ウクライナ国際航空752便撃墜事件

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ウクライナ国際航空 752便
Ukraine International Airlines Flight 752 (10).jpg
752便の残骸
事件の概要
日付 2020年1月8日
概要 イスラム革命防衛隊の誤認による撃墜
現場 イランの旗 イラン テヘラン州 シャフリヤール英語版付近
北緯35度33分40秒 東経51度06分14秒 / 北緯35.56111度 東経51.10389度 / 35.56111; 51.10389座標: 北緯35度33分40秒 東経51度06分14秒 / 北緯35.56111度 東経51.10389度 / 35.56111; 51.10389
乗客数 167
乗員数 9
負傷者数
(死者除く)
0
死者数 176(全員)
生存者数 0
機種 ボーイング737-8KV
運用者 ウクライナの旗 ウクライナ国際航空
機体記号 UR-PSR
出発地 イランの旗 エマーム・ホメイニー国際空港
目的地 ウクライナの旗 ボルィースピリ国際空港
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ウクライナ国際航空752便撃墜事件は、2020年1月8日イランテヘランエマーム・ホメイニー国際空港)発キエフボルィースピリ国際空港)行きのウクライナ国際航空752便(ボーイング737-800型機)が、離陸直後にイスラム革命防衛隊地対空ミサイルによって撃墜された航空事故である。乗員乗客176人全員が死亡した[1][2]

飛行の詳細[編集]

墜落地点の位置(イラン内)
墜落地点
墜落地点
おおよその墜落地点
752便の墜落現場

752便はエマーム・ホメイニー国際空港を推定で現地時間の6時10分に出発し[3]、離陸した直後に墜落した[4]Flightradar24によれば752便は離陸後、正常に上昇していたが現地時間6時14分にデータが途絶えた[5]

墜落機[編集]

2019年10月に撮影された墜落機

墜落機のボーイング737-800型機(UR-PSR)は、2016年7月にウクライナ国際航空へ納入された機体で、事件時点での機齢は約3年であった[6]。また、この機体は事件2日前の、2020年1月6日に定期メンテナンスを受けたばかりであった[7]

乗員・乗客[編集]

752便の搭乗者[8]
国籍 乗客 乗員 合計

イランの旗 イラン

82 0 82

カナダの旗 カナダ

63 0 63

 ウクライナ

2 9 11

 スウェーデン

10 0 10

アフガニスタンの旗 アフガニスタン

7 0 7

イギリスの旗 イギリス

3 0 3
合計 167 9 176

752便には乗員9人乗客167人が搭乗していた。内訳は、イラン人が82人、カナダ人が63人、ウクライナ人が11人、スウェーデン人が10人、アフガニスタン人が7人、イギリス人が3人であった[9]。このうち、カナダ人の多くはウクライナを経由して帰国する学生だった[10]。当初、ドイツ人が3人とされていたがドイツ外務省はこれを否定し、この3人は亡命を希望するドイツ在住のアフガニスタン人であった。[11]

墜落機には、パイロット3名と6名の客室乗務員が乗務していた。機長は Volodymyr Gaponenkoで、ボーイング737での総飛行時間は11600時間でうち5500時間を機長として飛行していた。副操縦士はSerhii Khomenko で、ボーイング737での飛行時間は7600時間だった。指導教官はOleksiy Naumkin で、ボーイング737での飛行時間は12000時間でうち6600時間を機長として飛行していた[12]

事件の経過と調査[編集]

事件直後の1月8日、イランの道路交通省の広報担当者は「エンジン1基で火災が発生し、それによりパイロットが機体の制御を失った」と述べた[13]。また、その他のイランのメディアも「752便は機械的故障により墜落した」と報じた[14][15]

しかし、1月10日には欧米メディアが「イランが誤って撃墜した」と相次いで報道をした[16]。当初、イラン政府の担当者は「この空域は国際便や国内便が行き交っており、そうした場所でミサイルを発射するなどありえない」「ミサイルで撃墜されたならばらばらになっているはずだが、パイロットは機体から火が出たあと空港に引き返そうとしていた」などと撃墜を全面否定していた。しかし、翌日の1月11日には一転してイスラム革命防衛隊が誤撃墜を認める声明を発表し、謝罪した[17][18]

