アパレル産業
アパレル産業(アパレルさんぎょう)とは、衣服の製造業及び流通業のこと[1]。アパレル (英: apparel ) は衣服を意味する英語の古語に由来する語で、日本語では主に洋装系の既製服を指し、また「アパレル産業」の意味にも用いられる[2]。衣服の企画・製造・卸売を行う企業をアパレルメーカーと呼ぶ。
アパレル産業と繊維工業や繊維産業の関係、線引き
[編集]世界産業分類基準(GICS)では一般消費財・ サービスセクターに「耐久消費財・アパレル」という産業グループの分類が設けられている。
なお、近接する用語・概念に繊維工業や繊維産業があるが、「繊維工業」は織物(テキスタイル)製造業である。一方、繊維産業という用語は、指す範囲がかなり広く、化学繊維製造業、繊維工業、および(当記事で扱う)アパレル産業の3つを基本として、さらにそれらを扱う卸売業・小売業や総合商社や「デパートの繊維部門」まで幅広く指しており[3]、製造されている品も、衣料向けのほか、産業資材(建材・自動車・航空機等)・衛生資材・生活資材向けの繊維製品がある[4]、という違いがある。
かつての繊維業界の中心は織物などの製造であった。このような織物を「繊維一次製品」と呼ぶのに対して、衣服製造品は「繊維二次製品」と呼ばれ、衣服製造業者は二次製品メーカーと呼ばれた[5]。その後、衣服製造及び流通の産業化に伴って、1972年頃からアパレル産業と呼ばれるようになり[6]、1977年に通産省生活産業局がこの語を用いた報告書(通商産業省 (1977))を刊行してから一般化した[5]。この報告書では、日本標準産業分類における「繊維工業」内の「メリヤス製造業」と「衣服、その他の繊維製品製造業」を「アパレル製造業」とし、また流通業については「卸売業及び小売業」を対象にしている[1]。
日本標準産業分類はその後の改定で中分類「繊維工業(衣服、その他の繊維製品を除く)」と「衣服・その他の繊維製品製造業」が中分類「繊維工業」に統合されている[7]。
既製服の製造と小売は、歴史的には分離しているケースが多かったが、1980年代後半より、SPA (英: specialty store retailer of private label apparel ) と呼ばれる、企画・製造から小売までを手がける業態が増えている。日本では、大規模な繊維問屋街を持つ岐阜市(岐阜県)や学生服やジーンズの生産で有名な児島を有する三備地域(岡山県南部から広島県東部)等が、アパレル産業の盛んな地域として知られている。
アパレル産業の世界規模
[編集]2016年の世界の繊維全体の最終需要量は8800万tで、1990年の約2.3倍となり、一人当たり需要量も約1.6倍に増加した[4]。
統計的に言うと、2020年代の現在、毎年世界ではおよそ800億点の衣服が購入されている[8]。これは20年前の約4倍に当たる。(参考までに言っておくと、これには世界の人々の経済水準や消費傾向の変化だけでなく、世界人口が猛烈な勢いで増えていることも影響しており、UNFPAの「世界人口白書2024」によると2024年の世界人口は前年より7400万人増え、81億1900万人だった[9][10]。そして大雑把な概数で言うと、2020年代現在、世界のひとり当たりの平均購入点数は毎年10点ほど、ということになる。)だが、世界には貧困が広がり貧富の差が拡大していて数百万人の人々が極貧状態で生きていて服を購入することもできないことを考慮すると、実際には10点よりかなり少なくしか買えない人々が大勢いる一方で、一部の裕福な人々(裕福な地域の人々、裕福な国の人々)が とてつもなく大量に購入することで平均値が押し上げられた結果「世界のひとり当たり平均はおよそ10点」となっている、と考えたほうがよい[8]。
国別の統計で見ると(「着」だけでは表せない場合があるとして「ユニット」という言葉で数えた統計によると)購入数が多い国の上位は、中国 400億ユニット、アメリカ合衆国 170億ユニット、インド 60億ユニット、日本 33億ユニット、ブラジル 23億ユニット、ドイツ 23億ユニット、イギリス 21億ユニット、ロシア 20億ユニット、フランス 15億ユニットなどとなっている[8][11]。
なお、世界のアパレル産業は新型コロナのパンデミックが発生した際に打撃を受け(統計により若干数字は異なるが)2020年は前年と比べておよそ18%から20%ほど縮小した[8]。
産業構造
[編集]繊維製品および衣料品の関連産業は、農業からサービス業に至るまで幅広くあげることができる。
職種
[編集]まずアパレル産業を担う職種の主なものを例示する。
- 企画
- 流通、販売
-
- バイヤー
- アパレルショップ店員(店舗スタッフ)
- ファッションアドバイザー(アドバイザー)(FA) - 主に小売店でお客の相談相手になり販売を助ける
- クライアントへのファッション情報提供、コーディネートなど
- その他
以上の職種の人々の養成機関(教育機関)およびその教員もアパレル産業に重要なので、参考までに挙げる。アパレル企業での勤務経験がある人が教育機関の教壇に立つこともあるなど、一部で相互に人材の行き来もある。
- 教育
職業能力
[編集]アパレル産業全般、あるいはその中の特定の職種で必要とされている職業能力について例示する。 中央職業能力開発協会(JAVADA)が厚生労働省から委託を受けまとめた職業能力評価基準のうち、被服関連の職業(業種)、職種、職務、能力ユニット名には次のものがあり[12]、それがほぼ該当するので下に挙げる。
アパレル分野(その他)
