2020年東京オリンピックのレガシー
東京2020オリンピック競技大会 |
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2020年東京オリンピックのレガシー(2020ねんとうきょうオリンピックのレガシー)とは、東京2020大会開催により開催都市である東京や開催国である日本が、長期にわたり享受できる社会資本・経済的恩恵・文化的財のことである。
オリンピック閉幕後に残る遺産(オリンピック・レガシー)をどのように活用するかも問われる。この場合の遺産とは単に国立競技場の建て替えなど建造物のみならず、再開発に伴う都市景観や環境・持続可能性、さらにオリンピックで醸成されたスポーツ文化やホスピタリティ精神といった「無形の遺産」を根付かせ発展・継承させることも含まれ、文化プログラムや観光立国の推進など様々な分野で取り組みが実施された。
経緯
大会前における策定
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(TOCOG)は、レガシーを残す取り組みを進めるため、「スポーツ・健康」、「街づくり・持続可能性」、「文化・教育」、「経済・テクノロジー」、「復興・オールジャパン・世界への発信」の五本の柱を掲げている[1]。東京都のオリンピック・パラリンピック準備局が策定した「大会後のレガシーを見据えて」では、
- 競技施設や選手村のレガシーを都民の貴重な財産として未来に引き継ぐ
- 大会を機にスポーツが日常生活にとけ込み、誰もが生き生きと豊かに暮らせる東京を実現
- 都民とともに大会を創りあげ、かけがえのない感動と記憶を残す
- 大会を文化の祭典としても成功させ、「世界一の文化都市東京」を実現する
- オリンピック・パラリンピック教育を通じた人材育成と、多様性を尊重する共生社会づくりを進める
- 環境に配慮した持続可能な大会を通じて豊かな都市環境を次世代に引き継ぐ
- 大会による経済効果を最大限に生かし、東京そして日本の経済を活性化させる
- 被災地との絆を次代に引き継ぎ、大会を通じて世界の人々に感謝を伝える
とする[2]。こうしたレガシー構想が実現することにより、約27兆円の経済効果が得られると都は試算する[3]。
競技施設
大会の競技施設は有形のレガシーとなりうる。また、国立代々木競技場・東京体育館・日本武道館・馬事公苑など1964年の東京オリンピックで用いられた競技会場を2020年のオリンピックで再利用することになり、これらがある山の手側を「ヘリテッジ(遺産)ゾーン」と呼ぶ。
国立競技場の建て替えにおけるザハ・ハディド案が撤回され、予定していた以下のレガシー機能は実現しなかった[4]。
都市インフラ
オリンピックでの交通渋滞を緩和すべく鉄道網の整備が進められている。
- 山手線の品川駅〜田町駅間に競技場へのアクセス利便性を向上する新駅を開設する[5]
- 虎ノ門ヒルズ脇に会場や選手村を結ぶバスターミナルが設置される予定から、東京メトロ日比谷線の霞ケ関駅〜神谷町駅間に新駅を開設する[6]
- この他、複数の羽田空港アクセス線構想も浮上しているが、路線によってはオリンピックまでの開業が困難な計画もある
東京都は水上交通の見直しも進めており、羽田空港と都心を結ぶ航路を計画している[7]。
都市景観向上の観点から電線類地中化を小池都知事が推進しており、無電柱化推進法の可決も後押しとなる[8][9]。
東京都は国土交通省などとともに2019年度までに東京の都市としての歴史と自動運転車や水素タウンといった近未来社会を先取る先端技術を東京の魅力として発信するPR展示施設を開設する[10]。
日本政府と企業は世界に五輪を通じて日本の技術力を更に認知させるとして、2016年には国土交通省がマラソン・競歩・自転車のコースを新たな特殊技術で舗装することで、路面温度を4.8°C下げるなどの技術開発に成功している。
芸術文化
オリンピック憲章と「オリンピック・アジェンダ2020」[11] では、スポーツのみならず文化プログラムとしての文化オリンピアードの実施も呼び掛けている[12]。東京2020パラリンピック開催に伴い障害者文化の社会浸透を目指し、障害者芸術普及目的でアールブリュット(エイブル・アート)を支援すべく超党派による議員連盟が障害者文化芸術活動推進法の成立を目指している[13]。
