航空事故

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航空事故(こうくうじこ)とは、航空機の運航中に起きる事故である。

概要[編集]

重大事故の形態としては、以下のような形が挙げられる。

墜落
飛行中に何らかの事情が発生し、航空機が地上へ落下する事象の総称。以下で述べる空中分解するケースと、原型を保って墜落するケースがある。
空中分解
飛行中に気象、災害、武器攻撃などの外的要因、機体構造の欠陥など内的要因から、構造破壊によって航空機が空中で分解する現象。生存は絶望的なケースが大半。
不時着・胴体着陸
空港やそれ以外の場所に緊急着陸するケース。主な要因として、降着装置(ランディングギア)が降りなかったり、燃料が尽きたり、時には操縦系統が全滅したり屋根が吹き飛んだりしながらも無事に着陸できたケースと、着陸態勢は取れたが場所が不適当だったために機体が破損したというケースに分かれる。墜落に比べると衝撃をコントロールできているため、生存率は高い。
オーバーラン
着陸の際に制動距離が滑走路を逸脱するケース。着陸失敗事故の大半を占める。地上で起きるので生存率は高いが、燃料の炎上や水没などで多数の死者が出たケースもある。
離陸失敗
離陸中滑走路で野鳥群に遭遇したり、離陸直後の上昇中に気象、機器などに起因発生するケース。
火災
飛行中あるいは地上にいる際に何らかの原因で火災が発生する事故。
衝突
空中衝突して墜落するケースと地上(山岳)に衝突するケースがある。多くのケースで、墜落して多数の死者を出している。
地上衝突
混雑した空港で滑走路や誘導路上に航空機同士で接触や衝突するケース。
テロリズム
ハイジャックなどで人為的に発生するケース。

事故といっても、乗客・乗員が無事に生還できるケースから全滅するケースまでさまざまである。

航空会社にとっては一度の事故が航空会社全体の信頼や存亡に関わる事態に発展することがあり、また、事故の原因が航空機の欠陥によるものであることが明らかになった場合、当該の航空機メーカーや業界全体の信頼問題となりうる場合がある(コメット連続墜落事故など)。

このため航空産業発足の当初から、航空事故に対してはその原因究明と対策に全力が注がれてきた。事故で判明したことや得られた情報は、同様の事故が再発しないよう以後の航空機の設計や運用に生かされている。

リスク[編集]

トロントのピアソン空港の滑走路先に横たわるエアバスA340の焼けただれた残骸(詳細は「エールフランス358便事故」を参照)

アメリカ国家運輸安全委員会 (NTSB) の行った調査によると、航空機に乗って死亡事故に遭遇する確率は0.0009%であるという。アメリカ国内の航空会社だけを対象とした調査ではさらに低く0.000034%となる。

アメリカ国内において自動車に乗って死亡事故に遭遇する確率は0.03%なので、その33分の1以下の確率ということになる。これは8200年間毎日無作為に選んだ航空機に乗って一度事故に遭うか遭わないかという確率である。これが「航空機は最も安全な交通手段」という説の根拠となっている。2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件の後、アメリカ人の多くが民間航空機による移動を避けて自家用車による移動を選択したために、同年の10月から12月までのアメリカにおける自動車事故による死者の数は前年比で約1,000人増加した。

航空事故を引き起こすリスクの多寡は航空会社やその運航地域によって異なり、一般に先進国では低く、発展途上国では高い傾向が見られる[1]

ドイツの航空業界専門誌『アエロ・インターナショナル』(AI) が2005年3月号の誌上で発表したリストによれば、ジェット機の死亡事故を起こしていないカンタス航空 が“世界で最も安全な航空会社”とされた。2位にはフィンランド航空が続き、アジアの航空会社ではキャセイパシフィック航空が3位、全日本空輸が4位に、エバー航空が9位に入っている。一方“安全性が最下位”との結果が出たのはトルコ航空で、その後はエジプト航空エア・インディアチャイナエアラインと続く。

