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柑橘類

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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柑橘類
さまざまな果実のスライス
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : バラ類 rosids
階級なし : アオイ類 malvids
: ムクロジ目 Sapindales
: ミカン科 Rutaceae
亜科 : ミカン亜科 Aurantioideae
: ミカン連 Citreae
亜連 : ミカン亜連 Citrinae
階級なし : 柑橘類

柑橘類(かんきつるい)は、ミカン科ミカン亜科ミカン連(カンキツ連)の、ミカン属など数属の総称である。漢籍由来の言葉ではなく日本での造語で、ミカン(蜜)やタチバナ)に代表される。

定義

柑橘類とされる「ことがある」属は以下のとおり。

なお関連する属分類は諸説あるが、ここではウォルター・テニソン・スウィングル田中長三郎による属を使う。

狭義にはミカン属・キンカン属・カラタチ属の3属からなる[1][2][3][4][5][6]。近縁な中で農業的に栽培されるのはこれら3属であり(ただしカラタチ属は主に台木として栽培される[6])、この定義は農業分野に多い。

広義にはそれらにクリメニア属を加えた4属、すなわち、田中による分類での「カンキツ連」に等しい[3][6][7][8]。この定義は分類(の一説)に基づいており、植物学分野に多い。

まれに、さらに広義の定義として、エレモシトラス属・ミクロシトラス属を含めた6属、すなわち、ウォルター・テニソン・スウィングルによる分類での「真正カンキツ類」とすることがある[3]

逆に最も狭義には、ミカン属のみとする[9]。この用法は、Citrus を柑橘類と訳した翻訳文献でしばしば見られる[9]。また、「統計上」という但し書きでミカン属とする資料もある[6]。ただし実際には、日本の農業統計ではキンカンはカンキツ類に含まれている[10](カラタチはデータなしのため扱い不明)。

語釈

「柑橘類」という言葉は日常生活および産業上において頻用される日用語であり、英訳する際には通常 citrus と訳される。この言葉は属の学名 Citrus が日用語に採り入れられたもの[11]で、現在では Citrus よりも広い範囲の樹木や果実を指すようになっている。

しかし Citrus と明確に区別するため、植物分類ではしばしば「citrus fruit」という表現が使われ、「柑橘類」と対訳される[3]。これは厳密には柑橘類よりやや広く、ウォルター・テニソン・スウィングルによる分類でのミカン亜連の13属の総称である(Swingle & Reece 1967[12]での正確な表現は「Citrus Fruit Tree」)。

学名 Citrus は、和名ミカン属にあたり、日用語 citrus 「柑橘類」よりも狭い。ただし、キンカン属とカラタチ属をミカン属に含める場合、狭義の(3属からなる)柑橘類と等しい。なお、Citrus 自体はある種の樹木を指すローマ時代のラテン語 citrus からである[13]

「柑」と「橘」は、完熟した甘味の果実と青い酸味の果実を意味する。「矞」は青いという音符である。

特徴

柑橘類の果樹
柑橘類の花卉

果実

柑橘類の果実は食用となる。果実の「爽やかな香り」と「甘酸っぱい味」が特徴。甘い種類は生食・ジュースや製菓材料として、酸味が強い種類は菓子のほか料理の酸味づけとして世界各地で広く利用される。ユズスダチカボスのように高い香りとともに強い酸味をもち生食よりも料理などに利用することが一般的なものを香酸柑橘という[14]オレンジレモンのように世界的にポピュラーなものもあれば、地域ごとに特色のある柑橘類も存在し利用方法も様々である。

果実は10個前後の小袋が放射状に並んだ形状をしており、小袋をじょうのう(瓤嚢)、小袋の薄皮をじょうのう膜、小袋の中身(いわゆる果肉)を砂じょう英語版(砂瓤)と呼ぶ。じょうのう膜は食べることができるが、種類によって厚さが異なり、また食習慣・好みによって取り除かれることがある。

砂じょうは涙形の長さ数ミリメートル程度の粒で、じょうのう膜の中に無数に詰まっている。砂じょうの表面は薄い膜があり、その中は果汁で満たされている。じょうのう膜の中には硬く食用にならない種子もあるが、ウンシュウミカンのように種子がない場合もある。

果皮の表面には直径1ミリメートル程度の球形の油胞が無数に存在し、リモネンをはじめとする精油が含まれている。一般に油胞には果肉よりも豊富な香り成分が含まれるが、苦味がある。果皮の内側は白く柔らかい綿状または繊維質をしておりアルベド(albedo)[15]と呼ばれる。レモンやユズのように表面を薄く剥いたりすり下ろして菓子や料理の風味づけに使ったり、アルベドも含めて砂糖漬けやマーマレードにしたり、あるいは乾燥させて食用にする場合もある。

カラタチなど、一部を除いて常緑であり、樹高も低木の範疇に収まるものがほとんどである。古くから日本の広い地域で栽培、利用されているが、ルーツは熱帯から亜熱帯にあり耐寒性のない種類も多い。を持つもの、葉に芳香成分を含むものが目立ち、蝶類の幼虫の食餌として好まれる傾向がある。