多様性と調和
東京2020大会ビジョンのコンセプトの一つである「多様性と調和」をテーマに、LGBTへの偏見・差別解消、パラリンピックによってバリアフリーの浸透やノーマライゼーションが広まることも期待されている[14][補 1]。
大学連携
2014年6月23日に組織委員会と全国の大学・短期大学が連携協定を締結し、2020年の大会に向けて、オリンピック・パラリンピック教育の推進やグローバル人材の育成、各大学の特色を活かした取り組みを進めていくこととなった[15]。
課外活動の促進や特別講義の他、正課の授業としてオリンピック・パラリンピックに関する講座を開設している例[16][17]もある。
おもてなし
誘致の際に話題となった「おもてなし」の精神を具現化する構想が練られている。オリンピックボランティアは、「オリンピックは競技者だけのものではない」との国際オリンピック委員会(IOC)の考え方を反映したものである[18]。東京都ではオリンピック運営を直接支援するボランティアとは別に、増加が見込まれる外国人観光客に対応する観光ボランティアの体制整備も進めている[19]。
観光立国
- 東京2020大会までに訪日外国人旅行を2000万人にし、それを維持することで景気・経済の維持を図る[補 2]。その一環として宿泊施設不足を解消すべく民泊が裁可され、ホテルの容積率を1.5倍もしくは300%まで上乗せすることを認め[20]、統合型リゾートも推進される。また、オリンピックまでに国立公園への外国人旅行者を1000万人誘致することを目標とする[21]。
↳国立公園の活用については遺産の商品化#自然の商品化も参照 - 利用客の増加を見込み羽田空港の第2ターミナルを改修し、国内線のみならず国際線の発着も可能にする[22]。
- 東京オリンピックでは情報通信技術 (ICT) による運営サポートの社会整備を目指している。現状でも訪日旅行者から要望が高い無料公衆無線LAN(Wi-Fi)網の整備や、ハイテクのイメージが強い日本をアピールすべくウェアラブル端末による観戦の実現などが注目される[23][24]。
- 日本らしさを讃える地方の景観を五輪レガシーと位置づけ、景観整備(修景)や広報を政府として支援し、1.5流の観光地を一流の国際的名所に育てる「観光景観モデル地区」を国土交通省が推進する[25]。
- 和式トイレに不慣れな外国人旅行者のため公衆トイレの洋式化を観光庁が推進・補助する[26]。
- IOCが定めるオリンピック病を中心に外国人受け入れのためタブレット[要曖昧さ回避]問診や多言語通訳機材の導入が始まり、東京に暮らす外国人の医療分野における利便性が向上し、医療観光の促進にも結び付けられる。
その他のアクション
- 文部科学省の外局としてスポーツ庁を設立する。
- IOCが「タバコのない五輪」を掲げ、世界保健機関(WHO)によるたばこ規制枠組み条約をうけ、厚生労働省が受動喫煙の被害防止を目指し、禁煙・分煙の強化を推進する[27]。
- 食の安全を世界にアピールすべく食品衛生の管理を厳格化しHACCP導入を義務化することで、福島第一原子力発電所事故による風評被害を払拭し復興に貢献する[28]。
負のレガシー
多大な赤字
新しく整備された施設の収支は、6つのうち5つの施設で赤字となる見通しである。年間赤字額は東京アクアティクスセンターが6億3800万円,海の森水上競技場が1億5800万円,カヌー・スラロームセンターが1億8600万円,大井ホッケー競技場が9200万円,夢の島公園アーチェリー場が1170万円と見積もられている[29]。また、東京2020大会全体としても2.3兆円の赤字となり、その補填も閉幕後の課題となる[30]。
都市環境破壊
オリンピック需要を見越してホテルの新築・建て替えが都内随所で進行しているが、それに伴い日本の伝統美をちりばめたホテルオークラのロビーが解体されることを都市環境破壊の典型例として、オリンピックがもたらす負の効果であるとされる[31]。
ホームレスが多数居場所を失うなど、東京における社会的弱者の排除が一層進んだ。日本では従来から排除アートの設置などで、公共空間に人が長時間留まれないようにする仕組みづくりが進められてきていたが、施設整備に伴う公園閉鎖などが更に追い打ちを掛けた。
訪日外国人旅行者の増加に伴う観光公害が懸念される。