1月18日、イラン当局はブラックボックスをウクライナに送ることを明らかにした。具体的な返還の時期は不明である。イランのタスニム通信によると、フランス、カナダ、米国の専門家が墜落機のボイスレコーダーなどデータの解析に当たる。イラン航空当局の事故調査責任者は「もしこの取り組みがうまくいかなければ、ブラックボックスはフランスに送る」と述べた。[19]

事件時の国際情勢[編集]

2020年1月3日アメリカ合衆国イスラム革命防衛隊の司令官であるガーセム・ソレイマーニーを殺害した(バグダード国際空港攻撃事件 (2020年))。事故発生の数時間前、イランは報復として在イラク米軍基地を攻撃したばかりであるなど、アメリカ・イランの間で緊張が高まっていた。

撃墜の原因[編集]

イスラム革命防衛隊は声明の中で、ウクライナ機を撃墜するに至った原因を以下の通り述べた。

  • アメリカによる報復の際、領土内の多数の場所が標的になったこと、前例のないほどに航空機の往来量が増加していたことを考慮して、イラン軍は最高レベルの臨戦態勢にあった[20][21]
  • イラクでのミサイル作戦遂行後、イランの国境周辺でアメリカ軍の戦闘機の往来量が増加し、自国の戦略的な地点へ近づく飛行物体を目撃したと報告があった[22]
  • イランの各地の防衛拠点がレーダー活動の増加を探知し、イランの防空センターで緊張感が高まっていた[22]
  • このような状況の中でウクライナ航空機が離陸した。また、同機はIRGC(イスラム革命防衛隊)の拠点へ近づいた[22]
  • 同機の高度、および飛行経路などを考慮してウクライナ機を「敵対的な標的」と判断した[22]

一方、航空機追跡・表示サイトのFlightradar24は、事件発生直前にエマーム・ホメイニー国際空港を離陸したフライト(10便)および過去3ヶ月の752便の飛行経路と事件当日の752便の飛行経路を比較した画像を掲載し、事件当日の752便が異常な飛行経路を辿っていたわけではないことを示した[23]


事件後の反応[編集]

1月8日[編集]

事件後、イランの国営メディアは、752便は6時22分に墜落し、生存者はいないと報じた[24][25]

この段階では、イランの道路交通省の広報担当はエンジン1基で火災が発生したことによる事故であるとした[13]

イラン側は墜落現場からブラックボックスを回収。イラン民間航空機関は、回収したブラックボックスの解析をボーイング機の製造者のアメリカ側に委ねないことを表明した[26]

在イランウクライナ大使館は声明を出し、この中で「事故調査委員会が出す結論より前の事故の原因に関する記述は公式ではない」とする声明を出した[27]

ウクライナ国際航空は声明を発表し、「遺族に深い哀悼の意を表し、支援するために可能な限りのことを行う」とし、併せて「追って通知があるまで、テヘランへのフライトを停止する」と発表した[28]

一方、CBSニューヨーク・タイムズなどのアメリカのメディアは、「イスラム革命防衛隊が発射した2発の地対空ミサイルによって撃墜された」と報じた。これに対しイラン側は、「陰謀論であり事実無根である」としている[29]

twitter上に「墜落現場近くでミサイルの残骸を発見した」という写真がアップロードされたが、これは9K330で運用されている9M330系ミサイルの残骸と見られる[30]。この写真にはアラビア語で「(墜落した)飛行機にこのようなものがありますが?これはミサイルじゃないのか?」とコメントも付けられていた。その後投稿者のアカウントは凍結された[31]。9K330はロシア製の地対空ミサイルシステムであり、イランにも輸出されている。

1月9日[編集]

機体が墜落する瞬間とされる動画がYoutubeなどのSNS上で複数公開された。動画にはミサイルらしきものが命中する様子、火を上げながら飛行する様子、墜落して爆発炎上する様子などが映されていた[32]。イランの国営メディアは動画の信憑性については述べなかったが、墜落前に機体が燃えていたと報道した[33]

1月10日[編集]

