沿海域戦闘艦

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沿海域戦闘艦(えんかいいきせんとうかん LCS, Littoral combat ship)はアメリカ海軍が現在開発中の新型戦闘艦。沿岸戦闘艦(えんがんせんとうかん)または沿岸海域戦闘艦(えんがんかいいきせんとうかん)と翻訳される場合もある。

概要[編集]

アメリカ海軍が大量建造を計画している小型の水上戦闘艦。従来のフリゲートにおおむね相当するが、ネットワーク中心戦などの新しいコンセプトに基づき、高度なセンサーやデータ・リンクなど電子兵器、無人兵器などを搭載して、沿海域での戦闘の主役となる。

2013年1月現在、ノースロップ・グラマン社とジェネラル・ダイナミクス社がそれぞれ示した設計に基づきプロトタイプとしてフライト0が建造されて試験を受けており、その結果に応じて、量産型としてフライト1が建造されることになっている。

ただし、対テロ戦争などの戦費負担、事故による建造遅延、および、想定任務の増大に伴うコンセプトの変更、調達コストの増大などを受けて、計画の見直しが検討・実施されている。

来歴[編集]

沿海域戦闘艦のコンセプトは、1998年、当時海軍戦争大学NAVWARCOL)の校長であったアーサー・セブロウスキー提督が提唱したストリート・ファイター・コンセプトに由来する。これは、同提督が提唱し、アメリカ海軍の新たな指導原理として採用されたネットワーク中心戦 (NCW)の概念に基づき、アメリカ海軍が採るべき方針について洞察するなかで見出されたもので、従来のハイ-ロー-ミックスの概念に起源を有しつつも、これを根本から覆している、きわめてラディカルなコンセプトであった。すなわち、スプルーアンス級駆逐艦オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートに見られるような従来のハイ-ロー-ミックス・コンセプトにおいては、高戦闘力・高コストのユニットが前線に配置され、低戦闘力・低コストのユニットは後方など脅威レベルの低い区域に配置される。

これに対し、ストリート・ファイター・コンセプトで建造される艦は、低コストではあるが、NCWを活用して強力な戦闘力の発揮を導き、かつ、その名のとおりに沿海域の前線で攻撃的に活用されるのである。

当時、アメリカ海軍は既に、新世代の水上戦闘艦のあるべき姿としてSC-21コンセプトを採択し、これに基づいて巡洋艦級のCG-21、駆逐艦級の DD-21の整備計画を策定中であったが、SC-21計画は2001年に突如中止され、ストリート・ファイター・コンセプトを導入しての再計画が行なわれた。これは、

自爆攻撃によって損傷した「コール」。
  1. 多様化する任務に単一の設計で対処するには限界がある。(当該任務に不要な兵器群を全て船に携行するとコストもメンテ人員も膨張する)CG-21とDD-21は同一の設計に基づくこととなっていたが、計画開始後に次々と追加される任務に対応するため、先行して計画されたDD-21は、既に巡洋艦級と評されるまでに肥大化しており、なおも装備不足が指摘されていて、その一方、肥大化によって沿海域での戦闘には不適となりつつあった。
  2. 2000年に発生した米艦コール襲撃事件で確認されたとおり、沿海域戦闘においては、安価な武器でも、高価格・高性能な艦に近寄り、大きな損害を与えうる (Cheap Killの危険性)。従って、少数の高価格・高性能な艦に頼り、これを不用意に前線に展開することは極めて危険である。自爆ボートなどの民間擬装船は、優れたレーダーを持つ大型艦にも接近攻撃が可能で、(魚雷艇の魚雷に対するジャミングもリアクションタイムが必要な事もあり)回避力に優れた高速小型艦を量産して前方展開することが望ましい。

という2点で、従来のSC-21計画には重大な問題が内包されていることが判明したことによるものである。

そして、見直された新計画のもとで、ミサイル巡洋艦CG(X)』、ミサイル駆逐艦DD(X)』との組み合わせのもと、ストリート・ファイター・コンセプトをより具体化したものとして計画されたのが、沿海域戦闘艦LCSである。

設計[編集]

