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安全工学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

安全工学(あんぜんこうがく、英語:safety engineering)とは、工業医学、社会生活等において、システム教育工具機械装置類等による事故災害を起こりにくいようにする、安全性を追求・改善する工学の一分野である。

対象と方法

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安全工学が扱う対象は、労働現場や製品だけでなく、産業安全、社会安全、安全マネジメントを含む。『安全工学便覧』を「災害発生の原因の究明、災害防止、予防に必要な科学・技術に関する知識」を体系化した資料とし、その構成を安全工学総論、産業安全、社会安全、安全マネジメントの4編とする例もある[1]。実務上は、事故災害の発生後に原因を調べるだけではなく、設計運用保守教育安全管理を通じて、危険源を特定し、被害発生の可能性と影響を下げるための知識や技術が扱われる[2]。対象には、装置単体の故障だけでなく、設計条件、作業手順、保守点検、教育訓練、組織内の管理体制、事故情報の蓄積と共有も含まれる[1][2]

安全工学の方法としては、事故事例の収集・分析、リスク評価、安全マネジメント、本質安全(固有安全)、教育訓練、技術交流が扱われる。国内の安全工学シンポジウムでは、2025年の会合で「リスク評価とその活用」「先進技術システムのリスクアセスメント」「安全をマネジメントする枠組み」「本質安全(固有安全)」などが扱われ、2026年の会合でも安全工学に関する各分野の問題提起、研究成果の講演、技術交流が予定された[3][4]。この範囲では、機械化学電気原子力建築交通人間工学などの個別領域をまたいで、事故に至る過程、設備や手順の設計、組織的な管理、教育訓練が検討対象になる[3][4]

事故事例を調べる資料・データベースには、失敗学会の失敗知識データベース、消費者庁国民生活センターが共同で管理運営する事故情報データバンクシステム、製品評価技術基盤機構のNITE SAFE-Lite、厚生労働省の職場のあんぜんサイト内の労働災害事例がある[1]。事故情報データバンクシステムは、消費生活で生じた事故などの発生・拡大防止を目的として、行政機関、地方公共団体、関係機関が保有する情報を蓄積・活用するデータベースである[1]。NITE SAFE-Liteは1996年度から収集された事故情報を保存し、フリーワード、事故発生日、事故区分などの条件で検索できる[1]。職場のあんぜんサイトでは、労働災害事例、ヒヤリ・ハット事例、死傷災害、機械災害などを検索できる[1]。これらは、製品事故、消費生活事故、労働災害など、対象別に蓄積された事例を検索する入口として整理されている[1]

歴史

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イギリスの産業革命石炭によってもたらされたことはよく知られているが、石炭を採掘するのは20世紀の後半まで危険な作業であった。かつてのイギリスでも露天掘りではなく坑道による石炭採掘であったため、落盤酸素欠乏などの事故に常に悩まされていた。このため、石炭採掘に関わる鉱夫(こうふ)は酸素欠乏や有毒ガスに敏感に反応する鳥(カナリアなど)を籠に入れて坑道内に連れて行き、カナリアが気絶または死亡することによって危険を事前に察知し、その場を離れて被害を免れた。

20世紀の後半になると、装置や機械器具は大型かつ生活に密着したものとなり、原子力発電所飛行機等の事故など、1つのヒューマンエラーで多くの人命が一度に失われるような大規模な事故や、大災害となりうる事故(いわゆる「重大インシデント」)が発生するようになった。特にアメリカにおける航空機事故の調査から安全工学が発展した結果、ヒューマンエラーなどの個人的な資質の問題点よりも、安全教育や装置やシステム、操作方法などの見地からヒューマンエラーを回避するための調査・改善に重点が置かれるようになった(詳しい内容については航空事故#事故調査を参照)。フールプルーフフェイルセーフなどのように、人的エラーを起こしえないよう設計されるようにもなった。(現実には安全装置を解除しフェイルセーフが無効となり事故が起こるようにもなっている。)