SNS上で公開された映像を典拠として欧米各国は一斉にイスラム革命防衛隊による地対空ミサイルによる撃墜説を報道した[16]。これに対しても、イラン政府は強硬に否定した。

1月11日[編集]

イスラム革命防衛隊が「ウクライナ国際航空機をイスラム革命防衛隊が、地対空ミサイルで誤って撃墜した」との声明を発表し、謝罪した。また、イスラム革命防衛隊の司令官が全責任を明言した[34]

9K330のものと思われる地対空ミサイルの部品が事件後に散乱していたことが、決定的な証拠とみなされた[35]

イスラム革命防衛隊がウクライナ機撃墜を認めたことを受け、テヘランでイラン政府とイスラム革命防衛隊に対する抗議デモが発生し約1,000人が参加した。墜落は事故との虚偽説明を一転させた当局に対し怒りの声が広がった[36]

3名の国民を事件で失ったイギリスが、同国の駐イラン大使が短時間拘束されたと発表した。イランでの報道によると「デモをあおった」ことが理由。イギリス外相は「根拠も説明もなしに拘束されたことは目に余る国際法違反だ」と非難する声明を発表した。

1月14日[編集]

イラン司法当局は、撃墜をめぐり、数人を逮捕したことを明らかにした。ハサン・ロウハーニー大統領は、首都テヘランで演説し、「世界がわれわれを注視している。責任や失態があった人々はいかなるレベルでも裁きを受けることが重要だ」と述べ、関係者を処罰する必要性を強調した。[37]

脚注[編集]