ストリート・ファイター・コンセプトは、アメリカ海軍の次世代艦隊についての洞察から発生したものであるため、極めてラディカルなものであった。すなわち、あるべき艦として提示された設計は2種類、300トン型と1,200トン型で、どちらも大型の母船または支援船の支援を必須としており、いずれもミサイル1発の被弾で行動不能になることを許容せざるを得ず、300トン型にいたっては対空火力はスティンガーミサイルのみで、対ミサイル防御はソフトキルおよび低RCS性に期待するのみであった。セブロウスキー提督のチームは、ストリート・ファイター・コンセプトをLCSとして具体化するに当たり、コンセプトの骨子を保つ一方で、より在来の戦闘艦に近いものとした。

沿海域戦闘艦は、その名称が端的に表しているとおり、沿海域をその主たる戦場として想定している。沿海域戦闘艦を従来のフリゲートから隔絶したものとしているのが、ネットワーク中心戦という概念を中核としていることにある。すなわち、大射程の兵器(TWSなど)の前方展開センサーとして運用することにより、自艦装備の火器よりもはるかに強力な火力を導き、さらに、多数を建造し、艦隊のネットワークの一部として組み込むことにより、Cheap Killによって艦が失われた際に艦隊の戦闘力に与える打撃を極小化することができるのである。

LCSコンセプトの特徴を列記すると、下記のようになる。

ネットワーク能力の重視
NCWコンセプトを基幹とする沿海域戦闘艦にとって、ネットワーク能力は死活的に重要な能力である。従って、オープンアーキテクチャ化され、統合されたC4Iシステムとともに、大型艦と同等のデータ・リンク装置を備えている。
センサー能力の重視
沿海域戦闘艦は沿岸において、艦隊の前方展開センサーとしての役割が期待される。このため、航空、水上または水中で活動できる各種無人機を運用し、情報収集を実施する。また、小型艦ではあるが、2機のLAMPSヘリコプターを余裕を持って運用できる航空運用能力を有し、柔軟な任務に対応できる。
モジュール化による多任務対応
小型の艦で多様な任務に対応するため、武器システムやエレクトロニクスを標準モジュール化し、短期間で改装することで、複数の任務に使い分けることを可能にする。また装備品が標準モジュールの組み合わせを前提としているため、計画から就役までの期間を従来の艦船より短期に行うことが出来た。日本で言えば小型護衛艦・ミサイル艇・掃海艇の役割をモジュール交換で兼務できることを目指している。
小型・省力化・稼働率向上
小型化は、低コスト化による量産を実現するために不可欠の要素であるとともに、水深の浅い沿岸域での作戦行動をより容易とする。また、小型の艦において、強力な航空運用能力や十分な残存性を確保するため、先進的な艦型を積極的に採用する。また運用コスト削減のため、装備のトレードオフの徹底およびモジュール化によって省力化を推進する。また稼働率を向上させて艦隊レベルでの運用コストを低減できるよう、原潜と同様にクルーは2チーム制とし、交代で船を動かすことで、洋上での連続作戦期間を延長する。
高速・高回避力かつ低探知性を備えた船体
本級が主戦場とする沿岸域は、潜在的に敵の支配下にあることが想定されており、また外洋より見通しが利かないため、高速戦闘艇自爆ボート、沿岸砲兵(地対艦ミサイルを含む)など非対称な脅威の危険性が増大する。従って、奇襲性や生残性を確保するために、高速性・高機動性とステルス性は必須となる。

しかし、実戦では低コストより個艦の実戦力と多用途性が必要とされるのが常である。特に、敵対海域において分散運用され、孤立して戦う本級においてはなおさらこれが顕著である。また、モジュール構造は非モジュール構造より重量と容積が過大になる上に構造が複雑化してコストを増大させる。「短期間の改装」も現地将兵が任意で行える、ごく短期間で行える程度の簡略なものにしなければあまり意味がない上、現地指揮官がいつでも好き勝手に艦の用途を根本から変更できる、そこまでの権限を与えるというのは、指揮統率面にも問題がある。そして個艦性能の向上は必然的に船体の大型化と高コスト化を招く(かつて同様に艦艇の低コスト化を狙ったアーセナル・シップ構想が、やはり個艦性能の低さが問題となって中止に追い込まれた、そして期待したほどのコスト削減効果が得られなかった経緯もある)。また、対テロ戦争の深刻化によって既存の兵器の量産が優先される結果、新兵器開発予算そのものが削減傾向にあり、計画の今後は未知数である。

建造[編集]