また、20世紀の後半は人道的見地からの安全工学の発展もあった。それは職業職種に対する従事者の制限である。まず、先進国ではほとんどの国が健全な青少年の育成等に鑑み、義務教育期間は就労不可とするようになった。事故災害について判断の付かない若年者に危険な作業をさせないことは労働災害の減少につながるだけでなく、健全な社会環境の整備にもなる。また、妊産婦に対しても、一定期間中は危険作業に従事することを禁止している国も少なくない。

日本では、高度経済成長期工業技術院長を務めた工学博士黒川真武が、技術革新が進む一方で深刻化していた産業災害(特に化学事故)に対し、専門的な知見から警鐘を鳴らした。

  1. 技術革新とオートメーション化により、単純な死傷件数は減少傾向にあるものの、一度事故が起きると大規模化・複雑化している。
  2. 物理的から化学的へ、従来の機械的な事故だけでなく、目に見えない化学的反応による爆発や火災が増加している。
  3. それにより、連続操業化により、一部の事故が全工程の停止や莫大な損失を招く構造になり、経済的損失の増大している。

〇事故原因の3分類

  1. 新技術に伴う未知の現象: 開発を急ぐあまり、安全性の研究が後回しにされている。
  2. 異常操作: 工場の増設や改造など、日常とは異なる操作時に発生する。
  3. 不注意・規則無視: 教育の徹底と安全意識の欠如。

〇「生産技術」と「防災技術」の乖離

  1. 生産技術は目覚ましく発展しているが、それを守るための防災技術の研究が「縁の下の力持ち」扱いされ、著しく遅れている。
  2. 国産技術の開発においては、生産と防災を「平行して」確立すべき。
  3. 防災は化学、機械、電気などが融合した「境界技術(総合技術)」であり、専門家がバラバラに研究しても解決しない。

〇 下請業者への教育と責任

  1. オートメーション化が進まない修理や保守などの危険な作業現場に下請業者が多く入るようになり、犠牲者の多くが下請業者で占められている現状である。
  2. 下請業者への教育、安全工学の体系化が今後の大きな課題。

化学、機械、電気、物理などが交差する「境界領域(総合技術)」こそが防災の本質であると説き、安全を「個人の注意」に頼るのではなく、「安全工学(Safety Engineering)」という独立した学問体系として大学などに設置すべきだと提言した[5]。これにより、精神論としての「安全」から、データと工学に基づいた「事故を防ぐための設計・管理」へとパラダイムシフトが起こり、大学や研究機関に安全工学の講座が設置された。黒川は高圧ガス保安協会の初代会長として、法律(高圧ガス取締法)の改正とともに、民間企業が「自主保安」を行うための技術基準を作り上げ、企業自らが技術的にリスクを評価し、保安体制を組む日本独自の自主保安体制のモデルケースとした。

特に、近年では事故や災害を発生させることが企業にとって多大なる損失をもたらすだけではなく、労働者、さらには消費者に対して安全を図ることは、三者が同じ利害を有していることが認識されており、社会的な課題である。日本では、学会の学会である日本学術会議が主催して、各学会の協力のもと、毎年7月に安全工学シンポジウムを開催しており、更なる発展が望まれている。

有名な事故

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脚注

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  1. 1 2 3 4 5 6 7 安全工学について調べる”. 国立国会図書館リサーチ・ナビ (2026年1月7日). 2026年7月9日閲覧。
  2. 1 2 ホーム”. 安全工学会. 2026年7月9日閲覧。
  3. 1 2 公開シンポジウム「安全工学シンポジウム2025」”. 日本学術会議. 2026年7月9日閲覧。
  4. 1 2 安全工学シンポジウム2026”. 安全工学シンポジウム2026. 2026年7月9日閲覧。
  5. 『産業災害特に化学工業災害の現状と問題点』

関連項目

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事故
関係のある学問
  • 信頼性工学
  • 安全学(こちらは工学的な面だけにとどまらず、社会的・人間的な面まで含めて、きわめて広く、総合的に扱う)
  • 失敗学

外部リンク

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