感の無い男性。娘が生まれた直後に離婚し、しばらくして再婚するが新婚旅行で交通事故死する。
- ナン(Nan)
- 湿地屋敷でマーニーの世話をする婆や。マーニーをいじめており、マーニーを部屋に閉じ込めたり乱暴に髪をとかして痛がらせることがある。マーニーが小さいときにエティに命じてマーニーを風車小屋に連れて行こうとした。マーニーが風車小屋で発見された直後にマーニーをいじめていたことが明らかになり解雇された。
- エティ(Etti)
- 湿地屋敷でマーニーの世話をするメイド。怒りっぽくて人を怖がらせるのが好き。ナンに命じられてマーニーを風車小屋につれていこうとしたことがある。
- リリィ(Lily)
- 湿地屋敷でマーニーの世話をするメイド。やさしくて、時々フライドポテトを作ってマーニーのベッドに持ってきてくれる。エティとボーイフレンドをめぐって喧嘩をした。
書誌情報
以下は日本での翻訳版の情報である。
- 思い出のマーニー 上・下(1980年/1995年改版/2003年改版)、岩波書店〈岩波少年文庫〉、訳・松野正子
- 特装版 思い出のマーニー(2014年)、岩波書店、訳・松野正子(ISBN 978-4-00-025973-6)
- 新訳 思い出のマーニー(2014年)、KADOKAWA〈角川文庫〉、訳・越前敏弥&ないとうふみこ(ISBN 978-4-04-102071-5)
- 新訳 思い出のマーニー(2014年)、KADOKAWA〈角川つばさ文庫〉、訳・越前敏弥&ないとうふみこ、絵・戸部淑(ISBN 978-4-04-631432-1)
- 思い出のマーニー(2014年)、新潮社〈新潮文庫〉、訳・高見浩(ISBN 978-4-10-218551-3)
アニメ映画
思い出のマーニー | |
---|---|
監督 | 米林宏昌[10] |
脚本 |
丹羽圭子[10] 安藤雅司[10] 米林宏昌[10] |
原作 | ジョーン・G・ロビンソン[10] |
製作 | 西村義明[10] |
出演者 |
高月彩良[10] 有村架純[10] 松嶋菜々子[10] 寺島進[10] 根岸季衣[10] 森山良子[10] 吉行和子[10] 黒木瞳[10] |
音楽 | 村松崇継[10] |
主題歌 |
プリシラ・アーン 「Fine On The Outside」[10] |
撮影 |
薮田順二[10] 田村淳[10] 芝原秀典[10] |
編集 | 松原理恵[10] |
制作会社 | スタジオジブリ |
製作会社 |
日本テレビ 電通 博報堂DYMP ディズニー 三菱商事 東宝 KDDI |
配給 | 東宝[10] |
公開 |
2014年7月19日 2015年1月14日 2015年3月19日 2015年5月22日 |
上映時間 | 103分[10] |
製作国 | 日本 |
言語 |
日本語 英語 |
興行収入 | 35.3億円[11] |
2014年7月19日公開。米林にとっては2010年公開の『借りぐらしのアリエッティ』以来4年ぶりの監督作品となる。アニメ版では舞台を現代日本に置き換え、主人公のアンナは日本人少女の杏奈(あんな)に改変されたが、マーニーの外見は金髪に青い目の白人少女のままである[12][13][14]。
制作の経緯
宮崎駿・高畑勲の2人が一切制作に関わっておらず、プロデューサーの西村義明はスタジオジブリの次代を担うことになる最初の作品になる旨をコメントしている[15]。鈴木敏夫は公開後の8月、スタジオジブリによる長編アニメーション制作を小休止すると語った[16][17]。
2012年、宮崎駿も推薦しているイギリス児童文学の古典的名作『思い出のマーニー』を米林宏昌が鈴木敏夫から「これを映画にしてみないか」と手渡されたことから制作が持ち上がる[18]。米林宏昌は「『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』の両巨匠の後に、もう一度、子どものためのスタジオジブリ作品を作りたい。この映画を観に来てくれる「杏奈」や「マーニー」の横に座り、そっと寄りそうような映画を、僕は作りたいと思っています」と述べている[18]。
