弟の夫

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弟の夫』(おとうとのおっと)は、田亀源五郎による日本漫画作品。『月刊アクション』(双葉社)にて、2014年11月号から2017年7月号まで連載。小学生の娘・夏菜と父子2人で暮らす弥一と彼の弟(涼二)の結婚相手であったカナダ人男性・マイクが織りなすホームドラマ。第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。

制作[編集]

本作の連載開始から15年ほど前に、『月刊アクション』の編集部に『男女郎苦界草紙 銀の華』全3巻が送られたことがきっかけで、本作の担当編集者は田亀の作品に興味を抱いていた[1]。一方、田亀もライターから一般誌での掲載を勧められ、同性婚が世界的な話題となっていた上にこれまでの作品が異性愛者の読者からも評判が良かったことから、異性愛者向けのゲイ漫画を描きたいと考えていた[1]。本作の連載開始までの間、別の一般誌からもオファーがあり、「男性に告白されて主人公の性的指向が揺らぐ」というプロットが編集者には受け入れられても、編集長から却下されたことがあった[1]

田亀はこれまで男性同士のハードな性描写を主として扱ってきたため、どのように一般向け作品をつくればよいかわからず、悩み抜いた末に『弟の夫』のプロットを『月刊アクション』の編集部に持参した[1]。KAI-YOUとのインタビューによれば、田亀自身は過去の経験から編集部の反応に対して半信半疑であり、連載されても目立たないところに掲載されると考えていたため、編集長が表紙に載せると決めたときは驚いたと振り返っている[1]

田亀はこれまで活躍してきたゲイ向け雑誌と一般誌の表現の手法が異なることに気付き、弥一が夏菜の父親としての役割を果たしていることを示すために、これまであまり描かなかった日常生活の場面を強化した[1]。これに伴い食事の場面も増え、キャラクターの性格や文化交流を示す要素としても、食事は重要な要素の一つとなった[1]

あらすじ[編集]

弥一は小学生の娘・夏菜を男手一つで育てるシングルファーザー。そんな彼のもとに弥一の双子の弟・涼二の結婚相手だったカナダ人男性・マイクが訪れる。「父に双子の弟(夏菜にとっては叔父)がいたこと」「叔父が外国人男性と結婚していたこと」を知った夏菜は驚きと共に突如現れた義理の叔父であるマイクに興味津々。こうして不思議な同居生活が始まった。

登場人物[編集]

弥一(やいち)
夏菜を男手一つで育てるシングルファーザー。両親を事故で亡くしており、両親が遺したアパートの大家をしている。
マイク
涼二の結婚相手だったカナダ人男性。礼儀正しい性格。
夏菜(かな)
弥一の娘で小学生。活発な性格で、マイクとも仲が良い。
夏樹(なつき)
夏菜の母で弥一の元妻。
涼二(りょうじ)
弥一の双子の弟で夏菜の叔父。

反響[編集]

A photo of Gengoroh Tagame
作者である田亀源五郎

バイス・メディア英語版のJames Yeh は、日本では認められていない男性の同性婚の扱い方について触れ、男性キャラクターを筋肉質に描く田亀の作風を「美しく、感動的で、人間の業に深く切り込んでいる」と評した[2]

チャールズ・プリアム=ムーアは、ブログ・io9に寄せた記事の中で、「『弟の夫』は、些細ながらも様々な場面での同性愛に対する嫌悪が日々積み重なった結果、弥一の弟である涼二が日本を去ったということがほのめかされている」と、現代日本における同性愛に対する嫌悪感の扱い方について触れ、「小さくて目立たない偏見もまた大々的な偏見と同じくらい有害であること、そしてそれらの偏見は処理しやすいとは限らないことを、田亀は表現したかったのではないか。田亀はそのことを理解しており、物語の後半は希望に満ちた展開となっており、読者も希望を持つだろう」と述べた[3]

Anime News Networkのレベッカ・シルバーマンは「『弟の夫』は、偏見や先入観が相手だけでなく自分たちをも傷つけることを率直かつ静かに、われわれの感情へ訴えかけている。心を痛めるような要素も、心を温めるような要素も織り込まれている分、第1巻は読む価値があり、他の人気漫画では見られないような体毛の描写といった田亀の実直できれいな作風もまた、作品にリアリティを与えている。読んでいるうちにはまってしまうような作品だが、考えるべきところがたくさんあるだけでなく、本当に終わってほしくないと思える作品でもある」として、A-の評価をつけた。その一方で、シルバーマンはマイクをキャラクターとして成り立たせるための時間と、絵柄の一部について批判的な見解をみせた[4]

2015年、本作は第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した[5]

2016年には、第44回アングレーム国際漫画祭にて、本作のフランス語版が最優秀漫画賞にノミネートされた[6][7]


書誌情報[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g おんだゆうた (2016年4月23日). “『弟の夫』田亀源五郎インタビュー ゲイアートの巨匠が一般誌で描くということ”. KAI-YOU. 2017年5月20日閲覧。
  2. ^ Yeh, James (2017年5月1日). “Coming Out to My Twin Brother Ruined Our Relationship”. Vice. 2017年5月7日閲覧。
  3. ^ Pullman-Moore, Charles (2017年5月1日). “In Gengoroh Tagame's My Brother's Husband, Love, Loss, and Regret Become Something Beautiful”. io9. 2017年5月7日閲覧。
  4. ^ Silverman, Rebecca (2017年5月17日). “My Brother's Husband: GN 1”. Anime News Network. 2017年5月18日閲覧。
  5. ^ 優秀賞 - 弟の夫”. 文化庁. 2017年5月20日閲覧。
  6. ^ Inuyashiki, Sunny, My Brother's Husband, Chiisakobee Nominated For Angoulême's Top Prize”. Anime News Network (2017年12月18日). 2017年5月7日閲覧。
  7. ^ Sélection Officielle 2017” (French). 2017年5月7日閲覧。