海軍から提出された要求書に対して、18件の応募があった。そのうち6件についてコンセプトスタディ契約がなされ、その中から単胴船(ノースロップ・グラマン社)、SESレイセオン社)、三胴船(ジェネラル・ダイナミクス社)の3案が選定され、予備設計が進められることになった。

その後、単胴船(モノハル)案と三胴船(トリマラン)案が選定されて、プロトタイプのフライト0がそれぞれLCS-1、LCS-2として各1隻建造され、それぞれ2008年11月、2010年1月に就役した。当初計画では、これらを比較・検討の上で最終選考を行い、競争に勝った側のフライト0がフライト1として採用されることとされていた。

しかし2010年11月、計画は変更され、両クラスを並行して整備することとされた。2010年12月29日に国防総省より発表された契約概要、および2011年6月現在の計画では、2015年までに両クラスを10隻ずつ、計20隻を整備する予定となっている[1][2]。ただし、その調達計画・調達コストに対しては批判も多く、例えば国防予算の編成に強い影響力を持つ上院軍事委員会の筆頭理事(委員長に次ぐナンバー2)であるジョン・マケイン上院議員は、その調達計画をたびたび批判している政治家の1人である[3]。また、調達コストに関しては、フライト0となった2隻の調達コストが、当初この2隻に割り当てられていた総額4億7,200万ドルを2倍超もオーバーし、会計検査院(GAO)から批判されたこともある[4]。このような状況・批判を受けてか、2010年12月29日に発表された契約概要では、フリーダム級を建造するロッキード・マーチン、インディペンデンス級を建造するオースタルUSAの両者と結ばれた契約は、ともに調達先企業にコスト削減のインセンティヴを与える“fixed-price incentive contract”方式での契約となっている[2]

フリーダム級(ノースロップ・グラマン社)
インディペンデンス級(ジェネラル・ダイナミクス社)


参考文献[編集]

  • 藤木平八郎「米LCSに求められるもの」、『世界の艦船』第643集、海人社、2005年6月、 75-79頁。
  • ロッキード・マーチン LCSプログラム・チーム「米LCS 2案の技術的特徴 - ロッキード・マーチン社案」、『世界の艦船』第643集、海人社、2005年6月、 82-87頁。
  • 編集部「米LCS 2案の技術的特徴 - ジェネラル・ダイナミクス社案」、『世界の艦船』第643集、海人社、2005年6月、 88-93頁。
  • 大熊康之 『軍事システム エンジニアリング』 かや書房、2006年ISBN 4-906124-63-1

脚注・出典[編集]

  1. ^ 岡部いさく「いまなぜ高速力が注目されるのか 続々登場する超高速軍艦」、『世界の艦船』第743集、海人社、2011年7月、 76-81頁。
  2. ^ a b “Littoral Combat Ship Contract Award Announced” (英語) 沿海域戦闘艦の契約概要(2015年までの5年間で各クラス10隻ずつ、計20隻を整備する旨)などを公表する国防総省のプレスリリース。
  3. ^ “LCS Readying For Final Sea Trials In November ” (英語) 1番艦フリーダムが就役後に行われた性能試験のうち、最後の試験を終えようとしていることを報じるアメリカ海軍の報道記事。
  4. ^ [LCS Readying For Final Sea Trials In November “GAO Blasts Weapons Budget”] (英語) ワシントンポスト紙の記事。2008年4月1日掲載、2012年2月16日閲覧。
  5. ^ “Navy Names Littoral Combat Ship Little Rock” (英語) LCS-9を「リトル・ロック」と命名する旨を発表する国防総省のプレスリリース。
  6. ^ a b “Navy Names Five New Ships” (英語) LCS-11、LCS-12をはじめ計5隻の新造艦船の命名を発表する国防総省のプレスリリース。
  7. ^ “Navy Names Littoral Combat Ship Gabrielle Giffords” (英語) LCS-10を「ガブリエル・ギフォーズ」と命名する旨を発表する国防総省のプレスリリース。
  8. ^ “Navy ship to be named for Gabrielle Giffords” (英語) LCS-10が「ガブリエル・ギフォーズ」と命名された旨を報じるワシントン・ポスト紙の記事。
  9. ^ 海軍艦船の艦名に女性の名前が採用されたのは史上17隻目、存命人物の名前が艦名に採用されたのは史上13隻目である。

関連項目[編集]