航空事故はさまざまな要因が複合して事故に至るものであり、多くの航空機や人命を失った航空会社に安全性の問題があるとは必ずしも言い切れない。たとえば一機の事故としては史上最多の死者を出した日本航空123便墜落事故の場合、その原因は過去に製造元が機体に施した修理のミスだったとされる(異論も存在、当該項を参照の事)。また、アメリカ同時多発テロ事件においてはハイジャックにより4機が犠牲になった。

事故の原因[編集]

機械的故障のため前輪が横向きに固定されてしまい、緊急着陸を決行するエアバスA320(詳細は「ジェットブルー航空292便緊急着陸事故」を参照)
部品脱落のため燃料タンクが破損し機体火災を起こしたボーイング737-800(詳細は「チャイナエアライン120便炎上事故」を参照)
製造段階から部品が欠落していたため、車輪が出なくなり胴体着陸を余儀なくされたボンバルディア Q400(詳細は「全日空機高知空港胴体着陸事故」を参照)

航空事故のおよそ8割は、機が離陸・上昇を行う際と進入・着陸を行う際の短い時間帯に起こっている。このなかでも離陸後の3分間と着陸前の8分間の「クリティカル・イレブン・ミニッツ (魔の11分)」と呼ばれる時間帯に事故は集中している。巡航中に発生する事故も少なくはない。 事故原因の大半は人為的なミス(操縦ミス、判断ミス、故意の操作ミス、定められた手順の不履行、正しくない地理情報に基づいた飛行、飲酒等の過失など)、または機械的故障(構造的欠陥、不良製造、不良整備、老朽化など)に端を発するものとなっている。

航空事故を専門に追跡する planecrashinfo.com が1950年から2004年までに起った民間航空事故2147件をもとに作った統計[2]によると、事故原因の内訳は以下の通りとなっている。

  • 37% - 操縦ミス
  • 33% - 原因不明
  • 13% - 機械的故障
  • 7% - 天候
  • 5% - 破壊行為(爆破、ハイジャック、撃墜など)
  • 4% - 操縦以外の人為的ミス(不適切な航空管制・荷積・機体整備、燃料汚濁、言語、意思疎通の不良、操縦士間の人間関係など)
  • 1% - その他

またボーイング社が行っている航空事故の継続調査[3]によると、1996年から2005年までに起こった民間航空機全損事故183件のうち、原因が判明している134件についての内訳は以下の通りとなっている。

  • 55% - 操縦ミス
  • 17% - 機械的故障
  • 13% - 天候
  • 7% - その他
  • 5% - 不適切な航空管制
  • 3% - 不適切な機体整備

操縦ミスは依然として航空事故原因のほぼ半数を占めているが、この数字は1988年1997年期には70%もあり、過去20年間に着実に改善されてきたことが分かる。

事故調査[編集]

AA191便墜落事故で残骸を調査する事故調査官
NTSBによるTWA800便墜落事故では海底から機体残骸破片の大部分を回収して機体を組み立て直した

航空機事故の再発防止のためには徹底した原因究明が欠かせない。事故によっては数年の歳月と巨額の資金を費やしてまで「なぜ」が追及される。

中立な立場からの事故調査を徹底するため、多くの国では専門の事故調査機関を設置している。

そうした中でもアメリカ国家運輸安全委員会 (NTSB) は長年の経験と深い専門知識から航空事故調査の権威として位置づけられており、各国の事故調査や航空行政に対しても大きな影響力を持つ存在となっている。

NTSBによる事故の調査結果は、その信頼性を高めるため報告書として一般公開されることが原則となっており、しかもこれを民事訴訟で証拠として採用することは法律で禁じられている。理由は当事者からの証言を得やすくするためであり、また、NTSBを法廷闘争に巻き込まれないようにするためでもある。ただし、事故の分析、原因、勧告などを除いた「事実背景」については証拠採用が認められている。なお刑事訴訟での使用については特に規定がなく、過去には証拠採用された判例もある。

