厨子

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厨子(ずし)は、収納具の一種であり、次のような用途で用いられるものである。(がん)ともいう。

  • (もともとは)厨房で調理道具や食材等を納めるために使った収納具(「厨子」の「厨」は「厨房(ちゅうぼう、つまり台所、キッチン)」の「厨」と同じ字であり、料理・調理関連のことを指す字である)。
  • (上から派生して)身の回りの品を納めるために使った収納具。室内装飾の役割も果たした調度品(家具)であった(つまり現代で言う「インテリア家具」でもあった。)
  • (上から派生したものだが)仏像仏舎利教典位牌などを中に安置するための収納具(これは仏龕(ぶつがん)ともいう)。仏具の一種という位置づけになる。仏壇も厨子の一種と分類することもできる。

概要[編集]

現代のもの

正面に観音開きの扉が付く。塗りのものや、唐木プラスチック製がある。 また手動で開くものに加え、最近では電動で扉が開閉するものが登場しており、主に葬儀式においては創価学会が祭壇に据える。日蓮正宗の葬儀でも祭壇に置かれ、導師本尊が掲げられる。

近年、小型の仏壇として見直されている。

歴史[編集]

もともと厨房(ちゅうぼう)(台所)で使用する道具類を入れる「いれもの」のことであった。厨房(台所)で使用する収納具が、厨房の外でも収納具として使われるようになり、転じて仏教用具を納める両扉の収納具としても用いられるようになったといわれている。

厨子は、もともと中国大陸にあったものであり[1]、それが奈良時代に日本に渡来した。

中国でも、日本でも(当記事の最初の定義文で挙げた)3つの用途の厨子があった。

仏像、経巻、舎利、仏画などを納める仏具としの厨子は仏龕ともいう。(略して書く場合は)「豆子」とも書く。観音開きの扉をつけて漆や箔などを塗り装飾したものであり、ほとんどは木製で、屋形や筒形などがある。こうした形式はインド石窟寺院の「龕(がん)」に基づくものともいわれるが、中国の『広弘明集(こうぐみょうしゅう)』第十六には「或は十尊五聖は共に一厨に処し、或は大士如来は倶(とも)に一櫃(ひつ)に蔵す」という一文があるので、すでに時代には中国で尊像類を厨子や櫃に安置することが行われていたとうかがえる[1]

日本での歴史

食事道具の一種としての厨子の例としては奈良時代のものがあり、たとえば正倉院には「棚厨子」の実物が遺されており、これは天板とを2段渡しただけの簡単な形のもの(現代の素朴な本棚のようなもの)であった[1]。またこうした形の厨子は『信貴山縁起(しぎさんえんぎ)』『粉河寺縁起(こかわでらえんぎ)』『石山寺縁起』『慕帰絵詞(ぼきえことば)』といった絵巻物の台所の場面に登場しており、食品や食器などが載せられている[1]

正倉院にはまた、伝来品の「柿厨子(かきずし)」「黒柿両面厨子」が納められており、それらは両開き扉付き、牙象の基台といった基本的な構造からなる[1]

身の回りの品々を整理し収納できる道具としての厨子は、天武天皇より聖武天皇に至る代々の天皇が、室内装飾を兼ねた調度品として愛好した[1]。 正倉院には孝謙天皇が大仏に献じた「赤漆文欟木厨子(せきしつのぶんかんぼくのずし)」も納められており、これはケヤキの板に朱を塗りその上に透明な漆を塗っており(今日でいう「春慶塗」の技法)、両開き扉に鏁子(さし)をつけ、下部に牙象の基台を据え、内部には2段の棚があるものである。『東大寺献物帳』によると、この厨子には書物や、刀子(とうす)、尺、笏(しゃく)、尺八、犀角盃(さいかくはい)、双六(すごろく)などといった様々な品々が収納されている[1](これで天皇がどのような用途で使っていたかおおよそ推察できる。)

平安時代にはすでに一般庶民のあいだでも棚厨子が使用されていたということが様々な証拠で知られている[1]。たとえば絵巻物の『絵師草紙』の居間の場面に登場している厨子は3段のもので、上段には巻子(かんす)・巻紙・書状・刷毛、中段には黒塗りの箱・白木の箱、下段には木鉢・曲物水瓶が置かれているのが描かれている[1]。またたとえば『春日権現霊験記(かすがごんげんれいげんき)』の居間の場面に登場する厨子は2段で、上段に巻子・冊子・黒箱、下段には蒔絵の手箱が置かれているのが描かれている[1]。庶民の厨子は、実生活で使用されるものを置くのに使われ、実用的な「白木造り」のものであったようである[1]

歴史的な品としては特に法隆寺玉虫厨子正倉院赤漆文欟木御厨子が有名である。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k 『日本大百科全書』【厨子】
  2. ^ 「厨子入木造弥勒菩薩半跏像」として

関連項目[編集]

  • en:Cupboard(カップボード) - 英語版記事。英語圏でも、もともとカップ類(食器類)を置くための収納具だったcupboard(カップボード)が、やがて台所以外の場所で様々なものを入れるための棚として使われるようになり、現在ではcupboardは箱状の棚全般、たとえば事務所などで使う棚も含めてcupboardという。