パーソナリティ障害

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パーソナリティ障害
分類及び外部参照情報
ICD-10 F60.
ICD-9 301.9
DiseasesDB 9889
MedlinePlus 000939
MeSH D010554
プロジェクト:病気Portal:医学と医療
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パーソナリティ障害 (パーソナリティしょうがい、: Personality disorder ; PD)とは、一般的な成人に比べて極端な考えや行為を行ったりして、結果として社会への適応を著しく困難にしていたり、症状によって本人が苦しんでいるような状態に陥っている人を言う。

従来の境界例精神病質の後身にあたる概念で、以前はPersonality disorderに人格障害(じんかくしょうがい)の訳語が当てられていたが、日本語の「人格障害」という言葉は、人間の根幹を示しているような部分があること、それにより否定的なニュアンスが強いことから「パーソナリティ障害」と訳語が変更されている。なお、「パーソナリティ障害」が定着する以前は同様の意図から「性格障害」と言われることもあった。

概要[編集]

パーソナリティ障害とは「病的な個性」、あるいは「自我の形成不全」 ともいえる状態を指す。精神疾患の一種であるが、その他の精神疾患と比べて持続的であり、全体としての症状が長期にわたり変化しないことに特徴付けられる。ただし、他の精神疾患なども治癒するまでに数十年の歳月を要するケースもあり、判別は難しい。

パーソナリティ障害は広義において神経症に入る概念である。今日の精神科における神経症圏の病名は、そのほとんどが患者自身の苦しみ・つらさの中心となっている問題に「障害」をつける形での命名となっている。パニック発作を起こす「パニック障害」、強迫的観念・行動を特徴とする「強迫性障害」なども同様である。しかし苦しみやつらさが一つに限局できず、より深い問題を抱える例がある。このような患者は慢性的、かつ複数の症状をかかえており、抑うつや不安感、厭世観や希死念慮などの、人生を幸せに生きることができないという広範囲に及ぶ問題を持ち、「自分が自分であることそのもの」「生きることそのもの」、つまりパーソナリティが苦しみやつらさの中心であるとしか表現できないような状態を「パーソナリティ障害」と位置付けている[1]

そもそも人間にはその考え方や行動の方法には明らかな個体差があり、これは個性として尊重されるべきものである。しかしながら極度の自尊や自信喪失、また反社会性や強迫観念などは社会への適応性を失わせるだけでなく、基本的な日常生活や人間関係にも深刻な悪影響を及ぼしうるものである。 パーソナリティ障害がその人の性格に起因する生き方のスタイルの問題であるとすれば、100人いれば100通りの問題があるとも言え、正常と異常を明確に区別できるものではなく、どこまでを「障害」と表現するのかという問題がある。よって「その人がその人であること」による苦痛が、本人にとってあまりにも大きく、生きづらさを感じており、人生を不幸な方向に導いてしまっている状態のことを「パーソナリティ障害」と診断する。「パーソナリティ障害」という病名を付けることは、障害の対象を明確にすることにより、治療とそのためのコミュニケーションに利用するという、ポジティブな意味でなされている[2]

古典的な精神医学における神経症などの症状を含む病理としてパーソナリティ障害が見られることもある。さまざまな乳幼児研究や精神分析的臨床研究からも、病気というよりは持続的な固定された性格様式として、精神的病気とは区別される。実際に現在のパーソナリティ障害診断においては、他の精神疾患とパーソナリティ障害の併記が行われている。

障害名変更の経緯[編集]

「人格障害」から「パーソナリティ障害」への変更は、Schizophrenieに対する訳語の「精神分裂病」から「統合失調症」への変更と同時に起こった「スティグマ烙印)となるような名称は避けるべき」という流れの一環である。同様の意図から「痴呆」は2004~2005年に「認知症」に変更され、「精神病院」も2006年の「精神病院の用語の整理等のための関係法律の一部を改正する法律」により現在は「精神科病院」と呼ぶことになっている。