[編集]- 全職務共通
- アパレル企画
- マーチャンダイジング
- デザイン
- シーズンテーマの設定(デザイン)
- アイテム・素材構成の設定とファブリケーション
- 製品イメージの具現化(デザイン)
- 展示会開催業務
- アパレル設計
- パターンメーキング(型紙製作)
- 製品イメージの具現化(パターンメーキング)
- 生産に向けたパターン作成
- 生産に向けたパターン修正
- 検反作業 ※「検反」(けんたん)とは、織物に織キズ・染めむら・汚染等の欠点がないかを検査すること。服を作る素材となる布のことを古風な言い方で反物(たんもの)といい[14]、反物を検査するので略して検反(けんたん)という。
- 延反・裁断作業
- 縫製作業
- 最終仕上げ
- 製品検査
- アパレル製造
- 検反・裁断
- 検反作業
- 延反・裁断作業
- 縫製
- 縫製工程分析
- 縫製作業
- 最終仕上げ
- 製品検査
- パターンメーキング(型紙製作)
- 製品イメージの具現化(パターンメーキング)(再掲)
- 生産に向けたパターン作成
- 生産に向けたパターン修正
- アパレル販売
- 販売
- 店舗運営(全て選択)
- 各種計画策定
- 店舗の人事管理
- 店舗運営
- 店舗運営(該当ユニットを選択)
- 接客(再掲)
- 顧客管理(再掲)
- 売り場作り・VMD(再掲)
- 商品管理(再掲)
- 店頭情報の収集・フィードバック(再掲)
- 店舗計数管理(再掲)
- 店舗管理
クリーニング業(サービス業関係)
[編集]- 全職務共通
- 企業ビジョンに基づく業務の推進及び諸ルールの遵守
- 関係者との連携と業務の効率的遂行
- 予算策定とコストのマネジメント
- 組織と人のマネジメント
- 経営管理
- 営業管理
- 店舗管理
- 外交営業管理
- 工場管理
- 工場運営管理
- 環境管理
- 品質管理
- 品質管理
- クレーム情報収集・管理
- 工場
- 工場作業
- 洗濯物仕分け
- 洗浄
- しみ抜き
- 仕上げ
- 検査・包装
- 機械・工場保全
- 仕上り品保管
- 外注品・リフォーム品管理
- 配送
- 配送
- 営業
- 店舗業務
- 店舗業務
- 外交営業
- 外交営業
関連行事
[編集]コンクール・コンテスト
[編集]- 技能五輪国際大会(World Skills Competition) 洋裁部門(Ladies Dressmaking) - ワールドスキルズインターナショナル(WSI:World Skills International)(1950年~)
- 技能五輪全国大会 洋裁、和裁、貴金属装身具部門 - 中央職業能力開発協会(1963年~)青年技能者(原則23歳以下)対象
- 技能グランプリ大会 染色補正、婦人服製作、紳士服製作、和裁、貴金属装身具部門 - 中央職業能力開発協会、社団法人全国技能士会連合会共催(1981年~)。特級、1級および単一等級の技能士で多年の実務経験も必要
- 全国アビリンピック(全国障害者技能競技大会)職業技能競技種目 洋裁、洋服、縫製部門、生活・余暇技能競技種目 編物、刺繍部門 - :独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(1972年~)
- 国際アビリンピック(国際障害者技能競技大会)職業技能競技種目 洋裁-婦人服(応用)、洋裁-婦人服(基礎)、洋服-紳士服部門、生活余暇技能競技種目 刺繍、編物部門 - :国際アビリンピック連合 (IAF)、国際リハビリテーション協会 (RI) 共催(1981年~)
- 日本洋装技能コンクール - 社団法人日本洋装協会
- 全国和裁技術コンクール - 社団法人日本和裁士会(1954年~)
- 全国きものコンテスト - 日本和装コンサルタント協会
- 全日本きものの女王コンテスト - 社団法人全日本きもの振興会(1966年~)
イベント
[編集]- 世界3大テキスタイル見本市
- その他主要な見本市
-
- ミラノ・ウニカ (Milano Unica[19]) - イタリア、ミラノ(2005年~)
- インターストッフ・アジア・エッセンシャル (Interstoff Asia Essential[20]) - 中華人民共和国、香港
- 東京発日本ファッション・ウィーク(2005年~) - 有限責任中間法人日本ファッション・ウィーク推進機構(旧、ファッション戦略会議)・財団法人日本ファッション協会
- 神戸ファッション・ウィーク - 神戸ファッションウィーク推進協議会(神戸ファッションウィーク実行委員会)
関連規格
[編集]被服に関連する各種規格コード等を例示する。このうちICSは、国際規格、地域規格、国家規格等について、国際的に共通 の分類を行う事を目的にISOによって作成されたコード体系である。
ICSコード一覧
[編集]ICS (International Classification for Standards) 国際規格分類
- 03 - Services. Company organization, management and quality. Administration. Transport. Sociology (サービス。経営組織、管理及び品質。行政。運輸。社会学)
- 03.080: Services
- 03.080.30 Services for consumers
- Including hotels, restaurants, washing, cleaning, removals, funerals, etc.