木材

蜜柑やレモンは低木な為に小さな材しか取れないものの、緻密で弾力に富み、強度と靱性に優れ、割れにくい特徴から、一部の楽器や手で握る道具の柄など利用される。

材木として栽培されている訳ではないので一般に流通する事は少ない。

レモンウッドとして流通する木材とは異なる。

果実特性

柑橘類の果実特性には、果形指数、果実重、果皮色、果皮厚、果肉歩合、果肉色、含核程度、糖度、酸含量などがある[16]

  • 果形指数
    果形指数は果実の横径 / 縦径 × 100(%)の数値で、数値が大きいほど扁平、小さいほど腰高である[17]
  • 果実重(g)
  • 果皮色
    果実の種類によってレモン色系カラーチャートまたはオレンジ色系カラーチャートで数値化する[16]
  • 果皮厚(mm)
  • 果肉歩合
    果肉歩合は果実の果肉重 / 果実重 × 100(%)の数値で、果実の可食部の割合を示している[17]
  • 果肉色
    果実の種類によってレモン色系カラーチャートまたはオレンジ色系カラーチャートで数値化する[16]
  • 含核程度
    完全種子数を階級で数値化する[16]
  • 糖度(%)
  • 酸含量 (g / 100mL)

健康への影響

柑橘類には、オレンジレモンのようにビタミンCカロテンクエン酸が多く含まれていて、風邪の予防や肌を美しく保つのに役立つといわれる[18]。果肉の袋や筋の部分にはビタミンPも含まれていて、毛細血管を強くする働きがあるとされる[18]β-クリプトキサンチンも含まれており、ヒトでは、β-クリプトキサンチンはビタミンAレチノール)に変換されるためプロビタミンAと見なされている。他のカロテノイドと同様に、β-クリプトキサンチンは抗酸化物質としてフリーラジカルによる酸化的損傷から細胞およびDNAを保護していると考えられている[19]。柑橘類は、デザイナーフーズ計画がん予防に有効性のあると考えられる40種類ほどの野菜果実類に含められている[20][21]。一方、チラミンも含まれており、その血管収縮作用の消失から拡張へ向かう際に片頭痛を引き起こす可能性がある[22]

かつて、柑橘類はデザイナーフーズ計画のピラミッドで2群に属しており、2群の中でも5位中3位に属する、癌予防効果のある食材であると位置づけられていた[21]

分類(属まで)

Swingle & Reece (1967)[12]の分類を示す。なお、あくまで分類の図示であり、必ずしも系統を反映していない。

ミカン連には、ミカン属、キンカン属、カラタチ属など、約28属(属数は分類により増減する)が含まれる。商業的に重要な種類は、ほとんどミカン属に含まれる。

狭義の柑橘類に含められるキンカン属とカラタチ属は、ミカン属に含める説があり、Penjor et al. (2014)[23]の分子系統もそれを支持する。ただし Lu et al. (2011)[24]の分子系統は、カラタチ属は真正カンキツ類の中で最初に分岐したとする。

さらに最も広義には、エレモシトラス属・ミクロシトラス属までもをミカン属に含める説がある。しかし、この2属は互いに近縁なものの、ミカン属からは比較的(クリメニア属と同程度かそれよりも)遠い[23]

主な種類

オレンジの果実
レモンの果実

日本語版ウィキペディアに記事がある種類の一覧は記事末尾を参照。

柑橘類の種分類は学説により種数に大きな差がある。ここで、2つの種名を / で併記した場合は、1つ目が多くの種を認める田中による種名、2つ目が少数の種しか認めないスウィングルによる種名である[23]

古典的分類

田中長三郎のものに基づく区に分けて示す[3][7]

(*注記)

  1. ^ a b 平凡社『世界大百科事典』はユズ区、小学館『日本大百科全書』はダイダイ区とする。

系統での分類

Penjor et al. (2013)[23]の分子系統による。

彼らによると、ミカン属は3つのクラスタに分かれる。カラタチ属・キンカン属は、ミカン属の中で各クラスタと同等の枝をそれぞれなす。クリメニア属・エレモシトラス属・ミクロシトラス属は、それら3属からは少し離れている。

田中による区のいくつかは複数のクラスタにまたがる。また、スウィングルはミカン属を2亜属 CitrusPapeda に分けたが、この分類も系統から支持されない[23]

(*注記)

  1. ^ a b キングとクネンボは、学説を問わず同種とされるが、系統位置が大きく離れる結果が出た。

その他の分類

上記以外に、一般的に使用される分類を示す[25][26][27][28]

(*注記)

  1. ^ a b オレンジ類または香酸かんきつ類に分類される。
  2. ^ a b ミカン類とオレンジ類から作られたとされた交雑種。カイコウカン(海紅柑)とダンシー(大紅みかん)の交配種。タンゴール類または雑柑類に分類される。
  3. ^ a b 清見とポンカンの交配種。タンゴール類または雑柑に分類される。

