チップチューン

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MOS 6581 and 8580 Commodore 64 SID chips

チップチューン(chiptune) は音楽ジャンルの一種であり、おもに1980年代に発売されたパーソナルコンピュータや家庭用ゲーム機に搭載されていた内蔵音源チップに代表されるような、制約の多い音源を用いて制作される音楽、またはそうした音源の音色を意識して作られた一連の音楽を指す。


目次

[編集] 歴史

[編集] 黎明期

チップチューンの起源ははっきりしないが、1980年代から、パーソナルコンピュータおよび家庭用ゲーム機の普及とともに徐々に形成されていったと考えられる。

当時のパーソナルコンピュータおよび家庭用ゲーム機の音源チップは、現在のように多様な音色を合成することはできず、生成できる波形の種類が限られていた。また、発音数にも大きな制限があったり、他にも処理性能に由来する様々な制限がある等、音楽表現のための道具としては不便なものであった。 そのため、それらの音源チップが主要な音楽演奏の手段として捉えられることはなく、ゲームの効果音やちょっとしたBGMを奏でるだけの手段として捉えられていた。

ところが、このような制限の中で奏でられる優れた音楽(特にゲーム音楽)に魅せられた人たちや、ゲーム機やパソコンで音楽を鳴らすという当時としては技術的にハードルが高い行為に面白みを感じた人などが、敢えて制限の多い音源チップで音楽制作に挑戦するようになっていった。これがチップチューンの原点になったと考えられる。この頃のチップチューンは、技術的なハードルを乗り越えて作るという制作プロセスに重点があり、音色そのものの魅力についてはそれほど着目されていなかった。

[編集] 発展期

その後しばらくは、チップチューンの発展はゲーム機・パーソナルコンピュータの発展とともにあったが、1990年代中盤から、ゲーム機・パーソナルコンピュータの演算性能の向上とともに音声合成の手段がより自然な音を再現できるPCM方式等に移行し始めると、チップチューンは独自の路線を歩み始める。 PCM方式を中心に据えた音楽制作は、制限の多い中での音楽制作というチャレンジの面白みに欠く、通常のシンセサイザーを用いて制作された音楽と見分けがつかなくなってしまうといった観点から、意識的・無意識的にチップチューンの対象から外され、専ら過去の8bit機などを用いる方向へと特化していったのである。ここに来て、ゲーム音楽とも切り離された、独自なチップチューンというジャンルが明確化したと言える。

一方この頃には、上記の流れと並行して、音源チップの音そのものに焦点を当て、最新の技術を使ってチップチューン的な音を再現する流れが登場する。 8bit機などの音源チップの音をサンプリングし、MOD 等によってPCで再現するなどの制作方法がそれである。

[編集] 現在

現在では、各種8bit音源チップの音をPC上で合成するソフトシンセなども登場して制作環境はさらに多様化し、制作プロセスよりも音色そのものに重点を置く流れがいっそう強まっている。 とはいえ、過去の8bit機等を敢えて用いて音楽を制作する方法も変わらず活発に行われているため、制作プロセスと音色の両面でチップチューンというジャンルを捉える必要がある。

また、チップチューンの音色を中心に様々な別の音色(ギター・ドラム・ヴォーカルなど)を加えた音楽も多く登場してきた。これらについても、チップ的音色の側に重点が置かれていればチップチューンと捉えられている。ただし、この分類は主観による部分が含まれ、一般的な定義は存在しない。

このようにチップチューンは現在も進化・変化を続けているジャンルであり、現に、チップチューンのコンテストがしばしば開催され、様々なチップチューン製作グループがミュージックディスクをリリースし続けているなど、一定の活気を示している。 また、チップチューンは、クラシックコンピューターの話題を中心とした多数のウェブサイト、音楽グループ、及び音楽アーティストに強い関心を持たれている。

[編集] 音楽的な特徴

[編集] 音色

チップチューンを外面から捉えた場合(すなわち、その制作プロセスをブラックボックスと考えた場合)の最も大きな特徴は、言うまでもなくその音色である。 チップチューンにおいて一般的であるPSGFM音源といった音声合成方式は、矩形波正弦波三角波(あるいはそれらの単純な組み合わせ)といった極めてプリミティブな波形を生成する。そのため倍音構成は非自然的なものとなり、聴感的には無機質で機械的な響きとなる。