- Consumer information, see 97.020
- Transport services and costs, see 03.220
- 03.080.30 Services for consumers
- 59 - Textile and leather technology (繊維及び皮革技術)
- 59.020 Processes of the textile industry (繊維助剤)
- 59.040 Textile auxiliary materials
- Including feathers and down
- Surface active agents, see 71.100.40
- 59.060 Textile fibres (紡織繊維)
- 59.080 Products of the textile industry (繊維工業製品)
- Fishing nets, see 65.150
- Home textiles and linen, see 97.160
- Materials for the reinforcement of composites, see 59.100
- Upholstery, see 97.140
- 59.100 Materials for the reinforcement of composites (複合強化材料)
- 59.120 Textile machinery (繊維機械)
- 59.140 Leather technology (皮革技術)
- Including fur and imitation leather
- Footwear, see 61.060
- Sewing machines and machines for footwear production, see 61.080
- 61 - Clothing industry (被服工業)
- 61.020 Clothes (被服)
- Including underwear, nightwear, knitwear, military clothing, hosiery, etc. and their labelling and size coding schemes
- Medical garments, see 11.140
- Protective clothing, see 13.340.10
- 61.040 Headgear. Clothing accessories. Fastening of clothing (かぶりもの、衣服の付属品、衣服の止め具)
- Including ties, gloves, scarves, handkerchiefs, belts, braces, buttons, zip-fasteners, umbrellas, etc.
- Protective gloves, see 13.340.40
- Protective headgear, see 13.340.20
- 61.060 Footwear (はき物)
- Including shoelaces
- Protective footwear, see 13.340.50
- 61.080 Sewing machines and other equipment for the clothing industry (縫製機械及びその他の設備)
- Including household sewing machines
- Washing machines, driers, ironing and pressing appliances, see 97.060
- 97 - Domestic and commercial equipment. Entertainment. Sports (家庭用及び商業用設備.娯楽.スポーツ)
- 97.060 Laundry appliances (洗濯機具)
- Including washing-machines, dry-cleaners, driers, ironing and pressing appliances, etc.
- 97.160 Home textiles. Linen (家庭用繊維製品.リネン)
- Including duvets, blankets, bedding
- Electric blankets, see 97.030
- 97.195 Items of art and handicrafts (美術及び手工芸)
- Including equipment and materials for creating items of art and handicrafts
ISO TCコード一覧
[編集]ISO (International Organization for Standardization) 国際標準化機構
TC (Technical Committee) 技術委員会
- TC 38 - Textiles
- TC 38/SC 1 Tests for coloured textiles and colorants
- TC 38/SC 2 Cleansing, finishing and water resistance tests
- TC 38/SC 20 Fabric descriptions
- TC 38/SC 23 Fibres and yarns
- TC 38/SC 24 Conditioning atmospheres and physical tests for textile fabrics
- TC 72 - Textile machinery and accessories
- TC 72/SC 1 Spinning preparatory, spinning, twisting and winding machinery and accessories
- TC 72/SC 3 Machinery for fabric manufacturing including preparatory machinery and accessories