本名称の「パーソナリティ障害」への変更を最初に行ったのは『DSM‐IV‐TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』 2003年新訂版である。代表の高橋三郎は「新訂版への訳者の序」で、「人格障害」から「パーソナリティ障害」への改訳は2002年の「精神分裂病」から「統合失調症」への名称変更に伴うものであること、そして「精神科の病名で最もスティグマのあるものを3つあげると、〈精神分裂病〉〈精神病〉〈人格障害〉となるだろう」と述べている[3]

2005年11月に『ICD-10 精神および行動の障害-臨床記述と診断ガイドライン』日本語版が改訂され「精神分裂病」は全面的に「統合失調症」に、「痴呆」も「認知症」に変更し、かつ「人格障害は精神分裂病の場合と同様に当事者にとっては極めて差別的印象をもたらしやすい呼称であることからDSMシステムと同様にパーソナリティ障害に修正」した[4]。それをうけて、『精神医学ハンドブック』は2007年1月の第6版で「痴呆は認知症、人格障害はパーソナリティ障害と呼称が変わったのでそれぞれ書き直した[5]」という。

2008年06月に日本精神神経学会は『精神科用語集』を約20年ぶりに改定し、本名称も「パーソナリティ障害」に修正した。新聞記事には「人格障害は性格の極端な偏りを指すが、人格否定の印象があり、変更した[6]」と報道される。膨大な関連ドキュメントを抱える厚生労働省では名称変更対応が遅れ、一部に旧名称のまま未改訂のドキュメントも残るが、マスターでは2010年03月に変更しており[注 1]、2011年8月31日には、一般市民への啓蒙コンテンツ厚生労働省ホームページ:みんなのメンタルヘルスにも「パーソナリティ障害」としてページが作成された。

パーソナリティ障害の全般的診断基準 (DSM-IV-TR)[編集]

A. その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った、 内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下の領域の2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。

  1. 認知(すなわち、自己、他者、および出来事を知覚し解釈する仕方)
  2. 感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)
  3. 対人関係機能
  4. 衝動の制御

B. その持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。

C. その持続的様式が、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

D. その様式は安定し、長期間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。

E. その持続的様式は、他の精神疾患の現れ、またはその結果ではうまく説明されない。

F. その持続的様式は、物質(例:薬物乱用、投薬)または一般身体疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理学的作用によるものではない[7]

分類[編集]

ICDは行政上の分類をしたり統計目的でWHO世界保健機関)が作った分類である。しかし明確な診断基準は提示していないため、臨床上はDSMを用いることが推奨されている[8]。ただしこのDSMも各国の文化的相違により分類が困難な例がある、それぞれのパーソナリティ障害同士の境界が曖昧などの批判もあり、絶対的なものではないとされる[9]

DSMによる分類[編集]

『DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引』では、10種類のパーソナリティ障害を3つのカテゴリに分け規定している。

クラスターA (奇異群 : odd type)[編集]

風変わりで自閉的で妄想を持ちやすく奇異で閉じこもりがちな性質を持つ。

クラスターB (劇的群 : dramatic type)[編集]

感情の混乱が激しく演技的で情緒的なのが特徴的。ストレスに対して脆弱で、他人を巻き込むことが多い。

クラスターC (不安群 : anxious type)[編集]

不安や恐怖心が強い性質を持つ。周りの評価が気になりそれがストレスとなる性向がある。

ICDによる分類[編集]

『ICD-10 ガイドライン(新訂版)』では、「F6.成人のパーソナリティおよび行動の障害」の中で「F60.特定のパーソナリティ障害」を規定している。F6.に含まれるものは他に「f61.混合性および他のパーソナリティ障害」、「f62.持続的パーソナリティ変化、脳損傷および脳疾患によらないもの」、「f63.習慣および衝動の障害」、「f64.性同一性障害」その他が含まれる。以下に「F60.特定のパーソナリティ障害」に含まれる疾患名を記す。

診断[編集]