聴き慣れない人にとっては、黒板に爪を立てて引っかくような不快な音のように感じるかもしれないが、ヘヴィメタルなどで用いられている歪まされたエレキギターの音色が一定の支持を集めているように、チップチューンの機械的な音色を支持する人が少なからず存在することは不思議ではない。

[編集] アレンジ

今も昔もデジタル音声合成処理には処理能力の限界から来る発音数制限があるが、8bit時代の音源チップにおいてはその制限が顕著であった。例えばファミリーコンピュータでは、メロディ・コード演奏に自由に使える音は通常デューティー比を変化させた矩形波2和音と音量の制御が出来ない三角波1音とノイズのみである。

その影響は当然アレンジに大きく反映され、まず第一に、音の重ねによる重厚さを持たない「薄い」アレンジがひとつの特徴となった。 さらに二次的には、発音数の制限を補うチップチューン独特なアレンジ方法がいくつも生み出され、これがチップチューンのアレンジをさらに特徴づける格好となった。 よく知られた手法としては、以下のようなものがある。

高速アルペジオ
これは、単音で和音感を出すための工夫であり、高速でコードトーンに沿って音程変化させることで擬似的に和音を感じさせる。ピアノやハープ(竪琴)のように余韻を残せる楽器であれば高速である必要はないが、音源チップは余韻も発音数のひとつと数えてしまうので、余韻に頼らず、かわりに高速化することで発音数を節約する。
疑似エフェクト
現在ではデジタルエフェクトによる残響・反射音付加は特殊な機能ではないが、実はこれは非常に高度で計算量の多い処理であり、出力される波形は、加工されず、指定のポートからそのまま出力される。そこで、他のポートを犠牲にし、1ポートを重ねる音に割り当てることや、本来の音符に続いて音量を大幅に落とした同じ(若しくは若干のディチューンを掛けた)音符を鳴らすことで擬似的にディレイ・リバーブ効果を1ポートで実現する方法がよく用いられる。

また、チップチューン特有の手法以外で、独特な印象を与えるアレンジ上の特徴として以下のようなものがある。

デチューン
わずかに音程をずらした2つの音を重ねることできらびやかで広がりのある音色を得る、シンセサイザーなどで一般的な手法であるが、1和音余分に消費してしまう故に、和音数の少ないチップではその分バッキングが手薄になり、デチューンをかけたパートがいっそう際だつという特徴がある。また、デューティー比50/50の波形など、同じ音を鳴らした際に干渉してしまうことを防ぐ目的もある。
ベースの音域ジャンプ
コードバッキング音域の厚みを補強するため、本来ベースの役割を果たしているパートが部分的に高音域にジャンプしてコードバッキングを支えるという手法で、少人数のバンドなどでも見られるアレンジ法であるが、チップチューンの場合、あるパートが一拍ごとにベース音域とコード演奏音域を行き来するなど、めまぐるしい上下動が多いのが特徴である。

[編集] 曲想

同じチップチューンと捉えられている楽曲の間でも、その曲想は非常に多岐にわたる。それは、チップチューンというジャンル分けが、単に音色もしくは制作プロセスという面からの分類であり、曲想の観点からの細分がなされていないからである。

その例として顕著なのが、例えばアメリカ南部のルーツミュージックなどをベースにしているBud Melvinや、60'sジャズやバート・バカラックの影響を大きく受けたアレンジを再現しているYMCKなどである。

とはいえ、チップチューンにおいて主流となり易い音楽形態というものは存在する。

  • PC発売当時からMIDIが普及するまでの間は、アマチュアによって数多くのプリミティブな楽曲が作られている。
  • 旧来からのゲームミュージック愛好者による同楽曲のカバー・アレンジやそれらを曲想としたオリジナル曲。
  • 既存の著名な楽曲をあえてチップチューンカバーするケースも増えてきている。
  • 近年はループを中心に据えたテクノ・ミュージック寄りの音楽が多い。