企画の初期段階の打ち合わせに参加した宮崎駿は、舞台を瀬戸内海でイメージしていたが、宮崎の描く絵が『崖の上のポニョ』に似ていたため、イメージが違うと米林が舞台を北海道の湿地と決めた[14][19]。釧路・根室・厚岸などでロケハンを行い、それらを基にした架空の海辺の町と設定されている[20]。北海道を舞台、モデルにした初のジブリ作品である[14]。また、男性の主役級キャラが登場しない初の作品となった[21]。
あらすじ
杏奈は内気な少女で友達がおらず、学校では孤立している。唯一の肉親だった祖母を幼少期に失い里親に育てられたが、祖母が自分を残して死んだことを許せないと思っており、最近は里親の愛にも疑問を感じ、感情を表に出さなくなっている。杏奈は喘息の療養のために海辺の町で過ごすことになるが、そこで「知っている気がする」と直感的に感じる古い屋敷を見つける。湿っ地(しめっち)屋敷と呼ばれるその屋敷は廃屋に見えたが、杏奈はその屋敷に住むという不思議な少女マーニーと出会い親友となる。杏奈は屋敷のパーティーにも参加するが、不思議なことにその後訪れた湿っ地屋敷は、やはり無人の廃屋に見えた。
それ以来マーニーは姿を見せなくなり、湿っ地屋敷には新たな住民が引っ越してくる。杏奈はマーニーのことを自分が想像で作り上げた友達だと思うようになるが、湿っ地屋敷に引っ越してきた少女から、彼女が見つけたというマーニーの日記を見せられる。杏奈はマーニーの正体を疑問に思いながらも、再びマーニーと出会い、互いの悩みを打ち明けあう。そしてマーニーがサイロを恐れていることを知ると、それを克服するために2人でサイロに行くが、嵐が来るなか杏奈は夜のサイロに置き去りにされてしまう。杏奈は怒り悲しむが、夢の中で再会したマーニーから別れを告げられ許しを求められると、杏奈はマーニーを許す。
杏奈はマーニーの友人だったという老婦人の話から、かつて屋敷に住んでいたというマーニーの生涯を知る。そして里親とのわだかまりを解いたあと、幼いころの自分が持っていたという写真から、マーニーと湿っ地屋敷の秘密に気づく。
登場人物/キャスト
- 佐々木 杏奈(ささき あんな)[註釈 4]
- 声 - 高月彩良
- 本作の主人公。北海道札幌市青葉区在住[註釈 5]。在住。12歳の中学1年生。喘息を患っており、療養のため夏休みの間だけ親戚である大岩清正・セツ夫妻の自宅が在る道内の田舎町に赴く。黒目はやや青色をしている。暗褐色のショートヘアが特徴。頼子は育ての母親であるが、血の繋がりは無く、そのことで頼子との間に壁が出来ている。
- マーニー
- 声 - 有村架純
- 本作のもう一人の主人公。大岩夫妻の近くに建つ湿っ地(しめっち)屋敷に住んでいる。しかし、どうみてもここ何年間は誰も住んでいない屋敷であるため、周囲の人間は誰も彼女のことを知らない不思議な少女。金髪で青い目をした外国人だが、日本に住んでいるためか日本語が堪能で漢字を遣った日本語の文章も書きこなせる。
- 佐々木 頼子(ささき よりこ)[註釈 4]
- 声 - 松嶋菜々子
- 杏奈の養母。杏奈のことは愛しているが、血の繋がりは無い。そのことで杏奈との間に壁が出来ており、杏奈からは「お母さん」ではなく「おばちゃん」と呼ばれている。マンション暮らし。
- 大岩 清正(おおいわ きよまさ)
- 声 - 寺島進
- セツの夫で木工職人。怖い話が好き。十一を「いいヤツなんだよ」と評する数少ない理解者の一人。
- 大岩セツ
- 声 - 根岸季衣
- 清正の妻で頼子の親戚。夫との仲は良好であるが、人遣いが荒いとぼやくことがある。娘が居るが独立して家を出ているので、杏奈のことは娘が帰ってきて来てくれたような感じであり、実の娘のようにかわいがる。
- 老婦人(晩年のマーニー)
- 声 - 森山良子
- 久子の回想話の中に登場する人物