パーソナリティ障害では、所属文化の平均から著しく偏った内的体験・行動が持続する形式として把握される。しかしその内的体験・行動には柔軟性がなく、かつ広く個人的・社会的状況にわたるため、本人や周囲に苦痛や社会的障害を起こして、結果として自ら精神科に訪れたり、自傷行為によって自殺を図ったりして精神科病院に来て、パーソナリティ障害と診断されることが多い。

「パーソナリティ障害である」との判断は、文化・社会環境に依存するものであり、同じ状態であっても置かれた環境によっては「パーソナリティ障害」とは判断されない場合もある。たとえば、相互依存的な文化習慣色が比較的強いとされることの多い日本[10][11]では、欧米で「依存性パーソナリティ障害」として定義づけられている状態を「病的」とみなさないことが多いとされる。また自己愛性パーソナリティ障害の症例報告は先進国に有意に多く、文化的産物と言えるであろう[12]。無論個人による見解の相違もあり、障害と見なすかどうかの絶対的基準はない。

同様に、パーソナリティ障害は一種の「性格」であるとも言えることから病気ではないと思われている点も多いが、これは短絡的な考えである。医学においては生物学的な存在概念である「疾患」と違い、「疾病(病気)」は正常な状態である「健康」に対置する価値概念であり、平均からかけ離れた状態になり、生存する上で不利になることを意味する。またそれら「病気」の概念は、人間が生活していく上で不都合な状態であるとする社会的な側面も包含している。よって、パーソナリティ障害は広義の意味で疾病であると言えるだろう[13]

本来、個人がどういった性格をしていても、それが不法行為や非行行為など、他人に迷惑を及ぼさない行為でなければ他にとがめられることはない。しかし加害行為が行われてしまった場合、そのプロセスがパーソナリティの偏りにあるとの判断がたやすい場合には、社会性に照らし合わせたうえでパーソナリティ障害であると判断される場合がある。これは認知行動療法の考えに基づいたものである。

しかし、本来多種多様であるはずの個人の「パーソナリティ(人格・性格)」を「社会と矛盾しない存在であり続けなければならない」とする決まりはなく[14]、「パーソナリティ障害」は医学的概念から判断されるものである。

パーソナリティ障害は個々人の持っている「性格と呼ばれる特徴」が尖鋭化し、社会生活をうまく営めない、あるいは自他に危険を及ぼすほどになったものであると言える。なお、パーソナリティの歪みは存在しても、パーソナリティ障害ほど重くない場合は人格傾向(パーソナリティ・トレイト)とかつては呼ばれていた。また時には行動障害や神経症の持続的な形式があり、その結果としてこれはパーソナリティ障害的状態である、と診断されることもある。事実パーソナリティ障害ではないが、同じような症状や固定的な特徴を持続させる家族関係や対人関係によって、パーソナリティ障害的状態が生じている場合もある。

人格発達が不完全な未成年の患者では、いずれかのパーソナリティ障害の傾向を示すことが珍しくない。このため、パーソナリティ障害の診断は、患者の年齢が幼いほど慎重になる必要がある[注 2]

また、統合失調症気分障害などの精神疾患では、パーソナリティ障害の病像を示すこともあるため、鑑別に注意しなくてはならない。

操作的診断学における問題点[編集]

DSMにおいては、各疾患においてA・B・Cの診断基準が示され、「A - C全てが当てはまる場合」その精神疾患であると診断される。

A・Bは具体的な病像が列挙されるが、C基準は「その症状が原因で職業・学業・家庭生活に支障をきたしている」となっている。C基準がなければ、世間の誰もがDSMに挙げられたいずれかの精神疾患の基準を満たしてしまうからである。特にパーソナリティ障害においてはその傾向が強い。

本書には、「DSM-IVは、臨床的、教育的、研究的状況で使用されるよう作成された精神疾患の分類である。診断カテゴリー、基準、解説の記述は、診断に関する適切な臨床研修と経験を持つ人によって使用されることを想定している。重要なことは、研修を受けていない人にDSM-IVが機械的に用いられてはならないということである。DSM-IVに取り入れられた各診断基準は指針として用いられるが、それは臨床的判断によって生かされるものであり、料理の本のように使われるものではない。」と書かれており、非専門家による使用を禁じている。