特に、ゲームボーイによる音楽制作ではループベースの音楽制作に特化したソフトであるNanoloopが大きな影響を持っている。

また、不正にプロテクトを外したゲームソフトを起動したときに、プロテクトをはずしたクラッカーのクレジットとメッセージ等を表示させるクラックトロ及びデモシーンのイントロというプログラムでは、プログラムの読み込み領域の余っているわずかな領域を有効利用するために、独特な音楽スタイルのチップチューンがしばしば使われている。またMODフォーマットにおいても、懐古趣味なデモシーンスタイルである"Oldschool"において、イントロで使用されるような音楽スタイルを守り続けている。このような音楽スタイルのデータはMOD Archive Top 10などのWEBサイトにて、入手可能である。

[編集] 技術的観点

[編集] 音源チップ

音源チップの種類は、ゲーム機・パーソナルコンピュータの機種ごとに異なっており、それぞれ異なった機能と音色を有しているが、それらのほとんどはPSGまたはFM音源を技術のベースとし、それに独自の工夫や種々の付加機能を加えた格好となっている。

サンプリングによる波形生成も用いられることがあるが、80年代頃の音源チップに関しては、その記憶容量の制約から、楽器音のサンプルをそのまま利用するのではなく、最低限のサンプルだけを保持し、代わりに各種パラメータ(エンベロープ・LFOや音高・ベロシティなど)に応じて再生時に時系列変化(余韻・ビブラートなど)やニュアンスの変化を合成することが行われる。これは単に容量の節約というメリットの他に、曲の表情によってパラメータを細かく変えるなどでより豊かな表現力を獲得できるメリットがある。このメリットのため、こうしたパラメータを絡める方法は現在でも一般的なシンセサイザーにも用いられている。

[編集] 音源チップの具体例

チップチューンにおいて、使用されるおもな内蔵音源チップは、以下のとおりである。

なお、MSXにおいては、以下のようなそれぞれ独特の音色をもった拡張音源がリリースされた。

  • コナミSCC (波形メモリ音源)
  • ヤマハ製YM2413 (MSX-MUSIC)
  • ヤマハ製Y8950(OPLを拡張したもの) (MSX-AUDIO)
  • ヤマハ製YMF278(OPL4) (Moonsound)

ファミリーコンピュータにおいても、独自の特色を持つ拡張音源が、各ゲームのカートリッジへ内蔵する形でリリースされている。

  • VRC6 (コナミ)
  • VRC7 (コナミ)
  • NAMCO106/113 (ナムコ)
  • MMC5 (HAL研究所)
  • RP2C33 (任天堂) ※ゲームではなくディスクシステムに搭載。
  • SUNSOFT5B (サン電子) ※FME7のカスタムチップ。本来のFME7には音源機能は無い。また、「Sunsoft5B」という誤った表記が広まっているが、すべて大文字の「SUNSOFT 5B」が正しい。

[編集] チップチューンの制作方法

チップチューンの制作方法は大きく分けて実機を用いた制作方法とサンプリング/エミュレーションによる制作方法とがある。

[編集] 実機を用いた制作方法

現在、実機を用いて音楽制作が可能なゲーム機・パーソナルコンピュータとしては以下のようなものがある。

アタリ2600 
Synthcartカートリッジにより楽曲制作が可能
コモドール64 
John Playerなどの音楽ソフトにより楽曲制作が可能
ファミリーコンピュータ(およびNES) 
ファミリーコンピュータ上で動作する本格的な音楽制作ツールは存在しないが(簡易音楽ツールは存在する)、MIDIによる制御で音源を直接操作できるMIDINESカートリッジや、PC上で制作した演奏情報ファイルを読み込んで演奏する NSF PLAYBACK カートリッジ等が存在する。
ゲームボーイ 
Nanoloop および Little Sound DJ カートリッジにより音楽制作が可能。また、MIDIにより複数台のゲームボーイを同期可能。それぞれ、制作した楽曲データはカートリッジ内に保存される。
SID STATION 
スウェーデンELEKTRON社から2000年に発表されたMIDIシンセサイザー。コモドール64から音源部分であるSIDチップ(MOS6581)を抽出して製造された物である為、実機同様の音色を有しつつ、より楽器として特化したインターフェイスで演奏する事ができる。また、同社のシンセサイザーMONOMACHINEにはSIDを再現したモデリング音源が搭載されているので、こちらを使用するのも有効な手段である。
MSX 
MML書式のテキストを各種音源(PSG, FM, 波形メモリ)ドライバ向けにコンバートして作成する方法が主流。代表的な音源ドライバ・フォーマットとしてMGSDRV, MUSICA, 勤労シリーズ(MUSICA上位互換)など。
NEC PC-9801シリーズ 
主にMS-DOS上でFM音源ドライバと周辺ツールおよびテキストエディタ(MMLで記述する)を用いて作成される。代表的なものとしてFMP, PMD, FSP, music.com(ログインソフト製), みゅあっぷ98などが挙げられる。それぞれ、機能は同等であってもドライバの実装方法などにより出音が異なることがある。
シャープ X68000シリーズ 
FM音源およびADPCM音源ドライバと周辺ツールおよびテキストエディタ(MMLで記述するものが大多数)を用いて作成される。代表的なものとしてMDX(MXDRV), ZMUSICなどが挙げられる。それぞれ、機能は同等であってもドライバの実装方法などにより出音が異なることがある。