監視社会
オリンピックにおけるテロを警戒する日本国政府は犯罪を未然に防ぐ名目で国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約批准のため共謀罪(テロ等準備罪)の成立を目指すが、監視社会に繋がることが危惧される[32]。
脚注
出典
- ^ “「2020年に向けて、どのようなレガシーを新たに作りますか」”. 日本経済新聞. (2015年4月6日)
- ^ 『広報 東京都』平成28年2月号
- ^ 五輪経済効果は32兆円=大会後のレガシー効果も―都試算 時事通信(Yahoo!ニュース)2017年3月6日
- ^ 読売新聞 2015年9月11日
- ^ 山手線、40年ぶりの新駅を検討 - ウィキニュース2012年1月4日
- ^ 虎ノ門ヒルズ西側に日比谷線の新駅 東京都が構想示す - 朝日新聞2014年9月16日
- ^ 読売新聞 平成27年2月26日夕刊
- ^ 東京の「無電柱化」、推進へ素案急ぐ 小池氏公約 朝日新聞デジタル(朝日新聞)2016年12月1日
- ^ “都市景観”というオリンピック・レガシーの創造-東京五輪2020の都市像 土堤内昭雄 - ニッセイ基礎研究所
- ^ 五輪に向け東京のPR施設…19年度までに開館 YOMIURI ONLINE(読売新聞)2015年12月26日
- ^ Olympic Agenda 2020(英語) (PDF) - IOC
- ^ カルチュラル・オリンピアード - スポーツ振興くじ助成金事業 (PDF)
- ^ 読売新聞 2016年11月30日
- ^ "パラリンピック"は何を残すか-人口減少・超高齢社会に向けた"レガシー"の創造を! ニッセイ基礎研究所 2015年4月22日(ハフィントン・ポスト)
- ^ 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会における大学との連携協定について アーカイブ 2016年5月28日 - ウェイバックマシン 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
- ^ オリンピック文化論 アーカイブ 2016年12月20日 - ウェイバックマシン 首都大学東京
- ^ 「オリンピック文化論」の授業が始まりました アーカイブ 2017年8月3日 - ウェイバックマシン 武蔵野大学
- ^ 16年からボランティア募集 東京五輪みんなの力で - 東京新聞2013年9月21日
- ^ 東京都観光ボランティア - 東京観光財団
- ^ 読売新聞 2016年6月11日夕刊
- ^ 国立公園 訪日客カモン 環境省、20年に倍増1000万人へ 日本経済新聞2016年3月19日
- ^ 羽田空港 2020年に向け大規模な改修へ NHKWEB NEWS 2017年1月7日
- ^ オリンピック・パラリンピックおもてなしグループ - 総務省
- ^ 公衆無線LANの整備の促進 - 総務省
- ^ 読売新聞 2016年10月29日夕刊
- ^ 読売新聞 2017年1月25日夕刊
- ^ 読売新聞 2016年10月22日 社説
- ^ 食の安全に「国際標準」導入を義務化へ…厚労省 YOMIURI ONLINE(読売新聞)2016年1月13日
- ^ 日本放送協会. “オリ・パラ 新整備の5施設 赤字見通し 収益性高められるか課題”. NHKニュース. 2021年9月12日閲覧。
- ^ “東京オリパラ「赤字は約2.3兆円」の試算も...都民は1人10万円の負担? 「チケット減収分900億円」は都が“補てん”か”. FNNプライムオンライン. 2021年9月12日閲覧。
- ^ Capital Crimes-The Economist
- ^ 安倍政権 「共謀罪」大義に東京五輪を“政治利用”の姑息 日刊ゲンダイ2017年1月6日
補項
関連書籍
- 間野義之『オリンピック・レガシー: 2020年東京をこう変える!』ポプラ社、2013年、285頁。ISBN 978-4591137758。
関連項目
外部リンク
- アクション&レガシー - 東京2020オリンピック競技大会
- 2020年に向けた東京都の取組-大会後のレガシーを見据えて- - 東京都オリンピック・パラリンピック準備局
- オリンピックとレガシー 石坂友司(奈良女子大学)