そもそもアメリカでは「故意の破壊行為」またはそれに近い「認識ある過失」がない限り、事故機の操縦や整備に関わっていた個人に対しては刑事責任民事責任を問わないことが原則となっている。これも当事者からの証言を得やすくするためである。

ただし、事故を起こした航空会社が司法による犯罪捜査から免責されているわけではない。また、個人に刑事責任を問わないのは雇用者である航空会社が個人の責任と補償を請け負うことがそもそもの前提になっているからであり、原因究明と再発防止こそが至上課題という姿勢が明確に現れている。また個人に対して刑事責任が問われないといっても、問題を起こした個人が当該職務から外されることはありうる。

日本では1974年から国土交通省審議会のひとつである航空・鉄道事故調査委員会(事故調)が、事故原因の究明や事故防止に必要な研究を行ってきたが、2008年10月1日に旧来の海難審判庁の船舶事故の原因究明事務と統合されて新たに国土交通省の外局である運輸安全委員会が発足した。

その目的は航空事故等の原因並びに航空事故に伴い発生した被害の原因を究明するための調査を適確に行うとともに、これらの調査の結果に基づき国土交通大臣又は原因関係者に対し必要な施策又は措置の実施を求めることである(運輸安全委員会設置法1条)。

運輸安全委員会は調査官を派遣して、航空機の使用者・搭乗員・事故における救助者など航空事故における関係者から事情を聴取・質問し、関係物件等の留置・保全、立ち入りの禁止などの措置をとることができる(運輸安全委員会設置法13条)。

なお、運輸安全委員会の調査と警察官・検察官による捜査は通常同時並行的に行われるが、法制度上はそれぞれ目的を異にする独立の手続である。

刑事責任を追及するための事故調査を主導するのは警察検察であり、調査対象は事故機の操縦や整備に関わっていた個人が業務上過失致死罪業務上過失傷害罪重過失致死傷罪などによる処罰の対象になるか否かという点に重点を置く。

これに対し、運輸安全委員会の調査は事故の再発防止などに重点を置く行政手続であるため、調査官の処分権限は「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と法律で明記されている(運輸安全委員会設置法13条5項)。

なお、今日の航空事故調査には欠かせないフライトデータレコーダー(飛行状況記録機、FDR)と コックピットボイスレコーダー(操縦室音声記録機、CVR)だが、日本では1966年全日空羽田沖墜落事故の際に経路追跡などができず原因不明となったことを教訓に、すべての旅客機に搭載が義務づけられた。

航空事故の再現実験[編集]

ボーイング720の座席に置かれたダミー人形

政府専門機関、軍や航空機メーカーが行う航空機事故の再現検証は物理的範囲で材質と機体など機器構造に機体内部の環境などといった限定範囲か局部的で、大型旅客機実機を用いて地上か空中で行う場合は機体から旅客脱出の実地、空港の環境、飛行特性や気象条件などのデータ収集を中心に行う事が多い。

人為的操縦ミスを飛行中など検証する研究についてここでは割愛し[4]、飛行運用から事故を検証する問題点を幾つか挙げると事故経過は気象状況など千差万別であること、パイロットや調査員などスタッフの安全条件と自動操縦飛行には法律の制限があること、廃棄前提であっても証明書類などを完備した飛行許可を取得した機体という条件のため型落ち旧式中古機でも高価なこと、離着陸などを想定した検証の場合は機体サイズによっては広い場所を確保する必要があり多角的な観察と測定できる環境範囲空間が必須など、多数の制約から自動車の衝突安全テストのような実験が難しいため、発生した重大事故の状況や残骸を調査し内容を分析する方法が主流である。 日本の場合、前項の事故調査に加えて人的被害や物損に及ばなかった危険事態を事故に準じた扱いの「重大なインシデント」に指定して状況の報告を義務付け、調査と分析を行っている。

