アナログシンセサイザー

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アナログシンセサイザー ミニモーグ

アナログ・シンセサイザーは、シンセサイザーの中でアナログ回路を用いて音声合成を行う機種に対する呼称。

歴史[編集]

1960年代半ばのシンセサイザー実用化以来、1980年代半ばまでのシンセサイザーはアナログ回路を用いたものだったが、技術の進展に伴い登場した安価で多機能なデジタルシンセサイザーの普及により、生産台数は減少した。しかし1990年代後半から、アナログ独特の音質と機能が再評価され、21世紀に入るといくつかの会社からアナログ・シンセサイザーが新たに発売された。発売終了後、数十年を経たミニモーグプロフェット5などが銘機あるいはビンテージ機としてこだわりを持つミュージシャンに愛用されている。

音源回路の構成[編集]

アナログシンセサイザーは、基本的に以下の回路で構成される。

音声信号を担当する回路[編集]

音声信号を担当する機能は以下の3つである。

VCO
ボルテージコントロールドオシレータの略。基本波形を作る発振器。
VCF
ボルテージコントロールドフィルターの略。波形を加工する回路。
VCA
ボルテージコントロールドアンプリファイアーの略。音量を制御する回路。

この3つの機能によって、音声信号の基本波形を作り出し、波形の倍音を加工し、ボリュームを決定して出力する…という流れを成立させている。

その際に重要な点は、3つの機能が全て電圧(ボルテージ)で制御(コントロール)出来る様になっている事。これによって下記の制御信号を発信する回路から任意の電圧を加えて音程/音色/音量を制御する事が可能になった(詳細は制御の規格を参照)。

エンベロープの構成要素 A、D、S、R

制御信号を担当する回路[編集]

上の3つの機能を制御する回路は、主として以下のものがある。

エンベロープ・ジェネレーター
Attack(立ち上がり)/Decay(減衰)/Sustain(減衰後の保持)/Release(余韻)の4つのパラメータにより、時間的に変化する電圧を発生する回路(コルグのMS-20の様にHold(離鍵後の保持)という5つ目のパラメータを持つものも存在した)。この回路でVCAを制御して音量の時間的変化を制御したり、VCOやVCFを制御して音程や音色の時間的変化を作り出す。
LFO
ローフリケンシー・オシレータの略。低い周波数を制御信号として音声信号の制御回路に送り、周期的な変化を与える(例えばVCOに送ればビブラートを生み出す事が出来る)。
鍵盤或いはシーケンサー
演奏情報を入力する機能。一般的な流れとしては、演奏情報となる電圧をVCOとVCFに、演奏のオン/オフ信号をエンベロープ・ジェネレータに送る。この電圧を受けたVCOは信号が示した音程を発信し、VCFは電圧で指定された音質の加工を行う。一方、オン/オフ信号を受けたエンベロープ・ジェネレーターは、そのタイミングにそってパラメータを起動し、設定された時間的変化をVCAに送って出力を制御する。

オプション機能 (変調等)[編集]

上記の基本機能に加え、より多彩な音響合成を実現するために、下記のような追加機能を提供する機種もある。

ポルタメント
入力された電圧が変化する際、その変化を連続的なものにする機能。一般的には、キーボードから発した電圧をVCOに送る前に一旦同機能を経由させて、音程が滑らかに変化する様に設定する事が多い。
ノイズジェネレーター
ホワイトノイズピンクノイズを発生する回路。機種によってはオシレータの1波形として提供される事もある (Clavia Nord Lead等)
サンプル&ホールド
任意信号をLFOで周期サンプリングし、ランダム波形を生成する機能。現在ではLFOの1波形として提供される事が多い。
リングモジュレーター
2つの音声信号を入力して、その周波数の和と差を作り出す。鐘の音のような非整数次高調波を生成する目的で使用される。
クロスモジュレーション
オシレータ出力で別のオシレータを周波数変調し、FMアルゴリズムによる豊富に高調波を含んだ波形を生成する機能。
オシレータ・シンク
複数のオシレータの周波数の同期機能。周期波形の強制リセットにより音色変化を伴うので、音作りに積極活用できる。

モジュラー・シンセサイザーの場合は、パッチ・ケーブルにより各機能ブロックの任意接続が可能なので、より柔軟に音声信号に変調をかけることが可能である。

制御の規格[編集]

アナログシンセサイザーは、大別して2種類の情報を電圧として送受信する事で各機能を制御する。

GATE
信号のオン/オフの情報。音の長さを制御する。
CV
コントロールド・ボルテージの略。音程を初め各機能の値を制御する。

電圧制御式の先駆的存在であるモーグ・シンセサイザーは、この制御電圧を「1オクターブ/1ボルト」と定義し、他のメーカーも概ねこれに倣った(MSシリーズ以前のコルグ等「周波数/ボルト」を採用した機種も存在する)。このため、シンセサイザーはメーカーの別に関りなく制御信号をコードで接続して混合使用する事が可能であり、任意のメーカーの鍵盤やシーケンサーで異なったメーカーの音源を制御する事も可能だった。

ただし単音1つにつき、CVとGATEの情報をそれぞれ別のコードで送る必要があった。そのため、配置や接続に必要な機材と手間は膨大なものとなり、精密機械であるシンセサイザーの接続であるがゆえのトラブルも少なくなかった。さらに、ポリフォニックシンセサイザーの登場で、送受信情報量が増加した。これらの状況に対して各メーカーはそれぞれ独自の対応規格を考案していたが、デジタル技術の進展に伴い、1983年にメーカー間の協議で「MIDI」が正式に規格化された。

  • 当該規格の詳細は「CV/Gate」を参照。

需要と供給の変遷[編集]

1960年から1980年頃に製造されたアナログシンセサイザーは、気温の変化(厳密には、機体内部の熱変化による回路構成部品の特性変動)が回路に大きく影響したため、まるで管楽器や弦楽器のような演奏時の調律が必須であり、演奏者やスタッフの悩みの種となっていた。たとえば、初期のYMOのコンサートでは、開演の数時間前から本番と同様の照明を当てて、本番開始時に温度変化が生じないようにされた。その対策として、チューニングの自動化をしたもの(オートチューン)や発振器部分だけをデジタル化(デジタルコントロールドオシレータ、DCO)したものもあった。

1970年代後半にはポリフォニックシンセサイザーも登場した。だが、和音を出したり凝った音色を作るためには、必然的に高価で大規模な電子回路が必要となる。1980年代後半には、安価なデジタルシンセサイザーの発売により出荷台数は減少したが、アナログシンセサイザー自体の特徴的な音色や直感的な操作性はデジタル登場後も定評があり、その結果、アナログシンセサイザーとデジタルシンセサイザー双方の良さを集約したハイブリッド・タイプも登場している。

古いアナログシンセサイザーの音色に独特の暖かさや華やかさがあるとして、アマチュア・プロを問わず現在でも愛用する奏者は多い。だが、時代の変化につれ古いアナログシンセサイザーに用いられた電子部品が入手困難となり修理しにくい状況が発生している。純正部品が手に入らず「電子部品」として等価ではあるが型番の違う別のパーツを使用すると、修理の結果もと通りの性能・機能・「味わい」が薄れて「楽器」としては等価でなくなってしまうとして問題視する演奏者も少なくない。

関連項目[編集]