病気

脚注

  1. ^ 広辞苑』「柑橘類」
  2. ^ デジタル大辞泉』「柑橘類」
  3. ^ a b c d e 山岡彬雄 (2009), “柑橘類”, 世界大百科事典, 2009年改定新版, 平凡社 
  4. ^ 農林水産省/柑橘類(かんきつるい)というのは、なぜそう呼ばれるのですか。また、柑橘類の色はなぜ黄色いのですか。
  5. ^ 近畿大学カンキツ類系統保存品種花粉の発芽
  6. ^ a b c d 「みかん」とは?静岡県産業部農林業局みかん園芸室)
  7. ^ a b 飯塚宗夫 (1987), “柑橘類”, 日本大百科全書, 初版, 小学館 
  8. ^ 小野幹雄 (1993), “ミカン(科)”, ブリタニカ国際大百科事典, 第2版改訂版, ティービーエス・ブリタニカ 
  9. ^ a b “柑橘類”, ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典, 第2版改訂版, ティービーエス・ブリタニカ, (1993) 
  10. ^ 統計表一覧 政府統計の総合窓口 GL08020103
  11. ^ Online Etymology Dictionary
  12. ^ a b Swingle, W.T.; Reece, P.C. (1967), “The botany of Citrus and its wild relatives”, in Reuther W, Webber HJ, Batchelor LD, The Citrus Industry, 1, University of California, pp. 190–430, http://websites.lib.ucr.edu/agnic/webber/Vol1/Chapter3.html 
  13. ^ Lewis & Short Latin Dictionary
  14. ^ 金田初代『大きな写真でよくわかる!花と木の名前事典』2014年、306頁
  15. ^ デジタル大辞泉の解説”. コトバンク. 2018年1月11日閲覧。
  16. ^ a b c d [成果情報名]新たに登録される中晩生カンキツ「はるひ」の果実特性”. 長崎県. 2022年3月29日閲覧。
  17. ^ a b 品種、用語の説明(果実調査)”. 和歌山県. 2022年3月29日閲覧。
  18. ^ a b 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 190.
  19. ^ Lorenzo, Y.; Azqueta, A.; Luna, L.; Bonilla, F.; Dominguez, G.; Collins, A. R. (2008). “The carotenoid -cryptoxanthin stimulates the repair of DNA oxidation damage in addition to acting as an antioxidant in human cells”. Carcinogenesis 30: 308. doi:10.1093/carcin/bgn270. 
  20. ^ 矢野友啓、「食品成分による癌予防」 『日本未病システム学会雑誌』 2006年 12巻 1号 p.56-58, doi:10.11288/mibyou1998.12.56
  21. ^ a b 大澤俊彦、「がん予防と食品」『日本食生活学会誌』 2009年 20巻 1号 p.11-16, doi:10.2740/jisdh.20.11
  22. ^ 片頭痛の病態と誘発因子予防から治療まで見つかる、Eisai、2011-12-19閲覧
  23. ^ a b c d e f g h i j Penjor, Tshering; Yamamoto, Masashi; Uehara, Miki; Ide, Manami; Matsumoto, Natsumi; Matsumoto, Ryoji; Nagano, Yukio (2013), “Phylogenetic Relationships of Citrus and Its Relatives Based on matK Gene Sequences”, PLoS One 8 (4), doi:10.1371/journal.pone.0062574, http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0062574 
  24. ^ Lu, Zhen-hua; Zhou, Zhi-qin; Xie, Rang-jin (2011), “Molecular Phylogeny of the “True Citrus Fruit Trees” Group (Aurantioideae, Rutaceae) as Inferred from Chloroplast DNA Sequence”, Agricultural Sciences in China 10 (1): 49–57 
  25. ^ a b c d e f g 柑橘系の種類は?~わかりやすい分類と一覧~”. 味覚ステーション. 日本味覚協会 (2020年8月8日). 2023年1月21日閲覧。
  26. ^ a b c d e 柑橘系のフルーツの種類とは?分類ごとの特徴をご紹介”. DELISH KITCHEN. every (2022年2月18日). 2023年1月21日閲覧。
  27. ^ JA全農 広報部【公式】 (2021年3月12日). “冬から春にかけては柑橘パラダイス 多種多様の柑橘を追いかけよ!”. note. note. 2023年1月21日閲覧。
  28. ^ a b c d e f g h i j k l 柑橘類とは?柑橘類の種類や構造を解説!”. 三ヶ日みかん(JAみっかび公式ECサイト). 三ヶ日町農業協同組合 (2022年12月10日). 2023年1月21日閲覧。}
  29. ^ ミカン類”. みんなの趣味の園芸. NHK出版. 2023年1月21日閲覧。

参考文献

  • 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、190 - 191頁。ISBN 978-4-415-30997-2 

外部リンク