- TC 72/SC 4 Dyeing and finishing machinery and accessories
- TC 72/SC 5 Industrial laundry and dry-cleaning machinery and accessories
- TC 72/SC 7 Data interfaces for monitoring and control of textile machinery
- TC 72/SC 8 Safety requirements for textile machinery
- TC 72/SC 9 Graphical symbols for textile machinery
- TC 91 - Surface active agents
- TC 133 - Sizing systems and designations for clothes - STANDBY
- TC 137 - Footwear sizing designations and marking systems
- TC 174 - Jewellery
- TC 217 - Cosmetics
JIS部門・分類名
[編集]JIS (Japanese Industrial Standards) 日本工業規格
- L.繊維 一般
- 試験及び検査
- 糸・条
- 織物・編組物
- 繊維製品
- 糸類製造機械
- 織物・編組物製造機械
- 染色仕上機械
大手アパレル企業
[編集]アパレル産業の世界でも中小企業の数が多いが、参考までに、ランキングで10位に入るような大手アパレル企業を挙げる。
世界の小売店の順位
[編集]世界の小売店の売上高の順位は、2012年度で次のとおりとの分析がある[21]。
- 1位 Inditex (スペインが拠点で、ZARAなどのブランドを保有。)
- 2位 H&M(スウェーデンが拠点)
- 3位 GAP(アメリカ合衆国が拠点)
- 4位 Limited Brands(アメリカ合衆国が拠点)
- 5位 ファーストリテイリング(日本が拠点で、ユニクロやジーユーなどを世界展開)
- 6位 C&AEurope(オランダが拠点)
- 7位 Next(イギリスが拠点)
- 8位 プライマーク(アイルランドが拠点)
- 9位 しまむら(日本が拠点で、主に日本で販売。「しまむら」 1,415店舗、アベイル 312店舗、バースデイ 324店舗など。他に台湾にも若干店舗があり、総計2200店舗)
日本のアパレルメーカー売上順位
[編集]また日本国内のメーカーに限った順位は次のようになっている。
順位 | 会社名 | 売上 (億円) |
---|---|---|
1 | ファーストリテイリング | 21,329 |
2 | しまむら | 5,836 |
3 | アダストリア | 2,015 |
4 | ワコールホールディングス | 1,728 |
5 | ワールド | 1,713 |
6 | 良品計画 | 1,690 |
7 | オンワードホールディングス | 1,684 |
8 | 青山商事 | 1,659 |
9 | 西松屋チェーン | 1,630 |
10 | AOKIホールディングス | 1,549 |
課題
[編集]アパレル産業が流行に合わせ大量生産した服が大量に廃棄されることから、国連貿易開発会議では世界第2位の環境汚染産業と指摘された[23]。これに合わせ、アパレルメーカーでは補修サービスなどにより環境負荷を抑える試みが模索されている[23]。
脚注
[編集]- ^ a b 通商産業省 1977.
- ^ 日本家政学会 2012, p. 15.
- ^ 日本化学繊維協会「化学繊維の用語集」
- ^ a b “繊維産業の課題と経済産業省の取組”. 経済産業省. 2019年2月12日閲覧。
- ^ a b 鍜島康子 2006, p. 11.
- ^ 中込省三 1977, p. 179.
- ^ “業種分類表(新旧に属する区分が小分類以上に係る変更のみ)”. 財務省. 2019年2月12日閲覧。
- ^ a b c d Fashion United
- ^ UNFPA、世界人口白書2024
- ^ [1]
- ^ このデータの出典は、How Much Does The World Buy? May 2018、さらにそのデータ元となっている「Number of apparel units purchased per country, 2017」など。
- ^ 職業能力評価基準のご案内
- ^ [2]
- ^ [3]
- ^ [4]
- ^ Première VisionのHP
- ^ interstoffのHP
- ^ IdeacomoのHP
- ^ Milano UnicaのHP
- ^ Interstoff Asia EssentialのHP
- ^ 齊藤孝浩 2013.
- ^ “アパレル業界 売上高ランキング(2021-2022年)-業界動向サーチ”. gyokai-search.com. 2023年6月6日閲覧。
- ^ a b 日本放送協会. “長く着たら、お得? ~アパレル業界の大量廃棄を減らせ!~ | NHK | ビジネス特集”. NHKニュース. 2022年12月17日閲覧。
参考文献
[編集]- 大沼淳、荻村昭典、深井晃子 著、文化出版局・文化女子大学教科書出版部 編『ファッション辞典』文化出版局、1999年。ISBN 978-4579501588。
- 鍜島康子『アパレル産業の成立―その要因と企業経営の分析』東京図書出版会、2006年。ISBN 4862230008。
- 齊藤孝浩 (2013年8月17日). “ファッション流通ブログde業界関心事 世界アパレル専門店売上高ランキング2012トップ10”. Fashionsnap.com. 2016年1月20日閲覧。
- 通商産業省生活産業局 編『明日のアパレル産業−その現況と課題を探る』日本繊維新聞社、1977年。全国書誌番号:77023042。
- 中込省三『アパレル産業への離陸−繊維産業の終焉』東洋経済新報社、1977年。全国書誌番号:77022972。
- 日本家政学会被服衛生部会 編『アパレルと健康−基礎から進化する衣服まで』井上書院、2012年。ISBN 9784753023226。