またパーソナリティ障害を単一的なカテゴリーとして捉えた場合、他のパーソナリティ障害との重複も多く、相互の境界が曖昧であることなど、DSMに代表されるカテゴリー分類法の限界も指摘されており、近年ではパーソナリティ障害を類型的に分けるのではなく、ディメンション(次元)的に把握するほうがより分析的であるとの声も多い[15]。ディメンションとは、特徴的なそれぞれの症状を尺度とし、量的な違いによって分類する方法である。症状が個々の「パーソナリティ障害」に当てはまるかではなく「パーソナリティ度」として捉え、「ある特定の傾向が強いか弱いか」により病的か否かを判断していく診断法である。しかしこのディメンション分類法は、研究者の主観などにより定義がまちまちであること、カテゴリー分類法に比べわかりやすさに欠けることなど、実際の臨床で使いにくいという欠点もあり、パーソナリティ障害の捉え方として、カテゴリーモデルが良いか、ディメンションモデルが良いかは一定の見解に至っていない。

なおDSM-III が改訂される際には、このディメンションモデルの発想を取り入れるかどうか大きな論争を呼んだが、結局はDSM-IV での採用は見送られることとなった[16]

治療[編集]

治療は精神療法を中心にして行われる[17]薬物療法は合併しているI軸の精神障害の治療や、精神症状に対する対症療法として補助的に用いられる[17]

薬物療法では、気分安定薬SSRIや少量の抗精神病薬が症状の軽減に有効である[18]。一部のパーソナリティ障害は、30 - 40歳代までに状態が改善していく傾向(晩熟現象)があるとされている。それは加齢による生理的なものの影響だけではなく、社会生活を通じて多様な人々に触れ、世の中にはさまざまな生き方・考え方があるということを知り、それを受容することによると考えられているが、交通事故などの脳機能障害による器質的原因によって起こされた高次脳機能障害型のパーソナリティ障害では、悪化してしまう可能性も高い。

注記[編集]

  1. ^ マスターは、医療情報標準化推進協議会(HELICS協議会)を通じて厚生労働省の標準規格として採用されている医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)ICD10対応標準病名マスターである。これが厚生労働省保険局 傷病マスターに連動している。同マスターは標準病名マスター作業班がそのメンテナンスを行なっているが、その作業班は本障害の名称を2010年03月01日の2.83版で変更し、バージョン282との差分情報の追加:119病名の中にパーソナリティ障害が、削除: 52病名の中に人格障害が含まれている。
  2. ^ 精神医学関連の書籍では、18歳未満の患者に対してはパーソナリティの診断ができないと書かれていることが多いが、DSMでは反社会性パーソナリティ障害を除いて、一定の条件を満たせば診断を認めているため、実際には可能である。ただし、パーソナリティ障害はかつて人格障害と呼ばれていたため、一般社会のみならず専門家の間においてもスティグマ(烙印)性が強いことから、青少年に対する診断を躊躇する精神科医は多い。

脚注[編集]

  1. ^ 小羽俊士2009
  2. ^ 小羽俊士2009
  3. ^ DSM新訂版2003 p.6
  4. ^ ICD-10新訂版2005「監訳者の序」 p.5
  5. ^ 精神医学ハンドブック2010(第6版まえがき)
  6. ^ 読売新聞2008年 5月31日
  7. ^ 高橋三郎、大野裕、染矢俊幸(訳) 『DSM‐IV‐TR 精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版』 医学書院、2003年12月。ISBN 9784260118897
  8. ^ 加藤忠志2009
  9. ^ DSMケースブック2003
  10. ^ 土居健郎1971 p.31
  11. ^ 土居健郎1985 p.40など
  12. ^ 矢幡洋2008
  13. ^ 大熊照雄2008
  14. ^ 高見元博2006
  15. ^ 大熊照雄2008
  16. ^ 矢幡洋2008
  17. ^ a b 市橋秀夫 (2006) pp.90-93
  18. ^ パーソナリティー障害 厚生労働省

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]