これら実機で制作した楽曲を公開する際は、実機からのオーディオ出力を録音してデジタル化し、mp3などの形式で公開する。

[編集] サンプリング/エミュレーションによる制作方法

このタイプの方法は、さらにエミュレータによる制作方法、MODトラッカーによる制作方法、各種DAWソフトを使った方法に大別される。

エミュレータによる制作方法 
PCの処理能力の向上で古い8bit機のハードウェア挙動をソフトウェアでエミュレート可能になったことを利用し、当時の音源チップによる音色をPC上のエミュレーションで得る方法である。代表的なものはMCKと各種NSFプレイヤーの組み合わせである。この方法では、ファミリーコンピュータ(またはNES)の音楽演奏用バイナリをMCKによって生成する。このバイナリをNSF形式という。このNSFデータを何らかの方法で実機に認識させれば、実機でも演奏が可能である。上記NSF PLAYBACK カートリッジはそれを実現するものである。PC上で演奏する場合は、各種NSFプレイヤー、もしくはNSF演奏機能を持つエミュレータに読み込ませて演奏する。この方式で制作された楽曲は、NSF形式のまま公開されることもあれば、ソフトウェア的にmp3などに変換されて公開されるケースもある。
PCの性能上、エミュレータ上での再生が不安定な場合でもWinamp, KBmediaplayerなどの音源エミュレート機能・専用ファイル再生機能を持つソフト上で安定かつクリアな音で再生させることも可能。
MODトラッカーによる制作方法 
MODはサンプリングデータと演奏データをコンパクトにまとめたファイル形式であり、このMODデータを作成する一種のシーケンサーソフトをトラッカーと呼ぶ。トラッカーには様々な種類があり、機能も様々である。MOD形式の発展系として、S3M形式・XM形式・IT形式などがある。制作した楽曲は、これらのファイル形式のまま公開されるか、または mp3などの一般的なフォーマットに変換されて公開されることもある。
各種DAWソフトを使った方法 
これはいわゆる通常のDTMと同様な方法での制作であり、使用するサンプルやソフトウェア音源に各種音源チップの音色を割り当てる。8bit系内蔵音源をエミュレートするソフトウェア音源の代表的なものとしては、コモドールなどに搭載されたSIDチップをエミュレートするQuadra SIDや、ファミリーコンピュータを模した各種波形を生成する Magical 8bit Plug などがある。

[編集] メディア

[編集] 活躍しているアーティスト

チップチューンが電子音楽の1種かつDTM的側面も持つため、ライブ演奏を頻繁に行う人々と創作活動に専念する人々の2タイプが存在する。ただし都合上「音源がゲームBGM用途に使われていた頃のゲームミュージックの作曲家・ミュージシャン」は割愛する

[編集] ライブ演奏で知名度の高いミュージシャン

  • YMCK - テクノポップ・ラウンジミュージック等の要素を持つ3人組ユニット。音源:ファミコン
  • Hally - チップチューンサイトVORC主宰。音源:ファミコン
  • quarta300 - 音源:ゲームボーイ 国内初のチップチューンイベントを立ち上げ。
  • Saitone- 音源:ゲームボーイ 国内チップチューンシーンにおいて、非常に早くから活動してきた一人。


[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

  • VORC - チップチューン関連ニュースサイト
  • FAMICOMPO MINI - NSF専門コンペティションサイト
  • chiptune.com - チップチューンのアーカイブサイト