- かつて湿っ地屋敷に暮らしたマーニーその人。絵美里の死後、一人残された孫の杏奈を引き取り愛情を注いで育てるが、1年しかともに過ごすことができず、杏奈が2歳の時に病気で亡くなる。
- ばあや
- 声 - 吉行和子
- マーニーが住んでいる湿っ地屋敷の老家政婦。規律に厳しい。普段はマーニーを「お嬢様」と呼ぶが、怒ると「マーニー!」と呼び捨てで呼ぶ。実は部下にあたるメイド(双子)とともに半ばマーニーをいじめるような行為を繰り返していた(マーニーの髪をブラシで力強く漉くのもその行為のうちの一つ)。
- 久子(ひさこ)
- 声 - 黒木瞳
- よく湿っ地屋敷の絵を描いている絵描き。苗字は不詳。湿っ地屋敷について何か知っているらしい。
- 実はマーニーとは友人の間柄で、マーニーが歩んだ人生を杏奈と彩香に聴かせることになる。
- 彩香(さやか)[註釈 6]
- 声 - 杉咲花
- 東京から転居してきた赤い眼鏡をかけた杏奈より年下の少女。明るく好奇心旺盛で、夢想家。
- ある理由から杏奈がマーニーだと思い、杏奈に話しかけた。
- 山下医師
- 声 - 大泉洋
- 杏奈の主治医。杏奈を空気が綺麗で環境の良い所で過ごさせるように頼子に提案する。
- 十一(といち)
- 声 - 安田顕
- 白いひげを蓄えた老人。口数が非常に少ない。その性格から親しい友人は少なく、近所の子供たちからもからかわれている。
- 美術教師
- 声 - 森崎博之
- マーニーの母
- 声 - 甲斐田裕子
- マーニーの父
- 声 - 戸次重幸
- 町内会役員
- 声 - 音尾琢真
- 和彦(かずひこ)
- 声 -
- マーニーの幼馴染で、杏奈の祖父にあたる。
- 孤独なマーニーを支え結婚し、娘の絵美里を儲けるが、若くして病気でこの世を去る。
- 絵美里(えみり)
- 声 - なし
- マーニーと和彦の娘で、杏奈の実母。
- 和彦の死後、体を壊したマーニーによって全寮制の学校に入れられ、そのことを恨みに思って成人後、家を飛び出す。
- やがて結婚し杏奈を授かるが、事故で命を落としてしまう。
スタッフ
実写映画作品で美術監督を担当してきた種田陽平が初めてアニメの美術監督として参加[22][23]、『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』の作画監督だった安藤雅司が13年ぶりにジブリ作品に参画(実際は2013年に『かぐや姫の物語』に作画で参画している)し[22]、作画監督を務める(脚本も担当)[24]。脚本は『借りぐらしのアリエッティ』などで(共同も含め)脚本を手がけた丹羽圭子が参加している[25]。音楽は村松崇継が担当[22][26]。そのほか、プロデューサー見習いとして川上量生が、協力として三浦しをんらが、製作担当として奥田誠治、藤巻直哉らが参画している[10]。また、主題歌は、プリシラ・アーンの「Fine On The Outside」となった[27]。
キャッチコピーは鈴木敏夫が担当[28]。auが2014年7月7日に開催した「au lovesジブリ」キャンペーンの記者発表会上で、ボツとなったキャッチコピー案として「ふたりだけの禁じられた遊び」、「ふたりだけのいけないこと」があった事を公表し、最終的に「あなたのことが大すき。」というストレートなキャッチコピーに落ち着いたと話した[28]。
主演の高月彩良、有村架純はオーディションにより選ばれた[29]。男性のサブキャラクターには、作品の舞台と同じく北海道出身の俳優ユニットTEAM NACSが参加している[30]。
- 原作 - ジョーン・G・ロビンソン[10]
- 脚本 - 丹羽圭子、安藤雅司、米林宏昌[10]
- 監督 - 米林宏昌[10]
- 製作 - 鈴木敏夫[10]
- 音楽 - 村松崇継[10]
- 作画監督 - 安藤雅司[10]
- 美術監督 - 種田陽平[10]
- 色指定 - 加島優生[10]
- 映像演出 - 奥井敦[10]
- 音響演出 - 笠松広司[10]
- 編集 - 松原理恵[10]