1954年4月コメット連続墜落事故ではイギリス政府直轄の調査委員会は回収した残骸から原因を推定し実際に飛行させるかわりに巨大な水槽を用いた画期的な構造検証実験許可を行った。これは事故原因究明の再現実験に留まらず様々な分野の学術研究から注目された。
アメリカは連邦航空委員会 (FAA) 中心に時には他機関と合同で機種とその大小に拘わらず様々な実験が行われている。無償譲渡の廃止したレシプロ自家用機を用いて様々な検証を実施し、その一例にクレーンで吊上げたのち落下させ、キャビンの状態や機体構造強度のデータを収集している。1960年代には旧式レシプロ四発大型旅客機を無償譲渡[5]や購入により調達し離着陸失敗事故を想定し地上破壊プロセス、火災発生状況と構造検証の実験などを行い、後述のジェット旅客機を飛行から地上で全損させる実験はNASAとFAA主体で進めた共同計画と、アメリカ等4ヶ国の民間放送局5社共同体は都合[6]からメキシコで実施した2例がある。

1984年12月1日、着陸失敗などの被害軽減へ"着火しにくい燃料を使用する事で衝撃に伴う引火の被害を抑える事"を目的にした「衝撃実演 (CID)」をNASA連邦航空委員会 (FAA) の共同で行った。無線操縦による無人飛行装置を取り付け改造したボーイング720型機をエドワーズ空軍基地から離陸後に仮想滑走路(着地位置)へ突入させた(「制御された衝撃実演」の項目参照。Controlled Impact Demonstration もしくは Crash In the Desert)。

2012年4月27日に放映されたディスカバリー・チャンネルの「好奇心の扉:航空機事故は解明できるのか?」は「空港以外で不時着する事故」を想定し、アメリカ、ドイツ、イギリスのTV局4社協力で(その後それぞれの国内向けに編集し放送。)メキシコにて調査用の観測器機と遠隔操作操縦装置を搭載したボーイング727-200型機をメヒカリメヒカリ国際空港を有人手動操縦で離陸[7]、727の乗員がパラシュートで脱出した後、チェイス機に搭乗した操作員が無線操縦でソノラ砂漠で降下着地させ、破壊される機体状況を内外部から映像を中心にデータ記録収集する再現実験を行った(2012 Boeing 727 crash experiment[8]

建物への衝突を調査する場合には離陸しなくてもロケットスレッドで水平に加速し、壁に衝突させることでデータが得られるため多くの実験が行われている。例として1988年にサンディア国立研究所原子力発電所への航空機衝突による影響を調査するため、アメリカ軍から払い下げられたF-4をロケットスレッドで加速し、コンクリートの壁に衝突させる実験を行っている[9]

航空事故の一覧[編集]

航空事故を扱った作品[編集]

実際に起きた航空事故を再現・考察する実録映画・ドキュメンタリー[編集]

いずれも1972年10月13日にアンデス山中で起きたウルグアイ空軍チャーター機墜落事故と、その後の72日間にわたる生存者の生還を扱ったドキュメンタリー/映画
いずれもナショナルジオグラフィックチャンネルの番組。

実際の事故を下敷きに脚色された創作映画・小説[編集]

架空のドラマ[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ Fatal Events and Fatal Event Rates of Airlines
  2. ^ planecrashinfo.com による統計
  3. ^ ボーイング社による航空事故統計
  4. ^ フライトシミュレーターの運用と医学など分野を越えて分析研究が行われている。
  5. ^ アメリカン航空から1957年製造のダグラス DC-7型機を譲渡され小規模の様々な実験後1963年には離着陸失敗事故想定の再現検証実験に使用した。(FAA FIlm on crash safety tests, circa 1963. [1] From the archives of the San Diego Air and Space Museum[2])
  6. ^ 実施場所の条件、政府当局からの許可手続きと協力など。
  7. ^ 管制下の民間共用空港と市街地域の飛行から遠隔操作の無人離陸は許可されなかった。
  8. ^ 好奇心の扉:航空機事故は解明できるのか? | ディスカバリーチャンネル
  9. ^ Sandia National Laboratories: Sled Track

関連項目[編集]

外部リンク[編集]