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  1. ^ Report: Ukrainian airplane carrying 180 passengers crashes in Tehran”. 2019年11月25日閲覧。
  2. ^ Ukrainian airplane with 180 aboard crashes in Iran: Fars”. Reuters (2020年1月7日). 2020年1月8日閲覧。
  3. ^ UKRAINE INTERNATIONAL AIRLINES CONFIRMS AIR ACCIDENT IN IRAN”. ウクライナ国際航空. 2020年1月8日閲覧。
  4. ^ Ukrainian airliner crashes near Tehran: Iranian media”. Al Jazeera (2020年1月8日). 2020年1月8日閲覧。
  5. ^ PS752”. 2020年1月8日閲覧。
  6. ^ UR-PSR Ukraine International Airlines Boeing 737-800” (英語). www.planespotters.net. 2020年1月8日閲覧。
  7. ^ UKRAINE INTERNATIONAL AIRLINES CONFIRMS AIR ACCIDENT IN IRAN”. ウクライナ国際航空. 2020年1月8日閲覧。
  8. ^ Live Updates: Boeing 737 with 167 Passengers Aboard Crashes After Take-Off from Tehran Airport©”. Sputnik News. 2020年1月8日閲覧。
  9. ^ Vadym Prystaiko”. Twitter. 2020年1月8日閲覧。
  10. ^ Iran state TV says Ukrainian airplane crashes near Tehran”. WBAL. 2020年1月8日閲覧。
  11. ^ Flugzeugabsturz im Iran: Familie aus Nordrhein-Westfalen unter den Opfern” (ドイツ語). https://www.soester-anzeiger.de (2020年1月10日). 2020年1月15日閲覧。
  12. ^ Information on PS752 crew – Ukraine International Airlines (UIA)”. ウクライナ国際航空. 2020年1月9日閲覧。
  13. ^ a b 176 people killed in Boeing 737 crash in Iran, state TV reports” (英語). ABC News (2020年1月8日). 2020年1月8日閲覧。
  14. ^ Ukrainian plane with 180 on board crashes near Tehran: Iranian state TV”. 2020年1月8日閲覧。
  15. ^ CNN, Artemis Moshtaghian and Joshua Berlinger. “Ukrainian Airlines plane crashes in Tehran shortly after takeoff”. CNN. 2020年1月8日閲覧。
  16. ^ a b ウクライナ機墜落 欧米各国「イランが誤撃墜」 イランは否定”. www3.nhk.or.jp. NHK NEWS WEB (2020年1月10日). 2020年1月10日閲覧。
  17. ^ "「誤って撃墜」とイランが声明". KYODO News. 共同通信社. 2020-01-11. 2020-01-11閲覧.
  18. ^ イラン軍 撃墜を認める ウクライナ機墜落 人為的なミスで”. www3.nhk.or.jp. NHK NEWS WEB (2020年1月11日). 2020年1月11日閲覧。
  19. ^ ブラックボックス、イランからウクライナへ 欧米専門家が解析”. 時事通信. 2020年1月19日閲覧。
  20. ^ “[http://www.iribnews.ir/fa/news/2617995/%D8%A7%D8%B7%D9%84%D8%A7%D8%B9%DB%8C%D9%87-%D8%B3%D8%AA%D8%A7%D8%AF%DA%A9%D9%84-%D9%86%DB%8C%D8%B1%D9%88%E2%80%8C%D9%87%D8%A7%DB%8C-%D9%85%D8%B3%D9%84%D8%AD-%D8%AF%D8%B1%D8%A8%D8%A7%D8%B1%D9%87-%D9%87%D9%88%D8%A7%D9%BE%DB%8C%D9%85%D8%A7%DB%8C-%D8%A7%D9%88%DA%A9%D8%B1%D8%A7%DB%8C%D9%86%DB%8C اطلاعیه ستادکل نیرو‌های مسلح درباره هواپیمای اوکراینی ستادکل نیرو‌های مسلح در خصوص سقوط هواپیمای مسافربری خطوط هوایی اوکراین اطلاعیه‌ای صادر کرد.]”. IRIB. 2020年1月11日閲覧。
  21. ^ イラン政府、ウクライナ航空機を「人的ミス」で撃墜と認める”. BBC. 2020年1月11日閲覧。
  22. ^ a b c d イランが撃墜認める、ミス原因 米を非難 ウクライナ機墜落”. CNN. 2020年1月11日閲覧。
  23. ^ Ukrainian flight PS752 shot down shortly after take off from Tehran” (2020年1月8日). 2020年1月18日閲覧。
  24. ^ 'No survivors' after Ukrainian airliner crashes near Tehran”. 2020年1月8日閲覧。
  25. ^ Boeing 737 passenger jet with 170 aboard crashes in Iran; all killed” (英語). Livemint (2020年1月8日). 2020年1月8日閲覧。
  26. ^ 墜落機ブラックボックス、米国への引き渡し否定”. AFP (2020年1月9日). 2020年1月9日閲覧。
  27. ^ Щодо авіакатастрофи літака "МАУ", що виконував рейс PS752”. 在イランウクライナ大使館. 2020年1月8日閲覧。
  28. ^ UKRAINE INTERNATIONAL AIRLINES CONFIRMS AIR ACCIDENT IN IRAN”. ウクライナ国際航空. 2020年1月8日閲覧。
  29. ^ ウクライナ機「誤って撃墜の可能性」 米メディア イランは否定”. www3.nhk.or.jp. NHK NEWS WEB (2020年1月10日). 2020年1月10日閲覧。
  30. ^ ミサイルの残骸を発見”. unknown (unknown). 2020年1月13日閲覧。
  31. ^ 旅客機墜落事故、ミサイルの残骸を発見か”. zapzapjp.com (2020年1月10日). 2020年1月13日閲覧。
  32. ^ Ukrainian airplane crashes near Tehran's Imam Khomeini Int’l Airport”. The Sydney Morning Herald. 2020年1月8日閲覧。
  33. ^ Ukraine International Airlines plane crashes in Tehran shortly after takeoff”. CNN. 2020年1月8日閲覧。
  34. ^ "イラン革命防衛隊の司令官、旅客機撃墜の責任認める 「巡航ミサイル」と誤認". AFP. AFP通信. 2020-01-11. 2020-01-11閲覧.
  35. ^ shot-down of flight ps752 of ukrainian international airlines”. BabakTaghvaee (2020年1月9日). 2020年1月13日閲覧。
  36. ^ イラン首都で1千人抗議デモ 旅客機撃墜の説明に怒り
  37. ^ ウクライナ旅客機撃墜で「数人逮捕」 大統領、責任追及強調―イラン”. 時事通信. 2020年1月14日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

  • News - ウクライナ国際航空 (英語)