- 制作 - 星野康二、スタジオジブリ[10]
- プロデューサー - 西村義明[10]
主題歌/挿入歌
- プリシラ・アーン「Fine On The Outside」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)
- フランシスコ・タレガ「アルハンブラの思い出」
受賞
年 | 賞 | カテゴリ | 対象 | 結果 |
---|---|---|---|---|
2015 | 第38回日本アカデミー賞[31] | 最優秀アニメーション作品賞 | 優秀賞 | |
第32回シカゴ国際子供映画祭[32] | 最優秀アニメーション作品賞 | 受賞 | ||
第9回アジア太平洋映画賞[33] | 最優秀アニメーション映画賞 | ノミネート | ||
2016 | 第43回アニー賞[34] | インディペンデント作品賞 | ノミネート | |
監督賞 | 米林宏昌 | ノミネート | ||
脚本賞 | 丹羽圭子、安藤雅司、米林宏昌 | ノミネート | ||
第88回アカデミー賞[5][6] | 長編アニメ映画賞 | ノミネート |
BD / DVD
2015年3月18日にBD (VWBS-8216) とDVD (VWDZ-8216) が発売された。
テレビ放送
2015年10月9日に日本テレビ系列の『金曜ロードSHOW!』で、地上波初放送[35](枠は21:00 - 23:09。解説放送 / 文字多重放送 / データ放送)。
脚註
註釈
- ^ 原文では'ordinary' faceと表記されており、岩波書店版と角川文庫版では「ふつうの顔」と訳されているが、新潮版では「つまらなそうな顔」と訳されている。
- ^ 角川版ではアマリンボという名に意訳されている。
- ^ 河合の著書『子どもの本を読む』(光村図書出版ほか)からの再録。
- ^ a b 公式サイトや劇中でのテロップでは名前のみ表記されているが、苗字は自宅の表札および大岩夫妻らへの挨拶などで判る。
- ^ 作中で頼子に宛てて出すハガキに宛先として記述されている。ただし、実際には札幌市内に青葉区は存在しない。モデルは厚別区青葉町。
- ^ 話の流れを左右する重要な人物の1人であるが、ストーリーの都合上、ネタバレに繋がる恐れがあるため、公式サイトには紹介欄が無い。
出典
- ^ 「子どもの本だな」『朝日新聞』1980年12月18日付朝刊、11版、15面
- ^ a b c 日本テレビ「ZIP!スピンオフ ~ジブリ最新作「思い出のマーニー」秘密を探るイギリス絶景旅~」 2014年8月10日(日)放送
- ^ Joan G.Robinson, When Marnie Was There, HarperCollins Children's Books, 2014, p.1 ISBN 978-0-00-759135-0
- ^ 思い出のマーニー 上、岩波書店、2014年5月22日閲覧。
- ^ a b “米アカデミー賞 「思い出のマーニー」が候補に”. NHKニュース (NHK). (2016年1月15日) 2016年1月15日閲覧。
- ^ a b “『思い出のマーニー』アカデミー賞にノミネート!ジブリ作品3年連続【第88回アカデミー賞】”. シネマトゥデイ (株式会社シネマトゥデイ). (2016年1月14日) 2016年1月15日閲覧。
- ^ a b c 『MOE』2014年9月号、22-24頁、白泉社
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- ^ 「TVステーション」(ダイヤモンド社)関東版2015年20号 71頁
関連項目
- 借りぐらしのアリエッティ(米林の初監督作品)
- 海がきこえる(スタジオジブリにおける、宮崎駿・高畑勲の両名が一切制作に関与しない作品)
外部リンク
- 岩波少年文庫版日本語訳
- 角川書店版日本語訳
- 新潮文庫版日本語訳
- アニメ映画